GE Healthcare
Engstrom Carestation
1.特徴図;外観写真
 スウェーデンの人工呼吸器メーカーとして歴史的な老舗であるEngstrom社はその後に麻酔ガスモニターや代謝量モニターで有名なDatex社に吸収されてDatex Engstrom社になった。1998年4月にDatex社はOhmeda社を吸収してDatex Ohmeda社になった。2003年10月にGE HealthcareはDatex Ohmeda社を合弁して、Engstromは(トーマス・エジソンとゆかりのある巨大な)GE社(米国)の一ブランドとなった。
 Engstrom社は1980年代のErica、90年代のElviraに代表される、独創的な吸気ガス発生機構や呼気のボリューム測定機構・呼気ガスをバッグに集める呼気ボリューム測定機構 (Volume measurement system)とその臨床応用の間接代謝量測定機能を本体内に組み込んだ個性的な人工呼吸器を作っていた。
 Carestationにもこの血統が流れており、エネルギー代謝モニターやその応用であるFRC計測機能や、SpiroDynamics計測など、他社とはひと味違う呼吸モニター機能を搭載して、Carestationの名に恥じない人工呼吸器・呼吸モニター複合機になっている。対象は5Kg以上の小児〜成人であるが、新生児オプションを購入すると対象が0.5Kg以上に拡張される。外部電源異常時にはバッテリー駆動は標準で120分、最悪でも30分以上は可能である。
2.性能
1)利用できるモード
 VCV
 PCV
 PCV-VG
 SIMV-VC
 SIMV-PC
 SIMV-PCVG
 APRV
 BiLevel (APRV可能)
 BiLevel -VG
 CPAP/PS
 NIV
 nCPAP(新生児オプション)
 VG-PS(新生児オプション)
---------------------------------
 +PEEP
 無呼吸バックアップ
2)基本データー
最大吸気ガス流量............160LPM
ピークフロー     200LPM
最大換気数....................... 150BPM
最大SIMV回数................ 60BPM
トリガー感度     フロー0.2-9LPM
           圧0.25-10cmH2O
3.制御機構
1)概説
 Engstrom社のは、EricaやElviraでは、「良く訓練された麻酔医の手が最高の人工呼吸器」というポリシーを固持していて、麻酔器を操る麻酔医という構図を機械によって具現化した人工呼吸器を開発していた。麻酔医の手(駆動部)が、チャンバー内のリザーバー(バッグに相当する)を間接駆動して吸気ガスを発生する。この機構のおかげで、強制換気の時間を含めて、患者は自由にリザーバーから吸気ガスを吸える特徴が生まれていた。さすがに、現在ではサーボバルブとフローセンサーを用いた標準的な機構に変更された。
2)ガス流量計測
(1)吸気側(図;フローセンサーの構造
 酸素とAir用にThermal mass flow式のフローセンサーが設けてある。さらに混合ガス流量を測るThermal mass flow式のフローセンサーも設けてある。Thermal mass flow式のフローセンサーでは層構造の両端からバイパス流としてセンサーにガスが流れる。ヒーターは温度を一定に保つように加熱されるが、加熱に必要なエネルギー量はガス流量によって持ち去られる熱量に比例する。したがってガス流量を加熱に必要なエネルギー量として計測できる。
(2)呼気側(図;呼気弁とフローセンサー写真新生児用フローセンサー
 Thermal mass flow式のフローセンサーが設けてある。このセンサーは熱線式と同様の原理である。新生児オプションではThermal mass flow式のフローセンサーをYピース部に設置する。
3)吸気バルブ
 0.05-160LPMの範囲で流量調節する比例電磁弁が用いられている。ベースフローは2-10LPM (NIVでは8-20LPM)で設定可能である。
4)呼気バルブ(図;呼気弁ユニットの構造
 電磁コイルによってダイレクト駆動する呼気弁が採用されている。電磁で駆動されるピストンが弾力性のある膜を固い構造に押しつける構造になっている。膜の直径は21mmでピストンが押しつける圧は0-100cmH2Oの範囲で調節できる。当然、比例制御弁である。
4.ニューマティック回路(図;ニューマティック回路
 オプションのコンプレッサ1は圧縮空気配管がない場合に作動させる。O/Airは、それぞれフィルタ3、配管圧センサー4、逆流防止弁5、を通過したあと、レギュレータ6で減圧される。次にThermal mass flow式のフローセンサー9でそれぞれの流量を測定して、吸気弁10で流量調節する。吸気ガスは総フローセンサー15で総吸気流量計測して、吸気側圧センサー17で圧計測する(ゼロ化弁18は圧センサーの0点校正弁である)。機器停止時など患者回路が−0.5cmH2Oより陰圧になった際に大気ガスを吸える安全機構20-21、異常高圧を(115cmH2O以上の圧は機械的に、マイクロプロセッサーが異常と判断した際には電磁弁によって)リリーフする高圧リリーフ弁22を経て患者肺につながる。新生児オプションでは口元のフローセンサー19も使用する。テストポート7は機器チェック用のポートで通常は栓で閉じられている。
 呼気ガスは呼気弁(呼気弁駆動部25が呼気弁を調節している)、呼気フローセンサー27、逆流防止弁26を経て大気に放出される。呼気ガス圧は呼気側圧センサー30で計測される。ゼロ化弁29は圧センサーの0点校正弁である。呼気ガス圧センサーにはチューブ閉塞予防用に35ml/minのパージフロー28が流れている。必要時にネブライザー23が吸気側患者回路に加えられる。このネブライザーはAerogen社製のAeroneb Proと呼ばれる製品でり、ネブライザー使用時でも換気パラメーターに影響を与えない。
5.制御ソフト
1)トリガー方式
 フロートリガーが採用されている。トリガー感度は1-9LPMである。オプションの近位圧測定ユニットを装着した場合は、圧トリガー1-10cmH2Oも選択できる。新生児オプションでは0.2-9.0LPMの感度を選択できる。先行換気で計算されたリーク率に基づいてトリガー感度は自動的に補正されてAuto Triggerを予防する。
2)VCV(図;VCVの説明
 一般的な従量式強制換気である。安全のために呼気相の開始より0.3s以内はトリガーしない。 
3)PCV(図;PCVの説明
 一般的なPCVである。
4)PCV-VG(図;PCV-VGの説明
 これはMaquet社のServo-iのPRVCであり、Drager社のAutoFlowと同じ機能である。
5)SIMV-PC,SIMV-VC,SIMV-PCVG(図;SIMVの説明
 トリガーウィンドーは固定時間方式であり、SIMVサイクルの終末0-80%で任意の値を設定できる。トリガーウィンドーの途中でトリガーを検出すると以降のトリガーウィンドーは消滅する。消滅したトリガーウィンドーに相当する時間は次回のSIMVサイクル時間に加重されてSIMV回数が増加するのを防いでいる。呼気相の開始より0.3s以内はトリガーしない。強制換気はVC、PC、PCVGから選択できる。図はSIMV PCVGの説明である。
6)PSV(図;PSVの説明
 フローターミネーションは5-50%で設定できる。PSV最長時間は0.1-4.0sの範囲で設定できる。
7)BiLevel(図;BiLevelの説明
 一般的なBIPAPやBiLevelと同様に作動する。設定によりAPRVとして作動する。自発呼吸での最大吸気時間は成人で4秒、小児で1.5秒、新生児で0.8秒である。高圧相にもPSVが付加される。
8)BiLevel-VG(図;BiLevel-VGの説明
 高圧相への移行した初期の吸気量をTvとして認識し、この値が設定値になるようにPhighが自動調節される。
9)VG-PS
 PSVに対してVG機能をONにしたモードで言わばVolume Supportに相当するモードである。
10)NIV
 Bias Flowを調節するしてリークに対応する。8-20LPMの範囲で設定可能。リークに対するトリガー補正や換気量補正、計測値に対する補正はなされているようだが、詳細は不詳である。
11)Leak Compensation
 吸気分時換気量−呼気分時換気量がリーク量に該当する。リークは気道内圧に比例するので、リーク量を平均気道内圧で除した値が、リーク係数になる。リーク係数が定まると1回換気量がリークしても1回換気量が維持できるように補正することが可能になる。呼気時にPEEP圧でのリーク量も推定できるので、フロートリガー感度も補正できる。またPSVでのターミネーション条件も補正できる。
12)Rise Time
 0-500msの範囲で設定できる。強制換気とPSVで独立して設定できる。
13)Bias Flow
 設定可能範囲は次のとおりである。
 2-15LPM nCPAP
 2-10LPM 通常
 8-20LPM NIV
14)バックアップ機能
 自発呼吸モード時に不十分な換気を感知すると作動する。メッセージウィンドーが表示される。バックアップ換気パラメーターはユーザー設定のとおり。Resetを押すと元の設定に復帰する。Adoptでバックアップ設定での換気条件が新しい設定として作動する。
 
15)ARC(Airway Resistence Compensation)
 ARCは気管チューブ抵抗などに起因する呼吸仕事量を相殺する機能で、他社ではTCやATCと呼ばれる機能である。これはPAVの限定的な応用で、チューブ抵抗に対してフローゲインに相当する圧を換気圧に加えて実現している。
16)アナログ出力
  スナップショット機能を使えば画面をコピーして保存できる。
17)デジタル出力
 RS 232C、RS-422、RS-485を使って、換気データ、アラーム、代謝量の情報が定時的に出力できる。LANポートやUSBポート、Compact flashソケットも装備している。
6.操作体系(図;操作パネル
1)基本
 メニュー3で項目を選択してComWheel4で数値などを選択し、押して確定する。クイックキー7は対応するパラメーターをショートカットで選択するキーである。LED1にはアラームの緊急度が表示される。アラーム消音ボタン2を押すとアラームを消音できる。Normal Screen5を押すと画面からMenu画面を消して、標準画面に戻る。
2)設定手順
 Menu画面から、患者カテゴリー(新生児、小児、成人)、患者情報(体重、IDなど)、モード選択、パラメータ設定、Reference、バックアップモードの設定、ARC、アラーム、必要があれば、システム設定、画面設定、Spirometry、Gasユニット、ネブライザー設定を行う。
7.モニター、アラーム機能
1)ガス交換モニター(代謝量モニター)
 E-COVX, E-CAiOVX, M-COVX, M-CAiOVXなどのオプション装着すると、気道ガスの組成を計測して、患者の酸素消費量やCO2産生量、エネルギー消費量、呼吸商などをモニターできる。
2)Auxilary pressure
 Yピースや特殊な気管チューブを使用してチューブ先端圧や食道内圧などをモニターしてトリガーさせたり、各種の肺機能情報を提供する機能である。
3)INview ventilation tools
 このツールにより以下の計測が可能になる。
(1)FRC INview(図;FRC INviewの説明)
 FRCとは機能的残気量で、呼気終了時に肺に残っている残気量を意味する。FRCは窒素wash out法を用いて計測している。D-liteセンサーとエネルギー消費量を計測できる気道モジュールが必要である。
(2)PEEP INview(図;PEEP INviewの説明
 PEEPを変化させてPEEP値に応じたFRCを計測する機能である。PEEP値とFRCの関係をグラフ表示ができる。
(3)Spiro Dynamics(図;Spiro Dynamicsの説明
 気管内に挿入されたカテーテルをAuxilary Pressureポートに接続して直接気管内圧を計測することで、気管チューブ抵抗に影響されないPVループを計測できる。図は極端な例であるが、左のループはチューブ抵抗がないのでPVループはふくらまない。従ってほとんど1本線に近いループになる。一方右のループは抵抗が大きいので吸気呼気で大きくふくらんでいる。
(4)Lung INview(図;Lung INviewの説明
 SpiroDynamicsとPEEP INviewを同時に計測して、PEEPカーブより両者の差を引いたグラフを表示できる。この差はリクルート容積に相当すると推定できる。
(5)INview Vent Calculations
 各種計測値を計算表示する機能である。
(6)その他
 内因性PEEPやPEEPiボリューム、P0.1などを計測できる。
 
4)アラーム機能
 一般的に必要とされるアラーム機能はすべて完備している。
8.ディスプレー機能(図;表示フィールドの配置)(図;グラフィック表示例
 Carestation は呼吸モニターも兼ねているので、各種グラフィックなど必要な機能はすべて搭載されている。表示フィールドは次の用になっている。1.アラームシンボル、2.アラームメッセージ、3.グラフィック表示、4.一般的なメッセージ、5.時計、6.計測値表示、7.換気量・CO2・O2・コンプライアンス・Spirometryの数値表示、8.換気設定。
9.患者回路構成、加湿器(図;ネブライザー装着例
 一般的な患者回路である。SpiroDynamicsを利用するには気管チューブ先端圧をモニターするために専用の気管チューブなどが必要である。
10.日常のメンテナンス
1)呼気弁(図;呼気弁ユニットの構造)(表;滅菌対応表
 呼気弁ユニットはダイアフラムとウォータートラップを外して、それぞれ洗浄、乾燥、滅菌する。薬液消毒、EOG 滅菌もしくはオートクレイブが可能である。手順はマニュアルを参照。
2)呼気換気量測定系
 2ヶ月毎にガスユニット(代謝モニター機能、オプション装備)のガス校正を行う。
3)Oセンサー
 酸素モニターは燃料電池型ではないので2ヶ月毎の校正を必要とするが、定期的に交換する必要はない。
11.定期点検
1)6ヶ月毎
 ユーザーは、O2フローコントロールバルブ、エアフローコントロールバルブ、呼気弁の校正を行う。詳細は手順マニュアルを参照。
2)5,000時間もしくは1年毎
 技術サービスによる点検、校正、補修部品の交換をする。
12.今後の課題
1)呼吸代謝量モニター機能など先進的な機能が多数搭載されているのはとても画期的であるが、それに見合ったユーザーインターフェースかと問われれば、さらなる改良が必要であろう。
2)人工呼吸器としてはとても高価である。これは呼吸モニター機能を含んでいるので当然ではあるが、病院局の事務方に理解してもらえるかは疑問である。
2)残念なことにGEは巨大すぎて、それこそジェットエンジンとか原子炉とか天文学的な価格の商品から、それらに比較すると比較的チープな末梢部門の医療部門であっても、CTやMRI機器など億単位の商品からエコーやモニター、人工呼吸器、麻酔機などの数百万円程度の品物まで、あまりにも多彩な商品を扱っている。日本法人の営業としては億単位の商品の方が利益率が高いので、どうしても安物の人工呼吸器などは(人工呼吸器のなかではとても高価格ではあるが)重視されていないので、販売体制やサポート体制が弱い。商品開発能力に営業力が追従できていないのは誠に残念である。