Puritan Bennett
840
1.特徴(図;PB840の外観図)
Puritan Bennett社は人工呼吸器の黎明期(1940年頃)より人工呼吸器を生産し続ける数少ない老舗である。特に年配ユーザーにはPR-2(図;PR-2写真)やMA-1(図;MA-1外観写真、パネルを開いた写真)、7200(図;7200外観写真)などの製造メーカーとして思い入れが深いメーカーである。しかし、さしもの名門Puritan Bennett社も全米に吹き荒れたM&A(企業買収)の嵐とは無縁ではなかった。1995年にはNellcor社に買収されてNellcor Puritan Bennettになった。1997年にはNellcor社はさらに Mallinckrodt社に買収されて、Puritan BennettはMallinckrodt社の1ブランドとなった。その後Mallinckrodt社ごとTyco Healthcareグループに買収されて、Puritan BennettはTyco Healthcareグループの一部門となった。しかしTyco Healthcareはあまりにも巨大になりすぎたので、2007年にはHealthcare部門を分社させてCovidien社となった。ちなみにCovidien社にはAutosuture、Kendoll、Mallinckrodt、Nellcor、Puritan Bennett、Valleylab、など歴史に名を刻むブランドを包容する。
Puritan Bennettは1984年の発売のBennett 7200によって今日の人工呼吸器の礎となる革新的な機構を業界にもたらした先鋭のブランドであるが、M&Aの混乱で840の開発が遅れたと聞く。ようやく1998年になりBennett 840が発売された。新生児(3.5Kg)から成人まで対応できServo 300の強力なライバル商品に成長した。とくに圧換気モードは改良が加えられていて、Drager社のBIPAPシステムのように、呼気弁も吸気圧調節に積極的に関与するので、オーバーシュートが少なく、安定した圧維持を可能にしている。PCV, PSVのFlow Acceleration %やPSVのExpiratory Sensitivity %(吸気終了認識流量)もユーザー設定することができる。前モデルBennett 7200の弱点であった、ディスプレー能力や操作性はDualView Touch Screens Displayによって、解りやすい表示と操作になった。呼気弁制御能力もアクティブ制御によって大幅に改善された。ハードウェアーオプションとしてコンプレッサー、バックアップ電源が用意されている。ソフトウェアーオプションモードとしてVolume Ventilation Plus,Bi-LevelやPAV+、NeoMode、NPPVがある。NeoModeを装備すれば体重0.5Kgの新生児まで対象が拡大される。オプションの充実により今日でも最高水準の性能を維持しているが、基本設計は30年前であり、ユーザーインターフェースやグラフィック性能などでは見劣りがするのは否めない。しかしながら長期にわたりバグフィックスがなされたので、安定性と信頼性は至高の域にある。こうした面を評価するヘビーユーザーも多数存在する。
2.性能
1)利用できるモード
A/C (PCV,VCV,VC Plus)
SIMV(PCV,VCV,VC Plus) + PSV
SPONT(CPAP,PSV,VS,PAV,Bi-Level,NIV)
---------------------------------
+PEEP
Flow trigger(Flow-by)
Apnea Backup
NeoMode
Bi-Level
2)基本データー
最大吸気ガス流量
強制換気............150LPM
PSV.....................200LPM
最大強制換気数......... 100 BPM
最大SIMV回数...........100 BPM
バッテリー駆動時間...内蔵バッテリー;0.5時間以上
3.制御回路、制御機構
1)制御機構の概説
MPUにはモトローラ68040,24Mhzを使用している。ブレスデリバリーユニット(BDU)と、グラフィックユーザーインターフェース(GUI)に使用されている。2つのMPUは相互に作動状況を監視している。
2)機械的機構の特徴
患者回路はBennett流のシンプルな2本チューブで、呼気弁やフローセンサーは大型フィルターにより保護されている。
3)ガス流量計測
呼気ガス流量、吸気ガス流量はホットフィルム型センサーで計測される。
4)吸気バルブ
PSOLと呼ばれる流量制御弁を酸素とエアーにそれぞれ装備する。酸素濃度の調節と吸気ガス流量の調節を一期的に行う。
5)呼気バルブ
7200ではメカニカル制御であったが、840ではサーボ制御方式に改良された。呼気ガスの流量の変化に影響されないようにPEEP圧を積極的に維持する。これをアクティブ呼気弁と呼んでいる。圧換気時には、吸気相でも(EvitaのBIPAPのように)吸気圧のオーバーシュートを逃がすように作動する。
4.ニューマティック回路(図;PB840のニューマティック回路)
酸素、エアー配管より入力されたガスは、それぞれ、フィルター(F1,F3)(F2,F5)、逆止弁(CV2)(CV4)、レギュレーター(REG1)(REG2)で減圧される。これらのガスは流量制御弁(PSOL1)(PSOL2)で混合比率と流量を調整される。PSOL1,PSOL2を通過するガス流量はフローセンサー(Q1)(Q2)で計測されPSOL1,PSOL2の制御に用いられる。機器異常時に患者回路内圧が異常に上昇した場合は安全弁(SV)が開き回路を解放する。気道内圧のセンサーは吸気側(P2)と呼気側(P3)が設けられている。電磁弁(SOL1)(SOL2)は圧センサーのゼロ点校正用である。呼気ガスは、加温フィルターを通過したあと、圧センサー(P3)、逆流防止弁(CV5)、フローセンサー(Q3)を経てアクティブ呼気弁で通過量を調整される。
5.制御ソフト
1)トリガー方式
圧トリガー方式、フロートリガー方式を選択できる。圧感度1pH2O、フロー感度1 LPM(小児)、1.5 LPM(成人)より敏感に設定した場合にオートサイクルを起こさないように、フィルタリングアルゴリズムが組み込まれる。
a)フロートリガー
フロートリガーを選択するとトリガー感度+1.5 LPMのベースフローが自動的に付加される。また、バックアップとして-2pH2Oの圧トリガーが併用される。フロー感度は0.5-20 LPMの範囲で設定できる。初期値は3 LPM(>24Kg IBW)、2 LPM(<24Kg IBW)である。フロートリガーでは必要性がないのでFlow byにならない。NeoFlowオプション(IBW<7Kg)を作動させるとトリガー感度は0.1-10LPMの範囲で選択できる。カフなしチューブによるリークに対してトリガー感度を補正する機能はない。
b)圧トリガー
圧トリガー選択時には 1 LPMのベースフロー(圧トリガーではバイアスフローと呼び方が変わる)が付加される。圧感度は-0.1-20pH2Oの範囲で設定できる。初期値は-2pH2Oである。圧トリガーではFlow-byが作動する。
2)A/C
補助もしくは強制換気モードをA/Cと呼ぶ。圧換気もしくは量換気を選択できる(一般的に、前者はPCVと呼ばれ、後者はVCVもしくはsCMVと呼ばれる)。圧換気では呼気弁は目標圧で閉じられているので、オーバーシュートした分は(BIPAPと同じように)呼気弁よりリリースされる。量換気ではフローパターンを矩形波、漸減波より選択できる。漸減波の場合は設定流量より低下していく。漸減波の平均流量は矩形波のそれの半分であるので、吸気時間はおよそ2倍になる。吸気プラトーを付加できる。どんな換気であっても、I:E比が4:1以上になる設定、吸気時間が8秒以上もしくは0.2秒以下になる設定、呼気時間が0.2秒以下になる設定は受け付けない。
3)SIMV
トリガーウィンドーは固定時間方式で、SIMVサイクル時間の60%に設定されるが、最大10秒までである。自発呼吸相で始まった自発呼吸が強制換気相が開始しても継続している際には、強制換気は開始せず、極端な場合には、単数もしくは複数の強制換気が省略される。SIMVでは、すぐに無呼吸バックアップに入らないように、1回目の無呼吸時間で強制換気を1回入れ、さらにもう1回無呼吸時間が経過した時点で無呼吸バックアップに入る。これはSIMVサイクル時間が無呼吸時間より長い場合に有効となる。例えば無呼吸時間は15秒を用いることが多いが、この場合、SIMV回数の設定が4 BPM以下の状態を想定していることになる(図;SIMVにおける無呼吸換気の説明図)。
4)PSVとEsens(図;Esensの説明図)(図;圧上昇による吸気終了の説明図)
吸気終了認識条件にうちフロー条件(terminal flow)はオペレーターが設定できる。つまり、最大吸気ガス流量に対する%値を設定できる(Esensと呼ぶ)。吸気ガス流量がEsens以下になればPSVの吸気相は終了する。これに加えて、目標圧力に対する増加量が基準値を超えた場合でもPSVの吸気相は終了する。基準値は吸気開始より200msまでは直線的に増加する。その後は1.5pH2Oまで直線的に低下する。それ以降1.5pH2Oが用いられる。PSV開始時に基準値が高いのは、オーバーシュートによって誤動作を起こさないための対策である。開始時の基準値と1.5pH2Oまで低下するまでの時間(Tn)の詳細は公表されていない。最大吸気時間は1.99 + 0.02 x IBW秒である。
5)立ち上がり流量(Flow Accelaration %)
0-100%の範囲で設定可能である。初期値は50%であるが、何に対する%か不明である。%値を大きく設定すると立ち上がりが早くなるが、オーバーシュートやアンダーシュートを生じやすくなり、圧の振動を生じる。また、ピーク流量も多くなるので、PSVでは結果的に吸気終了フロー条件も多くなり、相対的にPSVが早期に終了する。最低に設定すると吸気時間の2/3で設定圧の95%に達する。
6)IBW(Ideal Body Weight)
人工呼吸器始動時に体重を入力すると、初期値としての、一回換気量、最大ガス流量、送気アルゴリズム、吸気時間延長アラームが確定する。一回換気量は7.25 ml/kgになる。最大ガス流量は80 LPM(IBW<24kg), 200 LPM(IBW>25kg)
7)Volume Ventilation Plus(図;VC+の説明図)(図;VSの説明図)
Volume Ventilation Plus(VV+)は設定一回換気量を達成するようにPCVとPSV圧を自動調節していくモードの総称でVolume Control PlusとVolume Supportの2形態より成り立つ。前者は、A/CやSIMVにおいて調節呼吸に用いられる。つまりPRVCやAutoFlowと同じである。後者は自発呼吸モードで用いられ、これもMaquet社のServo iなどと同じである。Volume Ventilation Plusを起動すると15pH2Oもしくは(Peak Pressure)-PEEP-3cmH2Oのいずれか少ない圧でテスト換気がおこなわれる。以降はコンプライアンスを計算して圧が自動調節されるが、最大変化量はIBWに応じて下記の表のように制限されている。だいたい5呼吸以内に設定換気量に達すると説明されている。アラーム条件にかかるとテスト換気より再開するのもPRVCとほぼ同じである。
圧調節における最大変化量 |
|||
IBW>25Kg |
15<IBW<25Kg |
IBW<15Kg |
|
最初の5呼吸以内 |
+ー10cmH2 |
+-6cmH2O |
+-3cmH2O |
5呼吸以降 |
+-3cmH2O |
表;VV+における圧の最大変化量
8)BiLevel(図;Bi-Levelの説明図)
BiLEVELは簡単に表現すれば(広義の)BIPAPである。高圧相と低圧相のそれぞれにPSVが付加できる。ただし、VYASIS社などは任意の圧のPSVをそれぞれに選択できるが、PB840では高圧相でのPSV圧(絶対値)は低圧相のPSV圧によって決定される[図;BiLevel with pressure supportの説明]。つまり、高圧相と低圧相とで別々のPSV圧を選択することはできない。ちなみにPB840はPSV圧がゼロであっても1.5cmH2OのPSVが適応されるセオリーになっているので、どんな場合でも少なくとも自動的に1.5cmH2OのPSVは付加されている。BiLevelは高圧相・低圧相の時間を30sまでの範囲で設定できる。そのため、APRVやその他の圧換気モードを作り出せる多様性がある。トリガーウィンドーは図のとおりである(図;BiLevelにおけるトリガーウィンドーの説明図)。
9)PAV+
PB840のPAVの特徴はコンプライアンスと抵抗を自動計測してくれるので、Drager社のEvitaのように直接フローゲインとボリュームゲインを設定するのではなく、呼吸仕事量の補助率を5-95%の範囲で5%ステップで設定する形になっていることにある。ただし、そのためには最初に気管チューブの太さ、気切か挿管か、加温加湿器の容量を最初に入力しておかなければならない。コンプライアンスと抵抗を自動計測するアルゴリズムは次のとおりである。スタートアップとして、4連続で吸気終末に5msecのPIPが組み込まれたPAV(換気)がおこなわれて、コンプライアンスと抵抗を計測する(IBWと気管チューブの太さ、気切か挿管か、加温加湿器の容量によって患者以外の要因による既知値を決定している)。5msecのPIPであれば患者はPIPの存在に気づかないと説明されている。最新のデータを重みづけする平均化処理により、さらに計測値の信頼性を高めている。その後は(設定)%補助率に応じたPAVが適応される。スタートアップ終了後はランダムに4-10呼吸毎に(これは患者が予想して対処しないように意図的にランダムに挿入される)1回はPIPをPAV(換気)に組み込んでコンプライアンスと抵抗を測定している。PAV換気中はグラフィックディスプレーに実測の気道内圧と推定肺内圧のグラフと、患者の呼吸仕事量と総呼吸仕事量がバーグラフで表示される。(図;PAVの設定画面) 計算式の詳細はPB本社のホームページに各種のマニュアルが公開されているので、これを参照すると良い。
10)NeoMode
PB840は対象体重3.5Kg以上であるが、NeoModeを組み込むと0.5Kg以上と適応体重が拡張される。呼気側設定可能範囲も、呼吸回数1-150BPM、フロートリガー感度0.1-10LPM、一回換気量5-315ml、吸気フロー1-30LPM、まで設定できるようになる。モードはTC以外のすべてを利用することができる。NeoModeではフロートリガーのみになる。ベースフローはトリガー感度+1.5LPMである。性能を発揮するには下記の指定回路とフィルターなどを使用する。NeoModeを起動する際には、必ずSST(Short Self Test)を施行しなければならない。この操作により患者回路のコンプライアンスや抵抗値が計測されて、圧制御の指標に利用される。
患者回路:
Ventilator breathing circuit, neonatal,disposable (DAR)307/6922
Ventilator breathing circuit, neonatal,disposable, 4 feet (Allegiance HealthcareCorporation)7441-4S2
呼気側フィルター:
Expiratory bacteria filter (DAR), disposable DAR part number 351P19005
Expiratory bacteria filter reusable, 22-mmISO (Neo Re/x800)
その他:
Inspiratory bacteria filter, 22-mm ISOconnectors, disposable (D/Flex )
Mounting plate*
11)TC
TCとはTube Compensationの略で、気管チューブの抵抗によって生じる呼吸仕事量を軽減する機能である。これはPAVの応用で、PAVのアシスト機能を気管チューブ抵抗に応用したにすぎない。軽減する仕事量を10-100%の範囲で設定できる。自発呼吸モードでしか利用できない。
12)NIV
NIVとは一般的にNPPVと呼ばれるマスク換気による低侵襲陽圧換気オプションである。NeoModeでも併用できNasal CPAPも可能になる。NIVを作動させるとリークに対応した作動をする。下記のMaskが動作保証されている。
Full-face Mask: Puritan Bennett® Benefit Non-vented Full Face Mask (large, part number
Nasal Mask: ResMed Ultra Mirage Non-vented Mask (medium)
Infant Nasal Prongs: Sherwood Davis & Geck Argyle® CPAP Nasal Cannula (small), Hudson RCI® Infant Nasal CPAP System(No. 3)
Uncuffed neonatal ET tube: Mallinckrodt Uncuffed Tracheal
Tube, Murphy (3.0 mm)
13)自動リーク補正オプション
カフなし気管チューブやマスク換気を行なう際に伴うリークを自動的に補正する機能がついた。Invasive、NIVでA/C、SIMVのPCとVC(VV+除く)、またはSPONTのPSV(TC、PAV+、VS除く)で使用でき、リーク補正範囲は成人回路使用時1〜65L/min、小児回路使用時1〜40L/min、新生児回路使用時1〜15L/minとなっている。
14)Respiratory Mechanicsオプション
Respiratory MechanicsオプションではNIF(陰性吸気力)、閉塞圧(P0.1)、肺活量(Vital Capacity)が測定できる。追加されるモニタ機能として動的コンプライアンス、レジスタンス、最大呼気フロー、呼気終末フロー、最大自発吸気フローがある。
15)Trendingオプション(トレンド分析)
Trendingオプションでは過去最大72時間のトレンドがモニタでいつでも表示の切り替えができる。表示は表形式とグラフ形式が可能で、設定、アラーム、換気モニタ等56項目のトレンド分析が可能で設定変更などを行なった際にも時間データと共にプロットされる機能がある。
16)バッテリー駆動
内蔵バッテリーにより最低30分作動できる。
17)無呼吸バックアップ
あらゆる呼吸モードで有効である。無呼吸バックアップ換気時の、酸素濃度、呼吸回数、一回換気量、吸気ガス流量、換気圧、などを設定することができる。無呼吸バックアップはリセットキーを押すか、患者が2回連続してトリガーし呼気換気量が送気量の50%以上に達した場合に自動的に解除され元のモードに復帰する。SIMVモードでは無呼吸時間が経過したあと強制換気が1回送られ、さらに無呼吸時間が経過した時点でバックアップ換気に入る。
18)Dsens
患者回路のはずれを検出した際にアラームが鳴る。人工呼吸器の送気量と呼気量との差が比較されている。送気量に対する損失量の%値が設定値以上になれば警報する。
19)100%酸素キー
酸素が2分間患者に供給されると同時に、酸素センサーの校正が行われる。
20)マニュアル換気
マニュアル換気キーを押すと強制換気が送気されるが、患者が呼気中に強制換気を送気しないように呼気を検出している。呼気の開始より200ms経過するまで、呼気ガス流量がそのピークの50%以下もしくは0.5 LPM以下になるまで、または50%を依然として超えている場合は5秒を経過するまで、強制換気は送気されない。
21)安全システム
作動中のシステムトラブルを防止するために、電子制御回路とガス回路の両方を継続的にチェックしている。これはバックグランドチェックと呼ばれる。さらにMPUシステムの異常に備えて、ソフトウェアー上だけでなく、ハードウェアー回路を使ってソフトウェアーの作動状況と停電トラブルをモニタしている。これには、Watch Dog Time-out回路、BUS Time Time-out回路、Built-in CPU monitor回路、があり、異常時にはPOST(Power On Self Test)を実行し、システムをリセットし直す。24時間に3回作動すると作動不良のアラーム状態になる。
6.操作方法
1)基本操作
設定操作は下部スクリーンを使用する。タッチスクリーン方式の操作体系になっている。基本は、項目を「タッチ」で選択し、つまみを回して数値を入力し、「入力キー」で確定する。入力途中では「解除」を押すと変更前の設定値に戻してくれるundo機能が働く。設定項目には、「換気設定」、「無呼吸(バックアップ)設定」、「アラーム設定」、「その他の画面」の4項目がある。どの画面であっても4項目のいずれかをタッチするとそれぞれのメニュー画面が表示される。つまみを回して項目や数値を選択し「入力キー」で確定する。操作ガイドが画面上に表示されるので、操作はわかりやすい。
2)始動画面(図;PB840始動時の画面)
電源をONにすると始動画面が現れる。前回と同じ設定であれば、「同患者」をタッチする。「新患者」を選択した場合には、IBW入力画面になる。「IBW」をタッチし、IBW入力状態にしてノブを回して体重を入力する。次に「継続」をタッチして次画面(設定画面)へ移動する。
3)設定画面(図;新しい患者を選択した際の設定画面)
モード(A/C,SIMV,自発)、強制換気タイプ(PV,VC,VC+)、自発呼吸タイプ(PSV,PAV,BiLevel)、トリガータイプ(圧トリガー、フロートリガー)の設定値が現れるので、変更を希望するボタンにタッチし、ノブを回して選択する。「継続」をタッチして次画面に移動すると、その他の項目も表示される。同様にタッチで選択し、ターンで数値入力する。すべての設定が終了したら「確定」をタッチする。最後に「入力キー」を押して設定を終了する。患者に接続をすると正常換気がスタートする。その後、無呼吸バックアップ換気の設定画面が現れるので、必要であれば数値を変更し、「確定」をタッチし、「入力キー」を押す。「入力キー」を押す前であれば随時「再始動」にタッチして始動画面を最初より開始できる。
4)作動中の変更(図;作動中の設定変更画面)
作動中に、一回換気量や換気回数などの設定値を変更したい場合は、希望する項目をタッチして選択し、ノブを回して数値入力し、「入力キー」を押して確定することで変更できる。
(1)換気モードの変更には、「換気を押すとA/C,SIMV、自発呼吸の3項目が表示されるので、つまみを回して選択し「入力キー」で確定する。「次画面」を押してトリガー方式、強制換気の種類など順次、画面表示にしたがって設定していく。
(2)無呼吸バックアップ換気の設定は、「無呼吸」をタッチし、無呼吸換気設定画面に入り設定する。
(3)アラームの設定は、アラームのシンボルマークで表示されている「アラーム設定」をタッチしてアラーム設定画面に入る。(図;アラーム設定画面)アラームの上限、下限がバーグラフ上に表示されているので設定したい項目をタッチして選択し、つまみでアラーム値を入力し「入力キー」で確定する。選択した数値に応じてバーグラフの上限もしくは下限の矢印が動くので視覚的にわかりやすい。
(4)その他の項目
加温加湿器のタイプ、酸素センサーのON、Esens、Dsensなどを変更するには、他の画面ボタン(これもシンボル表示されている)を押して設定していく。
7.モニター、アラーム機能
1)概略
高優先度、中優先度、低優先度、正常作動の4段階で表現される。異常事態が解除されてもインジケーターはリセットするまで点灯している。上部スクリーンにはアラームメッセージが表示される。アラームメッセージは、ベースメッセージ、分析メッセージ、処置メッセージより成り立つ。アラームの履歴は記録されていて上部スクリーンのアラーム記録ボタンをタッチすると内容を表示できる。
2)アラーム項目
無呼吸時間(初期値20秒)、回路内圧上限(初期値.60pH2O)、呼吸回数上限(初期値OFF)、一回換気量上限(初期値8.7 x IBW)、強制一回換気量下限(初期値5.8 x IBW)、分時換気量下限(初期値0.0928 x IBW)、分時換気量上限(初期値0.1392 x IBW)、自発換気量下限(初期値5.8 x IBW)がある。
3)機器作動
電源低下、装置の異常、配管圧低下、処理エラーを警報する。機器異常時には安全弁開放状態になり、患者回路を大気に解放する。
4)患者回路の異常
(1)回路の閉塞
送気のすべてのサイクルで患者回路の閉塞がないか絶えずチェックしている。閉塞を検出するとアラームが作動し、経過時間を表示する。吸気圧が5pH2O以下になるまで、もしくは15秒経過するまで、安全弁を解放する。その後一定間隔で吸気時間2秒吸気圧15pH2OのPCVを繰り返す。閉塞状況が解決されると元の作動に復帰する。
(2)回路の接続不良
呼気の最初の200ms中にフローや圧を検出しない場合、3回連続の換気でDsensが設定値以上になった場合、PSV時に最大吸気時間内に設定レベルに達しない最大フローを検出した場合、回路のはずれとみなし、アラームが作動し、経過時間を表示する。呼気弁を開き、100%酸素10LPMを供給する。接続不良が解消された際には、元の作動に復帰する。
8.ディスプレー機能(図;ディスプレー表示例)
設定は下部スクリーンに表示される。患者情報は上部スクリーンに表示される。換気回数、気道内圧、分時換気量などの実測値は上部スクリーンの上側に数値表示される。その下のアラームエリアにはアラームメッセージを表示する。サブスクリーンエリアには圧、フロー、量のうち2波形をグラフィック表示できる。また、圧-換気量曲線も表示できる。キータッチによりアラームの履歴を表示する。
9.患者回路構成、加湿器(図;患者回路)
加湿器はF&Pが標準装備である。
10.メンテナンス
1)呼気弁
呼気弁は本体内に内蔵されており、日常的な使用での分解、洗浄、滅菌の必要はない。呼気弁の前に加温されたバクテリアフィルターがあり、これにより患者回路は汚染しない。そのため回路は単純に2本のチューブのみで構成できる。滅菌後の回路の組立ミスも起こり難い。
2)フィルター
15日連続使用した場合、使用開始前、その他抵抗が大きくなっていると予想されるときにはSSTによるテストシーケンスをおこない、抵抗を確認する。吸気フィルターは抵抗が1-4pH2O/60LPMもしくは0.5-2pH2O/30LPMの範囲であることを確認する。呼気フィルターは抵抗が0.6-2.4pH2O/60LPMもしくは0.3-1.2pH2O/30 LPMの範囲にある事を確認する。ネブライザー使用後は、なおさらこの点に留意する。なお、バクテリアフィルターはオートクレイブのみ可能である。毎年もしくは100回滅菌したら交換する。
11.定期点検
1)毎年
サービスエンジニアによる各種トランスデューサーの校正、テストを行う。
2)2年ごと
酸素センサーならび電源バックアップバッテリーを交換する。
3)10,000時間
プリベンティブメンテナンスキットを用いてサービスエンジニアによる各種パーツの交換を行う。
12.欠点
1)以前は営業やサポートなどに若干の問題があったが、Tyco Healthcare社の直販になりこれは解決した。情報公開に対する姿勢も改善され、今ではホームページ上でユーザーマニュアルのみならず、サービスマニュアルまでダウンロード可能になっている。
2)操作メニュー体系は7200に比べるとかなり改良されたが、まだメニュー構造に改善の余地はある。確定操作後、さらに入力キーを押すことを要求されることがあったり、変更、入力ですっと操作できたり、操作体系に統一性がないように感じられる。そのため、ガイド表示を見ない完遂できないことがある。その上、日本語で表示される用語は一般的に受けいれられている用語と合致していないところもあり、意味不明なこともある。例えば設定、継続、解除、再始動など、日本語訳が悪いので(おそらく人工呼吸器を知らない一般の翻訳家に依頼したのであろう)、その用語が何を意味するのか理解できないこともある(最近これもだいぶ改良された)。
3)日本語の表示はわかりやすくて、特にパラメディカルに好評であるが、必要以上に日本語になっていて逆に解りづらいところもある。所詮、日本語といっても漢字=中国語なので、英語の略語のままの方が良いところもある。
4)操作体系は慣れの問題であろうが、やや独自のものがあり、サーボやエビタとは文法が違うためちょっととまどう。日本語によるガイドがあり、それに従えば、何とかなるが、理想を言えば、ガイドしなくても誰にでも理解できる操作体系を考えるべきである。
5)呼気弁前のフィルターによって患者回路の交換が簡単になったのは評価できるが、その分だけ余計なランニングコストがかかるのはマイナスである。
6)NeoModeにより、新生児機能が拡張されてServo iに匹敵する性能になるのはすばらしいが、NeoModeに切替えるのにテストシーケンスをしなければならないのは面倒である。
7)グラフィックディスプレーが2波形しか同時表示できないのは不便である。肺メカニクス画面もPVループしか表示できないのは不充分。
8)性能は最高クラスの人工呼吸器として何ら問題はないが、他社によって開発された機能以外にオリジナルのモードや機能がないのは、リーディングカンパニーとしての資質に欠ける。