VIASYS
BEAR CUB 750VS、750PSV
1.特徴図;BEAR CUB750の外観写真
 Bear Cubは定常流を呼気弁で圧リリーフすることで吸気圧を発生させるCFPR(Constant Flow Pressure Relief)機構の人工呼吸器で、500g-30Kgの小児を対象とする。ちなみにVIASYS社はCFPR機構によってつくられるモードをTCPL(Time Cycle Pressure Limit)と表現している。前モデルのBear Cub IIシステムではBear Cub、CEM、NVM-1の集合体によりPTVを実現していた。しかし、個々の開発時期が異なり、そのため操作性の統一に欠け、スイッチの配置や役割分担がバラバラになった。これらを統合して1つの機械にまとめたのがBearCub750VSである。機構上に特別な先進性は見られないが、長年培った熟練のニューマティック技術と確立された電子技術を組み合わせて、完成度の高い製品に仕上がっている。オプションの3波形グラフィックディスプレーにより、患者の呼吸状態の把握が容易である。2001年になり750PSVに改良され、PSVモードが追加された。750PSVは定価320万円。
2.性能
1)利用できるモード(すべてTCPLモード)
 750VS       750PSV 
 ------------------------------------------------------------
 A/C         A/C
 SIMV/IMV      SIMV/IMV
           SIMV/PSV
           Flow Cycle SIMV
           Flow Cycle A/C
           PSV
 CPAP        CPAP
 -------------------------------------------------------------
 +Volume limit機構
 +PEEP
2)基本データー
システム作動間隔時間...2.5ms
最大吸気ガス流量
  強制換気............30LPM
  PSV.....................30LPM
最大強制換気数.........150 BPM
最大SIMV回数...........150 BPM
3.制御回路、制御機構
1)制御機構の概説
 ガス制御をニューマティック機構に、タイミング制御をMPUに依存する。これはやや前時代的ではあるが、圧波形や流量波形にはアナログ機構特有のなめらかさがあり、デジタルサーボ独特の不自然がない。MPUは、Motorola 68HC11がControllerとMonitor機構にそれぞれ使用されている。
2)機械的機構の特徴
 定常流を呼気弁で圧リリーフして吸気圧を得るCFPR(Constant Flow Pressure Relief)機構である。吸気時用と呼気時用に別々の定常流量を設定できるように、2つの定常流調整機構をもつ。
3)ガス流量計測
 換気量モニターは熱線型でYピースと気管チューブの間に設置される。センサー内には2つの熱線がある。それぞれの温度差により吸気・呼気の方向を判別する。0.2から40LPMの範囲で測定可能である。キャリブレーションデーターを内部ROMに記録しているので校正せずに使用できる。
4)吸気バルブ
 吸気バルブはニードル弁である。呼気時用(Base Flow)と吸気時用(吸気ガス流量調節)の2つがあり、これらは電磁弁で切り替えられる。それぞれは可変抵抗器(potentiometer)とギアで連結されいて、つまみの位置をMPUに伝える。
5)呼気バルブ
 呼気弁にはニューマティック方式によるメカニカルサーボ機構が使用されている。2つの基準圧発生機構(吸気時用のPIP圧と呼気時用のPEEP圧)を電磁弁で切り替えて呼気弁の開度を調節して吸気圧の制御を行う。患者の吸気・呼気の影響を最少化し、PIP/PEEP圧を安定化させている。
4.ニューマティック回路図;BearCub750PSVのニューマティック回路
 O/Air入力より入ったガスは、それぞれフィルター(filter)、逆止弁(check valve)、レギュレーター(O/Air regulator)で減圧、安定化されてブレンダー(O/Air blender)に入力いる。配管の異常により片ガスになった際には2つの逆止弁(check valve)によりガスが融通される。O/Air入力ガス圧は、圧トランスデューサーでモニターされる。
 ブレンダーで目的の酸素濃度に調整するが、この精度を3〜30LPMの範囲で+/-30%に維持するためにブリード弁(bleed valve)が設けられている。
 吸気時の定常流はフローコントロールバルブ(inspiratory flow control valve)で調整する。呼気時の定常流はベースフローバルブ(base flow control valve)で調整する。これらは電磁弁(flow control solenoid)で切り替わる。 患者回路の呼気側脚が閉塞したとMPUが感知した際には電磁弁(dump solenoid)により強制的に吸気ガス大気に解放し、気道圧を5pH2O以下にする。さらなる安全対策として機械背面にはユーザーが15〜75pH2Oで調整可能なメカニカル方式の圧解放弁(adjustable over pressure relief valve)が設けられている。この弁より-3pH2Oの陰圧下で外気を吸うこともできる。
 吸気圧は定常流を呼気弁で遮断することで作る。一定以上の圧はPEEP弁である呼気弁によりリリーフする。呼気弁(exhalation valve)はPIP圧とPEEP/CPAP圧のサーボ制御機構として働く。呼気バルブの左側のチャンバーには基準圧が入力され、右側のチャンバーには実際の気道内圧が入力される。これらの圧誤差(勾配)に基づいて呼気弁の開閉の程度が修正される(=ニューマティックサーボ)。3方向電磁弁(exhalation solenoid)で基準圧をPIP圧基準圧かPEEP/CPAP圧基準圧に切り替え、患者回路にPIP圧とPEEP/CPAP圧を発生させる。PIP圧はinspiratory pressure valveにより、PEEP/CPAP圧はPEEP valveで作られる。これはジェットベンチュリーの背圧を調整して圧を調節する原理である。切り替えによる圧の振動を吸収するためにcompliance volumeが接続されている。
 呼気弁にはジェットベンチュリーによる呼気ガス吸引機構が用意されている。
 パージレギュレーター(purge orfice)は近位圧センサーチューブ(proximal airway pressure tube)にパージ流を供給する。このチューブは圧ゲージ(proximal airway pressure gauge)と圧トランスデューサー(proximal pressure transducer)に接続されている。
5.制御ソフト
各機能の説明
1)トリガー方式
 フロートリガー方式のPTVが可能である。感度は0.2-5.0LPMの範囲で設定可能。
2)A/C (Assist/Control)
 トリガーを検出する度に TCPL(定常流+圧リリーフ)換気が与えられる。トリガーを検出しないときは設定した換気回数で強制換気が与えられる。吸気相と呼気相で定常流を別々に設定できる。ボリュームリミットを設定すると設定値に達した時点で呼気相に切り替わる。その際、音とLEDのアラームが鳴る。このアラームは750PSVになりOFFにできるようになった。
3)SIMV/IMV
 SIMVは可変時間方式である。強制換気はTCPL換気でA/Cと同じである。ディマンドフロー機能はない。自発呼吸相はCPAPである。Volume Limitを付加できる。
4)CPAP
 定常流によるCPAPである。無呼吸を検出するとアラームが警告し、バックアップ換気に入る。
5)SIMV/PSV
 強制換気はTCPLで、自発呼吸はPSVで補助される。いずれ換気にもVolume Limitを付加できる。その際には量換気Volume Cycleになる。
6)PSV
 CFPR機構で作られるPSVである。TCPL方式のA/Cの強制換気との違いは、トリガーがなければ吸気が始まらない点、吸気の終了が吸気ピーク流量がその10%に低下した点である。Volume Limitを付加できる。無呼吸時にはアラームが鳴ってバックアップ換気に入る。
7)Flow Cycle A/C
 基本的にはPSVと同じ換気であるが、PSVは自発呼吸がなければ換気が始まらないのに対してFlow Cycle A/Cは自発呼吸がなくても設定換気回数で換気される。
8)Flow Cycle SIMV
 SIMV/IMVとの違いは強制換気がPSV様の換気で行われる。自発呼吸相ではCPAPである。
9)Volume Limit
 強制換気、PSVのどのタイプの換気でも付加できる機能で、一回換気量が設定値に達すると、肺の過膨張を予防するために吸気が強制終了する。この機能が作動すると圧換気であり量換気でもある。この機能が作動した際にはアラームを鳴らすことも、鳴らさないようにすることもできる。
10)無呼吸バックアップ
 CPAP、PSVモードで有効。無呼吸時間(5,10,20,30秒、裏面パネルのスイッチで選択)を検出するとアラームが鳴りバックアップ換気モードに移行する。設定した換気回数(設定値が6BPM以下の時は6BPM)で圧換気される。自発呼吸を検出すると消音するが、警報のLEDは点灯したままになる。
11)バッテリー
 内蔵バッテリーによって約30分間作動できる。
6.操作体系図;BearCub750PSVの操作パネル
1)パネル配置
 最上部より、モニター表示、アラーム設定、換気設定、となっている。
2)換気条件の設定
 PIP圧とPEEP/CPAP圧はニューマティック式のアナログ機構により、マノメーター(気道内圧計)で値を確認しながら行う。
 吸気フローとベースフローはデジタル表示であるが、これはアナログ機構のつまみを単にポテンシオメーターに連結してデジタル表示しているだけで、デジタル的に設定しているわけでない。精度は高くないが、本来精度が要求される部位でもない。
 吸気時間と呼気時間、換気回数、ボリュームリミットは電気的処理されるので数値表示を見ながらデジタルで設定できる。
3)トリガー感度
 リークの多い小児用の回路では、体位変換や呼吸状態の変動に応じて、トリガー感度を再設定する必要がある。一般的なデジタル設定では感覚的に最適値が理解しづらいが、750VSではバーグラフで吸気流量が表示される(数値は出ない)。バーの動きを見ながらアナログ的に設定するので、最適レベルに調整しやすい。
7.モニター、アラーム機能
1)モニター項目
 換気回数、吸気時間、呼気時間、I:E比、ピーク吸気圧、平均気道圧、エアー配管圧、酸素配管圧、分時換気量、一回換気量、リーク率(% tube leak)を切り替えて数値表示できる。
2)アラーム設定
 低PEEP/CPAP圧、過呼吸、低吸気圧、吸気圧上限、分時換気量下限、などを設定できる。無呼吸時間の設定は背面パネルに設定スイッチがある。
3)アラーム項目
 無呼吸、バッテリー電圧低下、配管ガス圧異常、機器異常、患者回路異常、吸気圧延長、矛盾する設定、フローセンサー異常、等がある。
8.ディスプレー機能
 本体単独では、モニター項目の数値表示しかできないが、オプションのグラフィックディスプレー(Bear-1000と共通の製品)により、フロー、圧、ボリュームの3波形やメカニクス、呼吸ループを表示できる。
9.患者回路構成、加湿器図;BearCub750PSVの患者回路
 図に示した。
10.日常のメンテナンス
1)フローセンサー
 洗浄後、滅菌はディスオーパもしくはEOGで行う。最高50回まで。センサーに高圧ガス流を当てない。校正は不要である。
2)呼気弁(図;BearCub750PSVの呼気弁の構造図:呼気弁ボディーとマフラーは図に示したように組み立てる)
 患者毎に分解、洗浄、滅菌をする。呼気弁ダイアフラムは損傷を認めるときは交換する。
3)内蔵バッテリー
 バッテリーを補充電するために使わないときでも電源コンセントにつないだままが望ましい。寿命が来れば専用品と交換が必要である。
11.定期点検
1)毎月
 OVP(Operational Vertification Procedure)を行う。(マニュアルを参照)
2)毎6ヵ月
 認定サービスマンによる点検。
3)5,000時間もしくは年1回
 予防的メンテナンスを行う。
4)10,000時間もしくは3年に一回
 オーバーホールを行う。
12.欠点
1)呼気弁やの呼気弁マフラー(消音器)のデザインが洗練されていない。もう少し単純な構造が望ましい。
2)技術的な斬新さや新しい呼吸モードなどの独自性がない。