VIASYS
T Bird AVS,VSO2,VS  
1.特徴(図;T Birdの外観写真)
 高圧ガス源を吸気弁で調節して吸気ガスを発生させる機構は、レスポンスが速く、患者のさまざまな換気要求に応えられる柔軟性があり、人工呼吸器の標準機構と考えられてきた。しかし、バード社のT Birdによって、タービンを電動モーターで駆動して吸気ガスを発生させる機構は吸気バルブ方式に比べて何ら遜色がないと証明された。タービン技術にはジェットエンジンの制御技術が流用されていると聞くが、全く異なる分野の頭脳が、企業とか業界とかの垣根を超えて、開発費を投資してくれる環境を求めて自由に移動していくアメリカ流の良い面がこの人工呼吸器に具現されている。この斬新な機構の恩恵でエアー配管を必要としない、高流量、ハイレスポンス、低コスト、移動可能な人工呼吸器が実現した。AVSモデルはフルオプションの最高機種であり、VAPSやPCV、グラフィックディスプレー対応などあらゆるオプションを搭載している。VSO2ではベーシックな機能に限定されていて、VAPS、PCV、呼気ホールド、MIP/NIF、吸気ポーズ、吸気波形より矩形波のオプションが省かれている。VSは在宅用であり、酸素濃度調節用のデジタルブレンダーが省かれている。しかし、これらの機器の基本的な機構や性能は同じで、たとえVSであってもSIMV+PSV+PEEPが可能である。このように1台の機器で、救急車からICUへ、ICUから一般病棟へ、そしてそのまま在宅へ、人工呼吸器を切り替えることなく対応可能な点が、T Birdの最大の特徴である。
2.性能
1)利用できるモード
 Control/Assist    
 SIMV+PSV
 CPAP(PSV/PEEP)
 ---------------------------------
+VAPS(SIMV, Assist/Controlモード)
+PCV(SIMV, Assist/Controlモード)
+PEEP
 
2)基本データー
システム作動間隔時間...4 ms
最大吸気ガス流量
  強制換気............140LPM
  PSV.................180LPM
吸気ガススルーレート...?L/s
最大強制換気数......... 80 BPM
最大SIMV回数........... 80 BPM
 
3.制御回路、制御機構
1)制御機構の概説
 メインプロセッサーにはintel 386 EX(48MHz)が、I/Oプロセッサーには80C32が使用されている。これらにより、タービン、呼気弁、ディスプレーが集中的に制御されている。
2)機械的機構の特徴
 ニューマティック回路は単純そのもので、ブレンダー、タービン、呼気弁と3ヶの圧センサーより構成される。タービンの回転上昇にはタイムラグがほとんど存在しないが、厳密に言えば吸気バルブ方式に比べるとやや緩やかで、グラフィックディスプレーで見ると吸気圧は経時的に直線的に上昇するのが判る。あたかも立ち上がり時間(rise time)調整機能を持つ人工呼吸器を比較的急激な設定にしたのと同等になる。制御系の優秀さを反映し、オーバーシュートはほとんど認めず、きれいな圧カーブをえがく。吸気終末で圧上昇を軽微に認める傾向があるが、一般的に圧制御を完全におこなえている機械の方が少ない。
3)ガス流量計測
a)吸気側
 吸気ガス流量はタービンの回転数とタービン内でのガス圧縮量により決定される。タービンでのガス圧縮量を決定するために差圧センサーが設けられている。タービンの回転は光学式のエンコーダーで検出されているので、タービンが送り出したガス量は正確に推定できる。
b)呼気側(図;T Birdの呼気弁の説明
 呼気弁ボディーと一体化したセンサーが設けられている。可変口径積膜(Variable orfice membrane)を利用した差圧式のセンサーで、センサーのコネクター部分には、個々のセンサー毎に工場で計測された校正情報がオプティカルコードで記載されている。センサーの特性は数百万サイクル以上使用しても変化しない。外見上は判らないがAVSとVSO2ではセンサーの種類が違い、AVS用はより精度の良いものが使用されている。
 呼気弁ボディーはダイアフラムを入れ、呼気弁を押し込んで右に少し回すだけで装着できる。ダイアフラムを逆向きに入れるとリークしてしまい気道内圧がまったく上がらないので注意する。
4)吸気バルブ
 吸気バルブに相当するのがタービンで、タービンの回転によりあらゆる換気モードが作り出される。
5)呼気バルブ
 バルブメンブレンを電磁ドライバーによって直接駆動する方式である。
4.ニューマティック回路図;T Birdのニューマティック回路
 5種類の流量に調整された電磁弁のON/OFFの組合せにより(デジタルブレンダー)、希望の酸素濃度になるように酸素の添加量が調整されている。外気と酸素は、タービンに入る前にアキュムレーター/ディフューザーにより混合される。このガスはタービンの回転により、吸気ガスやバイアス流となる。タービンは、呼気相でも10LPMの定常流を発生させているが、吸気相ではVCV、PCV、PSVなどの換気モードに応じて回転制御されている。VCVでは標準は漸減波であり、PCV、PSVは気道圧により必要とする流量が変化するので、タービンの回転制御はかなり絶妙である。タービン駆動用のモーターは慣性質量の少ない高出力、高回転モーターが使われているが、そのかわりDC48Vという比較的高い電圧を要求する。呼気弁は電磁駆動により呼気弁膜が直接駆動される。異常高圧をリリーフするために過剰圧開放弁が設けられている。リリーフ圧はフロントパネル面よりドライバーで20〜130pH2Oの範囲で設定可能である。
5.制御ソフト
1)トリガー方式
 フロートリガーが採用されている。標準では10LPMのベースフローがセットされているが、10〜20LPMで設定可能である。
2)ASSIST/CONTROL
 通常のsCMVと同じである。標準では漸減波であるが、AVS以上の機種では、矩形波も選択できる。AVS IIIでは強制換気にVAPS、PCVを選択できる。
3)SIMV
 トリガーウィンドーは可変時間方式である。AVS IIIでは強制換気にVAPS、PCVを選択できる。
4)PSV
 PSVでの吸気終了認識条件はピーク流量の25%である。最大吸気時間は3秒に制限されている。
5)PCV
 PCレベルを設定すると強制換気が圧換気でおこなわれる。ASSIST/CONTROLモードではPCVになり、SIMVモードではSIMV(PCV)になる。いづれの場合でも、換気量の表示(設定値)がインアクティブになり、量換気でないことを示す。PCレベルをOFFにすると量換気に戻る。VAPSを付加した場合は、換気量の表示もPCレベルの表示もアクティブになる。
6)VAPS(Volume Assisted Pressure Support)
 AVSのみ利用可能である。VAPSは、Volume ventilationとPSVを重ね合わせた新しい換気モードである。Bear-1000では制御系が良くないのでこの効果を実感できないが、AVS では、みごとにこのモードのもつ概念を具現化できている。詳細はII.人工呼吸モードの概念と基本設計 13.VAPSの章を参照。
7)無呼吸バックアップ
 無呼吸時間(Apnea interval)が設定値(10〜60秒に設定可能)を経過すると無呼吸アラームが鳴り、バックアップ換気回数(12回/分もしくは設定換気回数のいづれか大きい方)でAssist/Control方式の換気をする。その後連続して二回自発呼吸が検出し、しかも、呼気換気量が設定一回換気量の50%以上であれば、自動的にアラームが止まり、元の換気条件に戻る。アラーム消音/リセットボタンを押しても元の換気条件に復帰する。
8)SIGH
 吸気フローは同じままで、吸気時間が150%になり、150%の換気量で100呼吸に1回、または、7分ごとに1回(いずれか早いほうが優先)SIGH が入る。また最高Sigh圧アラーム(Sigh pressure limit)は最高圧(Pressure limit)の1.5倍になる。
9)バッテリー駆動
 標準の内蔵バッテリ−で約1時間、オプションの専用バッテリー(DC 48v)で約5時間駆動可能である。
10)データー出力
 RS 232でデーターを出力できる。
11)PEEP補正(PEEP compensator)
 呼気ガス流量にかかわらず、呼気抵抗が最小になるように、また、PEEP/CPAP圧が正確に維持されるように、気道内圧と基準PEEP/CPAP圧との誤差に基づき、サーボ制御により呼気弁の開度を調整する。
6.操作体系図;T Birdの操作パネル
 希望の項目を押して選択すると他の数値表示はうす暗くなり、設定待期状態であることを示す。設定ノブを回して希望の数値を入力する。もう一度項目ボタンを押して数値を確定する。設定ノブにロック機構をかけることもできる。PCVレベルを設定すると強制換気がPCVでおこなわれ、一回換気量の設定がインアクティブになり数値表示が消える。VAPSをONにすると一回換気量とPCVレベルの設定値がアクティブになる。
7.モニター、アラーム機能
 以下の項目がある。
(1)高圧(5〜120cmHO)
(2)低ピーク圧(off, 2〜60cmHO)
(3)低分時換気量(0.1〜99.9 LPM)     
(4)過呼吸(off, 3〜150回/分)       
(5)無呼吸(10〜60秒)          
(6)酸素ガス圧異常            
(7)機器作動異常、電源異常、供給ガス圧異常
(8)                   
8.ディスプレー機能
 VS,VSO2では、呼気分時換気量、一回換気量、実呼吸数、I:E比、ピーク気道圧、平均気道圧、PEEP圧の項目を、スクロールしながら1項目づつ数値表示できる。AVSでは静的コンプライアンス、吸気時間も表示できる。AVSでは、ディスプレーが大きいので同時に3項目を表示できる。
 AVSにはオプションのHAWKEYEを装備でき、その際には、気道内圧、換気量、流量の内波形をグラフィック表示できる。また、圧/ボリューム、フロー/ボリューム曲線、各種トレンド、全項目の設定値の数値表示、全項目の実測値の数値表示も表示できる。
9.患者回路構成、加湿器(図;T Birdの患者回路)
 呼気弁とフローセンサーは一体に成型されたハイテクの結晶で、組立分解が容易なだけでなく、呼気弁の応答性やセンサーの精度も優れている。あらゆる視点で評価しても最優秀である。加温加湿器は、通常、F&P社の製品が添付される。
10.メンテナンス
1)バクテリアフィルター
 フィルターはオートクレイブのみ可能。呼気の流量測定ユニットのセンサーは物理的に強くないが、熱や化学薬品には耐えるので、薬液やオートクレイブによる滅菌が可能である。
2)呼気弁周辺
 呼気弁膜は破損していれば交換する。呼気流量測定ユニットは、数100万サイクルの使用に耐えうる。
11.定期点検
1)500 時間ごと
 エアー入力フィルターを洗浄、滅菌する。
2)5,000時間ごと
 定期点検を受ける。
3)20,000時間ごと
 オーバーホールを受ける。
12.欠点
(1)酸素濃度調整用のデジタルブレンダーの作動音がカチカチとけっこう耳障りである。
(2)酸素入力圧の許容上限が比較的低いので、酸素配管の圧が高い一部の施設では、レギュレターで減圧する必要がある。
(3)AVSが高すぎるのか、VSO2が安すぎるのか、両者の価格差が大きいのは納得しがたい。
(4)患者回路にリークがないのに、グラフィックディスプレーのボリューム曲線の基線が元に戻らなくなることがしばしば認められる。フローセンサーを校正すると解決する。しかし、トリガー感度には影響がないようなので、トリガー機構には強力なドリフト対策が為されていると推定される。