Metrant
ハミングV図;ハミングVの外観写真
1.特徴
 MERAハミングIIは、メトラン社の製造で、泉工医科工業が発売元となっていた。後にハミングIIは製造中止となり、メトラン社によりハミングVが開発され、これは大同ほくさんが発売元となった。現在はいわき株式会社が販売している。ハミングVはネオビートの強力なライバル商品でもある。ハミングVもまた、ピストン方式のHFOと定常流リリーフ方式のIMVを組み合わせた国産の新生児用の人工呼吸器であるが、ハミングIIよりストロークボリュームが50mlまで増大し、適応範囲が拡大した。また、MPUは16bitのものを2ヶ搭載しているので、制御の分解能が向上した。ハミングVは圧トリガー機構を持つが、新生児でのトリガー性能は充分ではない。HFO適応は体重で最大8kg程度である。メトラン社はその後、ハミングVの機構を最新技術で更新してコストダウンしたカリオペαや、小児成人用のHFO機であるR100も併売している。メトラン社のHFO機構はモデル毎に改良が重ねられており、今後は次期主力機ハミングXに機種統一される予定とのこと。
2.性能
1)利用できるモード
(強制換気はすべてtime cycleの圧リリーフ換気で行われる。)
 (S)IMV、圧リリーフ
 CPAP(定常流)
 HFO
 HFO+AutoSigh
2)基本データー
定常流量...............5-45 LPM(IMVモード)
    ...............8 LPM(HFOモード)
吸気ガススルーレート... L/s
IMV回数..............1-120 BPM
HFO回数..................13-17 Hz
最大HFO振幅.........80 ml
3.制御回路、制御機構の解説
 タイムサイクルで、定常流を呼気弁で圧リリーフして換気圧を作る方式が採用されている。呼気測にはピストン式のHFOが装備されている。流量制御はメカニカルに行うのでニューマティック回路は複雑である。
4.ニューマティック回路ハミングVのニューマティック回路
1)IMV/CPAPモード(図;IMV/CPAPモードでのガス流の概略)
 酸素、空気の各々のガスより入力されたガスは、等圧メカニカルブレンダーで設定酸素濃度に調整された後、流量調整バルブ(1)EP1と(2)EP2を介して吸気フローを供給する。この時に流量調整(1)バルブEP1は吸気時の流量調整を行い、(2)EP2はリザーバーバックを通じて定常流の調整を行う。ガスは患者回路へと送られるが、患者回路内圧が警報設定値よりも15cmH2Oを超える場合は、安全バルブが作動し大気開放される。ガスはインピーダンスバルブを通じ肺へ送られる。この時にインピーダンスバルブは開放状態となり抵抗がかからない状態(吸気フローには影響が出ない)になる。肺から呼出されたガスは呼気側呼吸回路を通じ呼気弁により呼気圧を調整されて大気開放される。
2)HFOモード(図;HFOモードでのガス流の概略)
 酸素、空気の各々のガスより入力されたガスは、等圧メカニカルブレンダーで設定酸素濃度に調整された後、流量調整バルブ(1)EP1を介して吸気フロー8L/分を供給する。この時に流量調整バルブ(1)EP1は吸気時の定常流調整を行う。流量調整バルブ(2)EP2はベンチュリーを通じ、平均気道内圧を制御するための定常流調整を行う。ピストンはピストン側回路によりHFO換気のための高頻度振動を呼吸回路中に添加する。ガスは患者回路へと送られるが、患者回路内圧が警報設定値よりも15cmH2Oを超える場合は、安全バルブが作動し大気開放される。ガスはインピーダンスバルブを通じ肺へ送られる。この時にインピーダンスバルブは半閉状態となり抵抗がかる状態(定常流は通過させ、高頻度振動成分はカットする)になる。肺から呼出されたガスは8L/分の定常流とともに呼気側呼吸回路を通じ呼気弁により平均気道内圧を調整されて大気開放される。どちらの換気モードにおいても患者から排出された呼気は、ウォータートラップにより、水分等を除去されピストン一体型呼気弁へと送られ、その後大気開放される。呼気弁では制御部によって吸気と呼気のタイミングに合わせ開閉し、PEEP/CPAP圧とHFO換気モード時に平均気道内圧を制御する。
3)HFOピストンの構造(図;Vピストンの写真
 ハミングVの振動発生方法はピストン方式を採用している。構造は、このピストンを動かすためのリニアモーターとその制御部、換気機能をつかさどるニューマティック制御部に大きく分けることができる。吸気側は配管入力されたガスが減圧弁と酸素ブレンダーを通過しフローバルブにより流量を調節され呼吸回路へ送られる。フローバルブはIMV/CPAPモード用とHFOモード用の各々専用のものを実装している。呼気側は2本に分離され、片側は呼気弁とジェットベンチュリーが実装されており呼気と定常流の排出と平均気道内圧(MAP)を制御するための細いローパスフィルターチューブ、もう一方はピストンで発生させた振動流を呼気側から呼吸回路へ伝えるための太いピストンチューブとなる。IMV/CPAPモードではローパスフィルターチューブに呼気が流れ吸気圧、PEEP/CPAP圧などが制御される。ピストンチューブはリークがなくなるようにピストンが密閉され動かなくなる。HFOモードでは、ローパスフィルターチューブに呼気が流れ定常流、呼気の排出とジェットベンチュリーによりMAPの制御がされる。ピストンは開放されリニアモーターにより設定されたストロークボリューム(SV)と周波数(Hz)で振動し、ピストンチューブにより呼吸回路内に振動が伝えられる。
5.制御ソフト
 
1)トリガー方式
 圧トリガー方式である。
2)IMV/CPAP
 SIMVは可変時間方式である。(図;SIMVの説明:t5,t6,t7,t8の長さは同じで60sec/SIMV回数で決定される。)
3)SIGH付加時にはHFOは停止している。(図;auto sighの説明)SIGHの回数と時間はIMVの設定が使われる。すなわちIMVでの換気回数と吸気時間でSIGHの動作が決定される。
6.操作体系図;ハミングVの操作パネル
 IMVモードでは、トリガー感度、吸気圧、流量、吸気時間、呼吸回数を設定する。HFOモードでは、SIGH圧、振動数、ストロークボリューム、平均気道内圧を設定する。SIGHを使う時にはIMVの設定で希望の換気回数(SIGH回数)と吸気時間(SIGH時間)を設定する。
7.モニター、アラーム機能
 気道内圧は円形の液晶バーグラフに表示される。フローセンサーは内蔵されていないので、一回換気量や分時換気量などはモニターできない。高気道内圧、低気道内圧、PEEP/CPAP圧異常、電源異常、モーター異常、酸素圧低下、空気圧低下のアラームがある。
8.ディスプレー機能
 平均気道内圧もしくはアンプリチュード、平均気道内圧もしくはSIGH圧、PEEP/CPAP圧もしくは振動数を数値表示できる。
9.患者回路構成図;ハミングVの患者回路
 図に示した。
10.日常のメンテナンス
 ピストンやインピーダンスバルブは酵素系洗剤で充分に洗浄する。その後、洗剤が残らないように充分にすすぐ。しっかり乾燥させた後、EOG滅菌をする。ピストンはオートクレイブも可能である。
11.定期点検
 6ヵ月毎にピストンメインテナンスを行う。2年ごとに定期点検、オーバーホールを行う。
12.欠点
1)呼気測の患者回路が複雑である。
2)ピストンの管理が煩わしい。
3)換気量のモニターができない。
4)PTVができない。 
 
カリオペα図;カリオペαの外観写真
1.特徴
 ハミングVの機構を現代的に改良したのがカリオペである。ハミングVでは定常流+リザーバーバッグによるCPAP方式であったが、カリオペでは定常流とも表現できるベースフローとPSVによるディマンド式の換気圧制御方式に進歩した。吸気側にはフローセンサーが内蔵されているが呼気測にはない。ガス流量制御能力も進歩し、ピストンも水平式に変更された。HFOの適応は体重で最大10kg程度である。
2.性能
1)利用できるモード
 (S)IMV(PC)+PSV
 CPAP(定常流+ディマンド)
 HFO
2)基本データー
定常流量...............1-20 LPM(トリガーOFF時)
        3-6LPM(トリガーON時)
ピークフロー......120LPM
IMV回数..............1-120 BPM
HFO回数..................13-17 Hz
最大HFO振幅.........80 ml
HFO振動数..............15Hz
3.制御回路、制御機構の解説
 圧制御は吸気バルブと呼気バルブのコンビネーションによって、サーボバルブを用いて行われる。そのため、ハミングVと比較すると機構が簡略化でき、コストダウンもはかれた。HFO振動数も固定である。圧トリガー方式のため、新生児のPTVはできない。SIMVでも定常流を多く流すとトリガーを得ることができない。
4.ニューマティック回路図;カリオペαのブロック図)(;カリオペαのニューマティック回路図
 酸素、空気の各々のガスより入力されたガスは、各々フィルターと減圧弁に入る。パネルで設定された吸入酸素濃度になるように酸素と空気の比率が決定され、流量にかかわらずこの比率が保たれる。
1)IMV/CPAP換気モード
 吸気中の気道圧コントロールは呼気弁開度と吸気フローの両方で行われる。呼気中はパネルで設定された流量の一定フローが流れ、気道圧コントロールは呼気弁開度で行われる。患者回路内圧が警報設定値よりも15cmH2Oを超える場合は、安全バルブが作動し大気開放される。ガスはH/Lバルブ(インピーダンスバルブ)を通じ肺へ送られる。この時にインピーダンスバルブは開放状態となり抵抗がかからない状態(吸気フローには影響が出ない)になる。肺から呼出されたガスは呼気ラインを通じ呼気弁により呼気圧を調整されて大気開放される。
2)HFO換気モード
 MAPコントロールは呼気弁開度と吸気フローの両方で行われるが、吸気フローは8L/分を下回ることはない。吸気ガスはインピーダンスバルブを通じ肺へ送られる。この時にインピーダンスバルブは半閉状態となり抵抗がかる状態(定常流は通過させ、高頻度振動成分はカットする)になる。ピストンはHFO振動ラインによりHFO換気のための高頻度振動を呼吸回路中に添加する。換気中、患者回路内圧が警報設定値よりも15cmH2Oを超える場合は、安全バルブが作動し大気開放される。肺から呼出されたガスは吸気ガス流とともに呼気側呼吸回路を通じ呼気弁により平均気道内圧を調整されて大気開放される。
5.制御ソフト
1)トリガー方式
 圧トリガー方式である。最高感度は-0.5cmH2Oである。定常流(「流量」のつまみで設定する)を多く流すと相対的に感度が低下してトリガーを捉えれない。
2)PSV
 PSVの呼気認識条件は10-50%の範囲で設定できる。SIMVモードにして、「圧力モニター」の「表示切替」を押しながら「流量」のつまみを回すと、表示が呼気認識に切り替わり、設定できるようになる。
3)SIMV
 ハミングVと同じ可変時間方式である。
6.操作体系 (図;カリオペαの操作パネル写真
 換気回数や換気圧など必要な項目をつまみで設定する。呼気認識条件やライズタイムの設定は「表示切替」を押しながら、「流量」「吸気時間」のつまみを回すと、それぞれの設定に切り替わる。その他はハミングVとほぼ同じ。
7.モニター、アラーム機能
 ハミングVとほぼ同じ。
8.ディスプレー機能
 ハミングVとほぼ同じ。
9.患者回路構成図;カリオペαの患者回路
 図に示した。ハミングVとほぼ同じ。
10.日常のメンテナンス
 ハミングVとほぼ同じ。
11.定期点検
 ハミングVとほぼ同じ。
12.欠点
1)PTV
フロートリガー方式でなく、圧トリガー方式のため、定常流があると、トリガーできない。したがって新生児のPTVは不可能である。定常流が必要な機構なのに圧トリガーを採用しているのは理解しがたい。したがって、基本的にトリガー機構は「おまけ」扱いである。トリガー性能が不充分ならPSVもきちんと動作しえない。
2)フローセンサー
 せっかくフローセンサーがありながら、換気量の測定ができないのは残念である。呼気測にフローセンサーがないのも原因の一つである。
3)ライズタイム
 ライズタイム調整や呼気認識条件を変更できるが、グラフィックモニターもないのに、どのようにして適切に設定するのか疑問である。
4)設計のコンセプトがハミングVのコストダウンだけではないだろうが、せっかくの改良が進歩として充分生きていないのは残念である。