BIPAP(Bi-phasic Positive Airway Pressure),Bi-Level, Bi-Vent,BiPhasic 
1.概念と目的図;BIPAP )(図;狭義でのBIPAPのグラフィック波形 )(図;広義のBIPAPでのグラフィック波形)、
 BIPAPは1988年にBenzer達により提唱された。(図;実験的BIPAP装置:Benzer H (1988) Ventilatory support by intermittent changes in PEEP levels. 4th European Congress on Intensive Care Medicine. Baveno-Stresaより。BIPAPは図のような実験的装置で検証された。この装置にはトリガー機構は付属していない。)1989年にDrager社のEvitaに初めて人工呼吸器のモードとして搭載された。CPAPは、強制換気に比べて低い気道内圧で肺の酸素化能を改善できるが、換気補助能力がほとんどなく、適応が限られる弱点がある。2つのCPAPレベルを(自発呼吸に同調させて)交互に切り替えることでCPAPに換気補助能力を付加したのがBIPAPの原点である(狭義のBIPAP)。当初は1つのCPAP相に2〜3個以上の自発呼吸を含むものと定義されていた。しかし、これでは換気補助能力に限界があり臨床応用も限られていた。最近になり、Drager社は2つのCPAPレベルを自発呼吸に同調させて交互に切り替える機構(BIPAPシステム)により作りだされる換気モードの総称をBIPAPと称し、BIPAPにはPCVやSIMV(PCV)モードの概念も含むようになった。本書ではこれを広義のBIPAPと呼ぶ。1995年頃、Drager社のEvita4では、BIPAPモードの低圧相の自発呼吸に対してPSVを付加することが可能になり、このモードはあたかもSIMV(PCV)+PSVのように作動させることも可能なモードに変化した。Bi-Vent(Maquet社Servo-iなど)とかBi-Level(Puritan Bennett840など),BiPhasic(CareFusion社AVEAなど)、DuoPAP(Hamilton社G5など)と呼ばれるモードもSIMVのように作動するBIPAP類似の概念である。ただし、これらのBIPAP類似のモードには微細な差があり、Drager社のBIPAPでは高圧相にPSVは付加しない。BiVentとBiPhasicでは高圧相と低圧相とに独立して任意圧のPSVを付加出来る。BiLevelとDuoPAPでは高圧相と低圧相の両方にPSVを付加する。ただし高圧相でのPSVの絶対圧は低圧相でのPSV圧の絶対値と同じ圧になる。
 BIPAPやBIPAP類似のモードとSIMV(PCV)との違いは、高圧相(吸気相)の終末にトリガーウィンドーがあるかないかの差と高圧相であっても自由な呼気が許容させるか否かの差である。BIPAPの応用であるBIPAP AssistはA/C(Pressure)類似のモードになるが、高圧相であっても自由に呼気が可能であり、そのため、吸気時間を意図的に患者の固有吸気時間より長い値に設定することができる。これにより平均気道内圧を高くしてPEEPを高くするのと同等の効果を期待でき、肺の酸素化能に有利なモードになる。 狭義のBIPAPの変法で、低圧相には1つの呼気のみの状態をAPRVと呼ぶ。
 この章では狭義のBIPAPについて記述する。2012年頃よりDrager 社は独自のモード名を止めて、従来のモード名を使用するようになりつつある。例えばPC-ACやPC-SIMVとかを使用しているが、これらの実態はBIPAP assistとBIPAPである。
 
2.構成要素
 (1)低圧相と(2)高圧相によって構成される。各相でも自発呼吸が可能である。
3.制御方式
1)制御機構
 MPU制御による高速作動型のディマンドフローシステムと電子式呼気弁制御システムを用いて、「任意の圧と回数」で2つのCPAP圧を切替える。
2)作動理論
(1)各相の切り替え処理
 各相の切り替えにはトリガーウィンドーが設けられていて、低圧相から高圧相には吸気開始認識条件を、高圧相から低圧相には吸気終了認識条件を満たした際に呼吸に同期して切り替えられる。詳細は、各論の解説を参照すること。
(2)トリガーウィンドー
 Evitaでは、各相の終わり25%に設けられている。自発呼吸と相の切替が同期した方が換気量は増大する。しかし、同期せず切替ることもあるので、SIMVと同様に制御法に改良が求められる。AVEAでは高圧相・低圧相のそれぞれ0-50%の範囲のなかで5%単位で任意の値に設定できる。
(3)高圧相・低圧相におけるPSV
 Evita4,Evita XLでは低圧相においてのみPSVを付加できる。一方、Servo iのBi-Ventでは高圧相と低圧相にそれぞれ別の値のPSVを付加できる。AVEAのBiPhasicでは高圧相・低圧相の両方もしくは低圧相のみを選択できる
4.修飾要素
(1)高圧相、低圧相の圧差(BIPAP圧)
 BIPAP圧の圧差が少なければ自発呼吸を両相に認めるCPAP様の換気(狭義のBIPAP)になるが、差を大きく設定すればPCVやSIMV(Pressure)の性格を帯びる(広義のBIPAP)。
(2)BIPAP頻度、各相の時間
 狭義のBIPAPの範疇で作動させる場合には、一定値以上にBIPAP回数を多くしても換気量は増加せずむしろ低下する。また、トリガーウィンドーも狭くなるので自発呼吸に同期しない頻度が高くなる。BIPAP圧とBIPAP回数を多くしてPCV様の換気を模倣すると、換気補助能力は増大する。ただし、高圧相の時間は自発呼吸の1吸気時間に設定する必要がある。
(3)低換気バックアップ
 無呼吸バックアップが利用可能である。
(4)高圧相・低圧相におけるPSV
 各相にPSVを付加する際のPSV圧とBIPAP圧の設定に関して合理的な理論はない。そもそも(PSVを付加したBIPAPにおいて)CPAP圧を変動させる意義について再評価が必要である。
5.利点と欠点
 原理的に如何なる時相でも自発呼吸が可能である。そのためファイティングが少ない。また、設定可能範囲が広いので、任意の圧と回数を組み合わせると、ほとんどの圧制御型の換気モードを作り出せる。したがって、あらゆる病態の患者に対して臨床応用が可能である。しかし、狭義のBIPAPの範疇では、あくまでもCPAPの変法なので、安定した自発換気の存在を前提とする。また、最大BIPAP回数は自発呼吸数の1/4〜1/3まで制約される。換気補助能を増大させようと圧格差を大きくすると高圧相での自発換気量が減少してしまう。結果的に換気補助能力に限界が生じる。酸素化能の評価は、とくにPCV/IRVと比較すべきであろう。しかし、自発呼吸を原則的に認めないPCV/IRVとは根本的な換気思想が異なるので、これらの単純な比較は意味がない。
 BIPAPにPSVを付加する意義に関しては、各種のモードを作り出せる可能性については理解できるが、臨床上の優位性に関して誰もが納得できる理論はない。
 一方、広義のBIPAPでは(BIPAPシステムによるPCVやSIMV(Pressure))、自発呼吸の存在は必須ではないが、高圧相の時間は狭義のBIPAPと違い常識的に1吸気時間に制約される。通常のPCVでは、(肺と呼吸回路によりもたらされる)コンプライアンスと容量と抵抗をもつ振動系により設定圧より高い圧が提供されるケース(オーバーシュート)もあるが、BIPAPシステムでは如何なる振動系が負荷されても、呼気弁での圧リリーフがあるので、正確に設定圧を維持できる利点がある。また、基本的にCPAPなのでいかなる時相でも患者の自由換気が可能なので、ファイティングは原理的に起こりえない。