Smith Medical
ventiPAC, babyPAC,paraPAC200,paraPAC200MRI
1.特徴(図;ventiPACの外観写真)(図;babyPACの外観写真)(図;paraPAC200MRIの外観写真
 paraPACシリーズはパラメディカルが操作するのを前提に設計された、酸素もしくは圧縮空気のガス圧を動力源とする、小型軽量、対衝撃性、略式操作の簡易型人工呼吸器である。レスキュー、蘇生、CT室、MRI室、搬送に適する。paraPACには多種のバリエーションがある。rescuPACは救急隊用で、つまみ一つで一回換気量と換気回数を設定する簡易操作バージョンである。paraPACはパラメディカル用で換気回数と一回換気量の設定が別々に行える。transPACはparaPACと機能は同じであるが、分時換気量と換気回数から設定していく仕様になっている。ventiPACは病院用で吸気時間、呼気時間、吸気ガス流量など、細かな設定が可能になっている。これらは体重5Kg以上が適応範囲である。一方、BabyPACは体重20Kgまでの小児~新生児用の従圧式の本格的な人工呼吸器で、他のシリーズとは異なり、さらに酸素濃度まで自在に設定できる。現在、国内ではparaPAC200とそのMRI対応版のparaPAC200MRI、そして簡易蘇生器のVR-1のみが販売されている。ちなみに海外モデルではアラーム機構を電子化して改良したバージョンも従来のモデル名のままなので、海外モデルのparaPACは国内モデルのparaPAC200と同一である。どのモデルであってもMRI対応機は外装ケースが白くデザイン統一されている。
2.性能
 モード............CMV/Demand(synchronized Minimum Mandatory Ventilation),
          Demand
          IMV (babyPACのみ)
 酸素濃度..........45%(Air Mix時),100%(No Air Mix時)
 一回換気量........65-1570ml  (paraPAC)
 I:E比.............設定できない (paraPAC)
 吸気ガス流量......6-60 LPM  (paraPAC)
 ディマンドフロー..120LPM (-8pH2O時)
 呼吸回数..........8-40BPM   (paraPAC)
 吸気時間..........0.6-1.6秒(ventiPAC), 0.25-2.0sec.(babyPAC)
 ガス消費量.........................分時換気量+20 ml x RR
          (エアミックス時には分時換気量の30% + 20 ml x RR)
 重量..............2.8 Kg
 消費電力..........アラーム用のみ
                                      
3.機構の概略
1)paraPAC200とventiPAC
 paraPAC200はニューマティック回路方式の簡易型人工呼吸器で、ガスだけで作動する。オプションに小型コンプレッサーも用意されている。呼吸回数と一回換気量は独立して設定できるが、簡易なニューマティック回路で、これらのパラメーターを任意値で正確に設定できるわけではない。paraPAC200では設定呼吸回数を変化させると、それに伴なって吸気時間も変動し、結果的に一回換気量も変動する(図;1回換気量早見グラフ)。変動量を少なくするために、呼吸回数を増加させると、吸気ガス流量も増加する機構になっているが、特定の設定呼吸回数の場合だけ、誤差が許容範囲になる。操作パネル面には、一回換気量と呼吸回数の範囲が4色に色分けされていて、同じ色の範囲が望ましい設定となる。設定を正確にするための上位モデルとしてventiPAC(国内未発売)もラインアップされている。ventiPACでは吸気時間、吸気ガス流量、呼気時間を設定して、一回換気量や呼吸回数を設定する。この方が機構的には正確であるが、その分、設定のための計算が煩雑になる。
 吸気時間は設定呼吸回数によって次の固定値が選択される。吸気時間は設定呼吸回数にかかわらず、あまり変化が少ない。むしろ呼気時間は大きく変動する。設定呼吸回数によって一回換気量が変動しないための工夫は、吸気時間があまり変化しない点が一番貢献していて、吸気ガス流量の補正機構は補助的であることが解る。
  設定呼吸回数  吸気時間  I:E比 呼気時間
   8 BPM
   12 BPM
   15 BPM
   20 BPM
   25 BPM
   30 BPM
   35 BPM
   40 BPM
 1.67 s
 1.38 s
 1.18 s
 1.0 s
 0.84 s
 0.72 s
 0.63 s
 0.56 s
1 : 3.49
1 : 2.62
1 : 2.39
1 : 2
1 : 1.86
1 : 1.73
1 : 1.71
1 : 1.68
5.83 s
3.62 s
2.82 s
2.0 s
1.56 s
1.28 s
1.08 s
0.84 s
 
 このようにparaPACの設定は結構いい加減であるが、パラメディカルが緊急時に間違いなく手早く操作できることを重要視している。一方、ventiPACでは、吸気時間、呼気時間、吸気ガス流量の設定によって、一回換気量、呼吸回数、I:E比(吸気時間)を設定する。この方がパラメーターを正確に設定でき、paraPACがもつ曖昧さは解消されているが、設定に際して暗算を必要とし、また、設定に際して一定の知識を要求する難点がある。
 ちなみに、rescuPACはもっと単純でつまみ一つで一回換気量と呼吸回数が同時に設定される。連続的に設定できるがつまみには対応値が印刷されている。
(1)CMV/Demandモード
 このモードでは、ディマンドボリュームに応じて強制換気回数は減少する。それは次の理論で行われる。ディマンドがあった時点より、そのボリューム量に応じて、次の強制換気までの呼気時間は最大、設定呼吸回数で規定される呼気時間(上の表の呼気時間)まで延長される。呼気時間延長機構は、充分なディマンドボリュームがある度に作動するので(breath by breath basis)、条件が整えば結果的にオシレータは完全に(連続的に)停止する。呼吸回数12〜16 BPMの範囲では400 ml以上の一回換気量があれば、この条件を満たす。少ない吸気ガス流量では呼気時間延長機構は作動しないようになっている。しかし、頻呼吸でもディマンドボリュームが充分あれば延長機構は作動する。したがって、自発呼吸回数が多いときにはオシレターの完全停止が起こりえるが、少ない場合には部分的な停止が起こりえる。その際には15 LPM以上のディマンド流量があれば、機械換気は自発呼吸に同期する(つまりトリガー機構として作動する)。これらの動作を要約すると、CMV/Demandは自発呼吸が強ければEMMVのように作動し、自発呼吸が弱ければSIMVのように作動する。
2)ニューマティック回路(図;paraPAC200のニューマティック回路図、図;paraiPAC200の構造図)
 ニューマティック回路は概略しか公表されていない。paraPAC にディマンド機構を追加した製品がparaPAC200である。メインオシレタの設定方法を変更したのがventiPACである。メインニューマティックスイッチ3は駆動ガスをCMV回路に供給するか否かのスイッチであり、Demand 回路はスイッチの位置に関わらず、駆動ガスが直接供給されている。このスイッチによりCMV/Demand とDemandが切り替えが行われる。メインオシレタはニューマティック回路で構成されていて、CMVでの吸気・呼気時間のタイミングを制御する。デマンド回路はオシレータ回路にも関与していて、ディマンド量によってはオシレータの停止をもたらす。また、トリガー機構としても作動する。呼吸回数の設定ノブ6はオシレータの作動を調節するニードルバルブで、また、吸気ガス流量を若干変化させる働きがある。一回換気量のノブは連動しているニードルバルブ13,14の流量を調節する。空気取りベンチュリ機構15はエアミックスを行う装置で、エアミックスをしない場合は駆動ガスがAir-mix Switch16により混合されるので、結果的には希釈されないことになる。回路内の異常高圧は開放弁11でリリーフされる。吸気弁18は(オシレターがONになり)圧がかかるとスイッチをOFFにし、圧がかからないときにはONになるニューマティックスイッチで、吸気時以外に患者回路を大気に開放する働きをする。機構上、ディマンドガスはエアミックスされないので、駆動ガスが100%供給される。
 呼気弁(図;呼気弁の構造)はアンビューバッグについている弁機構と類似の構造で、加圧時に呼気を塞ぐ。オプションでPEEP弁も用意されている。
4.操作(図;paraPAC200の操作パネル図;babyPACの操作パネル)
 paraPACでは、Vt(一回換気量)とFreq(換気回数)を設定する。これらは任意の値に設定できる印象を与えるが、あくまで簡易機であるので、同じ色に区分された範囲から外れた設定では誤差が多いので推奨できない。ventiPACでは吸気時間、呼気時間、吸気ガス流量を設定する。駆動ガスが接続されている限りディマンド機構は働く。通常は駆動ガスの節約のためにもエアーミックスをした方がよい。その際には約45%の酸素濃度になる。リリーフ圧の調整(20〜80pH2O)はマノメータを見ながら行う。babyPACでは吸気圧やPEEP圧などを設定する。
5.モニター、アラーム
 マノメータによって気道内圧のモニターができる。気道内圧上限、気道内圧下限、電池残量などのアラームがある。
6.メンテナンス
 定期的に機能チェックを行う。特別な点検修理計画は必要ない。患者回路や呼気弁は適時点検し、適時、洗浄滅菌すること。
7.今後の課題
1)ガス駆動方式なので酸素の消費量が多い。
2)一回換気量が設定値に対していい加減である。しかし、簡易仕様と割り切ればとても設定が単純かつ明瞭でとても使いやすい。