16.Drager
BabyLog 8000, 8000 plus (図III-16-1)
1.特徴
 1989年に発売されたBabyLog8000は、従来、新生児では不可能とされていた「自発呼吸と同期した補助呼吸」によって、新生児の人工呼吸呼吸管理に変革をもたらした。トリガーボリュームは、0.02〜3mlに設定でき、体重が10Kgまでの新生児が主な対象である。1994年よりSoftware 4.0になりHFVが追加され、また設定可能範囲も拡張された。ディスプレーはLCDよりELDに変更されて視認性が向上した。1999年には、Software5.1のBabyLog8000plusに変更され、PSVやVG(Volume Guarantee)もオプション付加できるようになった。
2.性能
1)利用できるモード
(換気はすべて、定常流をtime cycleで圧リリーフしておこなわれる)
 A/C(SIPPV)
 SIMV
 PSV(plusモデルのみ)
 IMV    
 CPAP(定常流)

 +Pressure Limitation(圧リリーフ換気)
 +VIVE(定常流機能)
 +HFV(CPAP, IMVモードのみ)
 +VG(A/C, SIMV, PSVモードのみ)
2)基本データー
システム作動間隔時間...? ms
最大吸気ガス流量
  強制換気............30LPM
吸気ガススルーレート...? L/s
最大強制換気数.........150 BPM
最大SIMV回数...........150 BPM
3.制御回路、制御機構
1)制御機構の概説
 メインプロセッサーには16bitのモトローラ68000(8 or 16MHz)が使用されている。サブCPUとして流量測定と機器作動監視用に2個のZ80が使用されている。
2)機械的機構の特徴
 Babylogの最大の特徴は、吸気・呼気ガス流速測定機構にある。Yピース部に2線式の熱線型(Hot wire)のフロートランスデューサーが設けられていて、流速だけでなく、流れの方向も感知する。また、トリガー信号もここで検出する。
 もう一つの特徴は加温加湿器に透析器と同じマイクロファイバーを応用したものが使われていて、加湿は患者近くで(インキュベーターを使用しているときはその中で)行われる。そのため患者回路での水滴の凝集によるトラブルが低減されている。
 他にも、小型でありながら呼気弁周辺の処理が凝ったものになっている。
3)ガス流量計測(図III-16-2)
 二つの熱線型のフローセンサーとストラットを組み合わせることで、流量と流れの方向を検出する。このフロートランスデューサーはYピースに設置されているので、吸気ガス、呼気ガスの両方を測定できる。
4)吸気バルブ(図III-16-3)
 吸気バルブはInfantstarと類似の方式で、流量の違うバルブを酸素・空気にそれぞれ10個用意して、各バルブのON/OFFの組み合わせで、目的の定常流を得る。また、酸素濃度の調整もする。これはデジタルガスブレンダーと呼ばれ、VIVE作動時には流量が吸気相・呼気相で変化する。また、吸気ガス不足時にはディマンドガスを供給する。Infant Starと比較すると、HFOは呼気バルブの作動で発生するので、吸気バルブの負担はかなり少ない。
5)呼気バルブ
 呼気弁は一連のDrager製品と同じで、ユニット構造が用いられている。呼気バルブの開閉で、定常流が患者に流れ込んで吸気ガスになる。呼気バルブの開閉の調整は、PEEP/PIP(Positive Inspiratory Pressure)バルブが担当する。Yピース部での気道内圧"Paw"は近位圧センサーがあれば直接測定できるが、呼吸回路が複雑になるので、この圧は下記の式で代用している。
Paw=P-0.7(P-P)
ただしPは吸気側の気道圧
   Pは呼気側の気道圧
つまり、PEEP/PIPバルブはPawが基準圧(PEEP or PIP)に近づくようにサーボ制御されていることになる。
4.ニューマティック回路(図III-16-4)
 O/Air配管より入力されたガスは、それぞれのフィルターF1.1,F1.2、一方向弁D1.1,D1.2を経由して後、レギュレーターDR1.1,DR1.2で減圧ならびに圧が安定化される。デジタルガスブレンダーY2.1〜Y2.20で目的の酸素濃度と流量に調整され定常流になる。圧トランスデューサーS6.1,S6.2はブレンダー入力圧を測定する。フィルターF3.1と一方向弁D3により機器故障時には外気を吸気できる。患者回路内圧測定用に、吸気側と呼気側に圧トランスデューサーS6.3,S6.4が設置されている。Bactelicidal labyrinthで呼気側の圧トランスデューサーS6.4の汚染を防いでいる。
 呼気ガスはニューマティック弁である呼気弁Y5.1で開閉される。呼気弁を駆動する圧はPEEP/PIP調整弁Y4.1で調整される。これはサーボバルブで、Pawが、吸気相ではPinspに、呼気相ではPEEP/CPAPになるように呼気弁Y5.1を調整する。
 システムガスは電磁切替弁Y1.1でO/Airが選択される。通常はAirが使われる。システムガスは電磁弁Y1.2で供給される。これは安全弁Y3.3の大気解放の止め、呼気弁Y5.1を閉じる。つまりシステムの異常時には、患者回路は大気に解放され、呼気弁は開く。このガスは、エジェクターの駆動ガスにもなり、酸素センサーの校正ガスも兼ねる。
 エジェクターは呼気ガスの排出を促進するもので、これはジェットベンチュリー効果による吸引作用を利用している。電磁弁Y1.4によりエジェクターガスが開閉される。
 酸素濃度はセンサーS3.1で測定される。酸素濃度センサーは空気と酸素で二点校正される。電磁弁Y1.3が開くとニューマティック弁Y3.2を開き、切替弁Y3.1がセンサー入力を校正ガスに切替え、抵抗R3.2を通った校正ガスがセンサーに流れる。次に切替弁Y1.1が酸素を校正ガスとして流す。酸素センサーは24時間ごとに自動的に行われるが、いつでも手動で開始できる。
5.制御ソフト
各機能の説明
 Babylogには各種の換気モードが用意されているが、これらはすべて、定常流を呼気弁で開閉して(余剰圧をリリーフして)行う、"constant flow, pressure relief ventilation"で行われる。なお、例にもれずソフトは頻回にバージョンアップが行われていて、最新のはSoftware 5.1である。
1)トリガー方式
 Software3.0以降ではフロー/ボリュームトリガーの複合方式になった。Software5.1では、トリガー感度はレベル1.0〜10.0に設定できる。レベル1.0ではトリガーボリュームは0.0mlでありレベル10.0では3.0mlである。この間の値は直線的に変化する。誤動作を防ぐ為に0.20LPMの流量条件を満たした時点で流量計測を開始する。Yピース部にセンサーが設けられているので、定常流の量は感度に影響しない。トリガーに対して40〜60mSで反応できる。カフなし気管チューブではリークが不可避であるが、リークによってオートトリガーしないように、トリガー感度自動補正機能がある。呼気終了時でのセンサーのガス流量を気管チューブによるリーク量と見なしてこの分だけ、トリガー感度を自動補正している。さらに、この流量に基づいて、PSV吸気相でのリーク量を推定し、PSV吸気終了認識条件を補正している。
2)IMV, IPPV
 IPPVは、CMV(Contineous Mandatory Ventilation)に対してドレーゲル社が好んで用いるモードの表現方法である。BabyLog8000では、定常流をtime cycleで呼気弁を開閉し、吸気圧を作る。吸気圧がPINSに達すると呼気弁で圧をリリーフする。自発呼吸に同期しない。もし、患者に自発呼吸があれば、強制換気相の時間以外では定常流を自由に呼吸している。通常、呼気時間を長く設定すれば、IMVになると考えられる。Software4.0以降はIPPVの表現はIMVに変更された。
(参考17−1;Pressure Limitation)
 Pressure Limitation(Pinspで設定する)の用語は、Evitaで意味するものと異なり、他の機器で言うところの圧リリーフ換気に相当する。これは呼気弁で余剰圧の解放して達成している。
3)CPAP
 定常流方式のCPAPである。もし、患者の吸気流速が供給量(=定常流量)を上回って、患者回路の圧が低下すれば、デジタルガスブレンダーよりディマンドガスが供給される。
4)SIMV
 可変時間方式である。SIMVサイクルの中で最初のトリガーに対して強制換気(圧リリーフ換気)を送る。ただし強制換気直後0.2sはトリガーに反応しない。
5)A/C(SIPPV)
 Software4.0以降はSIPPVの表記からA/Cの表記に変更された。これはアメリカでの販売開始にともない、日本仕様も同じ表記に統一されたためである。すべての自発呼吸に対して強制換気(圧リリーフ換気)を送る。強制換気直後の0.2sを除いた呼気時間のすべてが、トリガーウィンドーになる。他のモードと異なり患者の自発呼吸が増加すれば、強制換気数も増加するので、特に呼吸中枢が未熟な新生児では過換気になる可能性がある。
6)VIVE
 VIVEとはVariable Inspiratory flow,Variable Expiratory flowのことで、要するに定常流機能である。呼気相での定常流速を吸気相のそれとは異なった値に設定できる。
 さらに、吸気ガス流速が定常流速より多い場合には気道内圧が低下するが、その際には流量を増加させる補償機能もある。(=ディマンドフロー)
7)HFV
 HFVは呼気弁の高頻度の開閉で行ない、Frequency 5〜20Hz Amplitude 0〜100%の範囲で設定が可能である。圧は平均圧に対してプラスマイナスで変動するので、肺の虚脱を防ぐために、PEEP/CPAPの設定は3mbar以上に制限される。HFV使用時にはVIVEは無効になる。Software4.0では、HFVはCPAPモ−ドではすべての時相に加重される。IPPV/IMVモードでは強制換気相の間だけに加重される。つまりHFVは強制換気の開始100mS以前に停止し、強制換気の終了250mS以降に再開される。これは患者の呼気時間を充分確保しエアートラップを予防するためである。SIMVではIPPV/IMVモードと同様であるが、さらにトリガーウィンドーが始まる300mS前よりHFVは停止し、トリガーの検出に備えている。ただし、Software5.1以降はHFVは自発呼吸にトリガーしないモード(CPAP, IMVモード)のみに制限されている。
8)PSV
 オプション扱い。吸気終了認識条件はピーク流量の15%である。従来の人工呼吸器では、気管チューブによる回路リークによって、誤トリガーが起こったり、吸気が終了してもリークによって吸気ガスが流れ続け、PSVが終了しない危惧があった。BabyLog8000plusでは、呼気終了時のリーク量をチューブによるリークと見なしてトリガー感度を自動補正する。また、PSVの吸気相でもリーク量を推定して、吸気終了認識条件を自動補正する。さらに、最大吸気時間を設定することによって(これをバックアップTiと呼び、吸気時間Tiのつまみで設定する)、吸気が終了しない事態を避けている。これらの補正機能によって60%以上のリークに対応可能とメーカーは言っている。
9)VG(Volume Guarantee)
 A/C, SIMV, PSVに付加できる。成人用人工呼吸器Evita4のAutoFlowの概念を応用したモードで、実測呼気一回換気量が設定値のそれになるように、先行換気の計測値をフィルタリング処理して平均値を求め、この値に基づく演算で次の換気圧(強制換気圧やPSV圧)を決定する。換気圧は、許容される最大吸気圧の範囲内で変化する(最大級気圧はPinspのつまみで設定する)。もし、設定一回換気量の130%以上の吸気を認識した場合には、吸気相は強制終了し、呼気弁はPEEP圧に解放される。この状態はCPAPなので、もちろん児は定常流を呼吸することができ、自発呼吸は妨げられない。この際には呼気一回換気量が正確に計測できないので、吸気一回換気量を代用する。VGの目的は、児の状態が改善された際に不必要な過換気が起こるのを防ぐことと、ウィーニング期間を短縮することにある。
10)手動換気
 設定TI,TE関係くスイッチを押している間だけ呼気弁が閉じられて吸気相になる。
11)無呼吸バックアップ
 無呼吸バックアップ機能はない。
12)インターフェース
 シリアルインターフェースのBabyLinkでデーター転送が可能である。
6.操作方法(図III-16-5)
 バージョンによってコントロールパネルとスクリーンパネルの構成、メニュー構造が変更されている。しかし、つまみの配置、役割には変更はない。
 Software4.0では、パネル上にモードキー(IMVとCPAP)がふりあてられているので、直接モードを選択できる。トリガー機構を使わない換気モードやVIVEを使わない場合は、パネルのつまみとボタンでダイレクトに設定できる。IPPVまたはCPAPのボタンを押してモード選択した後、吸気時間"TI"、呼気時間"TE"、定常流量"Insp.Flow"(=吸気流量)、リリーフ圧"Pinsp"、PEEP/CPAP"PEEP/CPAP"を設定する。なお、圧をリリーフさせなければ「Ti x Insp.Flow」の量のボリューム換気モードになる。呼気時間を延長すればIMVになる。VIVEやSIMV、sCMV、PSV、VGを利用する際は、モード・モニター(切り替え)キーを押して、EL-ディスプレーパネルにモード画面を呼び出す。サブメニューとファンクションキーを用いて各種設定をする。
 Software5.1では、多彩な換気モードが用意されているので、モードごとに独立したキーをふりあてる余裕がない。そのためVent. ModとVent. Optioneの2つのキーを用意し、ここからモード設定画面に入っていく手順になっている。Vent. Modeのキーを押して、モードメニュー画面を表示し、希望のモードを選択し、確定する。必要に応じてVent. Optionキーを押し、VIVE, PSV, VG, HFVでの詳細な設定を行う。メニュー構造は図III-16-7a,b,cのようになっている。Software4.0でのモード・モニターキーは、Software5.1ではCalibration/Configrationキーに名称変更されている。
 VGを用いる場合は、概念を充分に理解する必要がある。吸気フローは適切な圧プラトーが得られる値を選択する。Tiは児の胸郭の動きを充分に観察し、児の固有リズムと人工呼吸器のそれとの同調性を重視して設定する。Pinspを高く設定すれば、機械の選択できる範囲が拡大するが、圧損傷の危険性が増大する。通常は許容できる安全域に設定する。
7.モニター、アラーム機能
 分時換気量がモニターされるので、従来の機器のように圧アラームを厳密にかける必要がない。以下の項目があるが、その中でユーザーが設定するのは分時換気量のアラームだけである。
 メッセージは3段階あり、緊急度の少ない順に勧告(advisory)、注意(caution)、警告(warning)がある。それぞれメロディーが変化する。
1)患者状態
 分時換気量上限;0.13〜15 LPM
 分時換気量下限;0.03〜14 LPM
 気道内圧上限;Pinsp + 10mbar、又は
        PEEP/CPAP+4mbar
 気道内圧下限;PEEP/CPAP-4mbar
        最低値-2mbar
 無呼吸;0〜20秒
 酸素濃度;設定値の+/-4%
2)その他
 O2, Air 供給、電源、フローセンサー、リーク、O2センサ、各部の異常、設定が標準を大きく逸脱している場合、に警報する。
8.ディスプレー機能
1)ディスプレー(図III-16-6)
 モニター画面をEL-ディスプレーに呼び出すと各種表示ができる。モニター画面は4つのウィンドーに分けられているが、それぞれの表示内容をモニターメニューにより選択できる。メニュー構造は図III-16-7のようになっている。
2)メニュー画面の言語の選択
 日本語、英語、米語、仏語、オランダ語が用意されている。
3)インターフェース
 シリアルインターフェースのBabyLinkでデーター転送が可能である。BabyViewと名付けられたPCプログラムを使用すれば安価なWindowsパソコン上に圧とフロー波形やループが設定値や実測値のトレンドと共に表示できる。
9.患者回路構成、加湿器(図III-16-8a)
 加温加湿器には膜型加湿器"Aqoamod"が使用される。マイクロファイバーの中を加温された湯が流れていて、これで吸気ガスを加温加湿する。カプセル部分はディスポであり、最長48時間で交換する。患者回路を図III-16-8bに示した
10.日常のメンテナンス
1)呼気弁
 呼気弁ユニットは、取り外して水道水で流し洗いをする。その後、オートクレイブで乾燥、滅菌する。
2)フローセンサー
 電源投入時、ならびセンサー交換時に校正が必要である。フローセンサーはヒビテン等の薬液で静かに洗浄した後、オートクレイブする。なお、センサーは物理的には弱いが、超音波洗浄はできる。
3)加湿カプセル
 ディスポになっている。
11.定期点検
1)酸素センサー
 エラーメッセージがでれば交換。
2)冷却フィルター
 一ヶ月ごとに洗浄する。最低限、年に1回は交換。
3)アラーム回路のNiCd電池
2年に1度交換。
4)本体
 半年に一度、技術サービスによって作動点検、保守をする
5)予防的点検
 6年に一度行う。
12.欠点
1)SIPPVやSIMVを使用するにはメニュー構造が煩わしい。
2)無呼吸バックアップ機能は、まだ用意されていない。
 
 
図III-16-1       BabyLog 8000の外観
図III-16-2a       フローセンサー
Yピースに組み込まれたホットワイヤー型フローセンサーとストラット
図III-16-2b      吸気呼気の判別
吸気時はホットワイヤーV1の方がホットワイヤーV2より加温の影響を受けるのでV1<V2になる。呼気時にはV1,V2ともに影響を受けないので、V1=V2になる。つまりV1<V2であれば吸気、V1=V2であれば呼気と判別できる。
図III-16-3       吸気バルブと各バルブの流量
図III-16-4       ニューマティック回路
図III-16-5       操作パネルとパネル表示
図III-16-6       モニター画面での表示例
図III-16-7       メニュー構造
図III-16-8a       Aquamodの構造
図III-16-8b       患者回路構成