1.アコマ医科工業株式会社
ART-21(図;ART21の外観写真)
1.特徴
 海外製の人工呼吸器が主流となるなかで、アコマ医科工業は絶えず意欲的な製品を出し続けている国産メーカーの雄である。アコマ医科工業は国産で最初にPSV搭載機を開発したメーカーでもある。ART-21にいたっては、吸気・呼気ガス制御に比例制御弁を使い、吸気・呼気フロー測定を装備し、一体式の呼気弁ユニットを採用するなど、人工呼吸器のツボを心得た設計である。ART-21は市場の要求を吟味した設計で、いたずらに無用の多機能を追求せず、むしろシンプルな操作とすっきりしたデザインが特徴である。
2.性能
1)利用できるモード
 VCV
 PCV
 SIMV(Volume Control)+PSV
 CPAP, PSV
 ---------------------------------
 +PEEP
 無呼吸バックアップ(SIMV,CPAP,PSVモード)
 SIGH
 ネブライザー
2)基本データー
最大吸気ガス流量
  強制換気............80 LPM
  PSV.....................120 LPM
最大強制換気数...........60 BPM
最大SIMV回数...........60 BPM
3.制御回路、制御機構
1)制御機構の概説
 (1)メイン、(2)ガスリザーバー制御、(3)フロントパネルの操作・表示、(4)回路内圧バーグラフ表示、のそれぞれに汎用8bitCPUが使用されている。
2)機械的機構の特徴
 吸気弁も呼気弁も比例制御弁を用い、吸気・呼気の圧・フロー情報に基づいてアクチュエーターで制御している。
3)ガス流量計測(図;ART21の吸気流量計の構造)
 吸気側・呼気側ともに差圧式流量計が内臓されている。
4)吸気バルブ(図;ART21の吸気系制御システム
 空気及び酸素のインレットから入った各々のガスはガスリザーバー内の圧力が一定圧に達した時点でそれぞれの電磁弁がONになり、ガスリザーバーに酸素・空気の混合ガスが供給される。ガスリザーバー内の圧力はスプリングによって作られ、その圧力は常に90〜110hPaの範囲で維持されている。空気・酸素はそれぞれ専用の差圧式流量計によって流量が計測され、ガスリザーバー内の酸素濃度がフロントパネルで設定された酸素濃度になるようにコントロールされる。ガスリザーバー内の酸素濃度は±5%以内の精度で維持される。吸気時にはアクチュエータによって比例制御弁が開けられ、フロントパネルの設定値から演算された吸気流量になるように、吸気流量計および位置センサーにて比例制御弁がフィードバック制御される。この比例制御弁はCPUからの信号により約10msで応答する。
5)呼気バルブ
 呼気弁ユニットは呼気側フロートランスデューサーへの結露を防ぐため、約40℃に加温されている。呼気弁のダイアフラムはCPUの制御信号に基づいてアクチュエーターによるダイレクト駆動されている。
4.ニューマティック回路図;ART21のニューマティック回路図
 供給された配管からの圧縮空気または専用ブロワ「ART-21B」の空気、および酸素は酸素/空気ブレンダーユニットDによりフロントパネル上で設定された酸素濃度のガスを作り、ガスリザーバーEに蓄えられる。このとき、ガスリザーバーは約100hPaの駆動圧を維持している。フロントパネル上の各設定値から計算された吸気流量になるように比例制御弁Fにてフローをコントロールしている。比例制御弁で作り出すフローは吸気流量計Gで常に計測し、正しい吸気流量になるようにサーボコントロールされている。吸気時は呼気弁アクチュエーターMが約70hPaにて回路を閉塞する。この呼気弁アクチュエーターは陽圧安全弁としての機能と呼気時に設定PEEPレベルを保つ機能を併せ持つ。呼気時は呼気弁アクチュエーターが開放され患者からの呼気ガスが呼気流量計Oを通り、排気口Rより大気へ排出される。呼気流量計で計測された呼気ガスはフロントパネル上に実測の換気量として表示される。
5.制御ソフト
各機能の説明
1)トリガー方式
 フロートリガー方式である。3-15LPMの範囲で設定できる。VCV,PCVモードではトリガー機構をOFFにできる。ベースフローはトリガー感度+5LPMである。
2)VCV
 A/C(Volume)とも表現できるモードである。このモードのみI:E比より設定する。吸気プラトー(EIP)時間も0-30%の範囲で5%刻みで設定できる。
3)PCV
 一般的なPCVである。A/C(Pressure)とも表現できる。
4)PSV
 吸気ガス流量が10LPMに低下した時点でPSVが終了する。
5)SIMV
 SIMVのトリガーウィンドーはSIMVサイクル時間の後半75%である。最大5秒に制限されている。
6)無呼吸バックアップ
 SIMVで5BPM以下に設定されている時、ならびにCPAPモードで作動する。30秒の無呼吸があるとアラームが鳴り、5BPMの回数でバックアップ換気がされる。
7)ネブライザー
 30分後に自動停止する。ネブライザー使用時でも換気量は変化しない。     
8)SIGH
 Sigh の設定は、100呼吸に1回、1回換気量の200%である。
6.操作体系図;ART21の操作パネル
 モード、換気回数、換気量(換気圧)、I:E比(吸気時間)、PEEP、酸素濃度、をダイアルで設定し、ENTボタンで確定する。それ以外の項目、(SIGH、ネブライザー、吸気プラトーなど)はボタンを押せばONになる(ENTボタンの確定は不要)。
7.モニター、アラーム機能
 以下アラームが装備されている。クイック設定ボタンを押すと自動的に実測値の何%で設定される。
1)回路内低圧アラーム
2)回路内高圧アラーム
3)分時換気量上限
4)分時換気量下限
5)換気量上限
6)換気量下限
7)無呼吸:30秒固定
8)その他:停電、供給ガス停止、設定不良など
8.ディスプレー機能
1)気道内圧表示
 最大、プラトー、平均、呼気終末、の内一つを選択してデジタル表示できる。
2)換気量
 1回換気量、分時換気量、換気回数、の内一つを選択してデジタル表示できる。
9.患者回路構成、加湿器図;ART21の患者回路
 患者回路はディスポ回路を使用する。専用回路が用意されている。加湿器はF&P  MR410 型を標準装備する。
10.メンテナンス
 使用後は患者回路やフィルターなど、ディスポ部分は破棄する。呼気弁ユニットをはずし、ダイアフラム、ダイアフラム押さえを分解洗浄し、オートクレーブもしくはアルコール滅菌をする。ドレンタンク内の水を必ず抜くこと。
11.定期点検
 1年に1回、もしくは5000時間毎に定期点検を受ける。2年に1回、もしくは10000時間に1回はオーバーホールを受ける。長期間使用しない場合は3ヶ月に1度、7時間以上作動させてバッテリーを充電をする。
 
12.欠点
1)操作パネルのデザインも、予備知識がなくても簡単に設定できる良い設計である。吸気・呼気の制御系やフロー測定もきっちり作られており、呼気弁ユニットも簡単でよい。しかしながら、最大吸気フローや最大ディマンドフローがやや少ない。もう少しあればと思うのは贅沢な要求か。
2)PCVは吸気時間を設定する方式なのに、VCVでは敢えてI:E比から設定するように切り替わる必然性が理解できない。サーボiやエビタXLでも吸気時間設定である。VCVでも吸気時間で設定する方が医療側も設定しやすい。設計サイドとしてもパネル表示を切り換えなくて済むので、操作パネルも単純化するはず。