Hamilton Medical
GALILEO GOLD
1.特徴図;Galileoの外観写真
 Hamilton社の最新モデルであるGalileo Goldは、最新のコンピューター技術を駆使して製作されたハイテク機器である。Hamilton社はスイスの企業であるが、これはM/Aの繰り返しにより疲弊したアメリカの企業とは対照的である。競合するライバル製品をよく研究し、その上に独自の技術を盛り込んでいるのが独創的である。それはHamilton-MMVを発展させたASVとAutoFlow類似のAPVという新しい換気モードに凝縮されている。なお、AmadeusとVeolaは東機貿が扱っていたが、Galileoは日本光電が取り扱っている。対象患者は新生児から成人まで。
2.性能
1)利用できるモード
 A/C(VC, PC, APV)
 SIMV(VC, PC, APV, +PSV)          
 SPONT(PSV, CPAP, DuoPAP, APRV)
 ASV
  ---------------------------------
 +PEEP
 NIV
 PTV
 Apnea Backup
2)基本データー
最大吸気ガス流量
  強制換気............180 LPM
  PSV.....................180 LPM
最大強制換気数.........120 BPM
最大SIMV回数........... 60 BPM
3.制御回路、制御機構
1)制御機構の概説(図;Galileoのブロック図)
 メインのCPUにはintel486/DX2 66MHzが使われている。電気系統の概略はブロック図のとおり。
2)機械的機構の特徴
 基本的な構造はAmadeusとほとんど同じである。相違点は液晶タッチパネルによるグラフィカルな操作パネルが採用されている点である。
3)ガス流量計測
a)吸気側
 本体内部では吸気バルブの位置とバルブの前後圧より吸気ガス流量が計測される。この情報は、吸気バルブの制御や、PSVの吸気終了認識条件、ASVでの圧の制御、などに利用される。
b)気管チューブとYチューブの間(図;Galileoのフローセンサー:Yピース部に設置されるバリアブルオルフィス型のフローセンサー)
 Yピースと患者との間に、両方向の流量を測定する差圧型のセンサーにより0.5-15lpmの感度のフロートリガーと換気量モニターを行っている。新生児モードでは専用のセンサーを使用して0.5LPM-5LPMの範囲で感度を設定できる。リーク補正機能はないので、リークがあれば、トリガー感度を修正する必要がある。
4)吸気バルブ(図;Galileoの吸気バルブ
 吸気サーボバルブは構造を図示した。音楽用のスピーカーの駆動部のように電磁力でプランジャー"plunger"を動かし、吸気ガス流量を20〜3,000ml/秒の範囲で正確に制御する。このバルブの位置は位置センサー"positioner"により絶えず把握されている。流量情報によって、このサーボバルブの開き具合が補正される。なおサーボループ時間は0.1秒であり、どんなパターンにも0.1秒で反応する。バルブ自体の応答時間は40msである。
5)呼気バルブ(図;Galileoの呼気バルブ
 呼気弁も吸気バルブと同じように電磁力によって、広い表面積を持つシリコン膜をダイレクト駆動する構造をしている。PEEP/CPAP 圧も電磁力でつくられる。なお、ここには気道圧によるサーボ制御はない。
4.ニューマティック回路図;Galileoのニューマティック回路図
 O/Air配管より入力されたガスは純電子的なブレンダーで酸素濃度調節される。これはOと、Airの両側に設けられた電磁弁で開閉時間を調節することで、各流量を調節する。純電子的なブレンダーは機械式に比べて精度が高い事、経年変化がほとんどない事、機械工作が簡単な事、回路抵抗が少ない事に利点がある。混合ガスは貯蔵タンク"reservoir tank"に貯められる。これはO/Airの組成の安定化と駆動圧の安定化、ピーク流量の確保の三役をしている。混合ガスはサーボバルブ(フローコントロールバルブ)によって吸気ガスになる。すべての吸気ガスは吸気サーボバルブ系より創られる。つまりディマンドフローシステムも兼ねる。また、ここで吸気流量も演算する。吸気ガスは外部フロートランスデューサーでモニターされて、患者に供給される。呼気ガスは外部フロートランスデューサーで計測された後、ダイレクト駆動の呼気弁より大気に放出される。
5.制御ソフト
1)トリガー方式
 フロートリガーを選択すると、圧トリガーは停止し、自動的にベースフローが付加される。ベースフローはトリガー感度の2倍値になる。ベースフローは呼気開始初期には適応されず、呼気ガス流量がトリガー感度の4倍値以下になった際に開始される。その場合にも一気に開始するのではなく、徐々に設定値まで上昇する。圧トリガー方式を選択するとベースフローは付加されない。
2)A/C, sCMV
 強制換気はVC, PC, APVより選択できる。VCを選択するとモード名はCMVと表記される。PCを選択した際にはP-CMV(P-A/C)と表記される。APVではAPVcmvと表記される。強制換気直後の0.2sはトリガーに反応しない。VCでは吸気波形はSine, Square, 100%Dec., 50% Dec.の4つより選択できる。ただし、新生児モードではVCは利用できない。
3)SIMV(図;GalileoのSIMV論理
 SIMVの強制換気もVC, PC, APVより選択できる。VCではSIMVと表記される。VCは新生児モードでは利用できない。PCではP-SIMVと表記され、APVではAPVsimvと表記される。SIMVサイクル時間が4秒までは全時間方式である。それ以上の場合には、トリガーウィンドー時間が4秒の部分時間方式になる。
4)PSV
 PSVはSPONT, SIMV, DuoPAP,APRV,ASVモードで利用できる。吸気終了認識条件は吸気ピーク流量の10-40%値を選択できる。これはETS(Expiratory Time Sensitivity)で設定できる。最大吸気時間は3秒までに制限される。
5)ASV(図;ASV:呼吸仕事量WOBはresistive WOBとelastic WOBの合計である。これが最少になる換気回数fを目標にASVは制御していく。)
 ASVは簡単に表現すれば、Hamilton方式のMMV(Siemens社で言うところのVolume Supportと類似)に、理想値の呼吸数と実測値の呼吸数との差の回数のSIMVをAutoFlow(Drager社)方式で与えて、自発呼吸が存在しない状態から確実にトリガーしている場合まで、換気能力がどのように変動しても、「機械が自ら吸気仕事量が最少になる理想的な換気条件に自動的に選択していく」全自動の換気モードである。広義的に解釈すれば、高次元の処理をするMMVの一形態で、最少の換気圧で、目標分時換気量が一定値以上になるように、また設定値以上の分時換気量を患者に許容できる、モードである。ASVの設定において重要なパラメーターは、体重(Body Weight)と%分時換気量(% Minute Volume)と最高気道内圧(Pmax)である。体重3Kg以上に適応できるが、新生児モードでは使用できない。
 ASVでは最初に、目標分時換気量(target rate)と目標換気回数(target volume)を決定している。目標分時換気量は体重(ideal body weight)より計算できる。この値に対する%値が%分時換気量となる。目標換気回数はOtisの式: A.B. Otis, W. O. Fenn, and H. Rahn, "Mechanics of breathing in man", J Appl Physiol, vol. 2,pp. 592-607, 1950に基づいて計算される。この式によりWOBを最少にする理論的な換気回数(target rate, f target)を目標値として演算している。 
 
 
図;Otisの式
:RCe: respiratory time constant (= expiratory tidal volume / expiratory peak flow)
MV: minute ventilation
f: total respiratory rate
VD: dead space)
 
 
目標分時換気量を目標換気回数(f target)で割れば、目標一回換気量になる。Otisの式におけるRCeなどの未確定項目を測定するために、P-SIMVによるテスト換気を5回繰り返す。1回ごとにRCe, Vt, fを測定し、これらの値で次の換気に臨む。もし、これらのパラメーターが下記条件を逸脱した場合は、強制的に仮定値を入力して次の換気を行う。例えばRCeが規定値より逸脱した場合は1(weights>10kg)もしくは0.5(その以外の場合)を用いる等の処理を行う。
[条件]
VDは2.2ml/kg body weightより計算する。
100%MVは0.1L/min/kg(adult), 0.2L/min/kg(infants)である。
Vtは2*VD〜10*VDの範囲内で決定する。
fは5〜60bpmの範囲内で、Te>3*RCexpを満たす値を採用する。
I:E比は1:1〜1:4の範囲に限定する。
Teは3*RCeである。
Tiは60/f target - Teになる。
RCeは0.1-2の範囲に限定する。
V/P比は5〜120の範囲に限定する。
6)DuoPAP,APRV
 DuoPAPとは他社でいうBIPAP、BiPhasic,Bi-Levelに該当するモードである。Galileo GoldではDuoPAPとAPRVはほとんど同じ動作をする。DuoPAPではP-high、Rate(換気回数)とT high(吸気時間)で高圧相を定義するが、APRVではT highとT lowによって換気パターンを設定する。いづれのモードでもPSを付加できる。ただし高圧相でも低圧相でもPSの絶対圧は同じになる。したがって、DuoPAPとAPRVの違いは設定方式の違いだけである。これには、それぞれの設定方式が、BIPAPとAPRVに適しているとの判断されている故である。高圧相より低圧相、低圧相より高圧相への移行にはトリガーウィンドーが設けられている。
7)APV
 APVはA/C、SIMVの強制換気に利用できる。APVはEvitaではAutoFlow、ServoではPRVCと表記されるモード名である。強制換気はPCで与えられる(一回換気量が設定値になるように自動的にPC圧が調節される)。吸気圧はPEEP+5cmH2Oから高圧リミットー10cmH2Oの範囲で設定される。変化量は換気毎に最大2cmH2Oに制限されている。PSV圧は設定値のままで変化しない。体重2Kg以下では使用できない。
8)NIV
 成人、小児で利用できる。リークが多いときちんと動作しない。ETCの設定とTi maxをきっちり設定するのが肝要である。
9)無呼吸バックアップApnea Backup
 設定時間以上の無呼吸を認めれば無呼吸バックアップに切り替わる。その際にはA/Cの設定条件で換気が行われる。自発呼吸を検出すると自動的に元のモードに復帰する。気道吸引操作などで、無呼吸バックアップに入いらないようにしたければ、吸引操作前にあらかじめアラーム消音キーを押しておけばこれを回避できる。モード変更後や校正後の30秒間は無呼吸バックアップは無効になっている。
10)ネブライザー
 ONにすると30分間作動し自動的に停止する。ただし、吸気ガス流量にネブライザー流量が加算されて送られる。
11)SIGH
 量換気モードの際には100呼吸(強制換気もしくは自発呼吸)に対して設定換気量の150%のボリュームで、圧換気モードでは+5cmH2Oの圧で強制換気が行われる。
12)SPONT
 SPONTモードは自発呼吸モードで、CPAPもしくはPSV、APRVを選択できる。
13)PV tool(図;GalileoのPV tool画面
 PV toolを使用すると容易にLow Flow PV Loopを測定することができ、最適なPEEP値と吸気圧を決定することができる。
14)TRC
 TRCとはチューブ抵抗補正機能で、気管チューブの抵抗を相殺する機能である。Drager社のATC、Bennett社のTCと類似の機能である。VCでは呼気中に動作する。PC, APVでは吸気・呼気の両方で動作する。
6.操作体系図;Galileoの操作パネル
1)一般的な設定
 タッチパネルとC-knob、M-knobの2つのつまみによりすべての操作を行う。C-knobはモードや換気条件の設定に、M-knobはモニター表示の設定に使用する。タッチパネルの操作によりウィンドー形式のメニューが次々に表示されるので、必要な項目をタッチして選択し、必要なら数値を入力し、最後にCLOSEキーを押して確定する。
 画面左上には3つのアイコンが用意されていて、これらを操作することでモニター関係のメニューを設定できる。画面右上にもアイコンが用意されていて、これらを操作することで各種設定を行うことができる。
2)モードの設定(図;Galileoのモード設定画面
 モードの項目をタッチするとモード名が表示されるので、目的のモードをタッチして選択し、「CLOSE」を押して確定する。「ADDITION」画面を使ってAPVを付加できる。
3)パラメーターの設定(図;Galileoのパラメータ設定画面
 酸素濃度やPEEPなどの主要な4項目は直接画面右側に項目が表示されているので、ダイレクトに操作できる。その他の項目は「CONTROLS」を押すとメニュー表示される。
4)アラームの設定(図;Galileoの設定画面
 画面右下の「ALARM」をタッチするとアラームメニューが表示されるので、同様に設定する。
7.モニター、アラーム機能
1)患者状態
@呼吸回数(0〜130回/分)
A最高気道内圧(0〜110cmHO) 
B分時換気量(0〜50LPM)
C無呼吸(15〜60秒)
2)その他
@設定確認
A回路はずれ(2呼吸)
Bフローセンサー
Cエアー、酸素配管
D電源
E機器作動不能
F酸素濃度(18〜103%)
GPEEP圧低下
8.ディスプレー機能
 気道内圧、フロー、ボリュームは同時に3波形グラフィックで表示できる。さらに、F-V曲線、P-V曲線、呼吸仕事量、PTP、気道抵抗、コンプライアンス、RSB、P01、AutoPEEP、などを表示できる。
9.患者回路構成、加湿器
 加湿器はF&P が標準装備である。
10.日常のメンテナンス
1)呼吸回路
 標準の呼吸回路や呼気弁は48時間で交換し、EOG、オートクレイブ、消毒液で滅菌する。バクテリアフィルターはディスポが望ましい。
2)外部フロートランスデューサー
 48時間で交換し、洗浄、滅菌する。特にフロートランスデューサーは消耗品である。この部品はEOGや消毒液でのみ滅菌可能で、62℃以上に加温してはならない。一応、校正できなくなるまで再使用可能である。
3)呼気弁
 シリコン膜は外部フロートランスデューサーより寿命は長いが、少なくとも10回の滅菌をしたら廃棄する。
11.定期点検
1)1日1回、使用前
 初めてに患者に装着する前や、酸素センサーやフロートランスデューサーを交換した時。それ以外に少なくとも一日に一回、センサー校正をする。この時は、患者より人工呼吸器をはずす必要がある。
2)3ヵ月ごと
 ガス入力フィルター、リアーパネルファンを点検。電気系のマイクロリークのテスト。全機能テスト。人工呼吸器の圧校正。
3)12 ヵ月ごと
 指定サービス技術者による点検を受ける。詳細はマニュアルを参照する事。
12.欠点
1)フローセンサーの校正は患者に装着したままではできない。
2)Galileoでは適応できる最低体重は3Kgであるが、フロートリガーの最高感度は2LPMなので、新生児にPTVするには感度不足であった。Galileo Goldになり、最高感度は0.5LPMになり、この点は改善された。しかしながら、リークに対するトリガー感度の補正機能はないので、現実的に高感度設定を選びにくい。