1.アコマ医科工業株式会社
ART-2000(図III-1-1)
1.特徴
 大多数の国産の人工呼吸器は、麻酔器メーカーの製品であるが、麻酔器ほどには受け入れられていない。必然的に麻酔用人工呼吸器をベースに開発される制約を背負ってきた。そのため、従来の国産機の殆どは「ベローズを電動モーターで駆動して吸気ガスを発生する機構」を採用してきた。しかし、海外では、「高圧ガスを動力源に、吸気バルブを電気的に制御し、吸気ガスを発生させる機構」が主流であった。この基本的なメカニズムの差が、レスポンス、パワー、最大流量、制御能力などに決定的な差となって現れた。遅らばせながら、国産機もフローコントロールバルブ方式へと移行しつつあり、ART-2000は、その第一号機である。また、これは国産初のPSV装備機でもある。
2.性能
1)利用できるモード
 Control/Assist
 IDV(=SIMV,CPAP;定常流+PSV)
---------------------------------
 +PEEP
 無呼吸バックアップ(IDVモード)
2)基本データー
システム作動間隔時間...20 ms
最大吸気ガス流量
  強制換気............60 LPM
  PSV.................60 LPM
吸気ガススルーレート...? L/s
最大強制換気数.........40 BPM
最大SIMV回数...........40 BPM
3.制御回路、制御機構
1)制御機構の概説
 Main,Sub,Bargraphに、それぞれ8bitCPUが使用されている。
2)機械的機構の特徴
 PSVを装備しているのに、古典的な「定常流+リザーバーバッグ」を併用する風変わりな構成である。これは吸気バルブ系に、最大吸気ガス流量を大きく確保する対策がない事が原因である。一般に、シングル・フローコントロールバルブ方式ではピーク流量を大きくする為に、吸気バルブに高流量が得られる部品を使用する。また、ブレンダーの抵抗を補う意味で、混合ガスを蓄える貯蔵タンクを設ける。Acoma ART-2000では、そのかわりに「回路内定常流+リザーバーバッグ」を装備する。これは、吸気バルブ系のディマンド能力の不足や最大流量の不足を補うためであり、メーカー自身がディマンド性能(最大60LPM)に満足していない事の裏返しであると考えて良い。この回路構成は、CPAPにおいては、ディマンドフロー方式に比べて吸気仕事量を軽減する簡単で合理的な方法に思える。しかし、PEEP/CPAPに対しては、ゴム製のリザーバーバッグのコンプライアンスによって送気速度が変化すること、常に緊満しているとは限らないのでPEEP/CPAP圧が変化すること、バッグ寿命など不利な側面もある。PSVでは、定常流が自発呼吸の検出を妨害し、トリガーが遅れてしまう。
3)ガス流量計測
 吸気側には差圧式流量計が内臓されている。呼気側には流量測定機能はない。
4)吸気バルブ(図III-1-2)
 電磁コイルを駆動する電流の大小により弁の開口度が調整される。
5)呼気バルブ(図III-1-3)
 原理はバルーン弁と同じで、膜をガスで駆動する方式になっている。80cmHOで閉じる。異常高圧は、呼気弁でリリーフする。
4.ニューマティック回路(図III-1-4)
 エアーは、入力端子1より入る。コンプレッサーの出力は4より入る。これらを分離するために逆止弁3,5がある。圧スイッチ2は250kPaに調整されているが、エアー圧が低下すると内臓コンプレッサーを作動させる。圧スイッチ7は300kPaに調整されている。これより圧が低下するとエアー圧アラームが作動する。フィルター8を経た圧縮エアーはタンク10に蓄えられ、リップル圧の除去とエアー圧の安定化が行われる。ドレーンソレノイド9は1時間につき2秒開き、タンクの水抜きを行う。酸素は入力端子13より入る。圧スイッチ14は低O圧アラーム用である。逆止弁16やフィルター17を経た酸素とエアーはリレーバルブでパイロット圧に調整される。パイロット圧はレギュレーター18で280kPaに調整されている。
 均等圧に調整されたガスは、O/Airブレンダー20に入り酸素濃度を調整する。電磁弁21はO100%スイッチを押したときブレンダーをバイパスして100%酸素を2分間供給する。混合ガスは、さらにレギュレーター22で200kPaに調整される。吸気バルブ(Proportional valve)23により駆動電流に応じたガス流量に調整されて、吸気ガスが創られる。吸気バルブは差圧式の吸気流量計24と圧センサー25の測定値に基づきサーボ制御される。吸気ガスはフィルター26と加温加湿器27を経由して患者に供される。電磁弁42と緊急解放弁43はシステム故障時に呼吸回路を大気に解放する。吸気バルブと平行して、定常流量調整弁28、定常流電磁弁29、リザーブバッグ31、逆止弁30による、10LPMの回路内定常流回路も用意されている。これはIDVモードの強制換気相以外の時に定常流電磁弁29が開いて供給される。
 ネブライザー用のガス(6LPM)はニードル弁32と電磁弁33で造られる。吸気ガスがネブライザー回路に逆流しないようにパージガスがニードルバルブ34により供給される。
 呼気弁44はガスにより駆動される。これは異常高圧時のリリーフ弁も兼ねる。レギュレーター36で150kPaに調整後、吸気相用ガス流もしくは呼気相用ガス流を電磁弁40で切り替えてベンチュリ41に入力し、ガス流量に応じた圧を発生させ、この圧で呼気弁を駆動する。吸気相用は安全圧80cmHOになるようにニードル弁39で流量設定する。呼気相用にはPEEP/CPAP用ニードル弁37で20cmHOに相応する流量に設定し、さらにPEEP/CPAP弁38でオペレーターが希望のPEEP/CPAPになるように流量を調整する。
5.制御ソフト
各機能の説明
1)トリガー方式
 圧感知方式である。吸気側に組み込まれた圧センサーで感知する。トリガー圧はPEEP圧に応じて自動補正される。
2)CONTROL/ASSIST
 波形制御ができる。暫減波、正弦波、暫増波が選択できる。暫減波、暫増波では設定フローレートの+50%〜-50%の範囲で変化する。
3)IDV(=SIMV)
 固定時間方式である。トリガーウィンドーはSIMVサイクルの終末側の25%に、最大5秒を限度に設けられている。IDVを選択すると自動的に回路内定常流10LPMが付加される。SIMV回数を0回にするとCPAPモードになる。
4)PSV
 吸気流量が0LPMになると、呼気に移行する。その他には制限項目は無い
5)無呼吸バックアップ
 IDV(=SIMV、CPAP)モードでは15秒以上、呼吸トリガーあるいは強制換気がなければ、アラームが作動すると同時に6秒ごとにバックアップ換気(CMV)が行われる。
6)回路コンプライアンス補正
 標準回路のコンプライアンスは1.3ml/cmHOであるので、設定換気量に応じて補正する。(標準回路以外では正しく補正されない)
7)ネブライザー
 6LPMの駆動ガスが供される。14LPM以上のフローレート設定で使用できる。30分後に自動停止する。ネブライザー使用時でも換気量は変化しない。     
8)SIGH
 Sigh の設定は、100呼吸に1回、1回換気量の200%である。マニュアルで選択できる。
9)Fluctuating PEEP(F-PEEP,F-CPAP)(図III-1-5)
 オプションでCF-PEEPユニットを付加するとFluctuating PEEPを併用できる。これは任意の周期、任意の圧差でPEEP/CPAPを変動させる装置である。
6.操作体系(図III-1-6)
 設定したい項目ごとに△▽キーによって、希望の表示値を設定し、入力キーを押す。
7.モニター、アラーム機能
 7種類のアラームが装備されている。
1)回路内低圧アラーム;可変(2〜76cmHO)
2)回路内高圧アラーム;可変(4〜78cmHO)
3)吸気圧リミット  ;固定(80 cmHO)
4)無呼吸      ;固定(15秒)
5)その他;停電、供給ガス停止
8.ディスプレー機能
1)設定された項目について、それぞれのボタンの隣に数字が表示される。
2)気道内圧を除いては、患者の呼吸状態はモニターされない。
9.患者回路構成、加湿器(図III-1-7)
 呼吸回路のチューブは、途中のチューブアダプターを介してサポーティングアームで支持される。ホースヒーターを使用する。加湿器はF&P 428 型を標準装備する。
10.メンテナンス
 一般的な取り扱いに準じる。
11.定期点検
1)5,000時間
 レギュレーター18,22,23,36を規定値に調整する。吸気バルブの制御ボードの各種トリマー調整、各種ニードル弁28,32,34,37,39の調整、圧センサー、フローセンサーの校正、その他の各機能の点検、を行う。
 呼気弁アッセンブリー(ニードルバルブ39,ソレノイド40,ベンチュリー41)を交換する。
2)10,000時間
 各種電磁弁、吸気バルブアッセンブリー、フィルター、呼気弁膜アッセンブリー、パッキング類を交換する。
3)2年毎
 メモリーバックアップ用の電池、電源用のバックアップバッテリーを交換する。
12.欠点
 最大吸気流量や最大ディマンド流量が少な過ぎる。PSVでの性能も不充分である。
 
ART-1000
1.特徴(図III-1-8,9)
 ART-1000はアコマ社の最新モデルであるが、一応はART-2000の下位機種にランクされる。ART-1000では、コンプレッサーや圧縮空気の配管がなくても作動するように電動モーターでベローズを駆動する機構が採用されている。しかしART-1000の性能はART-2000と同等以上であり、CMV Pressure Limitモードや、換気量モニター、フロートリガー、定常流量の選択、バックアップ機能での選択、PSVの立ち上げ速度の選択、が可能になっているなどART-2000より機能が拡張されている。もちろんPSVも可能で、F-PEEPも付加できる。
2.構造の概説
 強制換気やPSVはベローズ駆動により、定常流は別の系統より定常流ポンプを使って供給される。ネブライザーも、吸気のフローの一部を使ってネブライザーポンプで駆動される。
3.流量センサー
 流量計は患者とYピースの間に設置されている。この流量計は内部メンブランの両側の圧較差を計測する差圧式である。吸気、呼気とも測定される。一回換気量や分時換気量のモニター以外に、フロートリガー用の信号を検出する役目とコンプライアンス補正用の情報を提供する役目を担っている。
4.トリガー方式
 標準では流量トリガー(5〜40LPM)であるが、機械の背面のスイッチで圧トリガー(-0.1〜5cmHO)に切り替えることができる。
5.CMV Pressure Limitモード
 プラトースイッチの選択で作動が変化する。ONの場合は、Time cycle,Pressure Plateauで換気が行われる。吸気フローが不足してプラトーに達しないときはフローレートのアラームが作動する。OFFの場合はPressure cycleによる換気が行われる。I:E比が逆転した際は、2:1になった時点で呼気へ移行する。
6.ニューマティック回路(図III-1-10)
 酸素入力(1)より入った酸素は電磁弁(5)の断続により酸素リザーバー(6)に充填される。リザーバー内のガスが少なくなるとマイクロスイッチ(7)が入り電磁弁(5)を開く。リザーバーの内圧は大気圧である。酸素途絶時に備えて安全弁(10)が用意されている。ブレンダー(12)により酸素濃度を調節する。混合ガスはモーター(15)駆動によりベローズ(14)内に吸引され、次に駆出されて吸気ガスになる。定常流はIDVポンプ(21)により供給される。 呼気弁は、酸素ガス圧により駆動される。吸気時には安全圧調整弁(29)で調整された圧で呼気弁を閉じる。安全圧を超える患者回路の異常高圧ガスは呼気弁(33)より大気へリリーフされる。呼気時にはPEEP調整弁(28,30)で調節された圧で呼気弁を閉じる。これらの切替えは電磁弁(31)で行われる。ネブライザーはネブラーザーポンプ(25)で発生される。
 トリガー信号と換気量の計測はフローセンサー(34,35)により行われる。
 
 
 
 
図III-1-1   ART-2000の外観
図III-1-2   吸気弁の構造
図III-1-3   呼気弁の構造
図III-1-4   ニューマティック回路
図III-1-5a  F-PEEP装置の外観
図III-1-5b  F-PEEPのニューマティック回路
図III-1-6   ART-2000の操作パネル
図III-1-7   患者回路(ART-1000)
図III-1-8   ART-1000の外観
図III-1-9   ART-1000の操作パネル
設定したい項目の横にあるキーを押して設定項目を選択し、ディスプレーの表示を見ながら△▽のキーで数値入力する。最後に入力キーで確定する。
図III-1-10  ART-1000のニューマティック回路