木村医科器機
11. KV-5
1.特徴(図III-11-1)
 木村医科器械の最新モデルであるKV-5は、本格的なPSV機能を有する数少ない国産人工呼吸器である。簡素な機構と操作性に優れているため、初心者でも容易に扱える普及機である。特異な点は、吸気開始条件、吸気終了条件をユーザーで設定できることである。
2.性能
1)利用できるモード
 Control/Assist    
 SIMV          
 PSV(CPAP)
 無呼吸バックアップ
---------------------------------
 +PEEP
 
2)基本データー
システム作動間隔時間... ? ms
最大吸気ガス流量
  強制換気............ 70 LPM
  PSV.................120 LPM
吸気ガススルーレート... ? L/s
最大強制換気数......... 60 BPM
最大SIMV回数........... 60 BPM
 
3.制御回路、制御機構の解説
1)制御機構の概説
 マイクロプロセッサー(MPU)は数字表示とタイミング制御を行い、流量制御はメカニカル機構で行われる。
2)機械的機構の特徴
 PSVの吸気ガスは、メカニカル部品であるディマンドバルブより、基準圧をシフトする手法で供給される。このディマンドバルブからの吸気ガスは、Bear-3並の、最大120LPMである。
3)ガス流量計測
 ディマンドフローを差圧型センサーで計測いているが、吸気ガス、呼気ガスは計測できない。
4.ニューマティック回路(図III-11-2)
 O/Airはガス入力ブロックより、フィルターを経て入力される。機械式のミキサー(O/Air MIXER)で希望の酸素濃度に調整されたガスは、レギュレーターR1で減圧した後、換気量制御部とデマンドバルブ、ネブライザー駆動部に入力される。O/Airいづれかのガスが途絶えても片ガスで作動する。強制換気の吸気ガスは電磁弁SL1で開閉されて、ニードルバルブN1で流量調整される。マニュアル換気は、吸気電磁弁と並列に設けられた電磁弁SL9と呼気弁駆動回路に設けられたSL8の作動で行われる。呼気弁は通常のバルーン弁を使用するが、本体内に呼気弁を内蔵しない。本体横に設置する呼気弁も用意されているが、ディスポの患者回路に付属している呼気弁も使用できる。規格さえ合えば他の呼気弁でも良い。レギュレーターR2を経由したガスは、PEEP/CPAPソレノイドもしくはPSVソレノイドにより切替えられて、それぞれの調整ニードルよりPEEP/CPAP圧やPSV圧が生成される。このガスは、ディマンドバルブの基準圧として働く、また強制換気の呼気時にPEEP/CPAP圧やPSV圧で呼気弁を駆動する。強制換気の吸気相では、呼気弁ソレノイドSL7が吸気ガス圧を呼気弁に添加する。それ以外の時相では、PSVもしくはPEEP/CPAP圧が呼気弁に添加される。コンペセーターソレノイドSL6とニードルN5により、高圧から低圧に変化する時に生じる不要な呼気弁駆動圧を解放する。ディマンドバルブは基準圧(図のPEEP入力)と実測圧(図のPaw入力)の差に応じて、誤差を最少になるように、INよりのガスをOUTする量を変える、言わば、サーボ制御素子として作動するメカニカル部品である。この特性を利用してPSVフローやディマンドフローが作られる。PEEP/PSV用の呼気弁駆動圧はそのままディマンドバルブの基準圧になっている。強制換気の呼気相(機械にとってはベーシック状態)では、作動基準圧がPEEP圧なので、PEEPを維持するように働く。PSVが始まるとPSV圧が基準圧に入力される。ディマンドガス流量はセンサーS1と差圧トランスデューサーS2により計測されている。KV-5のPSVは、フロートリガー、フローサイクルなのでターミネーション用にこれらのセンサーが設けられている。ディマンドフローが2LPMでPSVが開始し、5LPM以下に低下すると、PSVが終了する。なお、ディマンドバルブは木村医科器機のオリジナル製品である。気道内圧は近位圧センサーチューブで検出する構成になっていて、これが実測圧としてディマンドバルブのPawに入力されサーボループを構成する。また、これは圧センサーで計測されて、アラームやトリガーに利用される。ネブライザー駆動ガスはネブライザーソレノイドSL5とニードルN4により作られる。SAFTY VALVE BLOCKには陽圧安全弁と陰圧安全弁が設けられて異常時に備える。しかし、システム異常時に患者回路を大気に解放する機構になっていない。
5.制御ソフト
各機能の説明
1)トリガー方式
 強制換気は圧トリガー方式で、近位圧センサーチューブ"Proximal airway pressure sensing tube"を使用して気道内圧の変化で検出する。この圧検出ラインにはパージ流(rinse flow)はない。PSVではフロートリガーになる。
2)CONTROL/ASSIST
 通常のsCMVである。強制換気直後にトリガーに反応しない時間(=マスキング時間)を吸気時間の20%に設定している。この時間も10〜50%に変更できる。
3)SIMV
 固定時間方式。トリガーウィンドーはSIMVサイクルの終末20%である。
4)PSV
 PSVではディマンドバルブの出力を流量センサーで捉えるフロートリガー方式になる。通常は2LPMの感度であるが、1, 2, 3, 5 LPMに変更できる。吸気終了条件は、5LPM以下の流量もしくは、最大吸気時間3秒である。これも5, 7, 10, 15, 20 LPMに設定できる。PSV直後に反応しない時間(=マスキング時間)は0.2sであるが、これも0.03〜0.3に変更できる。
5)SIGH
 調節/補助呼吸モードでのみ使用可能。100呼吸に1回、200%の換気量で送気される。
6)無呼吸バックアップ
a)バックアップ起動条件(図III-11-3)
 SIMVならびCPAPモードで有効。15秒間(ディレータイムも5〜20sに変更できる)何らかの吸気が検出されないとウェイティングタイムに移行する。15秒のウェイティングタイムの最初に強制換気を1回行い、自発呼吸の有無を監視する。 ウェイティングタイムの間に2回以上トリガーがあれば元のモードに復帰する。1回以下であれば、さらにもう1度 15秒のウェイティングタイムを続ける。ここでもトリガーが1回以下しか検出されないとバックアップ換気に入る。トリガーが2回以上検出されると元のモードに復帰する。
b)バックアップ換気条件
 SIMV、16回/分、吸気時間、1回換気量、吸気ポーズは設定のとおり。
6.操作体系(図III-11-4)
 モードの選択以外はすべてつまみで設定する。KV-3 では呼吸数と1回換気量の積が一定の値になるので、呼吸数を変えると1回換気量が勝手に変化したが、KV-5 では換気回数を変化させても1回換気量の設定は変化しない。ただし吸気時間を変化させるとそれに応じて1回換気量が変化する。特殊機能設定(マスキング時間、ディレー時間、PSVトリガーレベル、等)はセレクトキーと他のキーの組み合わせで行う。詳細は省略する(マニュアル参照のこと)。
7.モニター、アラーム機能
 以下のアラームがある。
@高圧アラーム : 20〜100cmHO
A低圧アラーム : 1〜40cmHO
B無呼吸    : 15 秒
C停電アラーム
DI:E 比逆転
 低圧アラームには待機時間が下記のように設定されている。この時間以内に気道内圧が設定値を超えないとアラームが鳴る。
8.ディスプレー機能
 I:E 比と実呼吸数だけがモニターできる。それ以外の項目は設定値が数字で表示される。
9.患者回路構成、加湿器(図III-11-5)
 標準は呼気弁を含めてディスポで構成されている。加温加湿器はF&Pが標準で用意されている。
10.日常のメンテナンス
 患者回路や呼気弁、加温加湿器はすべてディスポで構成されているので、特別なメンテナンスは不要である。
11.定期点検
 2500時間もしくは一年以内で、メーカーによる定期点検をする。
12.欠点
1)強制換気時に設定できる最大流量が少ないので、重症の呼吸不全患者は苦手である。
2)PSVではフロートリガーになっているが、ディマンドバルブを開けた後、流量が2LPMに達して始めて開始するので僅かではあるが、ディレーがある。
 
KV−3、KV−3N
1.特徴(図III-11-6)
 KV−3はKV−5のベースになった前モデルである。KV−5の生産開始とともに、KV−3とKV−5の部品の共通化が行われ、KV−3はKV−3Nにモデルチェンジされた。しかしニューマティック回路構成には変更がない。KV−3NはKV−5の下位モデルとして位置づけられる。両者は類似しているが、相違点はKV−3Nにはディマンドバルブがない点にある。そのかわりSIMVやCPAPの自発呼吸用に定常流機構が用意されている。リザーバーバッグはない。吸気ガスの不足時にはフローコントロールバルブを開いて一定流量のガスを供給する簡易ディマンド機能で補う。定常流はSIMVのトリガーウィンドーの間は停止する。
2.ニューマティック回路(図III-11-7)
 図に示した。
 
 
 
図III-11-1     KV-5の外観
図III-11-2     KV-5のニューマティック回路
図III-11-3     アプネア・バックアップ
図III-11-4     KV-5の操作パネル
図III-11-5     患者回路
図III-11-6     KV-3Nの外観
図III-11-7     KV-3Nのニューマティック回路