Pressure Augumentation,VAPS(Volume Assured Pressure Support)
Pressure AugumentationはBear-5のFlow supplementation機能の発展型である。Flow Supplenmentationでは、量換気(Volume Assisted Breath,CMV,VCV)時に患者の吸気要求が設定流量を超える場合に、気道内圧がbaseline(=PEEPレベル)より低下しないように吸気ガス流量を自動的に増量する。Pressure Augumentation,VAPSでは、さらに積極的に 設定圧(PCV圧のつまみで設定する)以下にならないように吸気ガス流量を自動調整する。この機能はあらゆるモードの量換気に付加できる。視点を変えれば、この機能は量換気とPSVを同時に開始する形態で、圧換気と量換気を融合したモードである。なお、Pressure AugumentationはBear社の呼称で、VAPSはBird社の呼称である。両者はオリジナルを共にし、ほとんど同じであるが、吸気終了条件にわずかな違いがある。
2.構成要素
1)併用するモード
量換気を行うすべての換気モードで利用できる。AMVやSIMV、A/C(Volume)モードに併用できる。
2)トリガー方式
従来の圧トリガーに加えて、流量トリガーも選択できる。
3)Pressure Augumentation,VAPSレベル
Pressure Augumentation,VAPSにおける最適なPressure Augumentation,VAPSレベルは不明であるが、PSVレベルと比較すると、高いPressure Augumentation,VAPSレベルも臨床適応できる。PSVでは吸気の終了はflow cycleであるので、高いPSVレベルでは患者の意志を反映しにくく、強制的な性格を帯びてしまう弊害が出る。一方、Pressure Augumentation,VAPSでは(通常状態では)volume cycleで終了するので、このような弊害を回避できる。実際に、初期のバージョンでは、PSVレベルの設定とPCVレベルの設定は同一のつまみで、これはPressure Augumentation,VAPSレベルの設定も兼ねていた。最近のバージョンではPSVレベルとPCVレベルの設定が独立していて、PCVレベルの設定がPressure Augumentation,VAPSレベルの設定値になる。
4)量換気の条件設定
設定一回換気量、吸気ガス流量、波形、換気回数(SIMV回数)といった条件も、従来の設定方法がPressure Augumentation,VAPSに最適か否かについては不明である。
5)吸気終了認識条件
現状では、Pressure AugumentationではPSVでの吸気終了認識条件を,VAPSでは強制換気の吸気流量を用いている。どちらが最適であるかは不明である。
6)バックアップモード
Bear-1000では、AMV(EMMV)を利用できる。Bird 8400STiやT Birdでは無呼吸バックアップを利用できる。
3.制御方式
1)制御機構
現在のところPressure Augumentation,VAPSの制御機構はマイクロプロセッサー方式だけである。
2)制御原理
Pressure Augumentation,VAPSが開始すると気道圧は一気にPressure Augumentation,VAPSレベル(=PCVレベルで設定する)まで高められる。PCVレベルの設定値が高いか、患者の吸気努力が強ければ、初期の吸気ガス流量パターンはPCV,PSVと同じものになる。これは一般的には、設定流量(set CMV flow rate)より多い。(i)もし、最初から設定流量を越えなければ設定流量のまま最後まで経過し、設定換気量が達成された時点で吸気は終了する。この場合はすべて量換気(CMV,VCV)で行われる。もし、ピーク流量が設定流量より多い場合には、以下の2パターンの変化がある。時間の経過と伴に、やがて吸気流量は設定流量と同じレベルまで低下するが、(ii)この時点で設定換気量(set Tidal volume)が達成されていなければ、以降は設定流量で換気量が達成されるまで吸気が与えられる(=volume cycle)。つまり前半はPCV(PSV)で後半は量換気になる。(iii)もしこの時点で設定換気量が達成されていれば、VAPSではここで吸気が終了する。Pressure AugumentationではPCV(PSV)はそのまま継続し、PSVの吸気終了認識条件(30% of peak flow rate)と同様の条件を満たした時点で換気が終了する(=flow cycle)。この場合はすべてPSV様の換気になる。
4.利点と欠点
1)従量式換気と従圧式換気の融合
SIMV+PSVでは、2種類の異なる換気法が混在した形で、しかも患者にとっては無秩序に提供される為に、患者が戸惑いと違和感を受ける欠点があった。Pressure Augumentation,VAPSをSIMVやAMVに併用した場合、2種類の換気パターンを類似させることができ、患者の同調性を改善できる。
2)PSVにおける換気量バックアップ機構
PSVは多くの利点が指摘されているが、換気量が保障されない為に、何らかのバックアップ機構が必須である。Pressure Augumentation,VAPSはPSVの換気量バックアップ機構としても応用できる。A/CモードでPressure Augumentation,VAPSを使用し、Pressure Augumentation,VAPSレベルを高めに設定し、強制一回換気量をどうしても確保したい最低限の量に設定すれば、最低換気数を含めたバックアップ機構として作動する。SIMVやEMMVモードに併用すれば、オペレーターが意図する多様な方法で換気量バックアップを可能性にする。
3)PSVの吸気終了認識条件の曖昧さの解決
一般的に、12cmH2O以下のPSVレベルで充分な換気量が得られる場合には、PSVは自発呼吸とマッチングが良好である。しかしこれ以上のレベルを必要とする程度に、患者の自発呼吸が弱い場合には、吸気が不必要に早期に終了してしまい、sCMVに比して必ずしも利点を見いだせない。これはPSVの吸気終了認識条件が適切でないのが原因である。この場合、PCVを用いて吸気時間を強制的に設定する解決法もあるが、時にはファイティングを招く。一方、Pressure Augumentation,VAPSを用いるとPSVをvolume cycleで終了させることもできるので、PSVの利点を保持したたまま、さらにPCVと同等の効果をvolume ventilationで得られる利点がある。
4)double triggeringの予防
sCMVでは設定吸気時間以上に患者の吸気が続くと、もう一度トリガーして二倍の換気量が強制されるケースがある(double cycling)。Pressure Augumentation,VAPSではこの場合flow cycleになるのでdouble triggeringされない。
5)VS/PRVCとの比較
VS/PRVCもPSVのバックアップ機構の一形態と見なしうるが、Pressure Augumentation,VAPSはVS/PRVCと比べると「換気の自由度と換気量の保障」を解決する手法としては理論の明快さ、アルゴリズムの単純さにおいてスマートである。しかし、「ピーク気道圧を抑えて平均気道圧を高く確保できる」能力では劣る。
6)Termination criteria(吸気終了条件)
吸気終了条件のちがいのせいで、VAPS はPressure Augumentationに比べて吸気が早めに終了する場合がある。条件によっては、自発呼吸が強い程、吸気時間が短くなるというパラドックスを生じる。特にVAPSの方がPressure Augumentationよりこの弊害がでやすい(一般的にPSVのtermination flow は10LPM前後になることが多く、これは量換気で設定する 吸気ガス流量に比べると圧倒的に少ない量である)。