2.株式会社アイカ
MR−2000
1.特徴(図III-2-1)
 アイカ社は、簡易ではあるが麻酔/病棟用に使用できるEVA1200A、AAV(Adaptive Assisted Ventilation)を搭載したEVW1800(WEANY)など独創的な人工呼吸器を開発した。しかし、1987年に開発されたCLV-50は、商業的な戦略(定価が300万台でSIMVができ、エアー配管がなくても稼働する)にもかかわらず、コンプレッサーを内蔵しながらベローズを電動駆動するという過渡的な機構のため、良い評価を得なかった。CLV-50の後継機としてCLV-70が1993年に発売された。未来的なデザインのCLV-70は、吸気バルブ方式に変更され、基本性能は向上した。しかし吸気フロー制御能力は未だON/OFFの段階である。1993年末に登場した上級機種のAika MMR2000において、ようやく「吸気ガス流量を自在に制御する能力」を獲得し、海外の一流製品に匹敵する性能に達した。もちろんPSVも可能になった。
2.性能
1)利用できるモード
 CMV(=Control/Assist)    
 SIMV(Demand,Constant flow)
 CPAP(Demand,Constant flow)  
---------------------------------
 +PEEP
 +PSV
 無呼吸バックアップ
2)基本データー
システム作動間隔時間...5 ms
最大吸気ガス流量
  強制換気............120 LPM
  PSV.................150 LPM
吸気ガススルーレート..約20 L/s
最大強制換気数......... 60 BPM
最大SIMV回数........... 40 BPM
3.制御回路、制御機構
1)制御機構の概説
 パネルコントロール、吸気バルブ、メインの3ヶ所にマイクロプロセッサーを搭載する。メインは16bit、他は8bitCPUである。
2)機械的機構の特徴
 圧トリガー用のディマンド方式とフロートリガー用の定常流方式を備える。これらは同一の吸気バルブ制御系のソフト上の処理で為される。しかし、CLV-70では吸気バルブ系とは独立した「定常流機構+リザーバーバッグ」によるディマンド機構を用いる。
3)ガス流量計測
 吸気側・呼気側とも差圧式のセンサーを使用する。リゼロバルブにより電源投入時、5分後、あとは1時間毎にゼロ点を自動較正する。
4)吸気バルブ
 MMR-2000には電圧を変化させることで流量が変化する電空比例弁が採用されている。トータルシステムとしてトリガーより約80msで吸気ガスが届く。バルブ自体の開閉時間は約10msである。
 CLV-70では内腔に輪状の突起を持つシリコンチューブを挟むバルブ機構によりガス流量を調整する。これはサーボモーターにより駆動される。
5)呼気バルブ
 ガス駆動方式のバルーン弁である。
4.ニューマティック回路(図III-2-2)
 O/Airから入力したガスはフィルター1,2、圧スイッチ3,4、一方向弁5,6を経由してミキサー7に入り、酸素濃度を調節する(圧は2kgf/cmになる)。混合ガスは貯蔵タンク8で蓄えられる。ここからガスはフローセンサー9で計測された後、吸気バルブ10でガス流量を調節し、吸気ガスになる。途中には、過剰圧解放弁11、過陰圧解放弁12、システム異常時の回路解放弁13が設けられている。ネブライザー駆動用のガスは、一方向弁22、補助タンク23、ネブライザーソレノイド25を経由した後、流量調整弁26で6LPMに調整される。吸気相のみ送気する。近位気道圧モニターチューブ用にパージ流が用意されているが、これは電磁弁28、流量調整弁29により呼気相に0.1LPM流れる。気道内圧トランスデューサー30は、ゼロ点較正弁31により自動較正される。電磁弁32は呼気用フィルターの抵抗を測定するための切替弁である。呼気弁駆動用のガスは、通常はエアー側より供給される。一方向弁34,35、切替弁36により駆動ガスの種類を選択した後、レギュレーター37で0.1kgf/cmに減圧し、呼気弁ソレノイド44により吸気相で呼気弁を閉じる。呼気相では、電磁弁38を経て流量調整弁39で20LPMに調整されたガスが、PEEP設定弁41、PEEP安全弁41によりPEEP駆動圧が調整され、電磁弁42、呼気弁ソレノイド44を経て呼気弁を駆動する。PEEP安全弁41はPEEP設定弁41が完全閉鎖になっても圧が30cmHOを超えないように設けられている。PEEP圧は圧トランスデューサー43でモニターされる。電磁弁42は圧トランスデューサー43のゼロ点較正弁である。正常作動状態では、電磁弁52の出力ガスは吸気側の解放弁13(ニューマティック弁)と呼気側の解放弁50を閉じるが、システム異常時には、これらが開き、患者回路は大気に解放される。酸素濃度センサー18には、流量設定弁16により2LPMのガスが流れるが、電磁弁21に連動するニューマティック弁17が1時間に1回エアーを酸素濃度センサー18に流し、酸素センサーの較正をする。較正ガスは電磁弁19とレギュレーター20により供給される。
5.制御ソフト
1)トリガー方式
 コンスタントフローを選択すると、設定した流量の定常流(バイアス流)が流れ、フロートリガー方式になる。感度は0〜20LPMの範囲で選択できる。ディマンドフローでは圧トリガー方式になる。
2)ASSIST/CONTROL
 換気回数の設定を41BPM以上に設定するとモードは自動的にASSIST/CONTROLになる。4〜40BPMの範囲ではSIMVが優先的に選択されるが、モードボタンを操作してASSIST/CONTROLを選択することもできる。吸気波形は方形波、正弦波が用意されている。しかし正弦波の意義は不明である。
3)SIMV(図III-2-3)
 換気回数を0.5〜40BPMにすると自動的にSIMVになる。トリガーウィンドーは固定時間方式で、SIMVサイクル時間の80〜110%の部分に設けられている。トリガーウィンドーの期間中にトリガーを検出すると、それ以降のトリガーウィンドーは消失する。実際のSIMVサイクル時間は設定値の80〜110%の範囲で変動する。
4)PSV
 吸気終了認識条件は@吸気ガス流量がピーク流量の12.5%以下になる、A圧がPSVレベルを2cmHO超える、B吸気時間が2.5秒に達する、のいづれかを満たした時点である。
5)CPAP
 換気回数を0BPMにすると自動的にCPAPになる。ディマンドフローが初期選択される。
6)ディマンド機構(ディマンドフロー・コンスタントフロー)
 ディマンドフロー、コンスタントフローのいづれを選択しても、吸気ガスの不足分は最大150LPMまで吸気バルブ系により供給される。ただし、ディマンドフローを選択した場合は圧トリガーレベルで、コンスタントフローを選択した場合はフロートリガーレベルもしくは-3cmHOの圧でディマンド機能が起動される。なお、これらは同一の吸気バルブ系より提供され、概念的にはNew Port E-200のバイアス流と類似である。しかしE-200と違い、フロートリガー方式なので、PSVやASSIST/CONTROLでも定常流の多少に関わらずトリガーディレーは変化しない。
7)SIGH
 SIGHは患者サイクルで開始され、従圧式(pressure regulated)で任意の吸気圧(10〜120cmHO)、任意の回数(2〜16SPH)で与えられる。CPAPモードでは、終了も患者サイクルで「吸気流量が12.5%以下に低下する、もしくは気道内圧が設定値より2cmHOを超える」と終了する。他のモードでは、タイムサイクルで終了する。
8)無呼吸バックアップ
 設定された無呼吸監視時間を経過すると、アラームが鳴り、換気回数12回のSIMVでバックアップ換気をする。アラームを解除するか、患者トリガーでの吸気後に80mlの呼気ガスを検出すると、もとの設定に復帰する
9)トリガー感度のPEEP補正
 これは圧トリガー方式のみ有効である。呼気相では気道内圧の下降カーブはPEEP/CPAP圧に安定するが、変化量が一定以下になった時点でベースライン圧を計測・記憶し、圧トリガーへの基準にしている。これはリークなどで誤動作しない為の対策である。しかし呼吸数が変動すると基準圧が変動する欠点もある。
(10)出力
 オプションでフロー、圧、酸素濃度、プリンタ、アラーム、等を出力できる。
6.操作体系(図III-2-4)
 モードは換気回数を設定すると自動選択される。他の項目は、パネルデザインに従い、つまみを順に設定していく。パラメーターは自動演算されて左側のディスプレーに数値表示される。アラームやあまり使用しない項目はサブパネルで設定する。サブパネルは蓋で隠れる。
7.モニター、アラーム機能
 アラームは、患者状態と機器作動状態の2グループに分かれている。前者には、無呼吸、気道内圧(下限・上限)、分時換気量(下限)、自発呼吸回数(下限・上限)が、後者には、システム、供給ガス圧、酸素濃度(下限・上限)、PEEP(下限・上限)、停電のアラームがある。これらの異常時には、アラーム項目に対応したインディケーターが点灯する。また、アラーム発生後の経過時間も表示される。
8.ディスプレー機能(図III-2-5)
 アナログ波形画面、設定数値画面、トレンド、自己診断画面がある。波形画面では気道内圧とガス流量を表示する。
9.患者回路構成、加湿器
 図に示した(図III-2-6)
10.日常のメンテナンス
 吸気側フィルターはオートクレイブのみ可、25回まで滅菌できる。呼気弁は本体内にあるので、呼気側にも必ずフィルターを使用する。呼気側のフィルター、近位気道内圧モニターチューブ用のフィルター、加湿チャンバー、はディスポである。呼吸回路はディスポもしくは再使用型がある。
11.定期点検
1)1ヶ月毎
 ユーザーはイニシャルテスト、点検、消耗部品の交換をする。
2)6ヶ月毎
 サービスエンジニアにより点検、調整、試験、部品交換をする。
3)2年(5,000時間)毎
 工場での試験、分解、調整、部品交換をする。
4)6年(15,000時間)毎
 オーバーホールを受ける。
12.欠点
1)新登場の最新鋭機にしては、呼気弁の制御能力や駆動方式が古典的であり、新しい呼吸モード(SIMV/PCV,BIPAP)も装備されていない。
 
CLV-70
1.特徴(図III-2-7)
 外見は斬新であるが、機構は保守的である。自発呼吸には、PSVではなく、古典的な「定常流機構+リザーバーバッグ」で対応する。しかし吸気バルブ自体は電気信号で流量を変える事ができ、この点はいかにも過渡的である。
2.ニューマティック回路(図III-2-8)
 O/Airから入力した高圧ガスはレギュレーターPR1,PR2で減圧される。ブレンダーで酸素濃度が調節される。吸気弁MLVの働きで吸気ガスができる。呼気弁駆動ガスは酸素より供給される。電磁弁SL1,SL2,SL3の働きにより呼気弁が開閉される。電磁弁SL12,SL8とネブライザーポンプによりネブライザー駆動ガスが発生される。定常流ガスは電磁弁SL7の開閉により発生される。エアーコンプレッサーを内蔵しないモデルも選択できる。 
 
図III-2-1    MMR-2000の外観
図III-2-2    MMR-2000のニューマティック回路
図III-2-3    トリガーウィンドー
図III-2-4    MMR-2000操作パネル
図III-2-5    ディスプレー例 圧・フロー曲線
図III-2-6    患者回路接続図
図III-2-7a   CLV-70の外観
図III-2-7b   CLV-70の操作パネル
モード設定はボタンで選択する。数値設定は項目に該当するボタンを押して項目を確定し、矢印のボタンで数値を選択する。設定値はディスプレーに表示される。
図III-2-8    CLV-70のニューマティック回路