SIMV(Synchronized Intermittent Mandatory Ventilation)
1.概念と目的   (図;VC-SIMV+PSVのグラフィック波形 SIMVでの動作をわかりやすくする為に強制換気にVCVを用いた図を示しているが、最近の臨床現場ではAutoFlowなりPRVCを使用することが主流なので、このような古典的なグラフィック波形を見ることはまれである。1回換気量が大きいのが強制換気である。) (図;PC-SIMVのグラフィック波形: このグラフィック波形はSIMV+なので、2回目の強制換気にはFlow Terminationが効いている。PSVのように吸気終了認識条件に基づいて吸気が早めに終了している。1回換気量が多いのがPCVによる強制換気である。)
 IMVは自発呼吸モードの状態で、一分間に決められた数だけ強制換気を送る方式である。SIMVはこの強制換気を自発呼吸に同期させる方法である(もし、全ての自発呼吸に同期して強制換気が送気されるとA/C(ASSIST/CONTROL), sCMV である)。
 患者の自発呼吸と機械的強制換気を両立させた上で、自発換気量の不足を補うこと、自発吸気努力を軽減すること、がSIMVの目的である。最近では強制換気にボリューム換気だけでなく、PCVやBIPAP、VAPS、PLV、AutoFlow、Pressure ReliefでおこなうSIMVの方が多い。
 
(参考3)SIMV同義語
SIMVの同義語として、IDV(Intemittent Demand Ventilation)やIAV(Intemittent Assist Ventilation)があるが、ポピュラーな用語ではない。
 
(参考4)SIMVにはPSVが常識?
最近の成人用人工呼吸器では、定常流を使用するSIMVは考慮されておらず、SIMVの自発呼吸にはPSVを付加することが常識になっている。しかし、新生児用人工呼吸器では、トリガー信号を得るのが技術的に難しかったので、ながらく定常流でIMVを行う方式が主流であった。最近では技術の進歩により新生児の自発呼吸を捉えることが可能になり、新生児でも自発呼吸に同期させるPTVが主流になりつつある。新生児は呼吸中枢が未熟なので、A/Cで補助をすると過換気になることがあり、PSVなしのSIMV(Pressure)で管理することもある。
 
2.構成要素
 SIMVでは、(1)吸気トリガーに対して強制換気を送る時相と、(2)自発呼吸の時相を、交互に時間軸に並べる。前者にはトリガーウィンドーと呼ばれる時相があり、その持続時間をトリガーウィンドー時間と呼ぶ。通常、トリガーウィンドー時間内に強制換気は一回だけ送られ、自発呼吸の時相では、自発呼吸は0回から連続して複数回まで自由に可能である。これら二つの時相を合わせた時間がSIMVサイクルである。SIMVサイクル時間は、60秒/SIMV回数で計算できる。なお、強制換気と自発換気を区別することはSIMVの概念の中にのみ存在する。しばしば初心者に、この換気は患者がしている換気か、機械がしている換気かと聞かれる機会が多いが、すべての換気は機械と患者の協調で行われているのであって、両者を明確に区別できることは希である。
(1)強制換気
 強制換気の方式には、従来の機械的強制換気(CMV)以外に、新しいボリューム換気(volume ventilation with Flow Augumentation, volume ventilation with wave forom control)や圧換気(PCV, BIPAP, Pressure Relief)、さらに圧とボリューム換気を融合した換気(VAPS, volume ventilation with Pressure Augumentation, PLV, AutoFlow)が用いられる。
(2)自発呼吸
 自発呼吸には従前はCPAPが用いられていたが、最近は一部の低価格機以外はPSVを用いるのが主流である。新生児用の人工呼吸器ではHFVを用いることもある。
3.制御方式
(1)制御機構
a)ニューマティック回路方式
 過去においては、CV-2000のようにニューマティック回路でSIMV制御をおこなっている機構も存在した。制御可能なメカニズムの限界であろう。
(2)論理回路方式
 ハードの結線構造によって論理判断をする回路が構成できる。Servo-900C,MA-2は、これを利用してSIMVを行う。
(3)MPU(マイクロプロセッサ)
 MPUはROMに書かれたソフトによって作動する。最近の人工呼吸器は、MPUによる処理でSIMVを行っている。複雑な条件でも即座に判断が可能であり、ROM交換により簡単にバージョンアップが可能である。
2)作動原理
 現在、トリガーウィンドーの設定法に幾つかの異なった方式が実用化されている。
a)トリガーウィンドー時間固定方式(部分期間方式、ヨーロッパ方式)
図;SIMV(固定時間方式)
 固定した時間のトリガーウィンドーを、SIMVサイクルの一部に設ける方式である。主に欧州製の機種に採用されている。ウィンドー期間内に検出(トリガー)した自発呼吸に対して強制換気を送る。通常、トリガーウィンドー時間は1つの吸気呼気時間(CMVサイクル時間)よりも短いので、1つのトリガーウィンドーに強制換気が連続して二回以上送られる事はない。もし、トリガーウィンドーに自発呼吸が検出されなければ、その終了とともに強制換気が送られる。トリガーウィンドー時間外で検出された自発呼吸に対してはPSV(もし設定されていれば)が付加される。
(1)固定時間方式の特性
 固定時間式の特性として、トリガーウィンドー時間が短いほど強制換気の入るタイミング(間隔)のばらつきは少なく安定した換気が維持されるが、自発呼吸に同期しない強制換気が送られる頻度が高い。逆にトリガーウィンドー時間が長い程、自発呼吸に同期するが、強制換気のタイミング(間隔)がばらつく欠点が顕在化する。この現象は、SIMVの設定回数が少なければ目立たないが、設定回数が多い場合は問題になる。このため、この方式のSIMVを採用する機種では、設定可能なSIMV回数が少ないことが特徴である。
 理想的なトリガーウィンドー時間は不明であり、同じメーカーの人工呼吸器でも異なった時間が用いられている。例えば、CV-3000では1秒、CV-4000では1.5秒である。Drager Evitaでもバージョンごとにトリガーウィンドー時間が頻回に変更されている。
(2)固定時間方式の問題点 
(a)吸気量の重層
 もし自発呼吸の吸気相にトリガーウィンドーが開いて強制換気が送気されると、自発吸気量に強制換気量が重層され、肺気量が過大になる。
(b)自発呼気の途絶
 自発呼吸の呼気がトリガーウィンドーの直前に始まった場合には、呼気が終了しない内にトリガーウィンドー時間が終了して強制換気が送気される。
 Evitaでは(a)を解決するためにトリガーウィンドー開始時点からは自発呼吸の不足量だけを強制換気で与える。CPU-1では(a)(b)を解決するためにトリガーウィンドーの開始に際して自発呼吸(吸気でも呼気でも)があればトリガーウィンドーの開始が最大3秒遅延される。ただし、この時間の分だけSIMV回数が設定値より少なくなる。ElviraやEricaでは(a)(b)を軽減するために自発呼吸がある間とその直後0.3秒は強制換気をしない。
(c)SIMV回数が守られない
 前述のCPU-1では少なくなる。Engstrom Erica,ElviraやVer.8以前のDrager Evitaでは多くなる。これは強制換気の開始と同時に、強制的にトリガーウィンドー時間が終了するため、トリガーウィンドー時間が短縮し、その分だけSIMVサイクル時間が短くなり、これに応じてSIMV回数が設定値よりも多くなる。
(3)固定時間方式の時間の決め方
(a)固定値を使う機種
 CPU-1やCV-3000は1秒、CV-4000は1.5秒である。
(b)CMVサイクル時間を使う機種
  トリガーウィンドー時間が60秒/CMV回数設定される。Servo-900,Servo-300やHamilton Amadeus,Veolaで採用されている。
(c)SIMVやCMV回数を使う機種
 これらの設定値によって、自動的にトリガーウィンドー時間を決めるもの。これはVer.8以前のEvitaに採用されていた。
(d)SIMVサイクル時間を基準にする機種
 通常SIMVサイクル時間の20〜30%が設定される。E-150,E-200、Erica,Elviraでは25%、KV-5では20%、である。
b)トリガーウィンドー時間可変方式(全期間方式、アメリカ方式)図;SIMV(可変時間方式)
 2つ目の方式はSIMVサイクル時間すべてをトリガーウィンドーとみなす方式である。米国製の機種にしばしば採用されている。この期間内の、最初に検出された自発呼吸に対して強制換気が送られる。同時にトリガーウィンドーは終了し、その後の自発呼吸にはPSVが付加される。したがって、この方式ではトリガーウィンドー時間は一定でない。そして、もし自発呼吸が検出されなければ、次のSIMVサイクルの始まりと同時に強制換気が送られる。この場合前回に強制換気が抜けたのを補充するため次のSIMVサイクルでCONTROL,ASSISTと続ける。この方式では自発呼吸(PSV)が次のSIMVサイクルに続くと次のトリガーウィンドーは実質的に短縮する。Bear-3、Bear-5、Benette 7200ae、Adult-Star、Bird 8400や6400に採用されている。
(1)可変時間方式の特性
 この方式の特徴は、自発呼吸がトリガーされる限り、これに同期した強制換気が送られる点である。また、SIMV回数は、設定回数が必ず守られる。ただし、SIMVの設定回数が少ない場合には、強制換気の入る間隔にばらつきが避けられない。
 一方、SIMVの設定回数が多い場合は、スムーズに作動するのでCMV(Assist/Control)の代わりにSIMVを用いることができる。通常、この方式を採用した人工呼吸器ではCMVとSIMVの回数設定が同じつまみで行われ、設定可能なSIMV回数の範囲が広い。
(2)可変時間方式の問題点
 特殊なケースではあるが、自発呼吸のサイクル時間がSIMVサイクル時間より長い場合はSIMV回数が減少してしまう。
c)その他の時間規定方式
 Ver.11以降のEvitaではCMVサイクル時間をはるかに上回る5秒に固定された。12回以上のSIMVでは可変時間方式として作動し、以下であれば固定時間方式の変法として作動する。この方式の特性は可変時間方式に近く、間隔のばらつく欠点を解消するのが目的である。
4.SIMVの利点と欠点
 いずれのSIMV方式にせよ、治療者が意図する強制換気と患者の自由な自発呼吸を時間軸で分割することによって、両者の共存両立が実現できる。SIMV回数の設定により強制換気の程度を自在に設定できるのが利点である。しかし、患者の立場からは強制換気がいつ送気されるか予想できないため同調できない欠点がある。強制換気を受け取る場合は、トリガーのあとは力を抜いてガスの送気に逆らわない方が楽である。一方、PSVが付加される場合はトリガーのあと、十分な陰圧で吸気しないとガスの送気が中断する。患者は、今から始まる換気に受動的あるいは能動的の何れの態度で接するべきか判断できない。したがって、「機械的人工呼吸に協力しようとする患者」にはSIMVは不適切であり、PSVやA/C(Pressure)、PAVなど「すべての患者吸気を補助する換気法を用いるのが親切」という考えも生まれるのである。2種類の異なる換気モードがランダムに患者に提供されるSIMVは極めて不自然な換気モードであり、換気効率や患者との同調性の意味において決して理想的な換気モードとは言えない。柔軟な強制換気を提供できるモードが利用できる今日において、SIMVを用いる必然性は全くない。