INTELLiVENT-ASV
1.INTELLiVENT-ASVの概念と目的  (図;INTELLiVENT-ASVでの設定画面
 ASVはHamilton社の人工呼吸器に搭載されている新しい概念の換気モードであるが、これをさらにEtCO2とSaO2をモニターしながら、人工呼吸器の設定を自動的に設定していくモードとしてINTELLiVENT-ASVが開発された。このモードはHamilton G5とS1で利用できる。現時点では本邦やアメリカでは未承認なので利用できない。INTELLiVENT-ASVは呼吸モードというより、ASVモードを人工呼吸器が自動設定していくアプリケーションである。当然のながら機械にすべてを委ねて良いのか、倫理的な側面と事故の責任に対する危惧があり、承認しない国もある。INTELLiVENT-ASVでは、こうした危惧に充分に配慮されていて、患者の病態設定画面では、ウィーニングさせるさせない、分時換気量の調節をさせるさせない、FiO2を自動調整させるさせない、PEEP調節をさせるさせない、など項目設定ができる。さらに機械がどのような方向性で換気パターンを調節しているか、現在どの状況にあるか、などGUIを多用したわかりやすい画面が用意されている。FIO2やPEEPは増加させつつあるのか、減少させつつあるのか機械の当節の方向性もグラフィカルに表示してくれる。今後は各社の人工呼吸器にもこうした自動設定アプリケーションが搭載されていく流れになる。INTELLiVENT-ASVは新しい人工呼吸器としての未来像を示した歴史的な概念である。
2.INTELLiVENT-ASVの構成要素
1)患者の病態
 ARDS、COPD、Brain injury、気胸、循環動態不安定、ヘモグロビン障害などからそれぞれ有無を選択出来る。単純計算で128通りの組み合わせが出来る。しかし、一口にCOPDと言っても、程度にはいろいろあるのでON/OFFしか設定できないのは不充分である。
2)自動調節を許容するパラメーター
 現状では、FiO2・PEEP・目標分時換気量を自動調節出来る。FiO2、PEEPはRTにとって、医師の指示を要する必須項目であるが、これらすら自動調節可能になっている。分時換気量はこれまでの人工呼吸器でも自動調節されてきたので異論はないと思われる。
3)自動調節の方向性
 例えばCOPD患者では気道内圧が高くなるに従いEtCO2が高値でも許容するpermissive hypercapneaの概念に準じた方向性が示される。これらの目標は機械調節目標としてグラフに示されている。病態によって、どのようなガイドラインに従うか、今後も変遷があると思われる。
4)患者情報の把握
 EtCO2やSaO2は基本中の基本であるが、今後の方向性として、さらなる患者情報を入力する、もしくは、機械が要求してくる仕様なども考えられる。
5)センサーの信頼性
 SaO2などのセンサーの信頼性も重要な要素で、臨床現場でもSaO2の信頼性に戸惑う機会は少なくない。機械が信頼性の低い情報にしたがって誤った作動をする危惧は否定できない。
3.INTELLiVENT-ASVの制御方式
1)制御機構
 MPU制御方式だけである。
2)制御理論
 INTELLiVENT-ASVはアプリケーションとして先駆者であるが、今後改良バージョンや他の呼吸理論に基づいた自動設定アプリケーションが用意されてくるはずである。こうしたアプリケーションはUSBメモリーを介してインストール可能になっていくだろう。
4.INTELLiVENT-ASVの利点と欠点
1)最適な換気
 患者の変化にあわせてここまでリアルタイムに追従する人工呼吸器は存在しなかったので、不適切な設定が放置されてしまう危惧は減少する。また、最適ではないかもしれないが悪くはない設定をしてくれるのは利点である。少なくとも医師による不適切な設定が散見される現状では、医師に対して啓蒙的な機械である。
2)自動調節の問題
 医療事故が発生した場合、その責任は管理していた医師にあるのか、不適切な機械を販売したメーカーにあるのか、充分な議論のないまま、このような機械が使用されるのは問題である。
3)ブラックボックス
 こうしたアプリケーションはブラックボックス化してしまう傾向がある。幸いHmilton社が情報開示に対して理解があるが、中には企業秘密として公開しない社でてくることは充分に予想できる。今後こうした非公開のアプリケーションをどのように扱うか、医学界として充分に議論する必要がある。現在でもAdaptive Support Ventilationなどは何がどう動いているか非公開であるが、心不全の治療器として無批判に利用されている現状がある。
4)センサーの怖さ
 本当にSaO2の数値に従ってFiO2を下げてしまって良いかは判断の分かれるところである。人間であれば患者を観察しながら調節しているはずであるが、そういう情報を持たない機械が単純にそのような動作をして良いのかは疑問に思う。この意味では危険な機械でもある。