CareFusion,VIASYS
3100 A HFOV
3100 A HFOVはリニアモーターによるピストン駆動方式の高出力な新生児呼吸不全治療用のHFOV専用機である。患者回路はディスポーザルなので、メンテナンスが容易で、滅菌による稼働率の低下がない。
2.性能
1)利用できるモード
HFOV
2)基本データー
バイアス流量.................0-40 LPM
HFO回数.........................3-15Hz
HFO平均圧.....................3-45 cmH2O
HFO出力.........................ΔP>90cmH2O以上
3.制御回路、制御機構の解説
1)制御機構の概説
リミット圧、平均気道内圧、ダンプ圧にそれぞれ専用の圧リリーフ弁を持ち、圧制御を安全かつ確実に調節している。
2)機械的機構の特徴
HFO発生部を含めて患者回路はディスポーザブルになっている。
3)ガス流量計測
計測できない。
4)吸気バルブ・呼気バルブ
存在しない。
HFO発生機構は音楽スピーカーと類似の構造になっている。永久磁石と電気コイルに発生する磁力によって駆動される。コイルは永久磁石の中にspidersを使って吊されている。この構造によって、摩擦のない作動が可能となり、4,000 時間以上の作動寿命を持つ。Square wave driver によって電気コイルが駆動されて、コイルにつながっているピストンを+方向と−方向に駆動する。ピストンの駆動距離は、電気コイルに加えられる陽極/陰極電圧の大きさ・ピストンのプレートに触れる呼吸回路圧・Piston Centering(ピストンの中央化)ダイヤルから作られるピストンコイルへのcounterforce、square wave の振動数によって決まる。Square wave driver の出力電圧はelectronic control とalarm システムのpower control によって制御されている。電気コイルとピストンの位置は、電気コイルに加えられる矩形波の電位によって決まる。電位の変化にしたがい電気コイルの位置も変化するが、変位に要するtransit time (電気コイルが+位置の最大移動位置から−位置の最大移動位置まで移動に要する時間)はミリ秒単位である。そのため、オシレーションの振動数が低い場合、ほとんどの時間において+位置もしくは−位置の最大移動位置で静止する。一方、オシレーションの振動数が増加すると、transit timeの占める比率が大きくなる。さらに振動数が増加すると、transit time内に電気コイルは最大移動位置まで移動できなくなり、結果的にピストンの振幅は減少する。
電気コイルは多量の熱を発生するので、高圧エアによる冷却システムが設けられている。50psig(3.5 気圧)の圧縮空気はレギュレータによって減圧されたあと、15L/分のエアーに調節される。エアーアンプはJet Venturi効果によって室内のエアーを45L/分取り込み、合計で60L/分のエアーを電気コイルの周辺に流す。冷却システム不良によるオーバーヒート(190℃以上)時にはサーマルカット回路がオシレータを停止させる。コイルがオーバーヒート(約175℃)すると黄色LEDが点灯する。
ブレンダーによって酸素濃度が調節されたガスは レギュレーターPR-4とPR-1で減圧されて、Bias Flow Adjustでバイアス流量を調節される。このガスは加温加湿器を経てFresh Gasとして患者回路に流入するHFO発生器は吸気側の患者回路に接続されている。Limit Valveは平均圧の上限を決めるリリーフ弁で、この駆動ガスはPR-2, Adj.Flow Restrictor等で調節される。Control Valveは平均気道内圧を調節するリリーフ弁である。この駆動ガスはPR-3, Adj.Flow Restrictorなどで調節される。Dump Valveは異常高圧時に患者回路を大気に解放する安全弁である。PR-6は近位気道内圧モニターライン用のパージ流用である。PR-5とAir Amplifierの流れはHFO発生機構の冷却用である。
5.制御ソフト
HFO専用機なので特別な機能やモード、ソフトなどはない。トリガー機能も存在しない。
6.操作体系
1)基本的なガイドライン(
図;3100HFOVの操作パネル:1;BIAS FLOW, 2;MEAN PRESSURE ADJUST, 3;MEAN PRESSURE LIMIT, 4;Power/ΔP, 5;%Inspiratory Time, 6;Frequency, 7;Start/Stop, 8;MEAN AIRWAY PRESSURE, 9;Set Max Paw, 10;set Min Paw, 11;Paw>50cmH2O, 12;Paw<20% of "Set Max Paw", 13;Power Fail, 14;Reset/Power Fail, 15a;Battery Low, 15b;Source Gas Low, 16;Oscillator Overheated, 17;Oscillator Stopped, 18;45sec Silence, 19;PATIENT CIRCUIT SILENCE)
平均圧とΔPの設定が重要である。他には、バイアスフロー、ピストンのセンター位置調節、振動数、%吸気時間、酸素濃度、の設定があるだけである。設定には確立された方法はないが、Wilford Hall Medical Center(Lackland Airforce Base, Texas)のDr.Robert deLemonsらが作成したガイドラインによると以下のようになるので参考にすると良い。
2)平均圧の設定
平均圧は患者回路の呼気側のControl Valveのバルーンの圧を調節することで制御されている。一般的に肺における酸素化能は平均圧の設定に大きく影響される。平均圧を大きくすると酸素化能も改善する傾向にある。
3)ΔP
ΔPはHFOの振幅であるが、具体的には電磁コイルの駆動電流を調節するつまみである。ΔPはCO2の排出量に大きく影響を与える。また、気管チューブによる減衰が大きい。例えば15Hzでコンプライアンスが1ml/cmH2Oの時、2.5mmチューブでは90%、3.5mmでは80%、4.5mmでは60%、5.5mmでは47%、6.5mmでは34%と、気管チューブによる減衰量が無視できない。また、振動数が大きいほど減衰量が大きい傾向がある。したがってPaCO2をコントロールできない場合にはΔPを上げていくことになるが、ΔPには安全上の上限があるので、安全マージンを確保できない事態では次に、振動数を下げていく必要がある。最後は%吸気時間を上げていくことになる。
4)バイアスフロー
通常、未熟児で10-15LPM、新生児で10-20LPM、小さい子供で15-25LPM、大きい子供で20-30LPMが推奨されている。一般的に流量が大きすぎる弊害はほとんどないので不安があれば多めに設定するのが無難である。
5)ピストン中央位置調節
電磁コイルに与えられる矩形波のベース電圧を調節することでピストンの中央位置を調節している。しかし、限界性能で作動している状態でなければ、通常、この設定はほとんど影響がない。
6)振動数
未熟児や新生児では一般的に15-20Hzが有効とされている。小児では6-10Hzが目安になる。
6)%吸気時間
ピストンを駆動する矩形波の1サイクル内の駆動時間を%で表示している。振動数が多くなると相対的にピストンの移動に時間的な余裕がなくなるので、(振動数が大きい場合には)%吸気時間を増加させた方が振幅が大きくなる。33%が一般的である。振動数を下げてもPaCO2をコントロールできない際には最後の方法として%吸気時間を増加させる手がある。
7.モニター、アラーム機能
1)アラーム
平均圧上限、平均圧下限、気道内圧、などのアラームがある。
2)モニター
ピストン位置はLEDバーグラフで表示される。ピストン中央位置が適切でない場合にはマニュアルで調節する。
(3)機器作動異常
電源異常、供給ガス圧異常、バッテリー、HFO発生器の加熱、などのアラームがある。
8.ディスプレー機能
分時換気量は計測できない。グラフィックディスプレーはない。ピストンの位置はLEDバーグラフの動きでモニターできる。
図に示した。複雑なので接続を間違えないように注意が必要である。
10.日常のメンテナンス
1)患者回路
ウォータートラップから定期的に排水をする。
2)患者回路キャリブレーション
「患者回路キャリブレーション」は「平均圧の調整」がどのレベルンになってもこれ以上の平均圧が気道に加わらないように上限を決めてしまうための調節機構である。MEAN PRESSURE LIMITとADJUSTを最大まで上げたうえで気道内圧が40cmH2O前後になるように本体右面のネジを調節する。
11.定期点検
2,000時間もしくは6ヵ月、6,000時間もしくは3年、12,000時間もしくは6年毎に定期点検を受ける。
12.欠点
1)ガスの消費量が多い。冷却用のガスまで必要である。
2)安全性を確保するための代償とはいえ、患者回路が複雑すぎる。
3)設定する項目が多すぎる。実験機ではないので、不必要な項目は削除すべきである。
4)機構がアナログの固まり。制御機構を電子化すれば、より容易な操作体系になったと思われる。Drager社のVN500の対極に位置する機器である。