SLE
SLE5000
1.特徴図:SLE5000の外観写真
 新生児〜小児専用機といえども同じような構成の人工呼吸器が多い中で、ジャクソンリース型の呼吸回路と独自のバルブレス呼気弁、最新のマイクロプロセッサ制御の組み合わせが独創的である。ユーザーインターフェースも強化されてGUI(Graphic User Interface)操作になった。その上、HFO機能も強化されている。SLE200HFO+が対象が最大体重8Kgであったのが、最大20Kgまで対応するようになった。PTV、PSV、TTV(PRVCと同機能)対応、グラフィックディスプレー内蔵の高性能、高機能の人工呼吸器である。これ1台であらゆる未熟児、新生児の呼吸管理に対応できる唯一の機器でもある。
2.性能
1)利用できるモード
 自発呼吸にトリガーしないモード
  CPAP
  CMV
  HFO Only
  HFO+CMV
 自発呼吸にトリガーするモード
  PTV (= A/C)
  PSV
  SIMV + PSV
---------------------------------
 +TTV (Targeting Tidal Volume =PRVC,VS)
 +Apnea Backup (PCV or PRVC)
 +PEEP
 
2)基本データー
最大吸気ガス流量
  強制換気..................60LPM
  PSV...........................60LPM
サンプリング時間...........2 msec.
最大強制換気数...........150 BPM
最大SIMV回数...........150 BPM
HFO周波数...................3-20Hz
HFO振幅......................4-180mmHg
 
3.制御回路、制御機構の解説
1)制御機構の概説
 Yピース部に設けられた熱線型のフローセンサー情報に利用してPSVやTTV、PTVなどの換気モードを可能にしている。制御ボードには、Controller CPU: Dallas DS80C390, 12MHz, CPU instruction set、Monitor CPU: Dallas DS80C390, 12MHz, CPU instruction set、User Interface CPU: iDragon mP6 IA, 250MHz, ROM-DOSが使われている。
2)機械的機構の特徴
 ジャクソンリース型の呼吸回路にバルブレスの呼気弁を組み合わせた構成はSLE5000にも世襲されている。その上で圧制御機構がデジタル化されている。酸素濃度調整用のブレンダーはSLE2000ではメカニカル方式であったが、SLE5000では比例制御弁による電子式に変更された。HFOの発生機構も改良されて、SLE2000では回転式のノズルを呼気弁に組み込み、メカニカルな機構でHFOを発生していたが、SLE5000では陽圧発生ノズルと陰圧発生ノズルのガス流を高速電磁弁で切り替えてHFOを発生させている。呼気弁での気道圧の制御も、SLE2000ではメカニカルレギュレータの圧を電磁弁で切り替えて気道圧を制御していたが、SLE5000では陽圧ノズルのガス流量や陰圧ノズルのガス流量も比例制御弁で電気的に気道圧を直接制御している。
3)ガス流量計測
 Yピースにおける熱線式フロートランスデューサを採用している。
4)吸気バルブ
 呼気ボックスにある陽圧ノズルや陰圧ノズルがこれに相当する働きをする。
5)呼気バルブ
 呼気ボックスにある陽圧ノズルや陰圧ノズルがこれに相当する働きをする。
4.ニューマティック回路図;SLE5000のニューマティック回路
 酸素、エアー配管より入力した高圧ガスはそれぞれレギュレータPR1,PR2で減圧した後にSV1,SV2,SV3,SV4の比例制御弁にて酸素濃度を調節してMIxing Chamberに入る。このガスはレギュレータPR5で減圧し流量調節器FR1で流量を調節してフレッシュガスFresh Gasになる。酸素もしくはエアーのトラブル時には電磁弁SV7が吸気側を大気に解放する。気道内圧の調節は呼気ボックスのジェットノズルのガス流で行われる。PIPやPEEP圧は3rd Jet Nozzleの逆向きのガス流で生成される。比例制御弁PR3の開閉調節により3rd Jetへのガス流量がノズルで調整されている。レギュレータPR3,PR4はHFOの際に振幅を調節する比例制御弁である。HFOは呼気ブロック内に設けられた陰圧用ノズルNegative Pressure Nozzleと陽圧用ノズルPositive Pressure Nozzuleによって発生するがこれらのガスの断続は4連高速電磁弁SV9,SV10,SV11,SV12によって行われている。SV6は酸素濃度センサーの校正用である。PR7,FR4によって近位気道内圧チューブのパージ流を作っている。
5.制御ソフト
各機能の説明
1)トリガー方式(図;フローセンサー
 フロートリガー方式で感度は0.2〜10 LPMの範囲で選択できる。フローセンサーを使わない患者回路も可能で、この際には圧トリガー方式になる。最高感度は0.5 mmHgである。
2)CPAP
 ジャクソンリース型患者回路によるCPAPができる。無呼吸バックアップ(圧換気)もON/OFFできる。無呼吸バックアップ換気にTTVも付加できる。TTVを付加すると一回換気量が設定値になるように自動的に換気圧PIPを調節してくれる。TTV作動時には吸気時間Tiに達していない場合でも一回換気量が達成されると吸気を終了する。
3)CMV
 CMVは自発呼吸に同期しない強制換気モード(圧換気)である。TTVも付加できる。
TTVを付加すると一回換気量が設定値になるように自動的に換気圧PIPを調節してくれる。TTV作動時には吸気時間Tiに達していない場合でも一回換気量が達成されると吸気を終了する。
4)PTV
 SLE社がPTVと表現するモードは一般的にA/Cと表現されるモードである。トリガーに対して圧換気による強制換気が提供される。吸気圧波形は矩形波もしくは漸増波を選択できる。TTVを付加すると一般的にPRVCと表現されているモードになり、設定一回換気量を維持するようにPCV圧が自動調節される。TTV作動時ではPIPの設定値が換気圧の上限(Max PIP)になる。
5)SIMV
 固定時間方式であるが、トリガーウィンドー時間は図のようにSIMVサイクル時間−CMVサイクル時間になる。この方式の特性として、SIMV回数が患者の呼吸リズムより有意に少なければトリガーウィンドー時間が長くなり自発呼吸に同期しやすいが、SIMV回数と患者の換気回数が近い場合にはトリガーウィンドー時間が極端に短くなり、自発呼吸に同期できない可能性が高くなる。強制換気は圧換気で与えられる。強制換気に自発呼吸荘にはPSVを付加できる。PSV圧はPIP圧に対して任意の%値を設定できる。標準は100%である。TTVを付加することもできる。TTVは一回換気量を設定値になるように強制換気圧PIPを自動調節する。PSV圧もPIP圧と連動する。
6)PSV
 PIPでPSV圧を設定する。吸気終了条件(Termination Sensitivity)はピークフローの%値で設定できる。PSV吸気時間の上限も0.1-3.0秒の範囲で設定できる。TTVを付加するとVSとして作動し、一回換気量が設定値になるようにPSV圧を自動調節してくれる。この際にはPIPの設定値が換気圧の上限(Max PIP)になる。TTV付加時には吸気フローが低下してなくても一回換気量が達成できた時点でPSVの吸気は終了する。
7)HFO
 SLE5000のHFOは強力で3-20Hzの周波数の4-180 mBarの圧を作り出せる。最近はPTV対応の小児専用機でもHFOを付加できる機器は多いが、HFO単独で換気できる程のパワーはない。HFO単独にもCMV+HFOにもできる。この際にはHFOの付加を(1)呼気相だけ、(2)吸気相+呼気相、を選択できる
7)バッテリー駆動
 設定によるが、停電時には45-60分間作動可能である。
8)インターフェース
 RS232ポートより各種の情報を出力できる。
6.操作体系図;SLE5000の操作パネル写真)(図;SLE5000の設定画面例:(1)モードパネル(2)アラームパネル(3)パラメーターパネル(4)波形/ループ表示(5)肺メカニクス測定値表示(6)画面オプション)
 カラー液晶タッチパネルで画面の表示に従いながら設定する。モードごとに必要な設定のみが表示される。説明書を読まなくても画面表示に説明文がグラフィックと共に表示されているので、一瞥で理解できるようになっているのはすばらしい。設定したい項目に触れると矢印が現れるので、上向き・下向きの矢印を押して希望の数値を入力する。(図;パラメーターの入力方法)アラームレベルもグラフィックに表示されている線を触れて項目を選択し、矢印で数値を設定する。(図;アラーム設定画面
 最初は患者に接続しない状態(Preview modeと呼ばれる)で、モード、換気回数、吸気時間Ti、PEEP、PIP、FiO2を設定する。"confirm"を押すと人工呼吸器はスタートする。バックアップ換気回数、気道内圧アラーム(高圧、低圧)、分時換気量低下アラーム、トリガーレベル(Breath Detection)、などを設定する。この後に患者に接続してPSVのTermination Sensitivityなどを設定する。フローセンサーを使わない作動も可能であるが、この際には圧トリガー方式になる。圧トリガーの設定は患者につないでから行う。当然、気道内圧以外の換気パラメーターはモニターできなくなる。グラフィックも圧のみ表示する。作動を確認するためのCycle Fail Alarmが現れるのでこれを確実に設定する。
7.モニター、アラーム機能、
 高圧、サイクル異常、低ベース圧、低一回換気量、低分時換気量、高分時換気量、頻呼吸検知時間、モニター不良、機器異常、フローセンサ異常など、各種の必要なアラームが装備されている。HFOモードでは圧アラームが自動調節される。(図;HFOモードにおけるアラーム設定
8.ディスプレー機能図;3波形のグラフィック表示例
 カラー液晶にモードや設定、アラーム、グラフィックモニターが見やすく表示されている。圧、フロー、換気量の3波形が標準状態で表示されている。F/V、F/P、V/Pのループ波形も表示できる。また、分時換気量、ピーク気道内圧、平均気道内圧、FiO2、設定換気回数(BPM)などのトレンドを表示できる。
9.患者回路構成、加湿器図;患者回路
 F&P型が標準装備される。近位圧モニターチューブ付きのディスポもしくは再使用型の患者回路を使用する。NOを付加するオプションも用意されている。
10.日常のメンテナンス
1)呼気ブロック
 呼気ブロックは本体の左横のカバーを開けると見える。クランプを90度回して水平にするとブロックをはずせる状態になる。呼気ブロックとサイレンサーをやさしく引張るとはずれる。アルコールなどに漬けたあと、清水で洗浄する。その後にオートクレーブする。
2)患者回路
 病院のガイドラインに従う。
11.定期点検
 6ヵ月ごとに予防点検を受ける。10,000時間もしくは2ヵ月、20,000時間もしくは48ヵ月ごとにオーバーホールを行う。
12.今後の課題
1)PTVモードは一般的に用いれれているA/Cと表示した方が誤解がなくて良い。
2)ガスの消費量が多い、排気音が若干大きいといった以外に欠点を見つけ難いほど完成度が高い。
3)価格が高い。しかし、これだけ高性能かつ消耗品の少なさ、シンプルな患者回路を考えると定価800万円は安いかも。
4)マニュアルの記述において、モードの概念に用語の乱れがあり少し難解である。例として〜limitedと〜cycledの意味が違う。前者は一般的な意味であるが、後者は例外的に異常時に吸気を止める条件を意味する。また、pressure supportedとPSVの意味が異なる。前者はPSVやSIMVなどの吸気中における換気補助の様式で、後者は一般的なPSVの意味である。