MAQUET
Servo-i、Servo-s
1.特徴図;Servo-i外観写真図;Servo-s外観写真
 Siemens Elema社(スエーデン)の「サーボベンチレータ」は、先進性と高機能が評価されて人工呼吸器の世界標準機の地位を確立していった歴史的ブランドである。今日では標準的な制御法である電子サーボ制御を最初に確立した人工呼吸器でもある。圧とフロー情報に基づいて吸気バルブと呼気バルブを電子的にフィードバックサーボ制御するのは、メカニカル制御が主流であった当時としてはとても画期的であった。「ネズミから象まで」のキャッチフレーズが誇示するように、患者対象は新生児より成人までを守備範囲とする驚異的な性能を有していた。
 Servo 900の開発は1960年代に始まり、1971年には出荷が開始された。1976年には、900Bに発展してSIMVが付加された。1980年には900Cが発売され(Servo900cの外観写真)、この当時にPSV、PCVという今日では不可欠の圧換気モードが実用化された。1991年には、Servo-300を発売し(Servo300aの写真)、PRVC(Pressure Regulated Volume Control)、VS(Volume Support)、SIMV(Press.Contr.)+PSVなどの新世代の圧換気モードに加えて、従来は新生児モードにおいて不可能といわれたトリガー性能(PTV)や、新生児モードでは必須といわれていた定常流に頼らずディマンド機能だけで対応する性能を確立した。1995年にはServo-300Aが追加されて、Control modeとSupport modeが自動的に切り替わる機能(Automode)を提唱した。1997年には弱点であったグラフィック機能もServo screen 390(オプション)によって強化した。このようにサーボの歴史は呼吸モードの発展史そのものである。しかし、さしもの伝説的なservo 900シリーズも2003年には販売を終了した。後継機であったServo300(1991年〜2003年)の製品寿命は意外にも短く900Cと同時に販売終了した。これは2003年にSiemens Life Suport SystemsがGETINGE ABに買収されたためでもある。ちなみにMAQUETはもともとドイツの会社であるが、スエーデンのGETINGE ABがMAQUETを買収し、Siemens Life Suport Systemsを買収した後に、クリティカルケア部門をMAQUETに統一したので、MAQUETの社名を冠に戴くようになった。2003年以降は生産の合理化がおこなわれ、Servo-iのみが販売されている。2005年より廉価機種を投入する目的でServo-sが発売された。これは単純に低価格帯の機種を揃えるという営業上の理由から生まれた機種であるが、実は、内部構造はServo-iとほぼ同じであり、これらはハードとソフトを共有している。Servo-iとServo-sの根本的な差は拡張ボードを装着できるか否かであり、実質的にはNAVAが可能か否かが相違点である。現行バージョンではVSだけServo-sは不可であるが、これは営業上の意図的な制限である。今後に制限が解除される可能性がある。これは、これまでServo-sに意図的にPRVCモードを搭載していなかったのと同じである。
 Servo-iでは、それまでは弱点と言われていた呼気側のアナログ方式のフロートランスデューサがデジタル式の超音波トランジット方式に変更されて、さらに高精度かつ高信頼性になった。Servo-iには小児用、成人用、ユニバーサル(小児、成人の両方)の3種類のモデルが用意されている。PCV,PRVC,VS,BiVent,NIVなどはオプション扱いで必要なものを選択購入するようになっている。実のところ本体には最初からフル機能のソフトが搭載されている。オプションを購入して機能制限を解除してもらうと、これらの機能を利用できる仕組みになっている。ソフトウェアVer4.0以降ではNAVAもオプション設定されている。これは食道内に留置したセンサーで横隔膜の筋電位を捉えることにより、呼吸筋の働きで気道内圧やフローが二次的に変化する前に、さらに一歩早いタイミングで吸気・呼気を捕捉ることが可能になった。現在はVer5.0が最新である。2013年になりServo-uが発売された。主な改良点はユーザーインターフェースで、iPadのような高精細タッチパネル方式が採用された(Servo-uの写真)。
 
2.性能
1)利用できるモード
 Servo-i            Servo-s
------------------------------------------------------
 Volume Control(VC)       VC
 Pressure Control(PC))     PC
 PRVC              PRVC
 Vomume Support(VS)
 Pressure Support(PS)/CPAP   PS/CPAP
 SIMV(VC)+PS          SIMV(VC)+PS
 SIMV(PC)+ PS          SIMV(PC)+PS
 SIMV(PRVC)+PS         SIMV(PRVC)+PS
 Bi-Vent            Bi-Vent
 NAVA
 NIV VC             NIV VC
 NIV PS             NIV PS
 NIV NAVA
------------------------------------------------------
 Automode
 +PEEP             +PEEP
 
2)基本データー
最大吸気ガス流量
  強制換気.........198 LPM
  PSV..................198 LPM
最大強制換気数..........150 BPM
最大SIMV回数........... 60 BPM
 
3.制御回路、制御機構
1)制御機構の概説(図;Servo300における制御機構
 Servo-300では、それぞれにMPUを搭載するお互いに独立した制御ボードをアナログ信号で連携し、MPUによる中央処理システムを避けた特殊なシステムになっていた。これはデジタル器機が持つ特有の危険性に配慮したうえの設計で、MPUの暴走でシステム全体が停止するのを防いでいたが、バージョンアップを困難にする機構であった。さすがにServo-iは一般的なマイクロプロセッサによる中央制御になった。
2)機械的機構の特徴
(1)吸気ガス、呼気ガスともに口元のフロートランスデューサを使わずに新生児対応としたのは驚異的な技術である。しかも広範囲の対象に安定したガス制御を行えるのは卓越した技術である。しかもフロートリガーの最高感度は0.05LPMとこれも驚異的である。さらに応答性を改善する目的でYピースでの計測をするYセンサーオプションも用意されている。
(2)人工呼吸器の呼気系のガス回路は滅菌できて当然であるが、吸気系までも完全に分解洗浄・滅菌できるのはシーメンス社だけの伝統である。ゆえにガス回路はとてもシンプルである。しかし、その代償として多くのバクテリアフィルタを消耗部品として消費する。
3)ガス流量計測(図;呼気フローセンサー)(図;呼気フローセンサーの写真)
 吸気ガスの流量計測は吸気ガスモジュール内に内臓した差圧型のセンサーで計測する。呼気ガスの流量計測は超音波トランジット式である。これは流体の中を伝わる音波の伝搬時間が流体の流速によって変化する性質を利用したもので、2つの超音波発信源間の伝搬時間差が流量になる。モジュール内には圧センサーと呼気弁が内蔵されている。
4)吸気バルブ(図;吸気ガスモジュールの構造
 Servo300と同じ構造である。吸気バルブは、電磁力"electromagnetic motor"によりピストン"piston"を駆動し、膜式バルブ"membrane valve"を押して、ガス通路の開閉を調節する構造になっている。吸気バルブと駆動回路は、フローコントロール・ユニットとしてモジュール化されている。
5)呼気バルブ(図;脱着式呼気弁ユニット
 脱着式の呼気弁ユニットが採用されて、サーボ伝統の呼気弁滅菌中は稼働できない欠点が解消された。脱着は容易にできる。通常は1台の人工呼吸器に2個の呼気弁ユニットが付いてくる。呼気弁と呼気流量計測機能と圧計測機能が一体化されたユニット型の構造に内蔵されている。Drager社のEvitaが初期の頃に採用していたものと類似である。これはDrager社に資本参加しているのと関係があるのであろうか?構造の詳細は公表していない。
4.ニューマティック回路図;Servo-iのニューマティック回路
 これ以上単純化できない程シンプルである。センサーの汚染予防用のパージ流さえ省き、センサー毎のバクテリアフィルタで汚染に対応する。しかしこれらは患者毎に交換を要する部品になる。一般的に人工呼吸器には作動中であっても圧や流量センサーを自動校正していく機構を設けているが、サーボシリーズには単純なガス回路ゆえに患者使用中に作動する自動校正機構を持たない。したがって、患者に接続する前に行われる起動時の校正プロセスは必須であり、省いてはいけない。
5.制御ソフト
各機能の説明
1)トリガー方式
 呼気バルブ直前の圧変化による圧トリガー方式もしくはフロートリガー方式を選択できる。新生児であってもYピースにフロートランスデューサを必要としない。これは呼気側のフロートランスデューサの精度向上の恩恵である。Ver3.0以降は応答性と確実性をさらに改良する目的でYピース部分での圧とフロー計測するYセンサーオプションも可能である。ちなみにバイアスフローは小児モードで0.5LPM、成人モードで2LPMであり、それに対して10%ステップでフロートリガー感度を設定できる。フロートリガー感度表示は絶対値ではなくレベル1〜10になっている。レベル10が最も感度が高いが、オートトリガーするのでレベル5あたりで使用することが推奨されている。レベルを上げるとバーグラフの表示が赤くなる。通常は赤く表示される領域を使用しない。リーク補正機能はないので、カフなしチューブを使用する際には感度調節が重要である。
2)Volume Control(図;VCVの説明
 時間サイクルというより量サイクルとしての性格に類似する方式である。通常は吸気ディマンドが強いと吸気時間が短縮する。病的肺の患者に適応することは推奨されない。このモードは"sCMV"に相当するが、自発呼吸への同調性の改善が改良点である。サーボでは、これをVolume Control Ventilation(VCV)と呼んでいる。図の番号に沿って説明する。@吸気努力がなければ設定どおりのTI、TP、TEで呼吸サイクルが構成される(=Time cycle)。 C吸気トリガーがあればこれに同期して強制換気が送られる。A吸気時間(TI)の間に、強い吸気があり、PEEPレベルより-2cmHOまで陰圧になれば、ディマンドガスが供給されて気道内圧をPEEPレベル+2cmHOに維持する。吸気ディマンドが設定吸気ガス流量を超えている限り、吸気量、吸気時間とも増量する。もし途中で吸気ディマンド流量が低下してきて設定吸気ガス流量に等しくなった時点で2つの選択が為される。換気量が達成されている場合はさらに吸気ディマンドが継続される。吸気が終了すると吸気ポーズ時間がこれに続く。Bもし吸気ディマンド流量が設定吸気ガス流量に等しくなった時点で一回換気量が達成できていない時は、一回換気量が達成されるまで設定された流量を供給する(=Volume cycle)。この際には吸気時間は短縮する。その後に吸気ポーズが続く。D吸気途中に上限圧"upper pressure limit"に達すれば吸気は強制終了する。吸気ポーズは入らない。
3)SIMV(Volume Control)(図;SIMV-VCの説明
 固定時間方式である。自発換気相ではデマンドフローやPSVが供給される。トリガーウィンドーの長さは、CMVサイクル時間の90%である。(注意:サーボではこれをSIMV Breath cycle timeと呼ぶが、他メーカーでSIMV cycle timeが意味する概念と異なるので注意)強制換気はVolume Controlで入る。
4)SIMV(Pressure Control)(図;SIMV-PCの説明
 このモードでは、強制換気はPCVで入る。@〜Dの説明はSIMV(Volume Control)と同じである。なお、患者の安全のために吸気圧がPressure Control Level above PEEPを+20cmHO以上になると吸気が強制終了する。
5)PSV
 吸気終了認識条件は、@吸気流量がCycle-off level(ピーク値に対する%値)以下になった時、A気道内圧が気道内圧上限に達した時、BPSVの吸気が開始してからピーク流量の25%になるまでの時間の50%がピーク流量の値が25%以下になってから経過した時、である。Cいずれの場合でもPSVの最大吸気時間は小児で1.5秒、成人で2.5秒以下に制限される。特に条件BCはリークなどでPSVが終了しないのを防ぐための対策である。
6)Pressurre Control(図;PCVの説明
 このモードは、PCVに相当する。Patient triggerもしくはTime triggerで吸気が開始され、Time cycleで吸気は終了する。図のように設定された、TI、TP、TEでサイクルが構成される。吸気時間にはPressure Control above PEEPで設定された圧が呼吸回路に加えられる。図について、@吸気流量パターンはふつう暫減波形になる。吸気の終わりには、A吸気流量は、0LPMに近くなることもあるし、B0LPMの場合もある。Cもし気道圧上限"upper pressure limit"にかかると即座に吸気は終了する。D患者の吸気努力に同期することもできる。 吸気圧がPressure Control Level above PEEPを+20cmHO以上超えた場合、吸気は強制解放される。
7)PRVC(Pressure Regulated Volume Control)(図;PRVCの説明)
 これはPCVの利点を生かしたまま、従量式の換気と同等の効果を達成する新モードで、PCV圧を自動調整して換気量の恒常化を図っている。ピーク気道内圧を低くできる従量式換気モードの変種である。これはDrager社EvitaのPressure Limitation Ventilationと目的は同じくするが、Evita4ではAutoFlowに発展改良して採用されている。このモードは、PCVよりさらに強制的で、より換気能力の乏しい患者向けである。吸気トリガーがあれば、これに同期して、なければ、一定の間隔で換気が開始される。PCV圧の決定は次の手順で行われる。通常状態では、吸気の終了ごとに次の演算式で新しい吸気圧を演算する。
Pcalc=Pin use*TVp/TVm
 Pcalc:計算された圧
 Pin use:使用した吸気圧
 Pnext:新しく設定される吸気圧
 TVp:設定された一回換気量
 TVm:実測された吸気量
Pcalc値は9秒の時定数を持つLow Pass Filterに掛けられ、PCV圧制御用の新しい基準圧(Pnext)になる。つまり、一呼吸ごとに、実測コンプライアンスに基づいて、必要とされるPCV圧"Pressure Control Level"が決定される。圧の変化は最大3cmHOに制限される。
 最終的には、一回換気量が一定値に収束される。具体的には次のプロトコールで制御が行われる。図に沿って説明する。
@最初の換気は10cmHOの圧で行われる。このテスト換気で次のPCV圧(Pcalc)が演算されるが、この値はそのままPnextとして用いられる。(フィルタ処理なし) A引き続く3呼吸もフィルタ処理なしで決定されるが、次の式のように、圧の変化量の75%値が用いられる。
 Pnext=Pin use+0.75*(Pcalc-Pin use)
    =0.25*Pin use + 0.75*Pcalc
ここまでがテスト換気手順になる。
B5呼吸目より、フィルタ処理が行われ、通常の手順で、必要とする換気圧(Pnext)を再設定する。圧の変化範囲はPEEPレベルより5cmHO below Upper Pressure Limitまでである。安全を考慮して、気道圧上限"Upper Pressure Limit"は可能な限り低く設定する。Cに規定されているように呼吸時間は、設定されたTIとTEに固定されている。この点がVolume Supportとの違いである。Dは圧が安定して換気量も設定値が維持されているのを示している。Eでは換気量が設定値より実測値の方が多くなり換気圧を減らしている過程を示している。もし患者回路が吸引操作等ではずされた時は、もう一度テスト換気手順@が始まる。
8)VS(Volume Support)(図;VSの説明
 これも基本はPSVであるが、分時換気量を安定化させるために、PRVCと同様の手順で新しいPSVレベル(=Volume Supportレベル)を自動的に設定する。ただし18秒の時定数を持つフィルタが用いられる。 PRVCと異なり、呼吸数は患者に依存しているので実測呼吸数に応じてPcalcの演算式が切換わる。設定呼吸数より実測呼吸が多い場合はPRVCと同じである。少ない場合は次の式になる。
Pcalc=Pin use*MVp/MVm
 MVp:分時換気量の設定値
 MVm:吸気分時換気量の実測値
@最初のテスト換気は10cmHOの圧で行われる。A必要変化量の75%の圧で続く3呼吸を換気する。ここまではフィルタ処理をしない。Bその後は通常の手順で設定する。圧が変化する範囲はPEEPレベルよりUpper Pressure Limit - 5cmHOまでである。一回の変化量は3cmHO以下である。またPnextは1.5*Pin useを越えない。Cでは換気量が設定値より実測値の方が多くなっているので、次の換気圧を減らしていく過程を示している。
Dこのモードは基本的にはPSVと同じ方式なので、吸気トリガーがなければ換気が始まらない。患者は自由な吸気時間と呼吸数と呼気時間が許されている。
Eもし、呼吸数が少なくなりF無呼吸アラームにかかれば、G自動的にアラームを鳴らしてPRVCに切替わり、患者の分時換気量を確保する。アラームを手動でリセットすると再びVSに戻る。
 患者の吸気量が設定一回換気量の175%になれば強制的に吸気相が終了する。患者回路が吸引操作等で はずされた時は、もう一度テスト換気より開始する。
9)AutoMode
 Servo-iにはPRVC, Volume Control, Pressure Controlの3つの調節呼吸(強制換気)モードが用意されているが、。これらの3モードを選択した際に、AutomodeスイッチをONにすると2回連続してトリガーすればcontrol modeよりsupport modeに切り替わる。support modeにおいて一定の時間(Adult ; 12 sec., pediatric ; 8sec., neonate ; 5sec.)トリガーがなければ自動的にcontrol modeに替わる。
表;AutoModeにおけるモード切替の対応表
PRVC/Supportでは、PRVCの最終の換気圧がそのままVolume Supportの換気圧の初期値になる。Volume Control/Supportでは、最終のVolume ControlでのEIP圧がVolume Supportの換気圧の初期値になる。Pressure Control/Supportでは、それぞれの設定圧が換気圧になる。
10)Bi-Vent(図;Bi-Ventの説明
 これはDrager社のBIPAPと類似の換気モードで、2つのPEEPレベルを自発呼吸に対して提供するモードである。本書において広義のBIPAPと記載しているモード概念に近い。高圧相と低圧相との移行は可能な限り自発呼吸に同調する。トリガーウィンドに関しては不明であるが、各相の終末何%かがトリガーウィンドになっているもようである。Drager社のBIPAPと違い、高圧相と低圧相のそれぞれに任意の圧のPSVを付加することができる。
11)NIV(図;NIV設定画面
 マスク下に行う圧換気モードである。NIVモードになると画面表示は黄色の枠になる。PSVとPCVモードのみを選択できる。リーク補正機能はあるが可及的にリークが少ないように最適なマスクを選択しきちんとセットする。NIVで許容される最大リーク量はAdultモードで50LPM、infantモードで15LPMである。NIVではトリガー感度の設定はない。(1)気道内圧が1pH2O低下したとき、(2)100msの間に6mlの変動があるとき、に吸気が開始する。サイクルOFFは(1)気道内圧が設定値より+1cmH2O上がった時、(2)リークフローが設定サイクルOFF値より低下した時、である。
12)NAVA(図;NAVAの画面
 NAVAは横隔膜の筋電位の強弱に応じて換気圧を提供するモードである。呼吸努力を直接的に検出するのでトリガーに対する遅れが理論的に極めて少ない。NAVAを利用するには@EdiモジュールをServo-i本体に装着し、A接続ケーブルを通じてC患者に装着されたEdiカテーテルから信号を得る必要がある。(図;NAVAの構成品)(図;NAVAの装着イメージ
NAVAにおいてEdiカテーテルの位置決めは重要である。このために、Servo-iではEdiカテーテル位置決めのための画面が用意されている(図;Ediカテーテル位置)。Ediカテーテルには4個の電極が装着されている。横隔膜の電位の最強誘導は青く表示される。この青い波形が2-3番目に表示されるようにカテーテルの位置を調節する。一般的原則として(N)(E)(X)の距離計測をして(NEX)、その上でカテーテル挿入長を仮決定する。(図;NEXの測定)その後にEdiカテーテル位置画面で微調整をする。ちなみにカテーテル挿入前に、カテーテルを水に湿潤して潤滑性を復活させる。(図;Ediカテーテルへの通水)
 

     経鼻では

     経口では

Edi cath. size

挿入長(cm)

Edi cath. size

 挿入長(cm)

16Fr
12Fr
8Fr125cm
8Fr100cm
6Fr50cm
6Fr49cm
 

NEX*0.9+18
NEX*0.9+15
NEX*0.9+18
NEX*0.9+8
NEX*0.9+3.5
NEX*0.9+2.5
 

16Fr
12Fr
8Fr125cm
8Fr100cm
6Fr50cm
6Fr49cm
 

NEX*0.8+18
NEX*0.8+15
NEX*0.8+18
NEX*0.8+8
NEX*0.8+3.5
NEX*0.8+2.5
 
 
 NAVAにおいて換気圧はEdi電圧×NAVAレベルになる。例として5μV×3cmH2O=15cmH2O(abovePEEP)になる。Ediでトリガー信号を得れない場合は-2cmH2Oの圧トリガーでも作動する。また気道内圧が目標圧の+3cmH2Oを超すと吸気相は強制終了する。またEdi値がピーク値の70%以下になると吸気相は終了する。最長吸気時間は小児で1.5秒、成人で2.5秒である。
 NAVAでは次の項目を設定する。NAVAレベル・PEEP・酸素濃度・Ediでのトリガーレベル(電圧)・ニューマティックでのトリガー感度(従来のトリガーレベル)・ニューマティックでの吸気流量によるサイクルオフ・PSレベル・バックアップ換気中のPCレベル・バックアップ呼吸回数・バックアップ換気での吸気時間/I:E比
13)NIV NAVA(図;NIV NAVAの画面
 このモードは基本的にNAVAと同じであるが、NIVであるので、ニューマティックでのトリガー設定とサイクルオフ機能が無効化されている。
14)Insp.Hold、Exp.Hold
 これらのボタンを使って、End Inspiratory Pause pressureやAuto-PEEPの測定ができる。
15)入力/出力
 オプションのメモリーカード(Ventilation Record Cardと称する)を挿入すれば画面のコピーや、換気情報を記憶できる。メモリーカードを介してパソコンに情報をコピーできる。さらにRS232C端子のシリアルポートからリアルタイムで信号を出力できる。
16)ネブライザー
 超音波式なので駆動ガスを要しない。したがって駆動ガスによる換気量の変化や酸素濃度の変化が起こらない。
17)無呼吸バックアップ機能
 AutoModeを利用して無呼吸バックアップを行う方法とBack-up Ventilationを利用する方法がある。Back-up ventilationでは無呼吸でPSV→PCV、VS→VCになる。I:E比や換気回数吸気立ち上がり時間はそのままである。無呼吸時間は成人モードで15-45秒の範囲で、小児モードでは5-15秒の範囲で設定できる。
18)PEEP compensator(PEEP補正)
 呼気バルブのサーボ機構により、呼気ガス流量に関わらず正確なPEEP/CPAPが維持される。
19)CO2モニター
 オプションでYピース先端のCO2をモニターできる。吸光度測定方式である。
20)バッテリー
 12vのNiMHバッテリーを最大6ユニットまで装着できる。1ユニットあたりおよそ30分使用できる。
21)コンプレッサ
 専用のコンプレッサを装備できる。コンプレッサとしては静かな方であるがタービンの静粛性には及ばない。
22)ライズタイム
 圧換気において設定圧に達する時間を設定できる。(図;ライズタイムの調整
6.操作体系図;操作パネル写真
1)基本
 納入時に2つの操作体系(吸気時間設定方式とI:E比設定方式)から1つを選択できる。メーカーの技術者が解除キーを入力して、提供するモードや操作体系を設定するようになっている。現実としてAdult、Infant、Universalのいずれの機種も全く同じソフトウェアーを持っているので潜在的に同能力である。ライセンス購入に応じて、PRVCやVS、AutoMode、Universalなどの機能が解除されて、そのモデルの性能が決定される。
 Servo-iではようやく米国市場や日本市場での強い要望により(米国と日本での販売台数にほとんど差がなく、日本での販売台数が多い時期もある)、一般的な人工呼吸器で用いられている吸気時間設定方式、つまり一回換気量、吸気時間、換気回数から設定していく方式を選択できる。この場合I:E比は1:2として内部処理されSIMVのトリガーウィンドー時間が決定される。
 一方、これまでのサーボに採用されていたI:E 比設定方式も選択できる。これはサーボ独特の分時換気量、呼吸数、%吸気時間、%吸気ポーズ時間から設定していく方式で、従来のサーボの操作体系を世襲できる。しかしこの方式を用いる必然性は疑問である。
2)操作
 起動時にスタンバイ画面が表示される(図;始動時の画面)。通常は始業点検メニューを選択して始業点検を行う。緊急時にはスキップしてスタートすることも可能である。タッチパネルを用いて設定する(図;設定メニューが表示された画面;この図ではNIVモード)。モード、一回換気量、換気回数、アラーム設定などはタッチパネルで選択して、メニューを表示させてノブで数値を選択し、ノブを押して確定する。PEEPや酸素濃度など、頻回にアクセスする項目はパソコンのファンクションキーのように、項目に対応したつまみが液晶画面の下部に用意されているので素早く設定変更ができる(不用意に変更されないように透明カバーで保護されている)。
7.モニター、アラーム機能  (図;アラーム画面表示例:この図ではNIVモードでのアラーム設定)
@呼気分時換気量;上限、下限、ならび未設定アラーム。
A気道内圧上限;警報と同時に吸気は強制終了する。
B無呼吸;15秒間トリガーが認識されない時。
C酸素濃度;上限、下限。
Dその他;電源、ガス供給に異常のある場合。
8.ディスプレー機能図;画面表示例
 各種グラフィック表示(フロー、ボリューム、圧、フローボリュームカーブなど)、各種のモニター数値などの表示が可能である。
9.患者回路構成、加湿器
 F&Pなどが選択できる。
10.日常のメンテナンス
 呼吸回路と呼気系の部品の洗浄、滅菌、乾燥が必要である。呼気ユニットは85℃以上の温水で洗浄した後、アルコールなどで消毒し、その後、精製水でゆすぎ、オートクレー部で滅菌乾燥させる。呼気ユニットを複数台用意しておけば、呼気ユニットを順次交換していくことで機器を連続使用することが可能である。呼気系の滅菌を避けるためにディスポのバクテリアフィルタを呼気弁直前に設置する手もある。
11.定期点検
1)吸気系
 年に1度もしくは5,000時間毎に吸気系の部品も洗浄、滅菌する。具体的にはガスモジュール用のフィルタ、吸気圧トランスデューサ用のバクテリアフィルタ、O2セル用のバクテリアフィルタ、ガスモジュール用のノズルユニット、である。
2)酸素センサー
 酸素濃度測定用の燃料電池は消耗品なので定期的に交換が必要である。交換後はキャリブレーションが必要である。長期間使用できる超音波型センサーもオプションで用意されている。
3)その他
 年に1度もしくは5,000時間毎にバッテリーモジュールの点検、ガス供給圧トランスデューサを点検する(詳細はマニュアルを参照)。
4)呼気カセットメンブラン
 呼気弁のメンブランは目安として1,000万回の作動(ビート)が可能である。個々のカセットに対して使用状況を表示する機能が用意されている(アクセス方法の詳細はマニュアルを参照)。
12.欠点
1)I:E 比設定方式と呼ばれるサーボ独特の操作体系をも継承しているが、この点は一見サーボユーザーに親切に見えるが、元来こうした操作体系は欠点であったので現実的には無意味である。
2)すべての生産モデルはハードウェアー、ソフトウェアーともに同等であるのに、ユーザーが支払った金額でソフトウェアー的に機能が制限されるのは不愉快である。なんとベーシックモデルにはSIMVとPSV、VCしか搭載されていない。PRVCやVC、AutoMode、Bi-Ventは言うに及ばず、PCVですらオプション扱いである。決して安くないServo-iにPCVすら標準搭載がないのは理解に苦しむ。何も熟慮せず(人任せにして)購入したServo-iが、値切りに値切って安く買ったServo-sと性能が同じだったという笑うに笑えない事態がおこっている。車に例えれば、高価なベンツにパワーウィンドウやリアワイパー、エアコンがついていないようなものである。一般的な日本人ユーザーの心情として製造コストに見合った価格には納得いくが、ソフト的な事柄すべてに高額な価格設定をしていることに不快感を感じる。この路線で行くなら、機能が高まればそれに見合って価格が高騰することになる。パソコンや家庭電化製品の感覚で言えば、改良や技術の進歩は当然であり、それに対して高額のオプション費用を要求するのは進歩を無視した役人的発想である。こうした価格設定が容認されるなら現在のパソコンは1台100億を超える価格設定になるはず。ちなみにライバルの米国製のVELAは標準で各種モードてんこ盛りで廉価機の価格帯になっているので、ソフト自体にコストがそれ程かかっているとは思えない。ニューポート社のe360はほぼ半額でソフトウェアー満載である。日本国内においては、さすがのサーボも営業上、実際の販売現場ではレス仕様で見積もりを出し、納入時にオプション機能をサービスしている模様である。しかしこうした販売形態は異常である。
3)肺メカニクスを表示するのにも、高額なオプションが必要なのは理解できない。
4)特殊な状況ではあるが、PRVCやBi-Ventモードでも吸気相途中に急激な呼気があると気道内圧がアラームレベルまで上昇してしまう。つまり呼気弁での圧リリーフが遅い。カタログ上だけで言えば、吸気側の圧制御系の応答性はEvitaに比べると圧倒的に良いが、極端な状況下では、グラフィック画面上オーバーシュートによる圧スパイクや圧リリーフが遅いための圧スパイクなどの現象が観察しうる。この原因は呼気弁の圧制御ソフトの問題であろう。Bi-Ventであっても機械内部では吸気相と呼気相の区別があり吸気相では呼気弁を安全圧で閉じているため、急激な呼気の開始があると、呼気弁の解放が遅れて急激な圧スパイクを生じる。ちなみにEvitaではCPAP圧が経時的に変化する形で吸気弁と呼気弁が制御されているので、設定圧以上のガスは呼気弁よりリリーフされる。そのため圧波形にスパイクはほとんど認めずあったとしても1cmH2O程度である。そのかわり、リリーフ時には呼気弁よりギューっと不快音を生じることもある。
5)吸気ガスが流れる音、呼気ガスが排出される音は、昔のサーボも最新のサーボも構造が違うのに同じ音がするのは、自動車の排気音がメーカー毎に独特の音があるのに似ていて興味深い。ただし、個人的な好みで言えば、サーボの音はシュノーケルなど細い管を通じて呼吸をしているような息苦しさを感じさせる音なので印象は良くない。
6)おそらくハードウェアの性能は世界最高であろう。しかしながら、制御ソフトがこれを生かし切れていない。ハードウェアー性能の劣るEvita に対して、総合的な評価において決して勝っているとは言えない。操作体系の熟成度や、呼気弁の制御ソフトを含めた圧制御技術、ガス流量制御技術、においてノウハウに歴然とした差がある。新生児モードでもトリガーにリーク補正機能がないので、せっかくの世界最高クラスのトリガー感度を生かしていない。
7)始動開始時にテストシーケンスを要求されるのは面倒である。これはできるだけニューマティック回路を単純にするという設計思想による仕様の問題ではある。しかし、どれだけユーザーの理解を得られるか疑問である。
8)必要なオプションを装備するととても割高になる。
9)小児モードにおいて、圧の立ち上がりが悪い。PCVなのにPressure Limitのような漸増波になることがある。
10)カタログ上のスペックでは人工呼吸器の中で世界最高感度であるが、現実的には、小児ではトリガーしていないことが多々ある。これがNAVAを開発した理由??
11)アシスト換気後に連続して再トリガーする現象が時々見られる。フロートリガーにおいて頻度が高い。解決策として圧トリガーで-2cmくらいの低感度にすると解消できるが、そうするとトリガーまでの仕事量が多い。フィルタリングアルゴリズムが良くないのか??
11)エビタシリーズと比較すると圧制御が甘い。オーバーシュートやアンダーシュート、それに呼気弁の解放遅れなどで、圧波形はわりと変動する。けっしてきれいな矩形波にならない。立ち上げ速度をいじると多少改善するが、調節不要のエビタに勝ることはない。