F. AMV(Augumented Mandatory Ventilation)
1.概念と目的(図1−9
 AMVはBear-5に装備された人工呼吸モードである。この換気様式は、SIMV+EMMVと考えてよい。本来、Bearシリーズの設計思想は、強制換気中の自発呼吸を可能な限り許容すると言うものである。即ち、強制換気の途中であっても設定された流量以上の吸気であれば、また設定された吸気時間以上に自発吸気が持続すれば、その自発吸気を許す機構である。AMVはこの思想を強制換気の適応法に応用したもので、患者の自由な換気を尊重しながら強制換気を挿入する換気法である。
 
(参考6)強制換気での設定流量以上の吸気
強制換気の途中であっても、設定流速以上の吸気を許容する機構は、EngstromのEricaとElvira、およびNew Portシリーズにも搭載されている。
2.構成要素
 AMVは(1)目標分時換気量が達成されている時は設定回数のSIMV、(2)達成していない時はBack Up 回数のSIMV、の2相で構成される。
3.制御方式
1)制御機構
 現在、実用化されているのはMPU方式だけである。
2)作動理論
 目標の呼気分時換気量が達成されなければSIMVからBack up回数のSIMVへ移行する。逆にBack up SIMVからSIMVへの復帰は、呼気分時換気量が設定値の+10%、あるいは+1LPMのいづれか少ない方を上回った時に行われる。分時換気量の計測はトリガー毎もしくは10秒毎に過去20秒を計測する。
4.修飾要素
1)目標分時換気量の設定
 目標分時換気量を理想値より少し高めに設定すれば、強制換気の頻度が多くなり、人工呼吸への導入期に適した換気様式になる。一方自発呼吸を誘発したい場合には、分時換気量を少し低めに設定する。
2)SIMV回数の設定
 分時換気量が目標値を達成している場合には、設定回数のSIMVが行われる。SIMV回数によって強制換気の程度を設定する。
3)Back up回数
 分時換気量が目標値を達成していない時には、Back up回数のSIMVが行われる。Back up回数は目標分時換気量/設定一回換気量で決まる。
4)PSVと強制換気の関係
 PSV圧を高く設定すると強制換気と同程度の換気量が得られるが、その分だけ患者のの自由度は狭くなる。自発呼吸の補助、PSVで行うか、強制換気で行うべきかについて定まった見解はない。
5)分時換気量の計測頻度、計測期間
 用いられている頻度、間隔が最適である根拠は不明である。
5.利点、欠点
 AMVは基本的にはSIMVであるが、EMMVによるバックアップ機能が付加されているのでSIMV回数(=ノーマル回数)を大胆に少なく設定できる。SIMV回数=0の状態が、EMMVに相当する。また、SIMV回数の設定値についても比較的寛容で、患者にとっての最適値から少々づれていても問題にならない。そのためAMVには、単にSIMVの変法の範囲にとどまらない未知の可能性が存在する。しかし残念なことに臨床的な評価は行われていない。そこでAMVの可能性を著者の経験と作動原理から解析すると、AMVの利点は「Weaningの自動化」にあるのではなく、(1)人工呼吸器の設定(操作)の自動化への手がかりを含んでいること、(2)機械的な強制換気が最適条件でなくてもよいこと、の2点にあると考えられる。 また、1呼吸毎に患者にとって最適の「自由な呼吸と強制換気のバランス」を合理的かつ連続的に選択するので、患者の換気状態が変動しても換気条件の再設定が不要である。また、オペレーターは、SIMVと同様に最少量の強制換気を設定することで、患者の能力に合った自発呼吸の範囲を(患者が受容できる範囲で)設定できる。AMVの欠点は、SIMV+PSVと同じように、強制換気とPSVという類似性のない2種類の換気方式が規則性なく提供される点にある。そのため患者はしばしば強制換気に上手く同調できない。
 
 [参考7]SIMV(ノーマル)回数の設定のポイント
 この回数は、患者の呼吸能力に応じて設定する。PSVにおいて十分な一回換気量が得られ、しかも1回換気量や吸気呼気時間にばらつきのない場合には少な目に設定する。ばらつきの多い場合には多めに設定して、強制換気で患者の呼吸をリードする。経験的に言えば、目標換気回数の約1/2〜2/3程度の値を設定すると良い。
 
[参考8]強制換気とPSVとのバランス設定
 PSV圧を15cmHO以上のに設定しなければ十分な換気量を得られない場合には、PSVよりも強制換気で分時換気量を稼ぐ方がなめらかになる。また、強制換気の波形を暫減型にして吸気流量をPSVでのピーク値に近づけると両者は類似の換気パターンになり、患者が受ける違和感が改善される。