10.Infrasonics
Adult Star (図III-10-1)
1.特徴
 小児用の人工呼吸器として評価の高いInfant Starを開発したInfrasonics社が作製した成人用人工呼吸器である。内部構造には最新のコンピューター技術が盛り込まれていて、デザインや操作方法とともに、まさに「パソコン・べンチレーター」である。Infrasonics社もNellcor Puritan Bennett社もMarincrodt社に買収されて、現在はInfrasonics社の存在はない。Adult Starも1998年12月で製造中止となる。
2.性能
1)利用できるモード
 Control/Assist(VCV,PCV)    
 SIMV(VCV) +PSV
 SIMV(PCV) +PSV
 CPAP(=PSV)       
 Apnea ventilation(VCV or PCV)
---------------------------------
 +PEEP
 +SIGH
 
2)基本データー
システム作動間隔時間...10 ms
最大吸気ガス流量
  強制換気............120 LPM
  ASB.................150 LPM
吸気ガススルーレート... ? L/s
最大強制換気数.........80 BPM
最大SIMV回数...........80 BPM
 
3.制御回路、制御機構の解説
1)制御機構の概説
 マルチ-MPU(Micro Processor Unit)がこの機器の大きな特色である。従来、一つのMPUで全ての機能をコントロールしてたが、マルチ-MPUを使うことで、各MPUの仕事量を減らし、より高速な作動を達成する。しかし各MPUのエラーによりシステムダウンが発生する頻度は増加する。Adult Starではメイン、グラフィック、A/D変換、吸気バルブの流量制御に2箇、の合計5箇のMPU(順にIntel 80188 x2,Intel 8031 x3)が使用されている。その内3箇のMPUは独立して作動を行っており(吸気バルブ用の2箇のMPUはメインのスレーブになる)RAMをメールボックス(mail box)として使うことで各MPU間をアイソレーションし、エラーが全体に波及するのを避けている。
 また、換気条件などの設定方法も特異的で、パソコンと同様に回転式のノブ(マウスと呼ばれる)と入力キーだけでほとんどの操作が可能である。
2)機械的機構の特徴
 Bennett 7200aeのように、呼気弁直前に呼気弁の汚染防止を目的に加温したバクテリアフィルターを設置して、呼気弁の日常的な洗浄、滅菌を不要にしている。また、呼気弁のドライバーも変わっていてパルス数をデジタル的に調整することで目的の圧を発生する。
3)ガス流量計測(図III-10-2)
 吸気側と呼気側に"Silverman type pneumotachometer"と呼ばれるフロートランスデューサーが用いられている。これは金網"mesh wire screeen"を通過するガスによって生じる圧勾配を差圧計(differential pressure transducer)で計測して流量に換算する。
4)吸気・呼気バルブ
 吸気バルブは電気的に流量調整が可能なサーボバルブで、ステッパーモーターにより駆動される。呼気バルブにはガス駆動型のマッシュルームバルーンが使われている。
4.ニューマティック回路(図III-10-3)
 O/Air はそれぞれウォータートラップとフィルターを経由して入力される。ガス入力部には一方向弁があり、配管への逆流を防止する。両ガスはレギュレーターで減圧、安定化された後、フローコントロールバルブを通り、一期的に酸素濃度調節と吸気ガス流量調整が行われ吸気ガスになる。フローコントロールバルブでの減圧の程度は計測され、バルブ制御の精度を維持するのに利用される。吸気ガスの一部はネブライザーポンプにより吸引されてネブライザー駆動用のガス(10psi,8LPM)になる。吸気ガス流量はフロートランスデューサーにより測定され、吸気バルブのサーボ制御用の情報になる。安全弁は吸気ガス出力に設けられており、異常高圧時の解放弁として、また機器異常時の回路解放弁として機能する。呼気ガスはヒーターボックス内の加温バクテリアフィルターを通り呼気弁に導かれる。呼気ガスも流量計により流量、換気量が計測される。 なお、フロートランスデューサーの較正は自動的に行なわれる。
 呼気弁(exhalation valve)は、吸気時にはIMVレギュレーターで60cmHOに調節された駆動用ガスで閉じられる。一方、呼気時にはPEEPレギュレーターで調節された駆動用ガスでPEEPのレベルを調節する。IMVレギュレーターの出力圧は60cmHOであるが、実際には呼気弁と呼気弁バルーンとの面積比が数分の1なので、139cmHOの高圧安全弁として作動する。吸気と呼気での呼気弁の駆動ガスの切り替えはSV3で行われる。SV0は呼気時の駆動圧開放弁である。なお、VENT#1 VENT#2 はニューマティック回路系の応答性を高速にするために設けられている。
 呼気弁駆動圧生成回路(IMV/PEEP pneumatic control system)はユニークである。一般に、呼気弁駆動ガス(これでPEEPを作る)は、サーボバルブやメカニカル方式のレギュレーターでつくられる。Adult Starでは電磁弁"SV1"のスィッチングによって発生される。その切替頻度は低い圧では少なく、高い圧で多い。しかし、高速作動のため取り出せる流量が少ないので、ゴム製のアキュムレーターバッグで圧を平滑化(リップル除去)したあと、この圧を基準圧としてPEEPレギュレーターで駆動用ガス圧を得ている。PEEPレギュレーターは電気回路の電流増幅素子と同じ役割である。PEEPレギュレーターには、駆動ガス圧が安定化するようにサーボ制御されているが、実測PEEP圧に基づくサーボ制御ではない。
 図には記載されていないが現在のバージョンでは、近位圧センサーチューブ"proximal pressure tube"には毎吸気時に約1.5 ml程度エアーパージがあり、水滴凝集によるトラブルを防止している。
 エアー配管だけ、酸素配管だけでも、自動的に切り替えて作動し続けれるように自動切替弁"back to back check valve"がIMV/PEEPレギュレーターにガスを供給する構造になっている。また、コンプレッサー内臓モデルではエアー供給が停止したときに自動的に内臓コンプレッサーが作動する。
 圧トランスデューサーやフロートランスデューサーは自動的にゼロ点較正バルブにより較正される。
5.制御ソフト
各機能の説明
1)トリガー方式
 遠位圧センサーチューブ(Proximal pressure tube)によって、患者の口元近くの圧変化を感知する圧トリガー方式である。M&Aの影響でフロートリガー機構(つまり、フローバイ2.0と同じもの)の開発スケジュールは遅れている。
2)ASSIST/CONTROL
 通常はVCVによるCMVである。PCVも利用できる。
3)SIMV
 可変時間方式(全期間式)である。強制換気にはVCVとPCVが利用できる。自発呼吸にはPSVが利用できる。
4)PSV
 吸気終了認識条件は、吸気ガス流量が10LPMもしくはピーク値の25%のいづれかより低下した場合、気道内圧が設定圧より3cmHO以上に上昇した場合、吸気流量が4LPM以下に低下した場合、吸気時間が 3.5秒(小児用回路では2.5秒)を超えた場合である。
5)PCV
 オプションで利用できる。PCVにはI:E cycledとTime cycledの二つの設定方法がある。I:E cycledではモードはASSIST/CONTROLしか利用できない。これはIRV/PCVを想定したモードであり、鎮静状態を前提にしている。一応自発呼吸にトリガーする。Time cycledではすべてのモードで利用できる。その際VCVのかわりにPCVが適応される。呼気時間が200mSを切るとアラームが作動し、強制的に200mSを確保する。この場合は設定呼吸数は確保できない。CPAPモードではバックアップ換気がPCVで行われる。
 PCVの吸気の立ち上げ流量は10〜160LPMの範囲で設定できる。
6)無呼吸バックアップ
 無呼吸アラーム(5〜60秒で設定可能)が作動すると、自動的にアプネア回数(0.5-80回/分で設定可能)でバックアップ換気(VCV or PCV)が始まる。自発呼吸が連続して3回トリガーすると元の換気条件に戻る。
7)肺メカニクス(図III-10-4)
 オプションで、静的メカニクスと動的メカニクス、フロー/ボリューム曲線、ボリューム/圧曲線の表示、Auto-PEEPの測定ができる。
8)Sigh
 Sighは、換気量(100〜2500mlで設定可能)と回数(0〜20回/時で設定可能)の設定ができる。PCVではSighは使えない。
9)バッテリー駆動
 内臓のバッテリーによって、停電しても約 20 分くらい作動し続けれる。
10)外部出力
 EPSONやHP ink jet等の IBM AT.XT compatible PRINTERを使用してグラフや データをプリントアウトできる。RS-232CやANALOG Pressure Outputも用意されている。
11)拡張ボード
 メモリーやボードに将来の拡張を見込んで余裕を持たせているので、マウスによる操作環境と相まって、機能が簡単に拡張できる。
6.操作体系
1)画面(図III-10-5)
 14 インチ、モノクロCRTに、すべての設定や表示をディスプレーする。 すべての操作は、選択(SELECT knob)、入力(ENTER key)、ヘルプ(HELP)、画面切替(SCREEN CHANGE)のキーだけを使用する。画面は以下の 3 種類がある。(図III-10-6,7,8,9)@設定画面(Ventilator setting screen)この画面でのみ、機械の設定やアラームレベルを変更できる。PCVを利用する場合はPending Screen(Pending;未決、審議中の意)が表れ、設定内容を確認する。Aモニター画面(Monitoring,Patient status)この画面では患者の状態が一望できる。
Bグラフィック画面(Graphic Monitoring screen)この画面にはPaw、Flow、Vt のグラフが同時に表示される
7.モニター、アラーム機能
1)無呼吸アラーム
 無呼吸と認識するトリガーの無い時間を、5〜60秒の範囲で設定可能である。
2)気道リークアラーム
  6LPM以上のリークを感知すると作動する。また、自動的に22LPMまでのリークは代償可能である。
3)その他
 気道内圧、分時換気量、呼吸数、器機の作動異常、電源異常、ガス異常、等のアラームも搭載されている。
8.ディスプレー機能
 CRTに設定、アラーム内容、グラフィック等の情報を表示できる。
9.患者回路構成、加湿器
 加湿器には標準の指定品はない。Puritan-Bennett社製、Fisher&Pykel社製、等が取り付け可能。
10.日常のメンテナンス
1)クイックテスト
 使用前には必ずクイックテスト"QUICK TEST"(15秒)を行なう。RESETとALARM SILENCEを同時に押してテスト画面に入り、指示通りに操作する。以下の14項目がテストされる。
  Pressure Transducer Comparison Test
  Patient Circuit Leak Test
  Patient Circuit Comliance Test
  One way valve Lealage Test
  Air Flow Delivery Test
  Exhaled Flow Measurement Test
  O Flow Delivery
  Safety Valve Pressure Relief Test
  Flow Stop Valve Test
  Exhalation Valve Pressure Relief Test
  Rendundant Safety Valve Pressure Test
  PEEP Test
  Exhalation Filter Test
  VENT INOP Test
2)呼気側のバクテリアフィルター
 クイックテストで不合格の場合、あるいは5000時間使用ごとに交換する。ヒーターボックス内で加熱されので専用品(\15000)を用いる。ネブライザーを使用すると寿命が短くなる。滅菌はオートクレイブのみ可である。
11.定期点検
1)2500時間ごと
 呼気弁は金属製であるが内部にシリコン製の膜が含まれている。これは2500時間ごとの交換が勧められている。
2)5000時間ごと
 ほこりフィルターは5000時間ごとに清掃する。バクテリアフィルター、吸気側フィルター、呼気側フィルターは、12ヶ月ごとに交換する。
3)Extended Verification Test
 6ヶ月ごとに実施する。
12.欠点
1)吸気ガスの流量制御能力は第四世代機にふさわしい能力を持つが、呼気弁の制御能力は充分とは言えず、第二世代機並である。
2)なぜかO 100% フラッシュキーがない。
 
 
 
図III-10-1     Adult Starの外観
図III-10-2     フロートランスデューサーと呼気弁
上部の白色の部分が差圧式フロートランスデューサーである。下部の金属部分は呼気弁である。      
図III-10-3     Adult Starのニューマティック回路
図III-10-4     肺メカニクス画面
図III-10-5     操作パネル
設定はScreen Change キーとSelectノブとENTERキーだけで操作する。項目に到達するまで忙しくSelectノブとENTERキーを操作することになる。
図III-10-6     設定画面
設定する項目までSelectノブを回してカーソルを移動し、ENTERキーで項目を確定する。希望の数値(項目)が表示されるまでSelectノブを回し、ENTERキーで数値(項目)確定する。操作のガイドは画面下に表示されている。日本語表示にもできる。
図III-10-7     モニター画面
図III-10-8     グラフィック画面
図III-10-9     PCV設定用の画面
PCVはI:E比から設定する画面と吸気時間より設定する画面が選択できる。SIMV(PCV)も選択できる。