.Drager
VN500 (図;外観写真
1.特徴
 VN500はBabyLog8000の後継機種として位置づけられ、小児・新生児用人工呼吸器の最高機種である。デザインや操作、機構を成人用のV500と共通設計された先進的な新生児・小児専用機である。PTVは当然のこととして、PAVやAPRVに限らず、HFOやNIVも含めてこの機械で不可能な換気モードはないと断言できるほどの高性能・高機能機である。V500やEvitaXLでも新生児モードを搭載可能であるが、VN500だけがHFOモードを搭載する。ちなみにV500とVN500のハードウェア上の根本的な相違はなく、搭載オプションが異なるだけである。将来的にはV500にもHFOがオプション設定される可能性がある。ブロアーユニット(圧縮空気配管を必要としない)やHelioxもオプション設定されている。
1)利用できるモード
 PC-CMV
 PC-SIMV
 PC-AC
 PC-PSV
 PC-MMV
 PC-HFO
 PC-APRV
 
 SPN-CPAP/PS
 SPN-CPAP/VS
 SPN-CPAP
 SPN-PPS
 
------------------------------------------------
 +VG
 ATC
 AutoRelease
2)基本データー
最大吸気ガス流量....30LPM
最大換気数................150 BPM
3.制御回路、制御機構
1)制御機構の概説
(1)HFO
 VN500は新生児・小児専用機として最適化された設計がされている。VN500の呼気弁ユニットにはイジェクター機構が組み込まれており、イジェクターによるベンチュリー効果で呼気ガスを吸引し強い陰圧を発生し、逆に高流量呼気ガスを呼気弁で閉じることで強い陽圧を発生させる。つまり呼気弁の高速の開閉とイジェクタによる高流量ガスの存在がHFO機構の要である。イジェクター流量は固定である。
(2)通常換気
 VN500はV500と同様にメインプロセッサーが吸気弁・呼気弁を協調作動させて気道内圧を精密制御することであらゆる換気モードを作り出している。Evita以前の人工呼吸器では吸気弁は吸気時に吸気ガスを制御するためだけ作動し(吸気相では呼気弁は閉じている)、呼気弁はPEEP圧を維持するだけの機能であったので(呼気相では吸気弁はベースフローという固定された流量のガスを流すだけ)、制御系は比較的単純に構成することができた。BIPAP機構によってあらゆる換気モードを実現するEvita以降の人工呼吸器は吸気弁による加圧と呼気弁による圧のリリーフのバランスで患者回路圧を調節しているので、オーバーシュートやアンダーシュートの少ない圧制御が可能になっている。高流量のベースフローはディマンド系の遅れによる呼吸仕事量の増加を軽減し、またイジェクターによる呼気ガス吸引機構は患者回路内の余分なガスを速やかに排出させて気道内圧をPEEP圧まで速やかに低下させ呼気時の仕事量を軽減する。患者回路内には患者の肺容量の100倍以上の容積のガスがある。患者回路内に(吸気圧に応じて)圧縮されたガスを速やかにPEEP圧になるように排出するには、受動的に呼気弁から逃がすよりイジェクター機構による強制的排出が必要になる。
 ちなみに、ベースフローは新生児モードで6LPM、小児モードで3LPMである。6LPMを超える吸気要求があれば吸気弁が追加流を足す。
2)機械的機構の特徴
 ガスユニット・モニターユニット・電源ユニットの3ユニットによる構成が採用されている。
3)ガス流量計測(図;フローセンサー
 VN500に使用されているYピース部のフローセンサーはEvitaとかBabyLogと同様の物ではあるが、接続口が異なる。2つの熱線型のフローセンサーとストラットを組み合わせることで、流量と流れの方向を検出する。このフローセンサーはYピースに設置されているので、吸気ガス、呼気ガスの両方を測定できる。このフローセンサーには2種類用意されていて、Yピース一体型のものと、Yピースと気管チューブとの間に設置するものがある。
4吸気バルブ(図;LPSVの構造解説
 V500と同じ。Evitaまでは高圧ガスを1ステージで減圧し、また酸素濃度調節を調節していたがV500/VN500では酸素濃度を調節したガスをミキシングチャンバーに貯え、この混合ガスを低圧サーボバルブ で吸気ガス流に調節している。2ステージに変更した目的は吸気弁と呼気弁の連携動作を単純化して、ハードウェア-上の高速応答性と柔軟性を確保するためと、低圧酸素源とブロアーによる駆動を可能にするため、と思われる。ブロアー駆動の際には最大100mbarくらいの駆動圧になる。
5)呼気バルブ(図;呼気弁の構造
 呼気弁は一連のDrager製品と同じで、脱着式ユニット構造が用いられている。V500とVN500では構造が異なるが、脱着式なので患者毎に入れ替えることはできる。VN500用はイジェクター機構が組み込まれているのと、呼気側フローセンサーがない点が、V500との違いである。
 呼気バルブの開閉で、定常流が患者に流れ込んで吸気ガスになる。吸気ガス流量の不足があれば吸気弁がガスを供給する。Yピース部での気道内圧"Paw"は近位圧センサーがあれば直接測定できるが、呼吸回路が複雑になるので、この圧は下記の式で代用している。
Paw=PI−0.7(PI-PE)
ただしPIは吸気側の気道圧
   PEは呼気側の気道圧
つまり、呼気弁はPawが基準圧(PEEP or 吸気圧)に近づくように(吸気弁と連動して)サーボ制御されている。
4.ニューマティック回路(図;ニューマティック回路図
 O2/Air配管より入力されたガスは、それぞれのフィルターM1_3_F1、M1_3_F2、一方向弁M1_3CV1、M1_3_CV2を経由して後、エア用比例制御弁M1_3_V1と酸素用比例制御弁M1_3_V2で酸素濃度を調節・減圧してMixing chamberで混合ガスとなる。途中M1_3_S1とM1_3_S2でそれぞれの流量を測定して酸素濃度は補正される。混合ガスは圧トランスデューサーM1_3_S7、フロートランスデューサーM1_3_S3、温度トランスデューサーM1_3_S6、で計測されて低圧サーボバルブLPSV(M1_3_V3)で吸気ガスが調節される。安全弁(Safety Valve Unit )は異常高圧時の圧リリーフと機器異常時に患者回路内圧が-1.4mbar以下になれば、大気より空気が吸えるようになっている。
 Callibration Unitは吸気側圧トランスデューサー・呼気側圧トランスデューサーの0点補正用の機能と酸素濃度トランスデューサーの100%での校正用の機能を担う。
 Nebulizer/Ejectorはネブライザー用のガスと呼気弁イジェクター用のガスを生成する。呼気弁ユニット(Expiratory Valve)V17は電磁弁でダイレクト駆動する型式に変更されている。高速応答性に優れHFVさえも呼気弁の開閉で発生させる。HFV用にイジェクターEが組み込まれている。CV6は逆流防止弁。SAはサイレンサーである。
5.制御ソフト
各機能の説明
 Babylogでは、すべての換気モードは、定常流を呼気弁で開閉して(余剰圧をリリーフして)行う、"constant flow, pressure relief ventilation"で行われていたが、VN500ではベースフローは6LPM(新生児モード)、3LPM(小児モード)もあるとはいえ定常流方式にしては流量不足であり、基本はディマンド型である。
1)トリガー方式
 フロートリガー方式で、感度は0.2-5LPMの範囲で設定できる。リーク補正機能がある。 誤動作を防ぐ為に0.20LPMの流量条件を満たした時点で流量計測を開始する。Yピース部にセンサーが設けられているので、定常流の量は感度に影響しない。トリガーに対して40〜60mSで反応できる。カフなし気管チューブではリークが不可避であるが、リークによってオートトリガーしないように、トリガー感度自動補正機能がある。呼気終了時でのセンサーのガス流量を気管チューブによるリーク量と見なしてこの分だけ、トリガー感度を自動補正している。さらに、この流量に基づいて、PSV吸気相でのリーク量を推定し、PSV吸気終了認識条件を補正している。
2)呼吸モード
 Drager社は独自のモード名を用いて業界を混乱させてきたが、最近は海外市場の要望により、分類に基づいたモード名に変更した。しかしこの方針転換は従来のモード名になじんだユーザーには迷惑である。いずれにせよ、PCモードはすべてBIPAP機構により作られる。PC-ACは従来のBIPAP assistモードであり、PC-SIMVはBIPAPモードである。どのモードであってもBIPAP機構(CPAP圧が変動させることで圧換気モードを作り出す機構)の恩恵で、患者は吸気相・呼気相のどの時点でも吸気呼気が可能になっている。
(1)PC-CMV(図;PC-CMV
 これは従来IPPVと呼ばれていたモードで患者の呼吸に同期しない。自発呼吸がない状況を想定したモードである。しかし自発呼吸があればその呼吸を許容するのでIMVとして作動する。
(2)PC-SIMV(図;PC-SIMV
 このモードは従来BIPAPと呼ばれていたモードで、吸気時間・呼気時間を2呼吸時間以上に設定すれば狭義のBIPAPモードとして作動する。トリガーウィンド時間は1.5秒であるが、SIMVサイクル時間が1.5秒より短い設定では、呼気から不応期分の0.5秒経過した残りの全期間がトリガーウィンド時間になる。トリガーウィンドに同期すると見かけ上のSIMVサイクル時間の短縮が起こるので、その際には次の換気のSIMVサイクル時間を短縮した分だけ付加してSIMV回数の上昇を防ぐ処理がなされている。
(3)PC-AC(図;PC-AC)
 これは従来BIPAP assistと呼ばれていたモードで、過去にはPCV+と表記されていたこともある。このモードはPCV類似であるが、一般的なPCVでは吸気相での呼気は許されないが、このモードでは吸気相であっても吸気呼気が可能である。吸気時間を2呼吸時間以上に設定すればAPRVとして動作する。吸気相終了後は一定時間トリガーに反応しない不応期がもうけられている。不応期は0.5秒になっている。
(4)PC-PSV(図;PC-PSV
 このモードは通常のPSVと同じであるが、さらにACと同じようにトリガーウィンドーがあり、トリガーウィンドー時間にトリガーを検出しなければ吸気が開始する。つまりバックアップ呼吸回数を設定できる。ターミネーションはピークフローの15%で、最大吸気時間は小児カテゴリーで1.5秒、新生児カテゴリーでは1.5秒以下の範囲で最大吸気時間を設定できる。新生児ではNIV時にはこのモードを利用できない。
(5)PC-MMV(図;PC-MMV
 このモードではVG(成人用機でいうAutoFlow)がONになったPCVで強制換気を行うMMVモードである。MMVモードでは吸気分時換気量が設定値を下回ると設定画面で決めたSIMVが作動する。吸気分時換気量が設定値の10%を超すとPSV/CPAPに復帰する。MMVの利点はいつでも分時換気量が保証されること、強制換気が最小限になることにある。また、肺の過換気を防げる利点がある。このモードの良い適応は、酸素化能など肺の拡散能力に障害が少なく、かつ、換気能力が安定しない、不充分、変動しやすい患者である
(6)PC-HFO(図;PC-HFO
 このモードはVN500だけに可能なモードで、今のところはV500では利用できない。HF MAPで平均圧を設定する。HF振幅は最大圧力と最小圧力の差である。HF振幅とHF振動数はそれぞれ5-90mbarと5-20Hzの範囲で設定可能であるが、HFOの設定値によってはこの数値を達成できる訳ではない。呼気弁ユニットの作動だけで高頻度換気をつくりだす機構がハイテクかつスマートである。
 
(7)SPN-CPAP/PSV
 このモードが通常のPSVに該当するモードである。自発呼吸が停止すれば、換気も停止する。したがって適切な無呼吸バックアップ換気を設定する必要がある。MMVモードを利用すれば自動的に分時換気量を保障できる。最大吸気時間は小児で1.5秒、新生児ではTimaxで1.5秒までの範囲で設定できる。新生児カテゴリでのNIVでは利用不可である。
(8)SPN-CPAP/VS(図;VS
 PSV換気においてVGがONになり、換気量が設定値になるようにPSV換気圧を自動的に調節するのがVSである。AutoFlowでの圧調節アルゴリズムをPSVに応用している。ターミネーションや最大吸気時間はPSVでの設定と同様である。最大吸気圧はアラームレベル-5mbarである。もし、最大吸気圧に達しても目標換気量を達成できなければ、アラームが警告する。新生児カテゴリでのNIVでは利用不可である。
(9)SPN-CPAP(図;SPN-CPAP
 SPN-PSVでのPSV換気圧を0にすればこのモードになるので、強いて独立したモードにする必然性はないが、新生児で、NIV・CPAPをするのに便利なので独立したモードとして位置づけられている。逆に言えば、新生児NIV以外のカテゴリでは利用不可になっている。
(10)SPN-PPS(図;PPS
 これは一般的にPAVと表現されているモードである。フローゲインとボリュームゲインを設定する方式で、PAVの本質は何であるかを理解しやすい仕様である。しかし、Bennett社のPAVを知ってみるとかなり物足らない感は否めない。
 
3.付加機能
(1)無呼吸バックアップ換気(図;アプネア換気
設定した無呼吸時間が経過すると、(設定されたパラメーターで)無呼吸バックアップ換気(アプネア換気)が開始する。アラームリセットを押すと元の換気モードに復帰する。充分な自発呼吸の開始を認識して無呼吸換気からの自動復帰させることも初期設定をすると可能である。この場合、以下の条件が満たされている必要がある。
・無呼吸換気が2分間以上にわたり持続している。
・分時換気量低下のアラームが生じていない。
・自発呼吸の呼気分時換気量が呼気分時換気量の25%以上である。
・リーク分時換気量は呼気分時換気量の40%以下。
・強制換気の80%以上が自発呼吸。
(2)吸気ターミネーション
 PS・VS・PPSでの換気モードで有効。吸気フローのピーク値が設定値より低下した際に吸気を終了とする。初期値は15%である。この機能はリーク補正されている((5-9)リーク補正を参照)。
(3)深呼吸(図;深呼吸
 設定した間隔で間欠的にPEEPを上げる方式である。サイクル深呼吸回数で深呼吸中の換気回数を設定できる。吸気圧はPEEPが上昇した分だけ増加する。
(4)HFO深呼吸(図;HFO深呼吸
 HFO深呼吸回数の設定によって、1分あたりの深呼吸回数が決まる。深呼吸圧・深呼吸時間のパラメータでPCV換気が入る。HFOは深呼吸の前に最低150 ms中断し、深呼吸の250 ms後に再開する。HFOは深呼吸の呼気に同期して開始する。深呼吸の立上がり時間は、設定圧立上り時閲、もしくは 吸気フロー設定によって決定する。吸気フローを設定している場合は、0.1秒の立ち上がり時間が設定される。
(5)VG(Volume Guarantee)換気量補償(図;VG)(図;VG作動画面表示例
 A/C, SIMV, PSVに付加できる。成人用人工呼吸器Evita4のAutoFlowの概念を応用したモードで、実測呼気一回換気量が設定値のそれになるように、先行換気の計測値をフィルタリング処理して平均値を求め、この値に基づく演算で次の換気圧(強制換気圧やPSV圧)を決定する。換気圧は、許容される最大吸気圧の範囲内で変化する(最大級気圧はPinspのつまみで設定する)。初回の換気はPEEP+5mbarで与える。次回は目標圧の75%値で換気する。その後は通常の手順になる。もし、設定一回換気量の130%以上の吸気を認識した場合には、吸気相は強制終了し、呼気弁はPEEP圧に解放される。この状態はCPAPなので、もちろん児は定常流を呼吸することができ、自発呼吸は妨げられない。この際には呼気一回換気量が正確に計測できないので、吸気一回換気量を代用する。VGの目的は、児の状態が改善された際に不必要な過進展が起こるのを防ぐことと、ウィーニング期間を短縮することにある。
 
(6)HFO+VG(図;HFO+VG画面表示例
 HFO換気のストロークボリュームに対してもVGを設定できる。この際にはHFO振幅の設定は不活化される。
(7)ATC
 ATCはPAV(Drager社はPSSと呼んでいる)のフローゲインだけを限定的に応用した機能である。気管チューブの抵抗によって発生する圧勾配を演算して気道内圧から加減して、チューブによる仕事量を減じるように作動する。ATCはPAVモードと異なり、付加機能なので、PSS以外のすべてのモードに付加することができる。ATCを正確に作動させるにはチューブの種類(気管内挿管か気管切開か)、チューブ直径を入力する必要がある。これらの情報によって既知データからのチューブ抵抗を推定しているからである。
(8)AutoRelease(図;AutoRelease
 一般的なAPRVの高圧相の時間と低圧相の時間はタイムサイクルであり、自発呼吸に同期しない。自発呼吸に同期させるのがAutoRelease機能である。低圧相から高圧相へは呼気フローが呼気ピークフロー値の設定%以下になれば高圧相が開始する。これはPSVでの吸気終了条件の逆で、呼気終了条件として作動する。一方、高圧相から低圧相も患者の呼気開始と同期する。トリガーウィンドーは高圧相の時間の終末数%に設けられていると推定される。
(9)リーク補正(図;リーク補正画面表示例
 呼気終了時のリーク量をチューブによるリークと見なしてトリガー感度を自動補正する。また、PSVの吸気相でもリーク量を推定して、吸気終了認識条件を自動補正する。さらに、最大吸気時間を設定することによって(これをバックアップTiと呼び、吸気時間Tiのつまみで設定する)、吸気が終了しない事態を避けている。これらの補正機能によって60%以上のリークに対応可能らしい。
 
10)NIV
 NIVにおいてリークは必発であるが、トリガーとターミネーション(吸気終了)においてリーク補正されている。吸気1回換気量と呼気1回換気量との差はリークとして認識されている。AutoFlowやVGにおいてリーク補正された1回換気量が制御目標として用いられている。したがって、リークが存在しても実際の患者の1回換気量は一定になる。量換気モードでもリーク量が加えられた量が送気される。VT low、VT high MV lowアラームは不活化できる。T disconnectの設定をするとAirway pressure lowアラームが作動するまでの時間を遅延できる。なお、小児カテゴリーでは全モードを選択可能であるが、新生児カテゴリーではSPN-CPAPとPC-CMVモードだけ選択可能である。これはNIVではYピース部のフローセンサーが使用できないことが理由である。(図;NIV選択可能なモード
11)Variable PS
 V500 では利用可能であるが、今のところ臨床上の評価が定まっていないので、VN500には用意されていない。SPN-CPAP/PSモードで設定できる。Variable PSを設定するとPSV圧はランダムに変化する。変化量は0-100%で設定するが、PSV設定圧に対する%値である。圧上限はPmaxで下限はPEEP値である。Variable PSにより、PSV圧は当然変動するが、圧の変化量以上に1回換気量の変動を引き起こす。Variable PSはNoisy pressure support ventilationと呼ばれるモードであり、ALI(急性肺障害)において、肺サーファクタントのリリースを増やし、肺内での炎症反応を減じる(IL-6濃度が低下する)らしい。結果的に酸素化能の改善と肺血流の不均衡の改善が期待できるそうである。詳細はNoisy pressure support ventilationで文献検索を。
 
12)計測機能
(1)Low Flow PV Loop
 成人・小児カテゴリーで利用可能。自発呼吸がない状態でのみ計測できる。低流量の吸気ガスでPVループを計測する機能である。
 
(2)C20/C
 C20/Cは最新20%のコンプライアンス値と全呼吸でのコンプライアンス値の比で示す指標である。
(3)intrinsic PEEP
 呼気終末において吸気弁・呼気弁を閉じて内因性PEEP(intrinsic PEEP)を測定する。interval 1期間は圧変動がなくなるまでで、短くても0.5秒で、長くても3秒(成人カテゴリー)もしくは1.5秒(小児カテゴリー)まで。
(4)P0.1
 吸気が開始した早期に吸気弁を0.1秒閉じて、その際の圧低下量を計測することで換気能力を計測する。P0.1はP2-P1で計算される。
(5)Smart Pulmonary View(図;Smart Pulmonary View 画面表示例
 肺コンプライアンス・気道抵抗をグラフィカルなアイコンに表現する機能である。肺を表す線や気管を表す線は肺コンプライアンス測定値と気道抵抗測定値に応じて細くなったり太くなったり変化する。横隔膜の動きは自発呼吸の存在を表現する。自発呼吸と強制換気の比率は別枠に表示される。また、自発分時換気量や強制分時換気量も表示される。
(6)ETCO2
 CO2測定用のセンサーを装着するとETCO2を測定できる。CO2総排出量も表示できるのでエネルギー消費量が推定できる。
13)インターフェース
 USBメモリーを介して過去7日分の最大5000ログブックを出力できる。LANポートも装備されている。またシリアルインターフェースを介してMEDIBUSやMEDIBUS.Xプロトコールでデーター転送が可能である。
14)ネブライザー
 ネブライザー使用時には薬液からセンサーを保護するために、センサーを外す必要がある。詳細はマニュアルを参照。
6.操作方法(図;画面構成
 基本はタッチパネルで選択し、ロータリーノブで(必要なら数値選択し)確定する操作体系になっている。インターフェースは直感的に理解しやすい構成になっているので予備知識がなくても簡単に操作できる。換気作動中のメイン画面では、画面表示はABCDにフィールドが別れている。Aに患者カテゴリ・モード・換気の状況・アラーム状況などが表示される。Bにはグラフィックやループ・トレンドなどを表示する。Cにはメニューバーがあり、機能設定に使用する。Dは作動中の換気モードに対応したダイレクト設定ができる。GUIが優れているので画面の表示を見れば、簡単に操作可能である。
 ます電源を入れるとスタート画面が表示される。前回の設定と新規患者の選択枝がある。新規患者では新生児と小児の2カテゴリから選択する。新生児カテゴリでは体重入力、小児カテゴリでは身長入力から入る。システムセットアップからカスタマイズをすると小児カテゴリでも体重入力から入る設定に変更できる。アラーム範囲は入力に基づいて自動的に設定される。患者カテゴリ選択後はスタート/スタンバイ画面になる。体重/身長入力後は1回換気量・呼吸回数・圧立ち上げ時間・フロートリガー感度などが自動設定される。その他のパラメーターは起動時の設定が入っているので、必要に応じて変更する。また、必要に応じて患者回路や加湿器の種類などを選択する。システムチェックも開始時にするのは望ましいが、通常はME室でなされているはずである。また、各種センサーは作動時にも自動校正されているので神経質になる必要はない。NIVもしくはチューブ換気、モード、必要なパラメーターを設定してスタートを確定すると使用できる。
 電源起動時の初期設定値などは施設固有値にカスタマイズ可能である。また、画面の配置や表示項目など多彩な項目がカスタマイズできる。
7.モニター、アラーム機能
 分時換気量がモニターされるので、従来の機器のように圧アラームを厳密にかける必要がない。多くの項目が用意されているが、ほとんどは自動的に設定されるので、あまりユーザーが設定する必要性はない。分時換気量のアラームと気道内圧上限は重要なのでしっかり確認する。
 メッセージは3段階あり、緊急度の少ない順に勧告(advisory)、注意(caution)、警告(warning)がある。それぞれメロディーが変化する。
8.ディスプレー機能
1)ディスプレー(図;ディスプレー表示例)
 Windowsパソコンのように多彩な画面が用意されている。現時点ではこれ以上必要がないほどである。
9.患者回路構成、加湿器(図;患者回路例
 患者回路内の抵抗になるので、吸気側・呼気側にフィルターを入れるのは推奨されない。吸気側ユニットも脱着して洗浄滅菌できる構造になっている。
10.日常のメンテナンス
1)呼気弁・吸気ユニット
 呼気弁と吸気ユニットは取り外して分解し、水道水もしくは適切な薬剤で洗浄する。その後、オートクレイブで乾燥、滅菌する。
2)フローセンサー
 電源投入時、ならびセンサー交換時に校正が必要である。フローセンサーはヒビテン等の薬液で静かに洗浄した後、オートクレイブする。なお、センサーは物理的には弱いが、超音波洗浄はできる。フローセンサーは消耗品扱いである。
3)
11.定期点検
1)酸素センサー
 エラーメッセージがでれば交換。
2)冷却フィルター
 一ヶ月ごとに洗浄する。最低限、年に1回は交換。
3)呼気弁のダイアフラム
4)アラーム回路のNiCd電池
2年に1度交換。
5)本体
 1年に1回、技術サービスによって作動点検、保守をする。
12.欠点
1)ソフトもハードも最先端なので、どうしてもバグの存在は避けられない。これは完璧とも言える高性能の代償であり、絶対的な安定性を重視するなら他機種の選択しかない。
2)保守契約費用や修理費用は決して安くはない。
3)新生児カテゴリーでは、NIVに利用できるモードは2つだけである。
4)口元のフローセンサーは痰の多い患者ではエラーを生じやすい。