France ResMed
HELIA
HELIAはフランスSAIME.S.A社製の成人ならびに小児を対象とした小粋な在宅用人工呼吸器である。圧換気や量換気対応のタービン式の高性能かつ多機能なハイテク人工呼吸器であるので、クリティカルケアにも対応可能である。外部バッテリー併用で8時間の駆動ができる。酸素は最大15LPMまで付加できる。2005年にSAIME.S.AはResMedに買収されてFrance ResMed社に変わった。日本では木村医科器械株式会社より販売されていた。
2.性能
モード...............................PSV、PCV(+Vt Guaranteed)、
PsTv、IPPB、
一回換気量.......................0-2.5 L
吸気ガス流量...................10-99 LPM
最大吸気ガス流量...........200 LPM以上
呼吸回数............................OFF,6-40 BPM
吸気時間............................0.25-5 sec.
PEEP...................................3-12 hPa
重量....................................10 kg
消費電力............................AC100v 100VA、 DC 24-29v 5.5A max.
バッテリー作動時間........内部 3.5時間
外部併用で約8時間
ブロアーの駆動にブラシレスDCモーターを使用している。タービンの回転数はマイクロプロセッサで制御されている。ニューマティックブロックの入力圧は圧トランスデューサで計測されていて、タービンの回転数を調節するサーボ制御で安定化されている。吸気バルブは吸気チャンバと呼ばれるニューマティック弁を介して、マイクロプロセッサによるサーボ制御されて、実測値に基づく補正を受けている。吸気ガス流量は差圧式のフロートランスデューサで計測されている。呼気弁も吸気側と同様にマイクロプロセッサでサーボ制御されている。呼気ガス流量も吸気側と同機構でガス流量計測されている。PEEP圧は専用の小型コンプレッサで制御圧をつくりPEEPレギュレータで呼気弁駆動ガスをつくっている。機器異常時には、吸気ガスと呼気ガスは一方向弁、呼気弁の働きによって大気に解放される。吸気・呼気ともにメルシャニックセンサと呼ばれる高精度の差圧式フロートランスデューサでガス流量を計測する。PEEP圧は専用の小さなコンプレッサで圧力を作り、これで呼気弁を駆動している。
1)患者回路
患者回路は近位圧モニターチューブ付きであれば、通常の2枝タイプと呼気弁内蔵の1枝タイプのいづれも使用可能である。ON/スタンバイを押し続けるとスクリーンのバックライトが点灯して電源が入る。患者回路のタイプは自動判定される。
2)設定
電源投入時には操作がロックされているので、設定を変えるにはロックを解除する必要がある。KEYボタンを押しながらローターリノブを右に回す。キー操作が2分間なければ自動的にロック状態になる。モードは直接モードキーを押すと選択できる。PS圧、PEEP、換気回数、一回換気量、Pmax/delta PIP、トリガー感度は直接キーでアクセスできる。その他の項目やアラームの設定は操作パネル右下のメニューからパラメーター、アラーム、計測のキーを押してメニューを出してから、左右の選択ボタンで項目を選び、ローターリノブで数値を入力する。
3)呼吸モードの特性
各種のモードが搭載されているが、SIMVモードはなく、A/Cモードだけである。換気補助は圧換気、量換気、IPPBを選べる。
量換気(Tidal Volume Guaranteed, Vt Guaranteed )はPSV、PCV、Ps.Tvモードで付加することができる。PSVモードで付加すればVS(Volume Support)になる。PCVモードに付加すればPRVCになる。これらのモードでは、過去の換気圧を実測した換気量に基づいて、次の換気圧を決定している。だいたい3回くらい換気すると目標一回換気量を達成できる。Ps.Tvモードは量換気モードに属する、複合的な作動をする換気モードである。PSの圧設定が6未満であれば、一般的な漸減波による量換気(Volume Control)として作動する。一方PS圧を6以上にすると、VAPS(Volume Assured Pressure Support)類似の作動をする。最初はPSVとして作動しているが一回換気量を達成できていない場合には、徐々に吸気時間が延長していく(Tmaxまで)。その後、PSVにVCVが加重する形でVCVの矩形波が徐々に増量して一回換気量を達成する。
IPPBモードは肺理学療法用でマウスピースを加えて行う。ゆっくりと吸気を行い肺を拡張させるのが目的である。少なめの吸気ガス流量を矩形波で提供して、圧サイクルもしくは時間サイクルで吸気が終了する。
表:各モードでの設定項目、設定できる機能、選択できない機能
|
PSV |
PCV |
Ps.Tv |
IPPB |
Trigger OFF |
× |
○ |
PS:OFF時に○ |
× |
Vt Guaranteed |
○ |
○ |
○ |
× |
E.Trig |
○ |
× |
○ |
× |
Tmax/Ti |
× |
Ti |
Tmax |
Tmax |
Slope |
○ |
○ |
|
|
dPIP/Pmax |
d PIP |
dPIP |
Pmax |
|
Freq |
× |
○ |
○ |
× |
Flow |
|
|
|
○ |
PS |
○ |
○ |
○/OFF可能 |
○ |
single回路 |
○ |
○ |
× |
○ |
NIPPV |
○ |
○ |
× |
○ |
注:○は選択可能もしくは設定項目、×は選択不可、
無記載は設定不可もしくは非設定項目を意味する
Pmax=PEEP+PS+dPIP
4)トリガー
電源ON時に患者回路が1枝型か2枝型かを自動判定する。前者であれば圧トリガーになる。後者であれば、呼気流量を10LPMを確保したFlow-byによるフロートリガーになる。感度は1-10数値で選択できる。感度1は0.25hPaもしくは0.5LPMである。数字が上がるにしたがい0.25hPaもしくは0.5LPMづつ感度が低下する。PCV、ACV(PsTvでPSをOFFにした際にVolume Controlになる)モードではトリガー機構をOFFにできる。一般的に圧トリガーは回路リークがあるNIPPV用で、フロートリガーはリークがない挿管された患者用である。
5)E.trigger
一般的にFlow Cycleと呼ばれる機能で、HELIAでは呼気トリガーと呼ばれる。圧換気において、ピーク吸気流量に対して設定した%値まで吸気ガス流量が低下した場合に吸気相を終了させる。5-90%もしくは自動を選択できる。自動(E.Trig=AUT)にした場合は
(図;E.triggerの決定方法)のように、座標(0,0)よりピーク吸気流量に達した点に引いた直線T0とY軸となす角度αと同じ角度x°を用いて、x軸にx°引いた直線T1が吸気ガス流量と交差した点を吸気終了条件としている。この場合にはピーク流量に達するのに時間が必要な換気ほど吸気終了が早期に終了することになる。
6)Freq
A/Cにおける最低換気回数の意味。OFFにすると自発呼吸がなくなれば換気補助も停止する
7)SLOPE
rising timeはSlope0、Slope1,Slope2の3つが選べる。Slope0では200ms以内に設定吸気圧になる。Slope1では設定吸気圧-2hPaまで200ms以内に達する。Slope2では-4hPaまで200ms以内に達する。
8)その他
PsTvは目標一回換気量、delta PIPは目標一回換気量を達成する為に機械に許容する吸気圧の値。HELIAは一回換気量を維持するためにPS圧にdelta PIP圧を加えた圧まで換気圧が自動調節する。Tmaxは最大吸気時間で、吸気時間がこの値になると吸気相は終了して呼気相に変わる。
5.モニター、アラーム
メイン電源、バッテリー消耗、低気道内圧、高気道内圧、外部電源電圧異常、患者回路リーク、一回換気量下限、一回換気量上限、換気回数上限、タービン異常、機器異常、などのアラームが装備されている。オプションで酸素濃度のアラームが用意されている。モニター機能として液晶に気道内圧のバーグラフと設定やアラーム項目が2行で文字表示される。オプションのHeliascopeソフトをインストールしたWindowsパソコンをシリアルコネクターに接続すると、グラフィック波形、ループ波形、設定値、実測値、トレンドなどをパソコン画面上にマルチウィンドーで表示することができる。
6.患者回路
シングルとダブルの2つが利用できる。用途によって使い分けることも可能である。
7.メンテナンス
定期的に機能チェック、バッテリー充電、整備を行う。
8.欠点
1)ディスプレー機能
単独では、モニター機能やディスプレー機能が貧弱で、設定内容の確認や動作モニターが見づらい。確かに在宅用としてみればこうした機能はかえって不必要ではあるが、それでも設定が煩わしい。病院での使用にはHELIASCOPEが必要。
2)SIMV
SIMVモードを搭載すること自体はHELIAにとっては極めて容易だったはず。敢えてSIMVモードを省いているのは、なかなか英断であり、呼吸モードに精通しているからこそできる。しかしながら、はたして日本マーケットの標準的なユーザーの理解度がこのレベルについて行けるかは疑問である。
3)モード名
フランス製なので、モード名やモード概念が日本で一般的なモード名と一致しないので、ややわかりづらい点がある。むしろ常識的なモードや機能にとどめておいた方が日本マーケットに受け入れられやすい。また、多機能すぎて理解するのが大変。誤解を防ぐためには機能をもっと絞った方が良い。どうしても多機能を維持したいのなら、初期状態でユーザーのレベルに応じて使えるレベルを制限する必要がある。
4)外部電源
DC24vなのはやや使いづらい。