CareFusion,VIASYS
VELA
VELAはT-Birdの後継機種で、基本構造はT-Birdとほぼ同じである。カラー液晶を用いた3波形のグラフィックディスプレー機能にタッチパネルによる操作性、さらにNIPPVを含む最新の呼吸モードが標準でフル装備されている。廉価帯の普及機でありながら高級機の機能を持つ驚きのお買い得機である。VELAにはStandardとPlus、Comprehensiveの3モデルがあるが、その差は僅かである。一番安価なStandardにNPPV機能を追加したのがPlusで、さらにPRVC、APRV/Bi-Phasicを追加したのがComprehensiveである。価格はStandardが420万円、Plusが470万円、Comprehensiveが500万円である。価格差は最大80万円であるが、実際には値引きがあるので、その差は僅少。対象患者は小児〜成人。
2.性能
1)利用できるモード
A/C
SIMV+PSV
CPAP(PSV)
NIPPV
---------------------------------
+VCV
+PCV
+PRVC
+Vsync
+PEEP
+Apnea Backup
+APRV/Biphasic
+Machine Volume
2)基本データー
最大吸気ガス流量
強制換気.................140LPM
PSV..........................180LPM
最大強制換気数...........80 BPM
最大SIMV回数...........80 BPM
3.制御回路、制御機構の解説
1)制御機構の概説
マイクロプロセッサーがタービンの回転や呼気弁の作動を制御する。
2)機械的機構の特徴
独特のタービンによる吸気ガス発生機能が用いられている。タービンは高速応答型のモーターで駆動される。
3)ガス流量計測
吸気側のガス流量はタービンの回転に比例するので、タービンのブレードが回転した数を計数すれば、これが即ち吸気ガス流量になる。
呼気側のガス流量は膜型の差圧式フロートランスデューサーで計測される。
4)吸気バルブ
存在しない。タービンがこれに相当する。
5)呼気バルブ
サーボ制御型の膜型バルブである。リニアモーターでダイレクト駆動される。
酸素入力は低圧と高圧の2種類が可能である。高圧の場合のみ、酸素濃度設定が有効になる。デジタルブレンダーにおいて次のような処理が行われる。必要な酸素流量は吸気ガス流量にFiO2をかけた値であるが、5LPMと15LPMと3個の40LPMの電磁弁の組み合わせを間欠的に作動させることで必要な酸素流量をミキシングチャンバーに流し込み、酸素濃度を調節している。タービンの回転が吸気ガスになるので、電気制御系に複雑な処理が必要であるが、メカニズムは単純になる。タービンは高信頼かつ長寿命なので、定期交換部品はほとんどない。呼気弁はリニアモーターでダイレクト駆動され、応答性が良い。呼気ガス流量は差圧式センサーで計測される。
5.制御ソフト
各機能の説明
1)トリガー方式
フロートリガー方式である。1-20LPMの範囲で設定できる。
2)A/C
量換気(Volume Breath)、圧換気(Pressure Breath)、PRVCの換気様式を選択できる。
3)SIMV
自発呼吸相ではPSVを付加できる。強制換気相では量換気(Volume)、圧換気(Pressure)、PRVCの換気様式を選択できる。
4)APRV/Biphasic
Drager社でいうところのBIPAPである。2つのCPAP圧を交互に切り替える。これは患者の自発呼吸に同期する。切替の際のトリガーウィンドー時間は高圧相(Time High)、低圧相(Time Low)の時間の0-50%の範囲で設定できる。さらに高圧相、低圧相の両方に任意の圧のPSVを付加できる。低圧相の時間を短く設定するとAPRVになる。
5)PRVC
PRVCは設定一回換気量になるようにPCV圧を自動調節する換気様式である。換気毎の圧変動は3pH2O以下に制限されている。
6)Machine Volume
Comprehensiveモデルのみの機能。圧換気でのみONにできる。VAPS類似のモードで、設定した換気量(OFF, 0.05-2.0 L,規定値OFF)を保障する。イメージとして、圧換気と量換気が同時に開始する。これらの吸気ガス流量の多い方が出力されるので、吸気初期には圧換気で、吸気ガス流量が減少してくると量換気のガス流量になる。換気量が達成された時点で吸気相は終了する。
7)Flow Cycle
圧換気において吸気ガス流量のピーク値に対する%値(0-30%で設定可能)に吸気ガス流量が低下すると圧換気の吸気が終了する。つまりこれをONにするとPSVと類似の換気にできる。
8)Volume Limit
PRVCとVsyncでのみ有効。一回換気量が設定値(0.05-2.5 L, 規定値2.5L)に達するとその吸気が終了する。
9)Vsync
量換気でのみ有効。量換気でONにするとPRVCと同じ換気モードになる。PRVCとの相違点は、実は換気パターンの設定方法が違うだけである。PRVCは独立した換気モードであり、一回換気量、吸気時間から設定していく。一方Vsyncは、量換気に対する付加機能である。量換気では一回換気量と吸気ガス流量を設定し、これらの値より自動的に吸気時間が決定される。VsyncをONにするとこのように設定された量換気がPRVC換気に移行する。
10)Wave Form
量換気にのみ有効。標準は、吸気ガス流量(吸気フロー)の設定値で始まり終末には50%の吸気ガス流量に低下する漸減波である。Comprehensiveモデルでは矩形波を選択できる。ただし、矩形波を選択できるメリットはないと思われる。
11)Sigh
量換気でのみ有効。ONにすると100回の換気もしくは7分のどちらか短い方の間隔で、1.5倍の一回換気量が与えられる。
12)ネブライザー
ネブライザーをONにすると吸気相の間だけ6LPMの酸素でネブライザーガスが出る。したがって、ネブライザー使用中は一回換気量が吸気時間1秒に対して100ml増加する。また、酸素濃度もその分だけ増加する。ネブライザーは5分単位で最大60分まで設定できる。
13)バッテリー
停電時内蔵バッテリーで、およそ6時間作動できる。
14)データー出力
ナースコール、光ファイバ出力、プリンター(HP940C)、Video Output(256 color, 800x600, SVGA モニター)を出力できる。
1)基本
AveaとVELAは共通の操作体系を持つ。操作メニュー画面などはAveaの項を参照。
操作パネル右側のボタンとタッチパネルディスプレーを使用して設定する。タッチパネルで項目を選択し、数値入力はダイアルを回して入力し、ACCEPT(了承)で確定する。
2)電源投入時
最初、RESUME(前回の設定で再開)かNEW PATIENT(新患)かを選択する画面になる。どちらかを選択してACCEPT(了承)すると、次に加湿器を選択する画面になる。HMEもしくは加温加湿器を選択する。次にモードを選択する。モードに応じて設定すべき項目が表示されているので、それらに数値を入力する。APRV/BiPasic、CPAP/PSV、NIPPV/CPAP PSVを選択したときだけ無呼吸バックアップ用の設定ボタンが現れる。これも必要な数値を入力する。
3)ADVANCED SETTING
より高度な設定が必要であれば、タッチパネル右下にあるADV SETTINGボタンを押す。Machine Volume、Flow Cycle、Volume Limit、Vsync、Wave Form、Sigh、Bias Flow、PSV Cycle、PSV Tmax、Time High、Time Low、などを設定できる。
7.モニター、アラーム機能
1)モニター機能
換気量、ガス流量、気道内圧の3波形のグラフィックをモニターできる。吸気相は赤で呼気相は青で表示される。スケールはタッチパネルで選択できる。ComprehensiveモデルではLOOP、TRENDS、Maximum Inspiratory Pressure、Negative Inspiratory Force、AutoPEEP、静的コンプライアンスなどを計測できる。
2)アラーム
High Rate(換気回数過多)、Low Ve(低一回換気量)、Low PIP(気道内圧下限)、High PIP(気道内圧上限)、Apnea(無呼吸時間)の項目を設定できる。タッチパネルとダイアルを使って設定する。
8.ディスプレー機能
大型カラー液晶タッチパネルで表示できる。画面例はAveaの項を参照。
F&P 型が標準装備される。
10.日常のメンテナンス
1)日常
呼吸回路、呼気弁、呼気フローセンサーなどを、患者毎、もしくは病院で定められたプロトコールにしたがい定期的に分解洗浄、滅菌する。
呼気弁は図に示した手順で組み立てる。ダイアフラムの裏表を間違えないようにする。フローセンサーは差圧測定用のチューブが上向きになるように接続する。下向きにすると正しく測定できない。改良型のフローセンサーでは差圧測定用のチューブが短くしてあるので、上向きにしないと距離が足らなくなって誤接続できない仕組みになっている。
11.定期点検
VELAは点検に要するコストが少ないのが特徴で、他の人工呼吸器と比較するとメンテナンス費用がとても安い。
1)500時間
エアーインテークフィルターを点検、清掃、必要なら交換。
2)5,000時間
サービスによる点検を受ける。その際に各種フィルターやOリングなどの交換、センサーの校正、各種の作動テスト、などが行われる。
12.欠点
1)酸素濃度調整用のソレノイドが相変わらずカチカチと耳障りである。
2)タービンの作動音はとても静かであるが、独特の音なので気にする人がいるかもしれない。(騒音の問題に関しては、どの人工呼吸器も独特の音がある)
3)性能や価格、操作性、維持費などどこをとっても申し分がない。しかし外観の工業デザインだけは好き嫌いはあるだろう。
4)VsyncやMachine Volumeなど、ほとんど差がない機能をすべて搭載する必要性があるか吟味するべきである。例えば、PRVCがあるのにVsyncは必要か?単にユーザーを混乱させるだけではないのか?普及機なので、もっと簡単に高機能を使える操作性を重視した方が良い。9割以上の消費者が使いこなせていない機能を満載しているという意味で、ほとんど日本製の家電のノリである。そうは言いつつも、この価格(実売価格はとても安い)でこれだけ機能を満載しているのは驚異的である。ライバル機は大変である。多くの小規模メーカーは淘汰されるのではないか?
5)呼気弁とフローセンサーはT-Birdの方が一体型で形状もスマートで良かった。
6)Biphasicモードは、吸気タービンと呼気弁の作動が協調して行われるのモードなので、タービンと呼気弁が絶えず動き続ける作動音がするので、聞いているだけでせわしない。
7)Biphasicモード以外の圧換気モードでは呼気弁は吸気時に閉じている。できれば基準圧で閉じて、基準圧以上の気道圧は呼気弁よりリリーフできるのが望ましい。しかし、これは贅沢すぎる要求かもしれない。