Philips Respironics
Trilogy200,TrilogyO2
1.特徴(図;Trilogyの外観
 1976年米国ペンシルバニア州でガレージメーカーとして創業したRespironics社は、(気管チューブや気管切開などの人工気道に頼らない)マスク換気によるNIVと、呼気弁を持たずに解放ポートを呼気弁代わりに使うという常識破りの発想に基づくBiPAP(bi-level換気)という概念の提唱者として、1992年にはbi-level換気に関して多くの特許を取得している。このようにRespironics社はNIV人工呼吸器で急成長した会社であり、NIV療法のリーディングカンパニーでもある。しかし、2007年10月にはPhilips社(オランダ)に買収されて、現在はPhilips社の一部門になっている。Trilogy200はRespironics社のBiPAP人工呼吸器のなかでもEsprit(V200)系統のモデルである(図;V200の外観)。体重5kg以上を対象とした小児〜成人用が対象である。Trilogyの語源は「三位一体」であるが、これは3つの人工呼吸器が一体化していることを象徴して命名されている。つまり、@パッシブ回路(リーク弁使用)を用いる人工呼吸器A呼気弁を持つ一般的な人工呼吸器BProximal部位にフローセンサーを装着した呼気弁を持つ人工呼吸器、の3形態が可能になっている事を意味している。Drager社のAutoFlowやMAQUET社のPRVCに該当するAVAPS機能を付加できるので、呼吸モードとしてはほとんどすべてが可能になっている。Trilogy200では酸素を定常流として付加できるが、TrilogyO2にはデジタル酸素ブレンダーが搭載されているので、酸素濃度を任意に設定できる。
2.性能
1)モード
CPAP S S/T T PC PC-SIMV CV AC SIMV
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AVAPS, SIGH,Flex
2)性能
 一回換気量   20-2000ml
 換気回数    0-80BPM
 フロートリガー 1-9LPM
 最大吸気流量  200LPM
 電源      AC100-240v 2.1A MAX, DC12V 2.1A MAX
体重5Kg以上
在宅用、移動用、病棟用
バッテリバックアップ
 
3.機構の概略
 例によってRespironicsは構造の詳細を公表しない。ほとんどが推定になるが、過去の機種の構造はわりと情報が暴露されているので参考になる。呼気弁を持つV200(Esprit)では呼気弁は比例制御弁EVによるダイレクト駆動である。また、V60やV200では熱線式フローセンサーが採用されている。しかし、Trilogyでは呼気弁を患者回路の近位に付けるので、呼気弁駆動ガスが必要になる。ブロアーからの駆動ガスが比例制御弁には入りMPUによって呼気弁駆動圧が調節されて、呼気弁のバルーンにつながる。Trilogyではフローセンサーはすべて差圧式が用いられている。また近位圧モニターラインも使用するので、これらのラインには、パージ流を流す配管とゼロ点校正弁がマニフォールドに組み込まれているはずである。酸素ブレンダーはV60と類似である(図;Trilogyの内部配管写真)。左上の蝸牛のような構造がブロアーである。そこから温度センサー、フローセンサー用の圧モニターチューブをへて吸気ポートにつながる。左下の黒いボックスは呼気弁圧制御用の比例制御弁である。タービン出力ガスは比例制御弁に入り圧を調節されて呼気弁駆動ガス源になる。左上のブロアーの右隣は差圧センサーで吸気ガス流量を計測する。その右隣の白い箱はProx FlowとFlow Elementの圧を切り替える電磁弁である。(図;簡易ブロック図 V200のニューマティック回路、)
4.操作(図;操作パネル:@Start/StopAAlarm indicator/Audio PauseBUp/DownCLeft&RightDAC Power LED)
1)アクセス権限
 操作が限定されている限定モードとフルアクセスモードが用意されている。必要があれば限定モードにできる。限定モードでは快適性に関する部分、すなわちRise time,Flex,Ramp Start Pressureだけが許可される。限定モードからフルアクセスモードに切り替えるには、BダウンボタンとAアラームボタンを同時に数秒間押す。その後Setting and Alarmsを選択してCircuit typeを選択する。次にModeを選択し、その後にパラメーターを設定する。画面表示が適切に切り替わっていくので、 画面表示に従えば、上下ボタンキーと右左ボタンを押して容易に設定できる。
2)モードの説明
 CPAP,S、S/T,Tモードは従来のRespironics製品と共通である。PCモードはS/Tと類似であるが、bilevel pressure換気(IPAP相でも呼気が可能である)であり、吸気時間はTiで設定した値になる。SIMVは可変トリガーウィンドー時間方式である。SIMV cycle timeは60秒/SIMV回数で規定される。図ではSIMV回数5BPM なのでSIMV cycle timeは12秒になる。12秒のサイクルの内、最初のトリガーに対して強制換気が与えられる。その後はPSV換気が与えられる。もし12秒のサイクルの中でトリガーがなければ次のサイクルが開始した時点で強制換気が与えられる(図;SIMVでのロジック)。強制換気にはPC(Pressure Control)とVC(Volume Control)を選択できる。
3)Flex(図;C-Flexの説明Bi-Flexの説明
 CPAPとSモードで選択できる。通常のCPAPでは呼気時でもCPAP圧は変わらないが、C-Flexを@-Bで選択すると呼気時に気道内圧を少し下げて呼気を排出しやすくする。これをC-Flexと称している。Sモード時にはこれはBi-Flexと称している
4)Ramp(図;Rampの説明
 CPAP,S、S/T,T,PCモードで選択できる。これは患者にいきなり圧がかかって違和感を感じないように、徐々に経時的にIPAP圧とEPAP圧を上げていく機能である。
5)Rise Time(図;Rise Timeの説明
 Rampが連続する換気において、徐々に個々の換気圧を上げていく機能であるのに対して、Rise Timeは一つごとの換気に対して圧を徐々に上げる時間(立ち上げ時間)を調節する機能である。1-6のレベルで設定できる。
6)AVAPS(図;AVAPSの説明:図の途中で一回換気量が目標値より下がっている。その後にIPAP圧が自動調節されて一回換気量が目標値に修正されていく)
 AVAPSはAverage Volume Assured Pressure Supportの略で、圧換気モードに付加できる機能である。これは設定一回換気量に実測一回換気量が近づくようにPSV圧を自動調節していくモードで、圧換気でありながら量換気を実現するモードである。これはDrager社のAutoFlowやMAQUET社のPRVCに該当する機能である。
7)Flow Pattern(図;Flow Patternの説明
 量換気(Volume Control)換気で設定できる。正弦波とRamp波形を選択できる。Ramp波形とは一般的に漸減波と呼ばれるもので、吸気開始時に吸気ガス流量を100%とすると、終了時に50%値になる。ただし、吸気ガス流量設定が20LPM以下の場合は漸減する割合は50%より少なくなる。
8)Sigh(図;Sighの説明
 圧換気モードで選択できる。Sigh時には150%の一回換気量が送気される。
9)トリガー
 BiPAPのように回路リークが前提の換気法では、リーク補正がしっかりしていないとトリガーを正確に捕捉できない。さらに独特のトリガー条件を用いて誤動作を防いでいる。これらはAuto-Trakと命名されている。詳細は以下のとおりである。
(1)Expiratory Flow Rate Adjustment(図;EFA説明図
 EPAP時間が5秒以上になれば、患者の呼気ガスは存在しないはずである。この時点でのガス流量をEPAP時での回路リークとみなし、ベースライン(フロー)をBreath by Breathで再設定する。この方法は確実であるが、EPAP時間が5秒以上ある頻度は場合によってはあまり期待できない。そのため次の方法も併用する。
(2)Tidal Volume Adjustment(図;TVA説明図
 回路リークがなければ、吸気ガス量と呼気ガス量は同じはずである。つまり吸気ガス量と呼気ガス量の差は回路リークとみなせるので、両者の差がなくなるようにベースライン(フロー)を再設定する。
(3)Volume Trigger
 ベースラインガス流量(前述のリーク量を補正した)を超える吸気ガスの量が6mlに達するとIPAPが始まる(S/Tモードでの自発呼吸)。
(4)Shape Signal(図;Shape Signalの説明)
 Shape SignalとはRespironics社独自のトリガー方式で、IPAP→EPAP、EPAP→IPAPへの移行に関与する。患者のフロー波形(実測値より推定回路リーク量を除いた推定値)を15LPMオフセットし、150mS遅延した波形をShape Signalと呼ぶ。患者のフロー波形とShape Signal波形を比較し、これらの線が交差する時点でIPAP、EPAP相を終了させる。この概念の本質は、実測した値から変化の著しい時点を検出していると考えられる。
(5)Maximam IPAP Time
 自発呼吸時にはIPAPを最大3秒に制限し、これを超過するとEPAPになる。
(6)Spontaneous Expiratory Threshold(図;Spontaneous Expiratory Thresholdの説明
 IPAP時間の経過とともに、IPAPからEPAPへの移行する流量条件(terminal flowとも呼ばれる)を経時的に上昇させる。この場合IPAP時間が長くなる程、IPAPからEPAPへの移行が起こりやすくなる。
 
5.モニター、アラーム
 電源消失、機器作動停止、回路点検、回路リーク低下、呼気圧上限、呼気圧下限、バッテリ電圧低下、高温、酸素フロー上昇、酸素フロー低下、酸素供給圧上昇、酸素供給圧低下、回路はずれ、無呼吸、Vte上限、Vte下限、分時換気量上限、分時換気量下限、など、機器に関する異常と換気に関する異常を表示してくれる。
6.患者回路(図;患者回路の説明
 図に示した3形態を選択できる。
7.メンテナンス
 最低限6ヶ月毎にエアインレットフィルターを交換する。
8.欠点
  Trilogyは欲張りすぎていて、操作や設定が面倒。リーク弁以外の患者回路では、付いている物が多くて全く洗練されていない。呼気弁付きの人工呼吸器をRespironicsに求めている人は営業サイドだけではないか?臨床の現場サイドから見れば、昔のシンプルな機械の方が良かったとの意見も多い。