CareFusion,VIASYS
AVEA
1.特徴図;AVEAの外観写真
 VIASYS社は2001年にThermo Electron社から分社してできた会社であり、Bird社とBear社の親会社である。2002年発売されたAVEAは、Bird人工呼吸器シリーズの後継機種であるが、同時にBearシリーズの後継機種でもある。AVEAはEvitaやServo iのライバルとして開発された高性能機である。当然、新生児〜成人に対応している。一方、視点を変えるとAVEAは吸気バルブ方式の上位機種であり、Velaはタービン方式の上位機種である。これらは互いに対をなす機器でもある。外観や操作はVelaと類似であり、カラー液晶を用いた3波形のグラフィックディスプレー機能にタッチパネルによる操作性、さらにNIPPVを含む最新の呼吸モードが標準でフル装備されている。AVEAにもStandard(620万円)とComprehensive(920万円)の2モデルがある。その差は@架台Aコンプレッサーの内蔵の有無、BHeliox供給の可否、である。もちろん購入後にStandardモデルにオプションを追加してComprehensiveへ発展させることもできる。最新バージョンではYピースに設置する熱線式の近位フローセンサーオプション(小児・新生児用)が設定された。また、食道内圧と口元圧センサー用のセンサーも用意された。2007年にCareFusion社はVIASYS社を買収したのでAVEAはこれ以降はCareFusion社のブランドになる。
2.性能
1)利用できるモード
 A/C    
 SIMV+PSV         
 CPAP(PSV)
 NIPPV
 APRV/Biphasic(新生児モード以外)
 ---------------------------------
 +VC
 +PC
 +PRVC
 +TCPL(新生児モードのみ)
 +Vsync
 +PEEP
 +Apnea Backup
 +VG
 
2)基本データー
最大吸気ガス流量
  強制換気.................150LPM
  PSV..........................180LPM以上
最大強制換気数...........120 BPM(小児・新生児150BPM)
最大SIMV回数...........120 BPM(小児・新生児150BPM)
 
3.制御回路、制御機構の解説
1)制御機構の概説
 イメージ的に表現すれば、VIP BirdとBird 8400、Bear 5、Bear 1000が発展合体した感じである。あらゆる呼吸モードや機構が内蔵されている。
2)機械的機構の特徴
 マイクロプロセッサーが吸気サーボバルブや呼気サーボバルブを制御する方式が採用されている。新生児にはYピースに熱線型フローセンサーを追加してTCPLモードと表現される定常流を呼気弁で圧リリーフする機構で換気する。
3)ガス流量計測
 吸気側のガス流量は差圧式で計測する。呼気側のガス流量は膜型の差圧式フロートランスデューサーで計測される。TCPLモードでは気管チューブとYピースとの間に熱線式フロートランスデューサーを設置して吸気・呼気ガス流量を計測する。
4)吸気バルブ
 Bird840などと同じサーボ制御された吸気バルブが用いられている。
5)呼気バルブ
 サーボ制御型の膜型バルブである。リニアモーターでダイレクト駆動される。
4.ニューマティック回路図;AVEAのニューマティック回路図
 Bird840と類似であるが、ニューマティック回路はより単純化されている。図には記載がないが、Heliox用の入力もオプションで用意されている。そのため酸素濃度などの調整が容易になり安全にHeliox(酸素20%ヘリウム80%)を用いることができる。
 酸素と圧縮空気はそれぞれ、フィルターを通過した後、レギュレーターで同じ圧に減圧される。酸素側のレギュレーター(図ではRelayと記載)は基準圧がエア圧になっているので酸素圧もエアと同じに調整される。次にブレンダーに入り、酸素濃度を調節される。ブレンダーはBear1000と同じでステッパーモーターで制御される。圧センサー(Blended Gas Pressure Transducer)で圧チェックしている。もし異常圧があれば、システム異常となり圧は大気に解放される。混合ガスは吸気バルブ(Flow Control Valve)で吸気ガスを調節されて、吸気ガスになる。途中、圧や温度、流量が測定される。機器異常時には吸気ガスを大気に解放するSafety Relief Valveが設けられている。
 呼気ガスはフィルターを通過した後、差圧式の流量測定が行われ、呼気弁によって大気に解放される。呼気弁はBird8400よりさらに応答性が改良された駆動系が使われている。電磁コイルによって呼気弁膜をダイレクト駆動する構造になっている。駆動電流はマイクロプロセッサーにより調整される。
5.制御ソフト
各機能の説明
1)トリガー方式
 フロートリガー方式である。0.1-20LPMの範囲で設定できる。
2)A/C
 量換気(VC)、圧換気(PC)、PRVC、TCPLの換気様式を選択できる。
3)SIMV
 自発呼吸相ではPSVを付加できる。強制換気相では量換気、圧換気、PRVC、TCPLの換気様式を選択できる。
4)APRV/Biphasic
 Drager社でいうところの広義のBIPAPである。2つのCPAP圧を交互に切り替える。これは患者の自発呼吸に同期する。切替の際のトリガーウィンドー時間は高圧相(Time High)、低圧相(Time Low)の時間の0-50%の範囲で設定できる。さらに高圧相、低圧相の両方に任意の圧のPSVを付加できる。PSVの付加を低圧相だけにもできる。低圧相の時間を短く設定するとAPRVになる。無呼吸バックアップも併用できる。設定時間以上に圧の切替や自発呼吸を検出しない場合に無呼吸アラームが鳴りバックアップ換気に移行する。圧の切替もしくは自発呼吸を検出すると元のAPRV/Biphasicモードに復帰する。
5)量換気(Volume Ventilation)
 量換気において設定吸気ガス流量を超える患者の吸気要求(ディマンド)があった場合、患者は設定吸気ガス流量を超えた分の吸気ガスを吸うことができないので、患者は息苦しさを感じ、むしろ量換気が患者の吸気努力を阻害する側面があった。かねてよりBear社の人工呼吸器はこの問題を解決するために吸気ガスをディマンドに応じて増量する機構が設けられていた。この概念はAVEAにも引き継がれていている。
 AVEAにおける量換気は、Bear1000のPressure Augumentationの発展型である。Pressure AugumentationはBird8400のVAPSと類似であるが、この概念は量換気のディマンド機能と後述のMachine Volumeの概念へと伝承されている。Pressure Augumentationは単純に表現すれば、量換気と仮想PSVが同時にスタートする換気である。量換気と仮想PSVは吸気流量パターン(フローパターン)が異なるが、吸気の瞬間のある時点での吸気ガス流量値の多い方の換気パターンが優位になる。Bear1000においては設定吸気流量を超える患者の吸気要求(ディマンド)に対応するためにFlow & Volume Augumentationと命名されたディマンド機能が設けられていた。これはPressure Augumentationにおいて仮想PSVのターゲット圧がPEEP圧で行われるディマンド機能であった。AVEAにおいては、吸気のある瞬間での実測気道内圧-2cmH2Oの圧をターゲットにした仮想PSVが同時に進行している形のPressure Augumentationでディマンドに対応している。つまり仮想PSV圧のターゲット圧は実測値に基づいて変化しているわけである。なお、仮想PSVの換気圧にはPEEP+2cmH2Oに下限が設けられている。設定一回換気量が送気された後の処理は次の2パターンがある。(1)吸気ガス流量(吸気フロー)が設定吸気流量より多い場合は引き続き仮想PSVが継続する。ピークフローの25%以下に吸気流量が低下すると仮想PSVは終了する。(2)吸気ガス流量が設定吸気流量と同じ場合、つまりディマンドが作動していない状態では、すでに一回換気量が送気されているのでそのまま吸気相は終了する。
6)PRVC
 PRVCは設定一回換気量になるようにPCV圧を自動調節する換気様式である。換気毎の圧変動は3pH2O以下に制限されている。PRVCが開始すると40mSの吸気ポーズを含んだテスト量換気(漸減波)が行われる。この時に動的肺コンプライアンスが計測されるので、次回の換気に必要な圧を決定することができる。2回目以降は圧換気で換気され、その際の実測換気量の値より次の換気圧が決定される。Volume Limitを設定することもできる。Flow Cycle設定時には、一回換気量が達成できている場合のみFlow Cycleによる吸気終了が有効になる。以下の状態の時にテスト換気による換気圧決定プロセスが再開始する。
(1)PRVCモードに切り替えた(2)設定一回換気量を変更した(3)Volume Limitが作動した(4)実測一回換気量が設定値の1.5倍になったとき(5)テスト換気が途中で中止した(6)スタンバイ終了時(7)次のアラームのどれかが発生した場合、高圧アラーム、低圧アラーム、PEEP下限アラーム、患者回路はずれアラーム、吸気時間リミットアラーム、I:Eリミットアラーム。
7)PSV
 PSV圧の最小値は成人用および小児用の設定時にはPEEP圧+2cmH2Oが、新生児用の設定時にはPEEP圧が下限になる。
8)無呼吸バックアップ
 無呼吸バックアップはすべてのモードで有効である。自発呼吸を検出すると元のモードに自動復帰する。A/CやSIMVモードでは無呼吸時間もしくは設定換気回数のどちらか多い方の換気回数で換気される。実際にはA/CやSIMVモードでは有効に作動するケースはほとんどない。CPAP/PSVやAPRV/BiPhasicモードではアドバンス設定で換気条件を設定しておく。
9)TCPL
 TCPLはTime Cycle Pressure Limitの略で、定常流を呼気弁で圧リリーフして吸気圧を発生させるモード(いつでも患者は自由に定常流を呼吸できるので新生児用人工呼吸器に多用されている換気機構である)に対するVIASYS社の呼称である。新生児用に設定したときのみ選択できる。定常流がたえず供給されているので患者はトリガーしなくても自由に吸気できるので、ディマンド方式に比べると呼吸仕事量が少ない。
10)Machine Volume(図;Machine Volumeの説明)
 圧換気でのみONにできる。TCPLモードでは作動不可である。Pressure AugumentationやVAPS類似のモードで、設定した換気量(OFF, 0.05-2.0 L,規定値OFF)を保障する。イメージとして、圧換気と量換気が同時に開始する。これらの吸気ガス流量の多い方が出力されるので、吸気初期には圧換気で、吸気ガス流量が減少してくると量換気のガス流量になる。換気量が達成された時点で吸気相は終了する。
11)Flow Cycle
 圧換気において吸気ガス流量のピーク値に対する%値(0-30%で設定可能)に吸気ガス流量が低下すると圧換気の吸気が終了する。つまりこれをONにするとPSVと類似の換気にできる。
12)Volume Limit
 PRVCとVsync、TCPL、PCVでのみ有効。一回換気量が設定値(0.05-2.5 L, 規定値2.5L)に達するとその吸気が終了する。
13)Vsync
 量換気でのみ有効。量換気でONにするとPRVCと同じ換気モードになる。PRVCとの相違点は、実は換気パターンの設定方法が違うだけである。PRVCは独立した換気モードであり、一回換気量、吸気時間から設定していく。一方Vsyncは、量換気に対する付加機能である。量換気では一回換気量と吸気ガス流量を設定し、これらの値より自動的に吸気時間が決定される。VsyncをONにするとこのように設定された量換気がPRVC換気に移行する。
14)Wave Form
 量換気にのみ有効。標準は、吸気ガス流量(吸気フロー)の設定値で始まり終末には50%の吸気ガス流量に低下する漸減波である。Comprehensiveモデルでは矩形波を選択できる。ただし、矩形波を選択できるメリットはないと思われる。
15)Sigh
 量換気でのみ有効。ONにすると100回の換気もしくは7分のどちらか短い方の間隔で、1.5倍の一回換気量が与えられる。
16)ネブライザー
 ネブライザーをONにすると吸気相の間だけ6LPMの酸素でネブライザーガスが出る。したがって、ネブライザー使用中は一回換気量が吸気時間1秒に対して100ml増加する。また、酸素濃度もその分だけ増加する。ネブライザーは5分単位で最大60分まで設定できる。
17)バッテリー
 停電時内蔵バッテリーで、およそ6時間作動できる。
18)データー出力
 ナースコール、光ファイバー出力、プリンター(HP940C)、Video Output(256 color, 800x600, SVGA モニター)を出力できる。
6.操作体系図;AVEAの操作パネル
1)基本(図;モード設定画面1図;モード設定画面2
 操作パネル右側のボタンとタッチパネルディスプレーを使用して設定する。タッチパネルで項目を選択し、数値入力はダイアルを回して入力し、ACCEPT(了承)で確定する。
2)電源投入時
 最初、RESUME(前回の設定で再開)かNEW PATIENT(新患)かを選択する画面になる。どちらかを選択してACCEPT(了承)すると、次に加湿器を選択する画面になる。HMEもしくは加温加湿器を選択する。次にモードを選択する。モードに応じて設定すべき項目が表示されているので、それらに数値を入力する。APRV/BiPasic、CPAP/PSV、NIPPV/CPAP PSVを選択したときだけ無呼吸バックアップ用の設定ボタンが現れる。これも必要な数値を入力する。
3)ADVANCED SETTING
 より高度な設定が必要であれば、タッチパネル右下にあるADV SETTINGボタンを押す。Machine Volume、Flow Cycle、Volume Limit、Vsync、Wave Form、Sigh、Bias Flow、PSV Cycle、PSV Tmax、Time High、Time Low、などを設定できる。
7.アラーム機能図;アラーム設定画面
 低分時換気量、換気回数過多、低一回換気量、Low PIP(気道内圧下限)、High PIP(気道内圧上限)、Apnea(無呼吸時間)、などの項目を設定できる。タッチパネルとダイアルを使って設定する。
8.ディスプレー機能図;表示選択画面
 大型カラー液晶タッチパネルで表示できる。タッチパネルの最上部中央の「メイン」と表示されているところをタッチするとスクリーン選択メニューが表示されるので、これを使って画面表示を切替える。
1)モニター機能(図;グラフィック表示画面図;数値モニター画面図;ループ表示
 換気量、ガス流量、気道内圧の3波形のグラフィックをモニターできる。吸気相は赤で呼気相は青で表示される。スケールはタッチパネルで選択できる。ComprehensiveモデルではLOOP、TRENDS、Maximum Inspiratory Pressure、Negative Inspiratory Force、AutoPEEP、静的コンプライアンスなどを計測できる。
9.患者回路構成、加湿器図;成人用患者回路図;新生児用患者回路
 加湿器はF&P 型が標準装備される。
10.日常のメンテナンス
1)日常
 呼吸回路、呼気弁、呼気フローセンサーなどを、患者毎、もしくは病院で定められたプロトコールにしたがい定期的に分解洗浄、滅菌する。
11.定期点検
 6ヶ月、1年ごとにIMIによる定期点検をうける。バッテリーの容量も定期的にチェックして必要なら交換する。
12.欠点
1)多機能な点は評価するが、インターフェースや概念の整理が必要である。可能なモードをすべて操作パネルに表示されていても、操作や概念が複雑すぎる。勘違いによる誤設定が心配である。ユーザーが表示項目を選択できて、必要なモードや機能だけを操作パネル上に表示されるようにすれば、もっとすっきりした操作体系になる。
2)外観のデザインが良くない。外装も安っぽい。VELAとAVEAの操作性を統一したと聞くが、両者にはかなりの価格差があるのに、外観が類似であるのはイメージ的に損をしている。
3)RTの要望を最大限盛り込むと、こういう人工呼吸器ができるのであろうが、開発側の明確なポリシーがないのはある意味で無責任である。人工呼吸器の「必須の機能」と「あれば便利な機能」を明確に区別すべきである。例えば、VsyncやMachine Volume、PRVCなど、どれか1つだけで充分でないのか?あまり使わない機能は裏画面などでアクセスするようにすべきである。
4)発売後、10年以上経過した機種が最高機種とはアメリカの製造業はどうなってしまったのだろう?M&Aなど、マネーゲームを重視するアメリカ型資本主義に陥った製造業としての本質を見失った実業界の病巣は深刻と思う。