Respironics Inc.
BiPAP model S/T 30, S/T-D 30
1.特徴(図;BiPAP S/Tの外観写真)
 Respironics社が提唱するBiPAPとは、自発呼吸のある患者にマスク下にリークを前提としておこなう換気援助法であり、またその機器の登録商標でもある。BiPAPのBiはIPAP(Inspiratory Positive Airway Pressure)とEPAP(Expiratory Positive Airway Pressure)の2つのPAPという意味で、「吸気時の陽圧」と「呼気時の陽圧」により換気援助をする装置である。呼吸回路のリークを前提とした圧換気式人工呼吸器である点が独創的で、これは圧換気(Pressure Ventilation)が回路リークを許容し、自発呼吸との同調性に優れるという特性を生かしている。したがって、調節呼吸が必要な患者は適応外になる。慢性呼吸不全患者の急性増悪や睡眠時無呼吸などが良い適応になる。最近はBiPAPの低侵襲性と簡便性が評価されて臨床応用が拡大されつつある。(注;Drager社のBIPAPとは用語が似ているが別の概念である。)BiPAPはS,S/T,S/T 30, S/T-D 30,Vision,Esprit,Harmony,Synchronyと順次モデルが展開されてきた。S/T 30と S/T-D 30は基本的に同性能であるが、S/T-D 30には脱着式のリモートコントロールパネル(DCP30)を装着できる。DCP30は遠隔操作や圧表示機能、インターフェース(圧、換気量、フローの信号を外部出力する)を可能にする。オプションの気道圧モニター(APM ; Airway Pressure Monitor)を装着すればアラーム機能を付加できる。
 
2.性能
 モード......... S(Sontaneous), S/T(Spontaneous/Timed), T(Timed),CPAP
 最大流量150LPM (S/Tモデルは120LPM)
 吸気圧.....4〜30pH2O
 PEEP........4〜30pH2O
 呼吸回数...4〜30BPM
 消費電力...115V AC 1.4A
 
3.機構の概略(図;BIPAP S/T 30の構造)
 S/T 30, S/T-D 30は、ブロアーによる送気装置と、PVA(Pressure Valve Assemblyと呼ばれるIPAP、EPAPでガス圧を調整するバルブ系)、 AFM(フローセンサー)、緻密に構成されたアナログコンピューターによる制御系により構成される。アナログコンピューターの設計や製造には高度の技術を要するが、デジタル回路を凌駕する可能性がある。しかし、その詳細はブラックボックスである。
 S/T 30, S/T-D 30の独創性は、@マスク下に、Aリークを前提とした、B呼気弁を用いない、C一部は再呼吸式の、D圧換気による、呼吸補助装置である点にある。マスクにはウィスパースィベルと呼ばれるガスリーク機構がある。一般的な人工呼吸器では、吸気ガス回路と呼気ガス回路は分離されていて混合しない。患者回路におけるリークの存在はむしろ望ましくない状態である。一方、BiPAPではウィスパースィベルによる意図的なリーク量とマスクのフィット不良による意図しないリーク量により、患者回路内のガスを入れ替える。つまり再呼吸型の回路による換気法で、患者回路の1本のチューブ内には部分的にせよ吸気ガスと呼気ガスが往復運動している(最悪の条件で呼気ガスがチューブ内を15pほど逆流する程度で、ほとんどのガスはフレッシュガスに置き換わっている)。リークによる患者回路ガスの損失量がフレッシュガスになるという、リークの存在を前提にした「逆転の発想」による換気法である。当然、吸気ガスもある程度リークしてしまうが、そういったことを問題としない高流量の送気装置と繊細なガス制御技術により、シンプルで、しかも患者との同調性に優れた機構を提供している。しかし、CO2の再呼吸は、リーク量が少なくなる設定(つまり換気圧が少ない、一回換気量が多い、呼気時間が短い、など)では問題になる事もあるので、充分な配慮が必要である。
4.呼吸モード
 Respironics社の独自の用語としてIPAPとEPAPがある。IPAPは吸気相の圧を意味し、EPAPは呼気相の圧を意味する。IPAPの設定はPSVレベルやPCVレベルの設定に相当し、EPAPはPEEPに相当する。SモードはPSV+PEEPを意味し、IPAPでPSVレベルをEPAPでPEEPレベルを設定する。EPAPよりIPAPへのトリガーは推定リーク流量より吸気ガス流量が上回っている場合に、5〜9mlの吸気量に達した時である。IPAP時間は最低300ms継続する。IPAPよりEPAPの切り替えは吸気ガス流量が基準値以下になった時点や患者が積極的に呼気をおこなった場合、IPAP時間が3秒に達した場合におこなわれる。基準値は吸気ガス流量と時間により変化すると説明されているが、詳細は不明である。EPAPに移行した最初の300ms間はトリガー感度が意図的に低くなり、ミストリガーを防ぐ。S/TモードはSモードにTime cycle機能を付加したモードで、設定呼吸回数で規定される時間(60sec/BPM)以内にトリガーを検出すればSモードと差異はないが、しなければTime cycleでIPAPが開始する。つまりAssist/Controlモードにおける強制換気の代わりにPSVが開始されるモードである。IPAPよりEPAPへの移行はSモードと同じである。IPAP時間は最低200ms継続する。Tモードは、設定呼吸回数と%IPAP時間で、吸気時間と呼気時間が規定されるPCV類似モードであるが、PCVと違い、トリガー機構は作動しない。IPAPよりEPAPへの移行や、EPAPよりIPAPへの移行もすべてtime cycleで行われる。自発呼吸があってもIPAP・EPAPの圧を維持するようにフロー調節されるので、Tモードはむしろ原典的な意味でのBIPAPに近似である。
5.操作(図;BIPAP S/T 30の操作パネル)
 モード選択スイッチにはCPAPの表示はないが、CPAPモードを選択するには、IPAPもしくはEPAPを選ぶ。IPAPの位置ではIPAPの設定値でCPAPレベルが設定される。EPAPの位置ではEPAPの設定値で設定される。次にIPAPもしくはEPAPの値を設定する。SモードではIPAP、EPAPの設定だけで良い。S/Tモードではさらに呼吸回数を設定する。Tモードではさらに%IPAP時間も設定する。
6.アラーム図;BIPAP S/T 30オプションのモニター装着例
 S/T 30, S/T-D 30単体ではアラーム機能はなく、オプションのAirway Pressure Monitorにてアラーム機能に対応する。この場合には、気道内圧上限、気道内圧下限、(気道内圧下限アラームが作動するまでの)ディレー時間を設定できる。
7.メンテナンス
 フィルターは適宜点検し、必要なら交換する。1年ごとに定期点検を受ける。ブロアーならびにバルブアッセイは2万時間以上もつと言われているが、空気の清浄度の低いところでは寿命は短くなる。