Metran
ハミングX(図;ハミングXの外観写真
1.特徴
 1984年創業のメトラン社はピストン駆動方式のHFO機を専門にする小児用人工呼吸器メーカーである。1988年にMERAハミングIIを販売した。これは製造がメトラン社、販売は泉工医科工業がであった。1993年にはハミングIIからハミングVにモデルチェンジし、大同ほくさんが発売元となったが、その後に販売権はいわき株式会社に移行した。ハミングVは株式会社スカイネット製のネオビートの強力なライバル商品でもあったが、2012年にスカイネット社は人工呼吸器より撤退して補修修理も終了してしまった。ハミングVはピストン方式の強力なHFOと定常流リリーフ方式のIMVを組み合わせた数少ない国産の新生児用の人工呼吸器であった。1998年にはハミングVの機構を改良したカリオペαや、2001年には小児〜成人用のHFO機であるR100も開発した。2006年にはハミングXにモデルチェンジして、定常流+呼気弁による圧リリーフ方式から比例制御弁によるディマンド機能とベースフローによる機構に改良された。機構面では、ピストンもユニット化し、口元のフローセンサーを改良した。ハミングXの対象患者は極超低出生体重児から体重約30kgである。ハミングXは2010年より日本光電が販売している。
2.性能
1)利用できるモード
 
 A/C(PCV,VCV)
 SIMV(PCV,VCV)
 CPAP
 N-CPAP
 HFO
 2)性能
トリガー感度..........0.2-10.0LPM,0.1-10cmH2O
ベースフロー..........1-30LPM
最大換気回数..........150BPM
 
HFO回数..................5-20Hz
HFO Stroke Volume.0.0-160ml
最大HFO振幅.........80 ml
HFOベースフロー..10-40LPM
3.制御回路、制御機構の解説 (図;ユニット化されたピストン
 通常換気では、吸気側の比例制御弁によるディマンドフローで換気圧を発生させる。HFOでは、吸気側は定常流を流し、呼気測に設けられたピストン式の駆動機構がHFOを発生させる。
4.ニューマティック回路ハミングVのニューマティック回路
 
 酸素、空気の各々のガスより入力されたガスは、それぞれPS1,PS2で圧を計測し、フィルターF1,F2を経由してレギュレータRV1,RV2で減圧して、ミキサーで酸素濃度を調節する。混合ガスはTankに貯蔵されて組成の安定化をはかる。SOL8は100%O2用の電磁弁である。さらにRV3で減圧し、吸気側比例制御弁FP1で吸気ガスを調節する。FS1で吸気ガス流量を計測し、逆流防止弁CV3、を経て患者の吸気となる。安全弁SV機器異常時に患者回路の高圧を解放する弁である。O2S1で酸素濃度を計測する。HFO作動時にインピーダンスバルブを作動させてHFO振幅が加温加湿器のチャンバーで減圧されないようにインピーダンスバルブが作動する。インピーダンスバルブの作動のON/OFFを切り替えるのがSOL9である。ニードルバルブNV3は口元圧センサーへのパージ流を調節する。SOL3は口元圧センサーPT3のゼロ点校正弁である。バッギングガスとはジャクソンリース回路など、人工呼吸器以外に外部ガスを供給するガス源である。ガス流量はFP3で調節する。
 呼気側でも患者回路内圧は圧センサーPT4でモニターする。SOL4はPT4のゼロ点校正弁である。NV5はPT4へのパージ流を調節するニードル弁である。呼気ガスは呼気弁でPEEP調節ならびに、HFOでのMAPを調節する。呼気ガスはウォータトラップ、バクテリアフィルタを経由して呼気フローセンサーFS2を経由して大気に放出する。H1は呼気側バクテリアフィルタの結露防止のヒーターである。HFOピストンの作動に伴い結露が発生するのでピストン排出ウォーターとラップが設けてある
5.制御ソフト
1)トリガー方式
 フロートリガーと圧トリガー方式を選択できる。圧トリガーを選択する際にはベースフローの存在がトリガー感度を低下させる事に留意が必要である。
2)SIMV
 SIMVは可変時間方式である。SIMVサイクル時間(図では1呼吸周期と記載されていて60sec/SIMV回数で決定される)の最初のトリガーに対して@の補助換気が与えられる.それ以降はAのPSVが与えられる。もしSIMVサイクル時間内に何もトリガーがなければ、次のSIMVサイクル時間の開始とともに強制換気が入り、その後にトリガーがあれば、先行SIMVサイクル時間で強制換気が入らなかった補充として補助換気@が入る。(図;SIMVの説明
6.操作体系図;ハミングXの操作パネル
 GUIによる操作体系が採用されているので、予備知識がなくても設定できる。画面表示を見ながら、クイックツマミで直接入力するか、タッチパネルで項目を選択してメインツマミで数値入力を行う。インターフェースとしてはServo-iの操作体系に類似している。一般的には、モード、トリガー感度、吸気圧、流量、吸気時間、呼吸回数などを設定する。HFOモードでは、SIGH圧、振動数、ストロークボリューム、平均気道内圧を設定する。アラーム画面でアラーム内容を設定する。
 
7.モニター、アラーム機能
 ハミングXは口元のフローセンサーがあるので、一回換気量や分時換気量などがモニター可能になった。アラームも高気道内圧、低気道内圧、高分時換気量、低分時換気量PEEP/CPAP圧異常、電源異常、モーター異常、酸素圧低下、空気圧低下のアラームがある。高MAP圧、低MAP圧など、多彩な項目がモニターできる。
8.ディスプレー機能 (図;HFOモードでの表示画面IMVモードでの表示画面
 フロー、圧、換気量などをグラフィックディスプレーできる。平均気道内圧もしくはアンプリチュード、平均気道内圧、PEEP/CPAP圧、振動数、などを数値表示できる。
9.患者回路構成(図;ハミングXの患者回路
 図に示したように結構複雑である。近位気道内圧モニターラインとインピーダンスバルブの調節ライン、ピストン用のウォタートラップなどが他の人工呼吸器にないラインである。
10.日常のメンテナンス  (図;各パーツの滅菌方法
 ピストンやインピーダンスバルブは酵素系洗剤で充分に洗浄する。その後、洗剤が残らないように充分にすすぐ。しっかり乾燥させた後、滅菌をする。表に示した滅菌方法が可能である。
11.定期点検
 3000時間もしくは6ヶ月毎にピストンメインテナンスを行う。5000時間もしくは2年ごとにBFパネルを交換、本体の定期点検、オーバーホールを行う。
12.欠点
1)患者回路がとても複雑である。
2)ピストンの管理が煩わしい。
3)ピストンの作動に伴う空気中の水分の凝集があり、この管理も必要である。