Newport Medical Instruments, Inc.
e360
NMI社は2012年5月にCovidien社に買収された。その結果、製品はe360とHT70Plusに整理された。e360は2007年発売のモデルである。Servo-iをかなり意識して設計している。わかりやすい操作と見やすいモニターがスマートに構築されたうえで必要な機能はきっちり搭載されている。対象は体重1Kg以上の乳幼児〜成人と広範囲である。VGAポートが装備されているので、パソコン用のモニターを接続すると本体ディスプレーの表示内容をそのまま外部ディスプレーで表示できる。
2.性能
1)利用できるモード
A/CMV
SIMV
SPONT+ApneaA/CMV
---------------------------------
+VC, PC, VTPC, VTPS
+NIV
+PEEP
2)基本データー
最大吸気ガス流量
強制換気.................180LPM
PSV..........................250LPM
最大強制換気数...........150 BPM
最大SIMV回数...........150 BPM
3.制御回路、制御機構の解説
1)制御機構の概説
e500とe360との大きな相違は、人工呼吸器を稼働中にセンサーを自動校正できるかできないかである。e360では自動校正機能を省いたのでシンプルな設計が可能になった。近位圧モニターチューブはなくてもそれ程問題にならないとのことでe360では廃止された。呼気測のフローセンサーについては、ホットワイヤの方が低流量での感受性が良く、測定精度が向上するが、物理的な強度に不安があり、今まで採用されていなかった。しかしDrager社のEvitaでの長期の実績より採用に踏み切った聞く。呼気測のフローセンサーの変更により、設置場所が呼気弁の後に変更された。
2)機械的機構の特徴
e360ではDrager社のBIPAPシステムのように、気道内圧が目標値より超過した際には呼気弁より圧を逃がすOpen Exhalation Valveという機能をON/OFFできるようになった。この機能によりBiphasic Pressure Release Ventilation(BPRV)が可能になった。BPRVは他社で言うところのBIPAP, Biphasic, Bi-Levelに該当する機能である。
3)ガス流量計測
吸気側・呼気測ともに熱線式である。呼気測のフローセンサーは寿命があるのでユーザーが交換できるようになっている。呼気測のフローセンサーはDrager社のEvitaのそれに似ているが、それには次のような理由がある。Evitaに限らず、どの人工呼吸器にも、純正品以外に、特定の製品向けの消耗部品を作っているメーカーが存在する(アフターマーケット)。e3690に採用されているのはその中の1社の製品である。ちなみにこうした製品の代表は患者回路である。したがって、物理的にはEvita用のセンサーは接続できるが、保証されない。
4)吸気バルブ
e500と同じである。
5)呼気バルブ
e500と同じ形式である。
1)吸気ガス
酸素、エアー配管より入力されたガスはそれぞれレギュレーターで減圧された後、独立したフローコントロールバルブ(サーボバルブ、Metering Valve)で流量制御とブレンド比の制御が行われる。E-200ではこのバルブは1つであったが、酸素とエアに独立して装備することでより高流量のピークに対応することが可能になった。これらのガスは超音波の伝播速度の差異で流量を計測する超音波トランジット式のフロートランスデューサーで流量を計測している。これは流体の中を伝わる音波の伝搬時間が流体の速度によって変化する性質を利用したもので、2つの超音波発信源間の伝搬時間の差が流体の流量になる。
2)呼気ガス
呼気ガスは呼気弁を通過した後、熱交換機で加温された後に熱線式のフローセンサーで流量計測される。その後に大気に解放される。e500では呼気弁の前にフローセンサーを装着していたが、e360では呼気弁のあとにフローセンサーが付いている。呼気弁はEXHALATION VSO SOLENOID VALVEで圧力が調整された呼気弁駆動ガスで制御されている。この部位の圧もモニターされている。
3)安全策
片ガスになったときのためにクロスオーバーソレノイドが用意されていて、どちらかのガスが遮断されても機器の制御ガスが確保できるようになっている。機器故障時には安全弁が解放するようになっていて、患者回路を大気に解放してくれる。e500では気道内圧は呼気測と近位圧の2カ所でモニターされていたが、e360では吸気側と呼気測の2カ所に変更されている。
5.制御ソフト
各機能の説明
1)トリガー方式
フロートリガー(0.1-2.0LPM)と圧トリガー(0.0-5.0cmH2O)を選択できる。
2)A/CMV
これは通常A/Cと表記されるモードで強制換気にはVC,PC,VTPCが用意されている。3)SIMV
可変時間方式である。通常の自発呼吸はPSVが付加されるが、VTPCを選択すると自発呼吸はVTPSになる。
4)サイクルOFF(Exp.Threshold)
e500ではPSサイクルオフと呼ばれていたが、e360ではサイクルOFF(Exp.Threshold)と呼ばれ、PSとVTPSの両方に適応される。これはPSとVTPSにおいて、吸気を終了させる条件を設定できる。5-55%,Autoを選択できる。AutoはFlexCycleと呼ばれる。Autoではサイクルオフの%がPSVでの時定数(0.8秒・0.8-1.2秒・1.2秒以上)に応じてレンジが3段階(10-35%・20-45%・30-55%)に切り替わる。デフォルトではレンジ1でサイクルオフはピーク流量の25%になっている。もし吸気終了時に同調性が悪いと終末圧に上昇が認められるが、吸気終末時80msec内に圧が0.8cmH2O上昇すると5%サイクルオフ基準があがり、吸気をより早期に終了する。またこの期間の圧上昇が0.2cmH2O以下なら5%サイクルオフ基準が下がり、吸気の終了を遅らせる。吸気時間が300msec(小児・新生児カテゴリーでは200msec)以内だと5%サイクルオフが減少する。さらに吸気終了時に1.0cmH2O圧上昇があれば5%サイクルオフが増加する。このように、時定数によって決まるレンジの中でサイクルオフの%が5%づつ増減して最適なサイクルオフ値を自動的に選択している。
5)VTPC/VTPS
Volume Target Pressure Control/ Volume Target Pressure Supportの略で、Servo300, Servo iでPRVC/VSと表記されるモードと同じ意味である。SIMVモードでは強制換気がVTPCで自発呼吸はVTPSで与えられる。SPONTモードではVTPSで換気される。このモード選択時には、初回換気は圧リミットの40%もしくはPEEP/CPAP圧+5cmH2Oのいずれか高い方の圧になる。換気圧は、圧リミットの40%もしくはPEEP/CPAP圧+5cmH2Oのいずれか高い方から圧リミットの範囲で自動調整される。つまり1回換気量が設定値になるように肺のコンプライアンスより計算した値で換気される。換気毎の変化量は+/-6cmH2Oに制限される。圧リミットに達しても換気量を達成できないときにはVol Target Not Metのアラームが警報される。
6)Flow Wave
「量制御」強制換気のフロー波形は「矩形波」と「漸減波」を選択できる。漸減波はピーク値から-50%値まで直線的に吸気ガス流量が減少していく波形である。
7)Open Exhalation Valve
一般的に人工呼吸器の呼気弁は気道内圧より遙かに高い圧(100-150cmH2Oくらい)で閉じられていて、機械が吸気相と認識している間は患者は呼気を呼出することは許されない。一方、Drager社のEvitaではBIPAPの発展型としてBIPAPを応用した圧換気モードが開発されて(呼気弁は制御目標圧で閉じられているだけなので)、患者はいかなる時相でも自由に吸気・呼気が可能になった。Open Exhalation Valveは呼気弁の閉じ方を従来の圧で行うか、BIPAPのような方式で行うかを選択する機能である。Open Exhalation ValveをONにするとBIPAPのようになる。このモードをNMIはBiphasic Pressure Release Ventilation(BPRV)と呼んでいる。
8)スロープ/ライズ
1-19の値で選択できる。1-19の値そのものには絶対的な意味はなく、相対的な程度を表す指標である。詳細はE-200の学習型予測制御の章を参照。おそらくフィードバックサーボ制御の時定数やゲインを自動調節する機構であると思われる。GDM(グラフィックモニター)が装着されていれば自動/手動を選択できる。装着されていないときは自動で調節される。なお、EvitaやServoで行っているライズタイムの調節とは概念が異なる。
9)NIV(マスク換気)
すべてのモードで利用可能ではあるが、(Respironics社のBiPAPのような)吸気相でのリーク補正機能はないので圧換気モードが望ましい。呼気相ではベースライン圧を維持するようにベースフローの流量を自動調整している。これをリーク補正と称している。ベースフローは最大25LPMまで増量される。NIVではベースフローが変動するのでフロートリガーが安定しない。したがってメーカーはNIVだけは圧トリガーを推奨している。
10)リーク補正
ベースライン圧を維持するためにベースフローを自動調節する機能である。ONにすると成人では3-15LPM、小児では3-8LPMの範囲で自動調節される。OFFを選択するとベースフローは3LPM固定になる。
1)基本
基本的な操作は目的の項目をタッチして項目を選択し、回転ノブを回して数値を入力し、最後は「確定」キーを押して確定する。VCには吸気時間と吸気ガス流量の2種類の設定方式から選択できる。もちろんPCでは吸気時間設定になる。
2)モードの選択
モードには「圧制御」と「量制御」のキーがある。強制換気にPCを選択するには「圧制御」を押していくと順にA/CMV,SIMV,SPONTにインジケーターが変わっていくので、希望のモードを選ぶ。同様に強制換気にVCを選択するには「量換気」を押してA/CMV,SIMV,SPONTの中から選択する。VTPC/VTPSを選択するには、「圧制御」「量制御」のいずれかからモードを選択した後に、液晶パネルの拡張機能の中からVTPC/VTPSをONにする。SPONTに「圧制御」と「量制御」があるのは無呼吸バックアップ換気時にPCかVCかを選択できるようになっている。VTPCがONになっているとSPONTはPTPSになる。ちなみにServo iやServo300などでは、VTPCはPRVC、VTPSはVSと呼ばれているモードである。
最初にスタンバイ画面が表示される。回路チェック、センサー、テクニカル、患者セットアップ(Patient Setup)、簡易設定(Quick Setup)のメニューが表示される。ここより患者セットアップ(Patient Setup)、簡易設定(Quick Setup)に入ると換気設定を入力でき換気を開始できる。前回電源OFF時の設定はメモリーに保存されているので、初期値には前回の設定が表示される。ただし、NIVだけは通常換気になる。ちなみにテクニカルでは年月日、地域、通信プロトコール、画面輝度などを設定する。簡易セットアップ(Quick Setup)では、体重入力より簡易に換気設定できる。モードと体重を入力する。表に示した設定で換気がスタートする。(
表;e360 簡易セットアップ)(
表;e360 簡易セットアップでのアラーム設定)
4)センサーの校正
センサー校正は初期画面でも、換気作動中でも可能であるが、換気作動中は校正中に下記の設定になるので配慮が必要である。酸素濃度測定機能の校正中は酸素濃度が100%で1-3分間供給される。呼気のフローセンサーの校正には、吸気時間が1秒間必要なので、換気作動中は、吸気時間設定が1秒未満の場合には、自動的に1秒に延長される。
5)アドバンス設定
アドバンス設定では、Slope/Rise,Exp.Threshold,Insp.Pause,Flow Wave,Volume Target,Open Exhalation Valveを設定できる。アドバンス画面を呼び出すには液晶パネル右下のキーを順にタッチしていく。BASIC,ADVANCED,WEANING,MECHANICのメニューを順に表示できるので、ここより入って設定する。
5)バッテリー駆動
内蔵バッテリーにより、フル充電で最大6時間作動できる。
6)ネブライザー
ネブライザーは利用できない。
7)バックアップ換気
低分時換気量のアラームが作動するとバックアップ換気がスタートする。分時換気量が+10%になると自動解除される。A/CMVやSIMVでは設定換気回数が1.5倍になる(15-100BPMの範囲内)。圧制御のSPONTでは換気圧15cmH2O+PEEP、換気回数12BPM(小児20BPM)吸気時間1.0秒(小児0.6秒)で換気される。
7.モニター、アラーム機能
気道内圧や呼気分時換気量などの一般的な項目に加えて、トリガーまでの仕事量など多様な項目をモニターできる。
2)アラーム
低分時換気量、高分時換気量、低圧、高圧、頻呼吸(OFF,10-150BPM)、リーク率(20-95%)、無呼吸(5-60秒)、その他、機器異常など必要な項目はすべて装備されている。
(3)機器作動異常
8.ディスプレー機能
圧・フローの2波形をグラフィック表示できる。PVカーブ、FVカーブを表示できる。実測項目の数値表示やトレンド表示などできる。VGA出力があるのでパソコン用モニターに本体ディスプレーの内容がそのまま表示ができる。
F&P 型が標準装備される。e500で使用していた近位圧モニターチューブは不要である。
10.日常のメンテナンス
1)呼吸回路、呼気弁(
図;e360の呼気弁ブロック:呼気ユニットのカバーを開けた状態。呼気ユニット全体は常に加温されていて結露などによるトラブルがないようになっている。)
患者回路は定期的に交換する。呼気フィルターを装着した場合は、呼気弁やフローセンサーの交換・滅菌は必要ない。フィルターは定期的・患者毎に交換する。呼気フィルターを使用しない場合は定期的・患者毎に分解・洗浄・滅菌をする。(
図;e360の呼気弁の分解方法:呼気弁は呼気ユニットの前面カバーを開くと呼気弁にアクセスできる。呼気弁はラッチを緩めると呼気弁を本体から引き抜ける。呼気弁からフローセンサーケーブルをとりはずす。固定リングを左回しに回して取り外す。キャップをはずすとダイアフラムが出てくる。)呼気弁を組み立てる際には呼気弁ボディのノッチとキャップのガイドピンを合わせるようにして組み立てる。(
図;e360の呼気弁のノッチとガイドピン)
2)吸気マニフォールド
通常は滅菌する必要がないが、もし、汚染した場合には分解洗浄・滅菌ができる。詳細はマニュアルを参照。
3)消毒方法
呼気弁はオートクレイブもしくはガス滅菌。呼気フローセンサーはガス滅菌のみ。
11.定期点検
6ヵ月ごとに内臓バッテリーを充電。3,000時間もしくは1年毎に指定部品の交換。2年もしくは必要時に酸素センサーの交換。5年もしくは25,000時間でオーバーホール。
12.今後の課題
1)グラフィック波形表示が2波形なのは残念。3波形は必須である。
2)VTPC/VTPSはモードパネルから直接設定できる方が便利である。
3)液晶画面が小さい。VGA出力もあるが、最初から大型液晶を装備していればすむこと。液晶パネルが高価だった時代ならともかく、節約した理由がわからない。
4)液晶ディスプレーの解像度が貧弱。今さらの印象を受ける。
5)ディスプレー内容をデジタルファイルでコピーできないのは不便。あれば、後日に検討や学習会がしやすい。
6)VTPCを選択した際に自発呼吸にVTPSしか選べない。Advanced設定でPSも選択できるようにしてほしい。
7)メニュー表示に使われる日本語をもう少し吟味してもらいたい。日本語の「簡易セットアップ」と英語の「Quick Setup」の意味は違うと思う。オープンバルブの訳も意味不明。
8)圧換気モードは標準でオープンバルブONでよい。逆に言えば、OFFにする必然性は全くない。
9)フロートリガー機構にリーク補正機能がないので、最高感度の0.1LPMは実用性がないはず。同様に圧トリガーも0.0cmH2Oを選択できるが、実用性のない範囲まで選択できるのは、「数値上の最高感度は高い」と素人だましになるかもしれないが無責任である。メーカーには推奨できない範囲はあえて設定できないようにする良心が必要である。
10)NIVでは圧トリガーを推奨しているのはどうかと思う。フロートリガー機構を改良してすべてのモードでフロートリガーが第一選択になるようにすべき。トリガー機構のできが良ければ、すべてのモードにおいて圧トリガーは必要はないはず。
11)e360の動作が説明書通りなら、理想的な人工呼吸器であるが、実際に使用してみると、圧波形は理想的とは言い難い事がある。これは価格差なりのEvitaなどの最高級機との格差であろう。