B. PSV(Pressure Support Ventilation)
(図1−1)
1.概念と目的
  PSVはSiemens Servo 900Cに初めて搭載された。ディマンドフロー方式に固執したSiemens Elema社開発陣の苦悩の成果である。ディマンドフロー方式は、定常流方式に比べて呼吸回路の気流抵抗と、トリガーしてから実際にガスが供給されるまでの時間遅れが吸気仕事量を増大する。PSVは、これを解決するために「吸気を一定の圧で加圧して回路抵抗を相殺し、さらに少し高い圧を加えて吸気仕事量を軽減する」補助換気法として考案された。現在では、PSVは自発呼吸を補助する換気法として、あるいは人工呼吸器からのウィーニング換気法として主流を占めている。
 PSVの特徴は、吸気時間、吸気流量、呼気時間、一回換気量、呼吸回数などすべてが、患者の自由意志で決定されることであり、オペレーターが設定できるのはPSV圧とトリガーレベルのみである。
 
(参考1)古くて新しいPSV
(図1−2)
 PSVは、1960年代初期にすでに存在した。当時、応答の良いトリガー機構と信頼できる機械によって、ニューマティック回路(Pneumatic circuit)方式が評価を得ていた。この回路は、ガスの圧力だけを使って弁やスイッチを切り替える「からくり」である。吸気相は気道内圧が設定値に上昇すると終了するPressure limit方式(従圧式)(現在ではPressure cycleに分類される)であった。代表的なメーカーとしてBird社やBenette社がある。 
 Benette社のPR-2はBirdシリーズと同じ従圧式人工呼吸器と分類されているが、両者の作動原理は異る。PR-2では吸気圧の立ち上がりが比較的早く、気道内圧は吸気相初期に設定圧に達する(もし、ここで吸気が終了すれば単なるpressure cycleである)。そこで、この圧はしばらく維持され、吸気流速は減衰する。吸気流速が設定流速(terminal flow)以下になれば吸気は終了する(この設定ノブは本体右横に付いている)。また、不必要に吸気が続かないように吸気時間を制限するtime cycle機構も内蔵している。これは、現在のPSVと全く同じ作動原理である。
 
(参考2)PSVの類似モード
Drager 社ではASB、Engstrom社ではInspiration Assistenceと呼んでいるが、これらは殆ど同じ作動原理である。
 
2.構成要素
 PSVは次の3つ要素で構成される。(1)吸気の認識:患者の吸気努力による気道内圧低下をトリガー(Patient initiated)して送気が始まる。(2)吸気相:気道を設定した圧(PS圧)に加圧する(Pressure controlled or Pressure regulated)。(3)吸気の終了の認識:吸気流速の低下を認識して、気道加圧を中止し呼気弁を開ける。この吸気の終了を認識する機構の存在が従来の換気モードと最も異なる点である。
3.制御方式
1)制御機構
 PSVの吸気制御機構には、二つの方式が用いられている。
a)電子制御方式
(図1−3)
 電子制御による比例制御弁(サーボバルブ)を用いた機構が一般的である。Servo900C、Bird 8400、Benette 7200、Bear-5、等に使われている。
b)メカニカル方式
(図1−4)
 他の一つは、吸気圧制御をメカニカルに行なう機構で、ディマンドバルブ(Demand valve)を用いるのが、通例である(CPU-1、Bear-3、CV-4000)。一般的にメカニカル方式は最大流量が少ない(最高でも120LPM)。反応も遅い。また、細かな指標は制御できない。
2)PSVの作動原理(吸気制御)
a)吸気開始認識方法
 (1)フロートリガー(2)圧トリガー(3)マルチセンサーによるトリガーの三方式がある。詳細は(I.1 トリガー機構)の項を参照。患者の吸気が認識された場合だけPSVが開始する。
b)吸気の立ち上げ制御
 大多数の機器では、吸気の立ち上げ速度はハードの能力に依存していて、通常、最大供給可能吸気ガス流量で立ち上げが行われる。 これが低い機器では、PSV圧まで立ち上がるまでに時間がかかり、Pressure cycle換気と類似のパターンになる。
 一方、最大供給可能吸気ガス流量が高い機器ではPSV圧が10cmを超えると、急激に圧力が気道に加わるため、心理的に強い圧迫感をもたらす。中には、立ち上げ速度を積極的に調整している機器もある。現時点では、圧制御型と流量制御型の二方式が判っている。
 しかし、PSVでの立ち上げ流量に関しては充分な研究がされていない。
(1)機構依存型
 立ち上げ速度は、吸気ガス発生機構の性能に依存するもの。つまり可能な最大流量で立ち上げる。(例;ART-2000、CV-4000、BEAR-5、Bird 8400等)
(2)圧制御型
 Evitaは、圧指標型でPSV圧の立ち上げ速度が可変である。つまり、経時的に目標圧が上昇していくが、この圧を基準にしたサーボ制御が働く。
(3)流量制御型
 Adult-Starは流量指標型で、立ち上げ相では、一定のガス流量になるようにサーボ制御する。PSV圧の設定に応じて、吸気ガス流量が変化する。PSV圧を高く設定するほど立ち上げ流量も早くなる。
 
c)吸気中の制御
 設定圧(PSV圧)達成後はこれを維持するようにサーボバルブ(ディマンドバルブ)が調整される。(=圧によるサーボ制御)
 呼気弁は安全圧(=100cm HO程度)で閉じられている。
a)吸気の終了を認識する方法
 PSVの吸気相を終了させる条件は吸気終了認識条件と呼ばれるが、各種の方式がある。
(1)吸気流量の相対値(低下率)
 この方式が最も多く用いられている。吸気流速が計測された最大流速(PSV peak flow rate)の20〜30%に低下すれば、終末流量(terminal flow rate)と見なし吸気を終了させる。この方式はBear-3、Bear-5、Bird 6400,8400、Servo-300,900等に採用されている。なお、Bear-5ではPSV圧の設定によって%値が変わる。Servo-300では5%値が使われているが、Servo-900では75%値が使われている。
(2)吸気流量低下の絶対値
 吸気流速が一定の絶対値以下になれば吸気を終了させる。これはBenette 7200aeやEngstrom Elvira,Erica、Ohmeda CPU-1、IMI CV-4000、Adult-Starが採用している。Benetteでは10LPM、CV-4000では20LPM、Adult-Starでは4LPMで、Engstromでは「吸気トリガーレベル」まで低下すると吸気が終了する。
(3)その他
 New-Port E-200では、最大流速の約0.5乗の値を終末流量としている。この値が採用された根拠は公表されていない。Drager社の方式はユニークで、PSVを立ち上げ期と圧維持期に分けて条件を変えている。立ち上げ期には吸気流速が停止した時点を、圧維持期ではピークフロー対する25%値で吸気を終了させる。
b)吸気終了認識条件(併用条件)
 吸気流量低下の検出に加えて、しばしば以下の条件が併用される。
(1)最大吸気時間の制限
 E-200やBenette 7200ae、Hamilton Amadeus,Veolaでは最大3秒に、Adult-Starでは3.5秒に、CPU-1では1秒に、Evitaでは4秒に、Servo-300やServo-900ではIPPVサイクル時間の80%に制限される。
(2)気道内圧の制限
 さらに気道内圧の上昇を吸気終了条件の一つとして追加した機種がある。Adult-StarやServo-900ではPSV圧+3cmHOで、Benette 7200aeではPSV圧+1.5cmHOで、E-200ではPSV圧+2cmHOで、Servo-300はpreset Pressure Control Level above PEEP +20cmHOでPSVが強制終了する。
(3)吸気量の制限
 New Port E-200やVIP Birdでは最大吸気量が制限されている。前者は4gで、後者は1.5gで、PSVが強制終了する。
4.修飾要素
1)供給可能な最大流速
 PSVでは、供給可能な最大流量も重要な要素である。著しく換気能の低下した患者でも最大吸気流速は80l/min前後が観察され、健常者では200l/minにも達する。従って、供給最大流速の大きいことはPSV成功の必須条件である。最新の人工呼吸器では120l/min以上が可能であり、VEOLA、AMADEUS、Benette 7200では180 l/minである。
 しかし、一部の国産機は60〜70 l/min程度しか供給できないので、供給ガスの不足を定常流を流して補う方式が取られている。しかし、定常流はトリガーするまでの時間を遷延させるので、これがPSV本来の利点を損なう。しかもPSVは吸気初期での流量が著しく高く、またこの時期の吸気量が全換気量の中に占める割合が多いので、同じ換気量を得るには、より高いPSV圧が必要となる。PSV圧は高い程、吸気の終了に患者の意志を反映しにくくなり、圧サイクル換気のような強制的な性格を強める。本来、定常流とPSVは、足を引っ張りあう異質な換気法なため併用すべきでない。(フロートリガーは別)
2)反応時間
 自発呼吸の開始からトリガーするまでの遅れは(1)と同じ理屈で、より高いPSV圧を要求するのでPSVの性格を変えてしまう。
5.PSVの利点と欠点
 PSVのような従圧式人工呼吸法は患者の意志を反映しやすい利点があるが、欠点として、自発呼吸が微弱になった場合や、気道抵抗が増加した場合には「換気量の不足」に陥ることが挙げられる。また、PSV特有の欠点として、自発呼吸がなくなればそのまま放置されてしまう。
 従って、PSVには医療事故を予防するために、(a)呼気の分時換気量モニター、(b)無呼吸バックアップ(Apnea Back-up)機能が不可欠である。さらに、最近の人工呼吸器には(c)換気量を補償するバックアップ機構が併用されている。
6.各種の換気量補償機構
1)PSVに併用する換気量補償機構
a)PSV+無呼吸バックアップ(Apnea back-up)
 自発呼吸が停止した際に、強制換気(Volume ventilation)を与える機構である。十分な換気量を補償する訳ではないが、少なくとも自発呼吸が停止した場合の対策としては有効である。ただし不完全に自発呼吸があれば、分時換気量が低下していても放置されてしまう欠点がある。
b)PSV+SIMV
 最も確実に換気量を補償する現実的な方法である。本法の欠点は、SIMVの回数を増やすと、理論的には吸気仕事量は減少するはずであるが、現実として強制換気の入り方に規則性がないので、患者は強制換気のリズムに自発呼吸のリズムに合わせれない。そのため呼吸仕事量の軽減に限界がある。同時に、患者は呼吸困難を感じ、心理的ストレスにもなる。
 Siemens Servo 900Bに採用されたSIMV方式は、SIMV回数が患者の呼吸数に応じて変動する欠点はあったが、患者は次の強制換気を予測可能で、リズムを合わせてれた。この方式は、残念ながら最近の人工呼吸器には使われていない。
c)PSV+EMMV
 自発呼吸にはPSVで対応し、換気量の不足分をEMMVによる強制換気で補う方式である。しかし、EMMVは「罰」として強制換気が控えている換気法なので、患者は強制換気を少しでも逃れようと(換気能力が不十分であれば)頻回の浅いPSVをする。この状態は換気効率から見ても望ましくなく、また、PSV+SIMVにみられる安定した呼吸状態も得られない。PSV+EMMVはPSV+SIMVを超えるものではなく、PSVに対する高次元のバックアップ機構と考えるのが現実的でる。
d)PSV+AMV(Augumented Mandatory Ventilation)
 Bear-5に搭載されている。PSV+SIMVにEMMVによるバックアップ機能がついた換気法である。この換気法の利点は、SIMV回数の最適値が広いので、患者の状態に変化があっても柔軟に追従してくれる点にある。したがって設定変更を頻回にする必要性がない。
e)VAPS(Volume Assisted Pressure Support)
 PSVにCMVを重ねる事で両者の利点を伸ばし欠点を減らす。Bear-1000、Bird8400STi、Benette7200ae等で利用可能である。詳細は12.VAPSの項を参照。
 
2)PSV圧を制御する換気量補償機構
a)MMV(Minimum Minute Ventilation)
 Mandatory Minute Ventilationの略語と区別するために以降はHamilton-MMVと呼ぶ。Hamilton社が提唱した換気法であり、安定した分時換気量が得られるようにPSV圧を自動的に調整する換気法である。PSV圧は設定値以下にはならない。MMVはStep by Step Procedureと名付けられたバックアップ機構と一体で機能して、無呼吸だけでなく低分時換気量でもSIMVによるバックアップに切替わる。
b)VS+PRVC
 Servo-300に搭載された新しい換気モードである。VS(Volume Support)はPSVの変法であり、Hamilton-MMVと同様の概念でPSV圧を自動的に調節することで換気量の安定化を達成する。最低PSV圧は設定できない。VSの無呼吸バックアップとしてPRVC(Pressure Regulated Volume Control)が用意されている。(詳細は6.VS+PRVCの章を参照)