Newport Medical Instruments, Inc.
E-100, E-100A, E-100i, E-100s,E-100M
「汎用技術の組み合わせで必要な基本性能をシンプルに達成した」小型、軽量、、多機能、低価格な簡易機である。しかし定常流機構と圧リリーフ機構の威力によって、新生児より成人まで対応可能である。1981年10月に発売を開始されたE-100では呼気弁ボディーは外付けされていた。1987年1月にはE-100Aに改良され、呼気弁ユニットは本体下面に収納された。E-100AはアメリカNMI社(Newport Medical Instruments)で委託生産されていた日本仕様であったが、NMI社の生産合理化に伴い1991年3月にE-100i(internationalの意)の改良版に統合された。E-100iでは利用頻度が低かった圧サイクルモード(Pressure cycle)を廃止し、モードセレクターを付加して、操作体系が単純化された。1997年6月にはE-100sになり、機械式マノメーターがLEDによるデジタルバーグラフ表示に変更され、、圧トリガー機構も電子式に変更された。呼気弁制御系も改良されレスポンスが改善された。1998年4月にはE-100MとなりATC(トリガーレベルを自動調節する機能)、Time-Limited Demand Flow(自発呼吸へのデマンド流付加機構)、Apnea A/CMV(無呼吸バックアップ機能)、AS(圧アラームレベル自動調節機構)が追加された。Newport Medical Instrument社は2012年5月にCovidienに買収された。
2.性能
1)利用できるモード
A/CMV
SIMV(IMV)+定常流
SPONT(定常流方式)
SPONT+ApneaA/CMV
---------------------------------
+圧リリーフ
+PEEP
+定常流
2)基本データー
最大吸気ガス流量
強制換気.................100LPM
PSV..............................N/A
吸気ガススルーレート...... L/s2
最大強制換気数...........120 BPM
最大SIMV回数...........120 BPM
3.制御回路、制御機構の解説
1)制御機構の概説
E-100シリーズはバージョンによってニューマティック回路が微妙に変更されている。電気制御機構は時代とともに大幅な変更がなされている。E-100iまでは、マイクロプロッセッサーはタイミング制御だけを担当し、その仕事は吸気バルブの電磁弁(ソレノイド)を1つ駆動するだけであった。E-100sになり、呼気弁ソレノイドの制御、圧トリガー機構、設定換気量の演算、アラーム機構、バーグラフ表示機能も担当するようになった。E-100Mではさらに、アラームレベルやトリガーレベルを自動調節したり、無呼吸バックアップを制御する仕事も担当するようになった。
2)機械的機構の特徴
リザーブバッグ+定常流と一方向弁を巧みに使い、吸気相・呼気相に関係なく吸気要求に応えれるディマンド機構がE-100を多機能ならしめている最大の特徴である。さらに圧リリーフ弁により圧リリーフ・圧プラトー換気ができる。
3)ガス流量計測
計測できない。E-100sになって、オプションにタービン式の換気量計(Voyager)が用意されて、呼気換気量は計測できるようになった。
4)吸気バルブ
電磁弁(パイロット弁)の出力ガスがニューマティック弁(メインフロー弁と連続流切替弁)を駆動する。これは消費電力低減と信頼性を高める為である。
5)呼気バルブ
一般的なバルーン弁である。E-100i以前のモデルでは、吸気回路からの駆動圧とPEEPレギュレータの圧をニューマティック式に加重する回路で駆動していたが、E-100sでは呼気弁の反応性を早めるために、呼気弁ソレノイドを設け、吸気回路圧とPEEPレギュレータ圧を強制的に切り替えている。さらにPEEPレギュレータや呼気弁設計も改善された。結果として、駆動圧の切り替えが速くなり、ベース圧がより安定し、呼気抵抗が低減した。
1)吸気
機械式のブレンダーでO2/Airを混合し酸素濃度を調整した後、MPUの信号でマスターソレノイドを開閉し、それが吸気バルブを開閉して吸気ガスを発生する。マニュアルボタンを押すとシステムガスが直接吸気バルブに加わりバルブを開く。したがってE-100iまでは、電源異常時や機器異常時であってもマニュアル換気は可能であった。E-100sでは呼気弁も電磁弁で制御しているので、制御ボードが機能していなければマニュアル換気はできない。フローコントロール(吸気流量調整)はメカニカル弁による。このつまみには同軸上にポテンシオメーターが付いているのでつまみの位置が電気信号としてとらえられている。
2)圧プラトー換気
吸気出力にメカニカル方式のプレッシャーリリーフ弁が内臓されているので圧プラトー換気も併用できる。
3)定常流機構(SPONTV1,SPONTV2)
IMVやSIMV、CPAPの自発呼吸や、強制換気中でも患者の吸気要求が設定吸気ガス流量を超えた場合は一方向弁や非常用空気吸入弁を経由して定常流機構よりのリザーブバッグ内のガスや外気を吸う事ができる。E-100MになりTime Limited Deand Flowという自発呼吸用のガスも用意された。これは自発呼吸に対してトリガーの度に強制換気と同じように吸気弁が開き吸気ガスが供給される。呼気弁はPEEP/CPAP圧で閉じているだけなので、それ以上の圧になれば呼気弁でリリーフされる。もちろん吸気ガス流量の不足分は定常流機構より吸うことができる。この機能は自発呼吸の吸気時に気道内圧が低下する問題を低減する。
呼気相ではSPONTV1やSPONTV2連続流が一方向弁より呼吸回路に流れ、リンス流として患者回路内のガスを新鮮なガスで更新する。SPONTV1は内部の定常流機構で8LPM固定である。SPONTV1連続流は左側面のスイッチでOFFにできる。SPONTV2は外付けされたフローメータで流量を調節する。0-15LPMの範囲で設定できる。さらに気道内圧を吸気アウトレットか近位気道内圧チューブで感知するかの切替用のソレノイドも追加された。近位気道内圧モニターチューブは患者回路が煩雑になるので、これを使用しない患者回路に対応させるためにこの切替スイッチが設けられた。無論、近位気道内圧モニターチューブを使用する方が感度がよい。
4)圧サイクル機構
圧サイクルモードはE-100iで廃止されたので、モードソレノイドや"Jet venturi"機構はE-100i以降は存在しない。E-100Aの圧サイクル(Pressure cycle)モードでは、吸気ガス流量はジェットベンチュリ"Jet venturi"効果でリザーブバッグ内のガスを伴って増量される。そのため実際の吸気ガス流量は設定値より大きくなる。患者回路内圧が上昇するにしたがい吸気ガス流量は設定値まで低下する。(暫減波形になる)Time cycleでは、吸気ガス流量増量機構はモードソレノイドでバイパスされるのでメインフローがそのまま吸気ガスになる。
5)呼気弁
E-100iでは呼気時にはPEEP調整弁で調節した圧を呼気弁出力としているが、吸気時には吸気ガス圧が一方向弁15を経て呼気弁駆動圧に加重して呼気弁を閉じる。駆動系の応答性よくするために排気系"MUFLLERS 21"が設けられている。E-100s以降では吸気ソレノイド弁を追加し、呼気弁にかかる圧(PEEPレギュレータで調整した圧と吸気圧)を瞬時に切り替える。PEEP/CPAPレギュレータも供給圧の変動を受けにくいものに変更された。
5.制御ソフト
各機能の説明
1)トリガー方式
E-100iまでは、Light Gate式圧トリガー方式を採用していた。これは気道内圧計の針の動きを光センサーで捉える機械的な機構によりトリガーを検出していた。トリガーレベルのつまみを動かすと、気道内圧計内部に設けられた光センサーがトリガーレベル表示矢印とともに連動して動く。E-100sでは近位圧モニターチューブを追加し、圧トランスデューサーを使用した電子式に変更された。結果として、PEEP/CPAPの設定を変えてもトリガー感度が影響を受けなくなった。さらに、感度や応答性も改善され、トリガーまでの仕事量が低減した。Time Limited Demand Flowが作動しているときはAutoCycleを生じないようにベース気道内圧が安定するまで(最大1.5秒)トリガーしないようにトリガーロックしている。
2)A/C
通常のタイムサイクルの量換気であるが、最大吸気時間は5秒である。圧リリーフバルブを用いてピーク圧をカットした圧プラトー換気もできる。定常流を付加すればIMVになる。
3)SIMV
E-100i以前はSIMVサイクルの呼気相終末25%がトリガーウィンドーになっている固定時間方式であったが、E-100s以降は100%に変更されたので可変時間方式になった。
吸気流量"FLOW"と吸気時間"INSP.TIME"の積で一回換気量を設定する。E-100s以降ではこの積が数値表示されるようになったので、自分で計算する必要がない。次に、呼吸数や酸素濃度のつまみとモード"MODE"のつまみを設定すれば使用できる。必要があればPEEPの調整やリリーフ弁"RELIEF VALVE"のつまみを調節する。最後にトリガーレベルやアラームレベルを設定する。E-100sではプリセットボタンによりこれらの設定を瞬時におこなうことができる。E-100MではASを用いてアラームレベルを、ATCを用いてトリガーレベルを自動設定することができる。
1)IMV/SIMV
A/Cでも呼気相では定常流+リザーブバッグのガスを自由に吸うことができる。そのため単に呼吸数の設定を下げるだけでIMVになる。SIMVモードでも定常流を多くするか、トリガー感度を低く設定すればIMVになる。
2)圧リリーフ換気
いずれのモードでも"RELIEF VALVE"を効かすと圧プラトー換気になる。この際は従量式(Volume control)の換気でなくなる。
3)定常流
SPONTV18LPM)で不足すれば、さらにミキサー横の流量計より定常流SPONTV2を追加できる。
4)ATC
ATCとはAdvanced Trigger Controlの略で、最適なトリガー感度を自動設定する機能である。セルフトリガーを感知する度に、0.14cmH2Oづつ感度が低くなるよう、トリガー感度が自動的に変更される(最大限−2cmH2Oまで)。もしA/CやSIMVモードで15秒間(SPONTモードでは32秒間)、患者のトリガーを検出できない場合には逆に0.28cmH2Oづつ感度が高くなる。最高感度は表の値が上限になる。
ちなみに以下の条件を満たした場合にセルフトリガーと認識される。
(1)トリガー間隔が以下の値より3回連続して短い場合
・Neonate 0.3sec.
・pediatric 0.4sec.
・Adult 0.8sec.
(2)I:E比が以下の値より3回連続して逸脱する場合
・Neonate I:E>5:1
・Pediatirc I:E>4:1
・Adult I:E>3:1
(3)機械の内部処理で決定されたトリガーレベル(絶対値)が最新のベースライン圧より高く、しかも最新のベースライン圧が前回実測したベースライン圧の2cmH2O以内にある場合(ちなみにベースライン圧の定義であるが、これは本来、設定PEEP/CPAPレベルに等しくなるはずである。しかしトリガー性能を安定させるために、一般的には実測PEEP/CPAPレベルをベースライン圧としている)。つまり、ベースライン圧を決定する過程に問題があり、セルフトリガーを起こす状態に陥ってしまっている状態。
(4)小児、成人においてベースライン圧が0.06秒以上安定しない場合
(5)100mSあたり0.28cmH2Oに満たない圧の低下でトリガーを惹起していた場合。
5)AS(AutoーSet Alarm)
ASボタンを押すと高圧アラームと低圧アラームレベルを自動調節してくれる。過去2回の強制換気時のピーク気道内圧に基づいて自動設定される。成人では高圧アラーム値は吸気圧に+15cmH2Oの値が入る。新生児/小児では+5cmH2Oの値が入る。ただし、最小値はそれぞれ25cmH2Oと15cmH2Oである。
6)ネブライザー
8LPMのネブライザー出力が用意されている。ネブライザーをオンにすると8LPMの分だけ吸気ガス流量が増加する。E-100sではその分が設定換気量計算値にも反映される。
7)バッテリー駆動
オプション扱いであったバッテリーは、E-100s以降では標準装備になった。フル充電で約6〜8時間作動できる。
8)注意事項
E-100i以前の機器ではFLOWの目盛り単位がL/sec.なので(E-100s以降はLPMに変更されている)、他の人工呼吸器に多用されているLPMの数値と混同しない事。少ししかないつまみやスイッチの設定を少し変えるだけで、換気様式が大きく変わる。これがこの機械の多才さであるが、僅かな設定ミスや勘違いが、大きなミスになる。
7.モニター、アラーム機能
1)気道内圧
最高気道内圧と最低気道内圧のアラームが装備されている。E-100iまでは、気道内圧計の針の動きを光センサーで検出していた。これもトリガー機構と同様の構造で、1つのつまみで両者を連動させて設定する機構であった。E-100s以降では圧トランスデューサーを使って電子式におこなうので、One Buttonで自動設定することもできるようになった。また、両者を独立して設定することも可能になった。気道圧が最低気道内圧レベルを15秒(or 30秒)間超えないとアラームが鳴る。
2)吸気時間(INSP.TIME TOO LONG)
吸気時間の設定がCMVサイクル時間の50%を超えた場合は強制的に50%で吸気が終了する。したがってI:E比は逆転しない。
(3)機器作動異常
8.ディスプレー機能
E-100iまでは、アラームでランプが点灯する他は、気道内圧計以外の表示はなかったが、E-100sになり設定換気量と気道内圧が数値表示できるようになった。
F&P 型が標準装備される。E-100A、E-100iでは使っていなかった近位圧モニターチューブをE-100sでは使用する。
10.日常のメンテナンス
1)呼吸回路、呼気弁(
図;呼気弁の分解図:ダイアフラムバルーンをスクリューでキャップに固定し、さらにキャップを呼気弁ボディーにねじ込んで固定する)
呼気弁は患者毎に滅菌する。同じ患者であっても最低限として週に2回は洗浄滅菌する。特にネブライザーを使用時には留意する。組み立て前には、充分に乾燥させる。
2)リザーブバッグ
消耗部品ではないが、たとえ定常流を使わない場合でもレザーバーバッグはこの機械の重要機能部品なので、常に点検する。必要なら交換する。
11.定期点検
3,000時間の使用もしくは最低限として年に1回程度は定期点検を受ける。12,000時間でオーバーホールをする。
12.欠点
1)PSVができないのは現在の人工呼吸器として物足りないが、それを言うのは酷かもしれない。
2)ATCについて。セルフトリガーを認識する機能がより洗練されていれば、セルフトリガーを認識した時点でそのトリガーを無効にすれば良いはず。つまりトリガー感度を変更して次のトリガーを誤動作させないようにするよりは効果的にセルフトリガーを防げるはず。こうした機能はフィルタリングアルゴリズムと呼ばれていて、Dragerなどで実用化されている。しかし、このクラスの機器にこうした機能を要求するのは酷かもしれない。
3)これは欠点ではなく長所であるが、日本語マニュアルのできがとても良い。内容の充実度や正確さ、日本語訳の適切さ、わかりやすさ、が特筆ものである。英文マニュアル以上の完成度がある。一般的に輸入機器の日本語のマニュアルは、直訳・誤訳した日本語が羅列されてるだけの意味不明なとんでもないものが多い。こうしたことは意外にも一流の製品でもよく見られる。