ResMed Paris
VS Ultra,Integra,Serena
クリーンエアVSは、海外ではVS seriesと呼ばれていて、Saime SA,Franceの流れをくむ製品である。またHelia Sの兄弟機に該当する。Saime SAは1987年創業の人工呼吸器メーカーであり、1996年以来、ResMedとSaime SAは業務提携をしていた。ResMedはSaime SAより人工呼吸器を調達していたが、2005年5月にSaime SAはResMedに買収されて、社名はFrance ResMed、そしてResMed Parisとなった。こうした経緯もあり、国内では同じResMedブランドでありながら、クリーンエアVS、VPAPアダプトはフクダライフテック扱いになる。一方、Steller150はテイジン扱いになる。クリーンエアVSは成人〜小児対象の人工呼吸器で、リークバルブを使用するシングルブランチ回路や、呼気弁付きのシングルブランチ回路と、そして呼気弁を使用するダブルブランチ回路に対応する。ダブルブランチ回路を使用するには、呼気弁ユニット(Dual-limb circuit assemblyと呼ばれる)を使用する。ちなみに内蔵バッテリで2-4時間駆動できるが、あくまでも緊急用であり、搬送用途で使用してはいけない。VS integraはシングルブランチ回路のみ対応である。呼気弁付きとリーク弁を選べる。呼気フローセンサーはない。VS Serenaはシングルブランチ回路のうち、リークバルブのみ対応し、呼気弁付きは使用できない。いずれの機種でもProximal 圧を測定する事が可能である。
2.性能
モード.................................S,S/T,PC(リーク換気)
PCV,PSV,PS.TV,CV(呼気弁使用時)
付加機能 VTs、無呼吸バックアップ、Eトリガー、ライズタイム調節、 フロー波形調節
吸気圧.................................5-60cmH2O
PEEP....................................4-20cmH2O
Tv........................................0.05-2.5L
圧トリガー........................0,Auto,1-6cmH2O(シングルブランチ回路使用時)
フロートリガー................3-8LPM(ダブルブランチ回路使用時のみ)
Eトリガー.........................Auto,5-90%
重量....................................3.7Kg(HumidAire込みで)
消費電力............................AC100v, 50-60Hz, 52VA
外部電源............................DC12-13.8v(専用アダプター使用時)
同じResMedグループながら、VS UltraはSaime SA由来なのでは技術情報はかなり公開されている。機構上の特色はタービンによる吸気圧発生機構とrotary valveの存在である。吸気ガスはタービンで圧縮されて高圧ガスになる。吸気相ではrotary valveは全閉になり、タービンの出力はすべて患者回路に送られる。必要時には酸素が吸気ガスに付加できる。リークバルブ使用時には、呼気時の初期にはrotary valveは部分開放になり、タービン出力の部分的に大気に解放される。また、タービン回転も下がり発生圧も低下する。その後はrotary valveは全閉になりタービンはEPAP圧を維持する必要量だけ回転する。一方、呼気弁使用時にはrotary valveは絶えず全閉状態である。PEEP圧はPEEP micro-pumpによって調節されている。タービン出力圧はPEEP amplifierで空気力学的に増幅されて(調節されて)I/E solenoid valveを通じて呼気弁を駆動するガス源となる。Dual-limb circuit assemblyを装着した際には呼気ガス流量を測定できる。吸気・呼気フローセンサーは形状より熱線型と推定される。フロートリガーはDual-limb circuit assemblyを装着してダブルブランチ回路を使用した時だけ併用可能になる。それ以外は圧トリガー方式と分類される方式であるが、内部で複雑な処理を行っている(詳細は4.操作5)トリガー方式を参照)。Proximal pressure lineはPS.TVモードとACVモードでは必須である。
1)前回と同種の患者回路を接続している場合
電源コードを接続するとスタンバイモードが起動する。「スタートキー」を押すとブザー音が鳴り、治療時間と積算時間が表示される。もう一度「スタートキー」を押すと換気がスタートする。
2)前回と違う構成の患者回路を接続している場合
電源コードを接続するとスタンバイモードが起動する。「スタートキー」を押すとブザー音が鳴り、治療時間と積算時間が表示される。その数秒間後にビープ音が鳴り「呼気弁を使用するか?」の選択マークが表示される。「メニューキー」を5秒間押し続けると、患者回路変更確認マークが表示されるので「メニューキー」を押して確定する。次にモード画面に入るので「+」「−」を押して希望のモードまで矢印を移動させて、「メニューキー」を押して確定する。その後は機械はロック解除状態になり、換気がスタートする。
3)換気パラメーターの設定
「メニューキー」を5秒以上押すと、ロック解除になるので、「メニューキー」を押して表示画面をスクロールする。必要な項目が表示されたら「+」「−」キーでパラメータを変更する。最後に「メニューキー」を5秒以上押して設定をロックする。
4)モードの説明
(1)リークバルブ使用時のモード
S,S/T,PCを利用できる。SとS/Tでは一般的な意味のモードで、吸気時間は患者の吸気流量で決まるが(Flow cycle)、吸気呼気のトリガーは自動設定される。必要があれば吸気時間の最短時間と最長時間(TiminとTimax)を設定できる。
PCではTime cycleで吸気が終了する。
(2)呼気弁使用時のモード
PSV,PCV,PS.TV,CVの4種類より選択できる。PSVは一般的なPSVであるが、バックアップ回数を設定することもできる。VTsを設定すると1回換気量が設定値になるようにPSV圧を自動調節するVS(Volume Support)モードになる。PCVも一般的なPCVであるが、VTsを設定するとPRVC(Pressure Regulated Volume Control)になる。PS.TVはVS Ultraのみ利用できる(図;
PS.Tvの説明)。このモードはPSVとCVが同時にスタートするモードで、これはBear社のFlow&Volume Augumentation やBird社のVAPSに該当するモードである(図;PS.TVの解説:吸気初期にはPSV優位で換気がスタートするが、吸気フローはせいが量換気の吸気ガス流量より低下した時点で、後半は量換気に切り替わる。吸気の終了はvolume cycleになる)。CVは一般的な量換気(Volume Control)モードである。吸気流量波形はslopeでフローパターンを選択できる。
(3)付加機能の説明
slopeは圧換気モードでは、吸気立ち上げ時の、吸気圧の上昇速度を調節する。0-3の4段階がある(図;
rise timeの設定)。量換気モードではフローパターンを調節できる(図;
フローパターンの設定)。E trigrerは呼気トリガーと呼ばれているが、実態は吸気終了認識である。吸気ガス流量がピークフローの25-90%まで低下した時点で吸気の終了と認識する。Autoでは3秒後のピークフロー値と0点を結ぶ直線が吸気ガス流量と交点を作る時点を吸気終了としている(図;
E trigger Autoの決定方法)。
5)トリガー方式
(1)リーク換気時(シングルブランチ回路)
(2)バルブ換気時(ダブルブランチ回路)
バルブ換気時には圧トリガーになる。呼気開始時より300ms経過しないとトリガーしない不応期が設けられている。トリガー方式として1番目はRapid dynamic pressure triggerと呼ばれる。これはRapid effort inspiratory triggerでの電力量変化を気道圧変化に置き換えた手法である(図;
Rapid dynamic pressure triggerの説明)。2番目はSlow dynamic pressure triggerと呼ばれる方法で、1番目の方法論は同じであるが2点間の時間はより長い(図;
Slow dynamic pressure triggerの説明)。3番目の方法はUltra slow dynamic pressure inspiratory triggerと呼ばれる。呼気開始より数ms後の圧を基準として用いる。4番目は圧の絶対値を用いる方式で、これは一般的に圧トリガーと呼ばれる方式で用いられている手法である。-0.3hPaと感度は固定されている(図;
絶対圧による圧トリガー)。5番目はPEEP maintenance flow triggerと呼ばれる。PEEP値を維持する流量(ベースフロー値)を超して吸気努力があるとPEEP圧を維持するために吸気ガス流量が増加する。この流量増加分をもってトリガーする。これは患者の吸気がゆっくりで圧トリガーを惹起しない場合に有効である(図;
PEEP maintenance flow triggerの説明)。圧換気時にはベースフロー(PEEP確保流量)がトリガー感度によって変化する(図;
トリガー感度とPEEP確保流量)。
(3)ダブルブランチ回路使用時
ダブルブランチ回路使用時には吸気ガス流量と呼気ガス流量の差を検出できるのでフロートリガーも可能になる。フロートリガーではベースフローは15LPM固定であるが、フロートリガーをNOにすると圧トリガー方式に切り替わる。
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5.モニター、アラーム
換気アラームには、換気回数上限、低吸気1回換気量、低呼気1回換気量、高1回換気量、低圧、高圧、がある。バッテリーや機器異常時のアラームも備えられている。
6.患者回路
日常的にマスクとチューブを点検、洗浄する。空気取り入れ口フィルターは週に1回以上洗浄する。6ヶ月毎もしくは患者毎に交換。5000時間および2年に1回は定期点検を受ける。Dual-limb circuit assemblyの呼気弁メンブレンは使用後は破棄する。呼気弁はオートクレーブできるが、ダブルサーキットバルブサポートはオートクレーブできない。
8.欠点
1)ディスプレーがモノクロの小さな液晶なので、画面スクロールを頻回に必要としてとても煩わしい。また、メニュー構造が複雑になり操作手順を覚えにくい。
2)ダブルブランチ回路を使用しないと呼気ガス流量を測定できない。
3)トリガー機構に凝っているのは評価するが、タービン駆動電力の差を検出するのは(タイムラグが少ないと主張しているけど)、原理的にその分のディレーは避けられない。
4)換気波形などのグラフィックディスプレーができない。今時の人工呼吸器としては見劣りする。
5)Proximal pressure測定があった方が良いというのは、性能的につめられていない証ではないのか?患者回路を簡略化することはコストを軽減し、また医療事故を防ぐので、最近の機器では用いられないことが多い。
6)日本語の取扱説明書はフクダ電子のオリジナル作品であるが、理路整然とは言えず何度読み返しても理解できない。一方、英文のClinical Manualのできがとても良い。むしろ変に独自性を出さずに英文を素直に訳してくれた方が良かった。