M. ASV(Adaptive Support Ventilation)
1.ASVの概念と目的
 ASVはHamilton社Galileoに搭載された新しい概念の換気モードで、患者の肺メカニクスを呼吸毎に計測して理想換気回数を決定し、次に目標分時換気量をこれで除して目標1回換気量を決定する。最少の呼吸仕事量と最少の強制を、換気能力の大小に関わらず、あらゆる患者に滑らかに提供するのを目的とする。理論的バックボーンとして、Otisの式(制御理論のところで後述する)が重要な役割を果たす。この式によって患者の呼吸仕事量が最少になる換気回数を決定するが、目標換気回数を患者に適応する手段として、目標換気回数と自発換気回数の差の回数をSIMVによる強制換気で補充する手法が採用されている。さらに目標1回換気量を適応するために、自発呼吸はPSVで、強制換気はPCVで換気するが、先行換気で得たコンプライアンスに基づいては、PSV圧(Psupport)もしくはPCV圧(Pcontrol)を目標値になるように(Evita4のAutoFlowのように)自動調節するので圧換気方式のまま量換気を達成する。
2.ASVの構成要素
1)理想体重
 理想体重とは患者の実際の体重ではなく、患者のあるべき体重を意味する。理想体重を入力すると、自動的に目標分時換気量、気道死腔、そしてそれに基づいて、制御用のパラメーターが自動的に設定される。したがって理想体重の設定は重要なファクターでありわかりやすい指標である。しかし内部処理では、理想体重をもとに目標分時換気量を決めているに過ぎない。それならば直接的に目標分時換気量を設定するオプションも選択できる初期設定画面を用意しておくのが合理的であろう。
2)%分時換気量(%MV)
 この設定は1回換気量を調節するのに直接的な役割を果たす。それ以外にも目標換気回数の下限を規定する指標に影響する。患者の換気能力が保たれている場合は%MVを減らしても換気回数は減少しない。保たれていない場合は%MVを減少させると換気回数(f-target)も若干低下する。
3)理想換気回数
 ASVではOtisの式に基づいて理想換気回数を決定している。Otisの式は呼吸仕事量が最少になる理論的な換気回数を決定する式であるが、それが最良の換気回数であるというのは、力学理論上は納得できても、臨床上正しいとは限らない。
4)Radfordの式
 気道死腔を直接計測するには困難が伴うので、理想体重より統計的に求めるのがRadfordの式である。Otisの式の中で死腔の占める割合は少ないので、一般的には誤差はあまり影響しないと考えられる。
3.ASVの制御方式
1)制御機構
 MPU制御方式だけである。
2)制御理論(図1-18)
 ASVの理論的根幹は、呼吸仕事量を最少にする換気回数を決定するOtisの式にある。呼吸仕事量は弾性仕事(肺・胸郭コンプライアンスなどで決まる)と抵抗性仕事(気道抵抗などで決まる)の和である。これが最少になる換気回数が目標換気回数(f-target)となる。この図を数式化したのが、次のOtisの式: A.B. Otis, W. O. Fenn, and H. Rahn, "Mechanics of breathing in man", J Appl Physiol, vol. 2,pp. 592-607, 1950である。
 
 
 
 
VDは2.2ml/kg body weightで推定する。しかしf-targetを決定するにはRCeが未定である。ASVでは、5回のPCVによるテスト換気によってTI, TE, Total Rate, VTinsp., RCexp, V/P(dynamic compliance)のデータを得る。TIは実測吸気時間、TEは実測呼気時間、Total Rateは自発換気回数と強制換気回数の和で総換気回数、VTinsp.は吸気1回換気量、RCeはexpiratory time constantで、呼気1回換気量をピーク呼気ガス流量で割ったもの、V/Pは吸気1回換気量をピーク気道圧で割ったもの、である。Total Rateをfに代入し、他の項目も先行換気での実測値を代入するとf-targetを計算できる。設定分時換気量(0.1LPM/kg ideal body weightで決定する、小児では0.2LPM/kg)に対する%値が%MVであるので、%MV/f-targetがVT-targetとなる。TE=3*RCeを用いるとTI=60/f-target - TEとなる。VT-targetとV/Pを用いると次の換気圧(Pcontrol, Psupport)が決まる。このようにして次の換気を行い、さらにTI, TE, Total Rate, VTinsp., RCexp, V/Pのデータを得る。このようなプロセスを呼吸毎に繰り返すことで最適な換気を提供していく。これらのパラメーターには正常範囲が設けてあり、逸脱した場合はLimit値を用いて他のパラメーターが適合するまで再計算を繰り返す。









 
Parameter   Minimum Limit   Maximum Limit
Inspiratory Pressure
Tidal Volume
Mandatory Rate
Inspiratory Time
Expiratory Time
RCe
I:E ratio
V/P
f-target
  PEEP + 5cmH2O
  2*VD
  5 bpm
   RCe or 0.5sec.
  2*RCe
  0.1
  1:1
  5
  5
  Phigh - 10cmH2O
  10*VD
  60 bpm
  2*RCe or 3sec.
  12sec.
  2
  1:4
  120
  60
 
3)換気回数の達成方法
 自発呼吸回数の不足を単純にSIMV回数で補うアイデアは一見合理的に思える。しかしSIMVは自発呼吸数に付加して強制換気数を与える換気モードではなく、自発呼吸の一部に同期して(上乗せして)強制換気を与える換気モードなので、総換気回数は、自発呼吸回数>SIMV回数の場合には自発呼吸回数に等しく、自発呼吸回数<SIMV回数の場合にはSIMV回数になる。したがって、自発呼吸回数の不足分をその回数のSIMVで補充する方法では、実際の総換気回数はすぐには増加しない。
 これを以下にシュミレーションしてみる。f-termは目標換気回数を意味する。f-triggerは自発呼吸とか強制換気とかを問わずトリガーしたすべての換気回数を意味し、本質的な意味での患者の真の自発呼吸回数である。f-SIMVは設定SIMV回数である。SIMVでは強制換気を加重していない自発呼吸だけをf-spont.と定義する。強制換気を加重した自発呼吸はf-controlに計測される。f totalは人工呼吸器によって送気される総換気回数である。f totalはf-spont.とs-controlの和である。最初に@を初期状態とし、換気回数12で、f-SIMVを6とし、f-spontとf-controlはそれぞれ6とする。すべて自発呼吸によりトリガーしている。Aでは自発呼吸が減少しf-triggerが10に減少したとする。f-SIMVは6のままなのでf-controlは6になる。その結果f-spontはf-trigger - f-controlなので4になる。f-totalは10になる。Bでは、f-SIMVはf-term - f-spontの計算12-4=8にしたがい、f-SIMVは8に増量されている。Cではさらにf-SIMVが10になり、Dでは12になり、ようやくこの段階でf totalは12まで回復する。Eではf-termが15に増加したとする。この際にはf-SIMVはいっきに15に増加するのでf totalもすぐに15になる。次は@の状態からf-triggerが15まで増加した状態をFとする。GHと順次f-SIMVが減少して強制換気回数は減少するがf-totalはf-triggerと同じ15のままである。今度は@の状態からf-termが10に減少した状態Iを想定する。この場合はJKと順次f-SIMVは減少する。LではKの状態からf-triggerが減少した状態を示す。MNとf-SIMVは増加して最終的にf totalは10まで回復する。これらの結果を見てわかるようにf-triggerが減少するとf totalが回復するのに時間を要する。一方、f-termの急な増加はf totalにすぐ反映される。f-triggerがf-termより多い場合は、f-totalにはf-triggerの値がそのまま反映され、けっしてf-termは結果に発現されない。しかし、f-SIMVを減少させるのに働く。Lのようにf-triggerの急激な減少が生じた際にはf totalの回復には相当の時間を要する。
 実際の処理ではf-spontなどの計測は、通常、過去数10秒を平均化する処理を行うので、急な無呼吸が生じてからf-spontの減少として数値が反映されるまでに数10秒以上のタイムラグがある。その上で、f-SIMVの増量過程が4呼吸程度必要なので、最終的にf totalが回復するまでには60秒程度のタイムラグが生じることになる。無呼吸の発生による換気回数の急激な減少を予防するには(後述のように)、無呼吸発生と同時に強制的にf-SIMVをf-termと同じ値にする処理が必要と思われるが、現時点ではこのような強制処理をしているとのコメントはない。
 
   f-term  f-trigger f-SIMV  f-spont. f-control f total
@ABCDE   12
  12
  12
  12
  12
  15
  12
  10
  10
  10
  10
  10
  6
  6
  8
  10
  12
  15
  6
  4
  2
  0
  0
  0
  6
  6
  8
  10
  12
  15
  12
  10
  10
  10
  12
  15
             
FGH   12
  12
  12
  15
  15
  15
  6
  3
  0
  9
  12
  15
  6
  3
  0
  15
  15
  15
             
IJK   10
  10
  10
  12
  12
  12
  4
  2
  0
  8
  10
  12
  4
  2
  0
  12
  12
  12
             
L
MN
  10
  10
  10
  6
  6
  6
  2
  6
  10
  4
  0
  0
  2
  6
  10
   6
   6
   10
 
 f total補正までの遅延を解決するには、最初から目標換気回数と同じ回数をSIMV回数とする方式も考えられる。この方式では、自発呼吸回数の不足分が即座にSIMVの強制換気で補充されることになる。しかし、患者のトリガー回数(これは必ずしも自発換気回数に等しい訳ではない)が目標換気回数を超えるまでは、すべての換気はASSIST/ CONTROLで与えられてしまう。なお分時換気量は目標値になるはずである。トリガー回数が目標換気回数を超えると、超えた回数分だけPSVがはいる。分時換気量はPSV換気の分だけ目標分時換気量に追加されるはずである。この方式では強制換気が優位に与えられるので、不必要に強制換気が提供される弊害を生じうる。したがって、この方式は無呼吸に対する強制処理としては望ましいが、通常の処理に用い難いと言える。
4.ASVの利点と欠点
1)換気回数の強制
 EMMVとASVの最大の違いは、前者が分時換気量の下限(lower limit)を強制するのに対して、後者は換気回数と分時換気量の両方の下限を強制する点にある。呼吸仕事量が最低となる「理論的に正しい?換気回数」を患者に強制するアルゴリズムは、PSV圧を不適切に低く設定したEMMVに認められた「浅い頻呼吸」を起こさない。また、SIMV(AutoFlow)でしばしば認める「深くて少ない換気回数」といった現象も惹起しない。しかし、「理論的に正しい?換気回数」は真に患者の望む換気回数であろうか? このことは、患者の換気能力が弱い段階では問題にならず、むしろ望ましい結果をもたらす。しかし、換気能力がある程度以上であれば、必ず、「理論的に正しい?換気回数」を強制させられる点で、ファイティングを生じる可能性がある。ASVでも、強制に対して患者の自由度をどこまで許容できるかを、医療行為者は任意に設定できない欠点がある。
2)%MVの設定
 %MVを調節する本質的な目的は、患者の疾患により、例え同じ理想体重であっても、要求する分時換気量が異なる病態への対応である。例えば重度熱傷患者の急性期には、分時換気の要求量は上昇している。しかし、これには強制分時換気量の下限を医療行為者が緩和するための機能のみならず、実際には前述の「理論的に正しい?換気回数」を強制することの弊害を緩和する側面もある。経験的には、強制分時換気量の下限を多めに設定しても、患者換気と機械換気の同調性という面では、弊害は少なく、これが原因のファイティングも殆ど認められない。では、なぜASVに(理想体重の設定値を変える方法があるのに)%MVの設定が設けてあるかと言えば、Otisの式にしたがいMVの目標値を下げるとf-targetも下がり、「理論的に正しい?換気回数」の強制回数も少なくなる効果を狙ってのことである。理論的には、目標分時換気量の下限と目標換気回数の下限を独立して設定できるのが正しいが、設定の煩雑さや設定のための指標の不明確さを考慮すると、これらの設定を%MVの設定1つで済ますのは合理的かも知れない。しかし、患者の換気能力がある程度以上保たれている場合には、%MVを低下させても患者の分時換気量や換気回数はあまり影響を受けないので、強制換気回数の下限を下げる効果はほとんど期待できない。臨床上は換気能力のある患者にこそ強制換気数を下げる必要を生じる可能性が高いので、これは大きな矛盾である。この手法が正しいかは、今後の臨床評価によって明らかになるだろう。
3)換気能力の変動への追従性
 EMMVでは過換気と低換気が周期的に繰り返される現象がしばしば観察されるが、EMMVには通常過換気後の無呼吸に対する対策が施されている。もちろんASVでもこうした現象は起こり得る。しかし、原理上ASVでは前述のような突然の無呼吸に対して換気回数がすぐには回復しない。この対策として無呼吸バックアップ機能が控えているが、これはあくまでも最終手段である。逆説的に言えば無呼吸バックアップにかからない程度の低換気(60s / 15s = 4 bpm)は起こり得る。これはASVの現時点での弱点である。
 通常状態での患者の換気能力の変動に対する追従性は、特にEMMVと比較した性能は、今後の評価で明らかになるであろう。
4)Auto PEEP
 理想換気回数を決定する指標にRCeが大きな役割を果たすので、Auto PEEPは生じにくい。PAVとの比較データーはない。
5)sink or swim
 PSVを併用しないEMMVは「泳げ!さもなくば沈むぞ!」と表現されるように、患者は強制換気を回避するために自発呼吸を強いられる、ある意味では、急き立てられるような換気法である。そのため、浅い頻呼吸を行う弊害がしばしば認められ、臨床的に評価されなかった歴史がある。ASVではより補助的なアルゴリズムを持つので、こうした弊害はない。しかし、%MVを下げていくことによって、「過保護すぎていつまでも離脱できない」弊害を排除できる。
6)適応範囲
 換気能力の有無に関わらず、また、短期間の間に換気能力が変動する患者を含めてあらゆる患者に適応することができるモードである。しかし、COPDの患者では自発呼吸を促進する効果により、平均気道内圧が低下し、結果的にPEEPを下げたのと同様の効果をもたらしPaO2の低下を招く可能性を杞憂する必要がある(かもしれない)。
8)換気の特性
 AutoFlowと同じ圧換気モードなので陽圧換気による弊害が少ない。そのため、陽圧式人工呼吸器の合併症を低減する可能性がある。