Sechrist Industries Inc.  
Millennium
1.特徴図;ミレニアムの外観写真
 MillenniumはIV-100BをベースにSmartSyncと命名されたセンサー機構を組み込み、PTVを可能とした「定常流+呼気弁リリーフ方式」の新生児・小児用人工呼吸器である。IV-100Bの流体素子による高い信頼性を継続しつつ新しい機能を盛り込んだのが特徴である。
2.性能
1)利用できるモード
 A/C
 SIMV    
 CPAP + Backup Ventilation
---------------------------------
 +PEEP
 
2)基本データー
最大吸気ガス流量.
  強制換気............ 32 LPM
  CPAP................ 32 LPM
最大強制換気数......... 150 BPM
最大分時換気量......... 10 LPM程度
バッテリー作動...........90分以上
3.制御回路、制御機構の解説
1)制御機構の概説(図;ミレニアムの制御機構
 IV-100Bでは換気に関してMPUの仕事は電磁弁を1ヶ駆動するだけであったが、さすがにMillenniumでは数個に増加した。しかし、高速応答性に優れるニューマティック回路を電磁弁が制御する形態は健在である。ニューマティック回路には、入力ガスの流れによって、駆動ガスの流れを切り替える流体素子を多用しており、これによって吸気相・呼気相の切り替えや吸気圧・PEEP圧を調節している。このように人工呼吸器の本質的な仕事において信頼性を左右する部品は電磁弁だけであるので、信頼性が著しく高い。この点においては壊れない機械である。
2)機械的機構の特徴(図;ミレニアムのニューマティック回路
 空気と酸素はミキサーに供給され、設定酸素濃度に調整される。フレッシュガス流量は流量調整つまみによって決定され、フローメーターで表示される。これが吸気ガス・定常流になる。SmartSyncと名付けられたフローセンサーはYピースに設けれていて、トリガー信号検出や回路内圧のモニターに利用される。吸気圧や呼気圧(=PEEP圧)は呼気弁の開閉によって調節される。すなわち圧リリーフ型の機構である。マイクロプロセッサーは吸気時間や呼気時間、SIMVのタイミング制御、アラーム制御などを担当し、電磁弁を通じてニューマティック回路を制御することでこれらを調節している。ディスプレーに表示される、吸気時間Ti,換気回数f,気道内圧上限アラーム,などはデジタルで決定できるので設定入力が直接デジタル表示になる。一方、PEEP圧や吸気圧Ppeakは圧センサーによって計測された数値がデジタル表示されるので、デジタル表示された値が希望の値になるように、これらの設定つまみを回して設定する。吸気圧やPEEP圧は実測されるまでにタイムラグがあるので設定する際には細心の注意を払い、ゆっくり回して調節する必要がある。
3)SmartSync(トリガー検出機構)(図;SmartSyncの写真)(図;SmartSyncの構造説明
 トリガー信号はSmartSyncという最高感度0.1cmH2Oの特殊な圧トリガー機構によって得ている。SmartSyncは吸気方向と呼気方向の2方向に一方向弁を組み込んだ構造物でディスポーザル扱いである。呼気方向への一方向弁(Expiratory Flow Check valve)は薄いシリコン製の膜様構造でできているため、わずかな抵抗で開くことができる。吸気方向への一方向弁(Inspiratory Flow Check valve)はスプリングによりシートが固定されているので、比較的大きな圧がかからないと開かない。患者が吸気も呼気もしていない時は患者回路に定常流が流れているので呼気方向の一方向弁は圧勾配のため閉じている。吸気方向の一方向弁はスプリングによって閉じられている。つまり両方向の一方向弁も閉じているのでSmartSync内は閉鎖された空間になっている。この容積は1.5mlである。患者が吸気を開始すると閉鎖空間内の圧力は敏感に低下するので、わずかな吸気努力で大きなΔP(ΔP=Proximal Pressure−Reference Presssure)の変化を得ることができる。トリガー信号により機械が吸気相になり患者回路の圧が高くなってくると吸気方向の一方向弁は開く。(図;SmartSync 吸気状態:吸気開始により時には吸気方向の一方向弁は開いている(呼気方向の一方向弁は閉じている)。吸気方向の一方向弁の抵抗によって生じる呼吸仕事量は人工呼吸器が負担していることになる。機械の吸気相タイムサイクルで終了すると、呼気方向の一方向弁は軽い力で開くので、患者は容易に呼気ガスを排出できる。(図;SmartSync 呼気状態:スプリングの力で吸気方向の一方向弁は閉じるが、呼気方向の一方向弁は軽いシリコン膜なので呼気ガスで容易に開く。)呼気方向の一方向弁を開く仕事量は患者が負担するが、これはとても小さいので問題にはならない。
4)ガス流量計測
 ガス流量.測定機構はない。
5)吸気バルブ
 存在しない。
6)呼気バルブ(図;ミレニアムの呼気弁の構造
 ダイアフラム弁である。新生児用ブロックには呼気ガス吸引用のジェット流が準備されている。
4.ニューマティック回路図;ニューマティックモジュール・吸気相の解説)(図;ニューマティックモジュール呼気相の解説
 Millenniumのニューマティックモジュールは基本的にIV-100Bと同じである。IV-100BにSmartSyncと圧センサー,圧センサーのゼロ点校正用の電磁弁を組み込んでより高度なCPU制御にしたのがMillennniumである。ニューマティックモジュールの際だった特徴は流体素子にある。Back Pressure Sensing GateやOR Gateは流体素子で、これが切り替え弁として作動する。呼気相では、Back Pressure Sensing Gateのコントロール流は電磁弁によってリリーフされているので、20 psiの駆動ガスはまっすぐ02側へ流れる。このガス流は呼気ガス吸引ジェットや気道圧計のパージ流となる。OR Gateにもコントロール流が入力されないので駆動ガスは02側に流れ、これがPEEP圧調整機構に流れる。このガス流は呼気弁をPEEP圧で閉じる。Wave Form Adjustは波形調節機構で、吸気圧の立ち上げや降下時間を調節する。バルブを閉めると緩徐に変化する。開くと矩形波になる。吸気相では、電磁弁がBack Pressure Sensing Gateのコントロール流を遮断するので、コントロール流が左側より流入し、Back Pressure Sensing Gateのメインストリームは01側へ押しやる。このガス流はOR Gateに入力し、OR Gateのメインストリームを01側へ押しやる。このガス流は吸気圧調整機構に入いり、呼気弁を吸気圧で閉じる。
5.制御ソフト
各機能の説明
1)トリガー方式
 SmartSyncという特殊な機構を使用した圧トリガー方式である。
2)呼気弁ブロック(呼気弁ブロック図)
 新生児用(呼気ガス吸引用ジェットが内蔵されている)、小児用(ジェットなし、呼気抵抗が少ない)、麻酔用(麻酔ガスに耐えうる材質でできている)がある。
3)SIMV
 SIMVのトリガーウィンドーは固定時間方式で、前半の4秒である。
4)A/C
 A/Cは通常の方式である。不応期の設定はない。
5)PSV
 PSVはできない。
6.操作体系図;ミレニアムの操作パネル
 酸素濃度、定常流量、吸気圧、呼気圧(PEEP)、はアナログ設定(ニューマティック設定)なので、表示を見ながら設定する。吸気圧とPEEP圧は吸気終末・呼気終末にならないと正しい数値が表示されないので、ゆっくり回してディスプレーの数値を確認しながら設定する。必要ならWave Formを調整する。モードや吸気時間、換気回数、気道内圧上限、アラーム遅延時間はデジタル設定なので希望する項目のボタンを押して、設定可能状態にし、ダイアルを回して希望の数値を入力し、もう一度、先ほど押した項目ボタンを押して確定する。機械式の圧リリーフバルブは、あらかじめテスト換気の際に必ず調節しておく。不用意に変更されている可能性を除外しておくこと。トリガー感度はオートサイクルしない範囲で感度を高く設定する。右に回してバーグラフが多くなるほど感度は高い。体位変換した際や、患者の状態が変わった際には、リーク量も変わるので適宜、最適の状態に調節する。
7.モニター、アラーム機能
1)気道圧が低圧、高圧リミットを逸脱すると警報が鳴る。ただし低圧はディレー時間(3-60s.で設定可能)を経過しないと作動しない。
2)電源、バッテリー電圧、配管のガス圧も監視されている。
8.ディスプレー機能
 デジタルマノメーター、により気道圧を読みとれる。設定呼吸数、I:E比、設定圧、PEEP圧はデジタル表示されている。
9.患者回路構成、加湿器図;新生児用患者回路)(図;小児用患者回路
 呼吸回路及び呼気弁ブロックには、新生児用と小児用がある。対象となる患児に対応した呼吸回路及び呼気弁ブロックを接続する。接続図を参照のこと。
10.日常のメンテナンス
 呼吸回路や呼気弁ブロックは適時、洗浄滅菌する。
11.定期点検
1)6月毎
 6ケ月ごとに簡単な保守点検と各種フィルタとOリングの交換をする。この作業は経験のある技術者が行う。必ず純正部品を使用する。
2)2年毎
 2年毎にオーバーホール行う。ミキサー・減圧弁の整備を中心に各種消耗品の交換を行い、総合点検・調整・連続動作検査を行う。この作業は認定技術者が実施する。必ず純正部品を使用する。
12.欠点
1)グラフィックディスプレーがないので、患者の換気パターンを知るすべがなく、最適に設定できない。
2)ガス消費量が設定流量+14LPMと多く、不経済である。
3)シンプルかつ信頼性が高いのは評価できる。操作も簡単でミスが起こりにくい。反面、PSVやボリューム制限など先進の換気モードはできない。
4)可変式リリーフ弁が簡単に調整できてしまうのは、誤って操作されてしまう危険性がある。何らかのロック機構があっても良いのではないか。
5)SmartSyncは気管チューブによるリークが多いと、PEEP存在下ではInspiratory Flow Check valveが絶えず開放状態になるので、極端に感度が低下する。SmartSyncはPEEPがなければリークがあっても誤動作が少ない優れたディバイスであるが、単純にホットワイヤー式のフロートリガー機構にリーク補正機能を持たせればPSVも可能になり良いと思う。
6)換気量のモニターができない。