VIASYS
Bird Products Corp.
V.I.P BIRD (Gold, Sterling)
V.I.PはVentilator Infant Pediatricの略でBird 8400STiをベースにとした小児専用機である。新生児、幼児、小児を対象とする。新生児用の人工呼吸器では定番の、定常流を呼気弁で圧リリーフして吸気圧をつくるTCPLモードに加えて、より年長児向けにディマンド方式の換気モードも装備されている。最大吸気ガス流量が120LPMあり、一回換気量は995mlまで対応するなど成人用としても遜色のない性能である。当初は、換気量モニターPartner IIiを併用しないとPTV機能がなかった。2000年になりGold(定価550万円)とSterling(定価460万円)の2モデルに改良され、換気量モニターが内蔵されて標準でPTV対応になった。一回換気量は1,200mlまで拡張された。さらにTCPLモードだけでなく、サーボベンチレーターのようなPCV、VCVモード、さらにVAPSも利用可能になった。ちなみにGoldは金を意味し、Sterlingは銀を意味する。Goldには、PCV、VAPSモード、Rise Time調節が装備されているがSterlingにはない。フローセンサーはinfantとpediatricの2種類がある。前者が乳児向けで後者が年長児向けである。
2.性能
1)利用できるモード
TCPLモード
A/C
SIMV/CPAP/PSV
ディマンドモード
A/C(Pressure、Volume)
SIMV(Pressure、Volume、VAPS)
---------------------------------
+PEEP
2)基本データー
最大吸気ガス流量
強制換気............120LPM
PSV.....................120LPM
最大強制換気数......... 150 BPM
最大SIMV回数........... 150 BPM
3.制御回路、制御機構
1)制御機構の概説
制御回路にはMPU使用されていて情報はすべてデジタル処理される。Main、Display、Power/Driver、Volume Monitorのプリント基板で構成されている。
2)機械的機構の特徴
チューブレスダイキャスト(Bird 8400STiと同様)によりニューマティック回路が構成されている。また、トリガーレスポンスの迅速さも特筆される。フロートリガーの反応時間は25+/-3msと短い。(吸気バルブの反応時間は0.2msである。)
3)ガス流量計測
a)吸気側
サーボバルブの位置と前後の圧より流量を演算する。
b)呼気側 or Yピース部位
フローセンサーは新生児用と小児用の2種類が用意されている。いづれも校正情報が記録されていて、センサー接続時に機器に読み込まれる。チューブやコネクターは他のセンサーと入れ替わらないように注意が必要である。新生児用は熱線式である。0.2-30LPMの範囲で計測できる。Yピースと気管チューブの間に設置する。小児用のフローセンサーは膜型センサーの前後圧の勾配で流量を計測する差圧式である。1.0-120LPMの範囲で計測できる。呼気弁と患者回路の間に設置して測定する。
4)吸気バルブ
ステッパーモーター駆動型である。従来のBirdのものの改良型で0.1LPMの分解能がある。
5)呼気バルブ
呼気弁ボディーはBird 8400STと類似であるが、呼気吸引機構が設けてある。TCPLでは、呼気弁のベンチュリ部にジェット流を流し、ジェットベンチュリ効果で呼気ガスを吸引する。これはAuto-PEEP対策である。
Gold、Sterlingモデルは旧モデルに対して精度向上のために数ヶ所の改良がなされている。
エアー配管よりの入力ガスはフィルターを経由して、酸素配管のは直接ブレンダーに入力して酸素濃度を調整する。これはBird 3800 microblenderと同じものである。流量の少ない領域でのブレンダーの精度を保つために、貯蔵タンク直前でガスを部分的に放出する "Blender bleed system"も設けられている。ここでは絶えず6LPMのガスが捨てられている。また、ここには機械保護のために100psigのリリーフ弁が設けられている。酸素濃度を調整したガスは1.1リッターの貯蔵タンクで貯めてピーク流量に備える。レギュレーターで25psigに減圧し、パルスダンパーを経て吸気バルブに入る。吸気バルブで流量調整されて吸気ガスが形成される。以前のモデルではオプションでHFV用のHigh Frenquecy Drive Solenoidが用意されていたが、Gold、Sterlingモデルになってからオプション設定はない。吸気ガス出力には二重の安全機構として、安全弁(Safety solenoid)とパネル面で手動で調整できる過剰圧開放弁(Over Pressure Relief Valve)が設けられている。
気道圧は吸気側・呼気側・近位圧の3ヶ所でモニターされる。近位圧センサーチューブにはパージ流が設けられている。Gold、Sterlingモデルでは吸気ホールド・呼気ホールドした際や吸気ポーズを入れた際にパージ流が患者回路に流れ込まないように停止する電磁弁Inspiratory/Expiratory Hold-Inspiratory Pause Slenoidが追加された。これは同時にシステム駆動用のガスにポーズ時の患者回路のガスが逆流するのもブロックする。さらにGold、Sterlingモデルには圧トランスデューサーの精度向上のためにゼロ点校正用の電磁弁が追加されている。
呼気弁は電磁駆動型であるが、ここにはジェットベンチュリ機構が設けられていて、呼気ガスを吸引する。JET SOLENOIDがジェットガスを供給する。
Gold、Sterlingモデルでは、呼気換気量モニター機能が内蔵された。差圧式のセンサーの前後の圧格差を圧トランスデューサーで測定して換気量を測定する。
5.制御ソフト
各機能の説明
1)トリガー方式
旧モデルでは基本は圧トリガー方式でオプションのPartner装備時にのみフロートリガーによるPTVが可能であったが、Gold、Sterlingモデルではフロートリガー方式が基本で通常はPTVである。新生児用フローセンサー接続時にはバイアス流は3LPMになり、患者回路のYピース部でフローを検出する。感度は0.2-3.0LPMで設定できる。小児用フローセンサー接続時にはバイアス流は5LPMになる。このセンサーは呼気弁と患者回路の間に入れる。これはフローセンサーの抵抗による圧勾配の影響を減じるためである。感度は1.0-5.0LPMの範囲に設定できる。小児用フローセンサー接続時のみバイアス流をOFF設定も選択できる。この際には圧トリガー方式になる。
2)TCPL
TCPLとはTime Cycle Pressure Limitedの略でバード社固有のモード名である。これは新生児用の人工呼吸器では一般的な方式である、定常流を吸気時に圧リリーフ型の呼気弁で閉じて吸気圧をつくりだす圧換気モードである。トリガーしても、しなくても、患者は自由に定常流を吸気できるのでディマンド方式に比べると呼吸仕事量が少ない。特にトリガーしてから患者が吸気ガスを吸えるようになるまでの呼吸仕事量が圧倒的に少ない。
強制換気は定常流を呼気弁で開閉する圧リリーフ(CFPR, Constant Flow Pressure Relief)方式で行われる。吸気相では気道内圧が設定値になるまで呼気弁は閉じられている。その結果、定常流は患者の肺に流入して吸気ガスになる。気道内圧が、気道内圧上限(High Pressure Limit)に達すると定常流は呼気弁よりリリーフされる。呼気弁でのリリーフ量は、吸気時間中、設定圧を維持するようにサーボ制御で調節されている。呼気相では、定常流が流れているのでミストリガー時でも自由に呼吸できる。定常流量は、フローのつまみで設定する。15LPM以上に吸気流量(=定常流量)の設定では、呼気相で患者の呼気を妨げないように、定常流量は15LPMに下がる。15LPM以下の設定では定常流量は変化しない。吸気フローが不足の時は最大120LPMまでディマンドフローが供給される。
3)A/C
Assist/Controlモードでは60秒/設定換気回数の時間だけトリガーウィンドーがある。トリガーウィンドーの間に吸気を検出するとAssistの強制換気が送られる。トリガーウィンドーの間に吸気を検出しない場合はトリガーウィンドーの終わりにControlの強制換気が送られる。AssistであれControlであれ強制換気が送られる度にトリガーウィンドーはリセットされて次の換気のための新たなトリガーウィンドーが開始する。最少呼気時間を確保するために、呼気相には250mSの不応期が設けられており、この期間にトリガーを検出しても強制換気は送られない。
強制換気はTCPL、量換気VCV、圧換気PCV(Goldモデルのみ)、VAPS(Goldモデルのみ)を選択できる。
4)SIMV/CPAP/PSV
トリガーウィンドーは可変時間方式である。SIMV回数を0回/分に設定するとCPAP/PSVになる。この際にはトリガー感度にOFFを選択できない。TCPLモードでは強制換気やPSV、CPAPは定常流によるTCPL(CFPR)方式で行われる。ディマンドモードでは、通常はPSVを併用する。SIMVの強制換気はTCPL、VCV、PCV(Goldモデルのみ)、VAPS(Goldモデルのみ)を選択できる。吸気フローが不足の時は最大120LPMまでディマンドフローが供給される。
5)PSV
PSVの吸気は圧トリガーで開始し、フローサイクルで終了する。PSVの立ち上げ時の流量の加速度はオーバーシュートのないように自動調整される。GoldモデルではRise Time調節で、立ち上がりの速度を設定できる。吸気終了認識条件は下記のように、供給された換気量に応じて変化する。フローが低下しない時は時間サイクルで終了する。アラーム状態では圧サイクルで終了する。
0-50ml......5% of Peak Flow
50-200ml....5-20% of Peak Flow(liniar)
200ml over..25% of Peak Flow
PSVの最大吸気時間は3秒またはCMVサイクル時間の2倍のいづれか短い方の時間に制限される。また、PS/VAPS Time Limitを設定して最大吸気時間も任意値に設定できる。一回の吸気に1.5リットル駆出されると吸気流量を40LPMに落として最大3秒まで吸気ガスが供給される。
TCPLモードでのみ有効。吸気はフロートリガーで開始し、時間サイクルで終了するが、Termination Sensitivity Control(ターミネーション)を設定するとピーク流量に対する%流量に吸気ガス流量が低下した時点で終了する。5-25%の範囲で設定可能。もし流量が低下しない場合は時間サイクルで終了する。これは呼吸数が多くなった際でも必要な呼気時間を確保しファイティングを防ぐための利点がある。また、平均気道内圧を下げる効果もある。アラーム状態では圧サイクルで終了する。
7)PCV
Goldモデルでのみ利用可能。一般的なPCVである。吸気相で設定した吸気圧を維持する。Time Cycleで吸気が終了する。このモードではフローターミネーション(Flow Termination)は効かない。
Goldモデルのみで利用可能。VAPSとはVolume Assured Pressure Supportの略で、簡単に表現すれば、PSVとVCV(量換気、ボリュームコントロール)が同時に開始するモードである。吸気ガス流量はPSVもしくはVCVのいづれか多い方が提供される。一般的には吸気の始めにはPSVが優位であるが吸気の終わりになるとVCVが優位になる。実測吸気ガス流量がVCVの設定吸気ガス流量(吸気フロー)まで低下した時点で切替わりる。PSVとVCVの両方の換気の利点が合わさったモードである。
9)Leak Compensation (リーク補正)
小児用フローセンサー使用時にバイアスフローをOFFにして圧トリガー方式を選択した際に有効となる。これはBear社のLeal make-up機能と類似であり、吸気時に"Machine pressure-Proximal airway pressure"が一定の値(=0.5cmH2O)以上になれば、これを補正するように吸気流量を0〜10LPMの範囲で増加する。また呼気時にベースライン圧(=PEEP/CPAP圧)が低下すれば、これを補うように吸気バルブを調整する。これらは総合的に患者回路のリークを補正する。圧トリガー方式においてPEEP/CPAP圧の維持とオートサイクルを防止するのが目的である。しかし体重10Kg以下の患者にPSVの適応が拡大されるにつけ、これらの患者ではリークが少なく、また、リーク補正機能が圧トリガー感度の低下を招く事があるので、こうした特殊な条件用にリーク補正機能をOFFにできる。この際にはSelectボタンを使ってリーク補正をOFFにするが、詳細はマニュアル参照。
10)ディマンドフロー機能
呼気弁の働きだけで気道圧をPEEP/CPAP圧が維持できないときは、吸気側のサーボバルブの流量が120LPMまでの範囲内で増加する。
11)呼気ガスの吸引
フローの設定が5LPM以上で、PEEP圧の設定が5cmH2O以下の時には、Auto-PEEPの発生を防止するように呼気弁に組み込まれたジェットポンプで呼気ガスを吸引する機構になっている。
10)PEEP補正
呼気弁の開閉は圧によるサーボ制御で調整されているので呼気ガス流量が変動してもPEEP/CPAP圧の変動が少ない。
11)バックアップ機能
無呼吸バックアップ機能はない。
12)バッテリー駆動
DC12vで作動可能、この際最大5A消費する。
13)データー出力
RS 232で各種データーを出力できる。また、光ファイバーでPartner IIiとリンクできる。
14)セルフテスト
"Power On Self Test"機能があり、エラー発生時にはエラーコードが表示される。
1)操作法
設定項目ごとにそれぞれ対応したつまみで設定する。設定値もそれぞれ数値表示される。
2)矛盾した設定
矛盾した設定値を選んだ場合は、そこの項目に表示される数字が点滅して、訂正を促す。3)フローセンサーの基準点の設定
a)小児用のフローセンサー
小児用のフローセンサー接続時には、Flow Display/Compensationのボタンを押すとフロー計測の基準点を自動設定する。3秒間ディスプレーにフロー補正量を表示してくれる。患者の換気回数が多いと正確に設定できない可能性があるので、その際には、患者よりはずして、Yアダプターを閉塞させて基準点を設定する。
b)新生児用のフローセンサー
新生児用のフローセンサー接続時には、センサーでのフロー値を表示するだけで、トリガー感度は自動調節してくれない。ディスプレーにあるSELECTのボタンを押すと、吸気方向・呼気方向のガス流量の計測値を表示する。吸気の表示にして、患者がまだ吸気していないときの表示値がリーク量に該当する。トリガー感度は計測したリーク量を加えた値に設定する。
4)PTV
換気回数を30 BPM以上に設定する場合はターミネーションを設定し、auto-PEEPとファイティングを防止する。これにより吸気時間は0.2〜0.4sの範囲で変化する。PTVでは同じ吸気圧でもIMVに比べて一回換気量が増加するので注意する。PTVはセンサーの抵抗が無視できなくなるため、気管チューブ径が4.5mm I.D以下の患者には適さない。
設定の参考値として以下の初期値が一般的である。換気回数30〜60BPM、吸気フロー5〜8LPM、吸気時間0.35〜0.40s、感度0.2LPM、ターミネーション25%。トリガー感度は0.2LPMにリーク量を加える。ちなみに患者の吸気開始直前のセンサーの吸気フロー値がリーク量である。Flow Display/Compensationのボタンを押して計測する。auto-cyclingしていないか観察し、必要ならさらに補正する。ターミネーションは25%より5%づつ減らし、吸気時間が0.20〜0.25s以上確保できるように調整する。新生児では5%か10%になるのが一般的である。なお、25%の値では吸気時間が短く、値を少なくすると吸気時間は延長する。ターミネーションが作動するとターミネーション感度のディスプレーが点滅するが、この状態が正常である。
7.モニター、アラーム機能
過呼吸、気道内圧上限、気道内圧下限、一回換気量上限、分時換気量下限、低PEEP/CPAP圧、無呼吸。供給ガス圧異常、機器作動異常、センサー異常、等の項目がある。
8.ディスプレー機能
1)設定値の表示
各設定用のつまみに対応して LED による数字が表示される。
2)実測値の表示
操作パネル右上に設けられているディスプレーウィンドーを利用して、一回換気量、実測呼吸数、分時換気量、呼吸数、吸気時間、I:E 比、ピーク圧(P.I.P)、平均気道内圧(M.I.P)、フローセンサーで計測したフローの実測値、などをSELECTのボタンで選択して数字表示できる。
1)患者回路
新生児回路と小児用回路の2種類がある。近位圧モニターチューブが必要なのは煩わしい。しかし、患者回路の閉塞があっても正確に気道内圧がモニターできているという安心感がある。
2)加湿器
標準はTransmed社のHPD 3000である。この加湿器は新生児より成人まで使用可能である。加湿効率が高く、F&Pより抵抗が少ない。
3)呼気弁の構造は簡単でメンテナンスが容易である。
10.メンテナンス
フローセンサーの構成部品一式は、他の交換用の部品と混ざらないように注意する。混用すると精度が落ちる。これは約6ヵ月間使用できる。製造後一年間経過したものは未使用でも破棄する。センサーは24時間で洗浄、薬液滅菌し、精製水でリンスする。オートクレイブは決められた条件で行う。呼気弁も同様に洗浄、滅菌、リンスする。フィルターは患者毎にオートクレイブする。
11.定期点検
1)日常
フィルター、チューブ類の点検、呼気弁、機器の点検を行う。必要な部品の交換。
2)1,000時間ごと
エアーや酸素入力のトラップやフィルターの点検。必要なら交換。圧トランスデューサーの校正。
3)5,000 時間ごと
ディーラーによるメンテナンスを受ける。
4)20,000 時間ごと
オーバーホールを受ける。
5)2年ごと
酸素濃度のブレンダーをオーバーホールする。
12.欠点
1)ディスプレー機能が貧弱である。そのために、新生児用のフローセンサー使用時のトリガー感度設定が簡単ではない。グラフィックモニターの標準装備が望まれる。
2)HFOができない。
3)VAPSなどいらないのでPRVCモードを装備してほしい。