AutoFlow, PRVC(Pressure Regulated Volume Control)
1.概念と目的(図;AutoFlow)
 PCVは圧調節型の換気であるが、設定換気量になるようにPCV圧を自動調節すれば、圧制御型の換気で従量式の強制換気を提供できる。このようにしてPCVの利点とCMVの利点を高次元で融合できる。この試みは、Siemens Servo-300によってはじめて商品化され、PRVCと命名された。PRVCではあくまでもsCMVの代替えの範疇であったが、Drager社は Evita4においてA/C,SIMV,EMMV等のすべての換気モードで(従来の量換気に替えて換気圧自動調節型のPCVを)利用可能とした。これはAutoFlowと命名されている。AutoFlowはBIPAPシステムでつくられているので、如何なる時相であっても患者の自由換気が可能なので理論的にはファイティングを起こさない。その後に発売されたServo iではPRVCはSIMVでも利用可能になった。VIASIS社のAVEAやVELAでもすべてのモードでPRVCを利用できる。
2.構成要素
1)初期換気の方法
 PRVCでは10pH2Oのテスト換気より開始して換気量が設定値になるPCV圧を模索していく。AutoFlowでも同様の手法を用いているようであるが、詳細は公表されていない。
2)PCV圧の決定方法
 AutoFlowとPRVCでは具体的な処理方法が異なるが、どちらも先行換気でのコンプライアンスにも基づいて次の換気圧を決定している。
3)吸気時間
 最適な吸気時間を決定する方法に関して誰もが納得する理論はないが、以下のように分類できる。
a)患者呼吸の吸気時間を指標にする
(1)患者の吸気時間より充分長い値を用いる。
 吸気時間終了時には吸気流量が0LPM、場合によってはマイナスの状態になる。この立場はCMVに吸気ポーズを付加するのと同じ考え方で、同じ換気圧であれば換気量を最大にできる。また、酸素化能に関しても有利である。しかし、自発呼吸との同調性では劣る。
(2)患者の吸気時間と同じ値を用いる
 肺の拡張が充分いきわたってこれ以上吸気時間を延長しても換気量が増えない時間をもって最適とする考えである。自発呼吸との同調性と換気効率を妥協させる方法である。患者の吸気時間はいつも一定とは限らないので同調性と換気効率を最適にするのに困難が伴う。吸気時間を長めに設定してFlow Cycleをゼロに近い値を設定すれば、これを解決することが可能であるが、Flow Cycleを設定できる機械はAVEAとVELAだけである。
(3)患者の吸気時間より短い値を用いる
 PSVはすべてこの立場である。つまり自発呼吸との同調性を優先し、換気効率の低下を容認する。AVEAとVELAではFlow Cycleを多めに設定して早期に吸気を終了させる手も使える。
b)生理的な平均値を用いる
 一般的にはもっとも無難な設定あるが、自然換気と違う陽圧式人工換気下や、病的状態でこの値が最良という保障はない。平均的に言えば、成人であれば1秒程度の値を用いる。しかし、個人差を反映しにくい側面がある。
c)酸素化能を最大にする値を用いる
 Auto-PEEPによる弊害を生じない範囲で最大限の値を用いる。自発呼吸との同調性は考慮しない。当然としてセデーションは必須である。
(4)強制停止条件
 強制換気が強制終了する条件は、現状では気道内圧がピーク圧アラームに達した場合のみである。実測一回換気量による制限や吸気時間中の呼気の開始は考慮されていない。ただしFlow Cycleを設定できる機種もある。
(5)吸気の立ち上げ速度
 PSVでの問題と同じである。
3.制御方式
 PRVCはPCVの応用であり、吸気バルブの制御だけでPCVレベルが調整される。もし患者の自発呼吸により気道内圧が設定値以上になっても圧が逃げない。AutoFlowはBIPAPの応用なので、吸気バルブの働き以上に呼気バルブの制御が重要な役割を果たす。両バルブの連携によりPCV圧が作られるので、設定圧以上に上がっても呼気バルブよりリリーフされる。
4.修飾要素
1)換気圧のフィルタリング処理
 基本的には、AutoFlow、PRVCの換気圧は先行換気で演算したコンプライアンスを基に次の換気圧が決定される。この方式は、テスト肺では全く支障を生じないが、生体に応用すると、時には連続する換気において換気圧の変動が著しく、有効な換気にならないこともある。これは生体のフィードバック系から生じるゆらぎと人工呼吸器が相互に作用しあい、換気圧の変動が増幅されるからである。通常、こうした現象を防ぐために演算で得られた換気圧をフィルターにかけて変動を吸収するようにする。具体的なフィルタリング処理の実際はほとんどの場合、企業秘密で公表されない。しかし、フィルタリング処理の優劣は、AutoFlow、PRVCの安定性を決定する重要なポイントである。
2)他の圧換気との関係
 AutoFlowは量式強制換気に置き換わる、新しい圧/量換気であるが、他の圧換気との関係をどうするかは未解決である。たとえばSIMV(AutoFlow)+PSVでは、PSVで計測されるコンプライアンス値をAutoFlowの演算に用いるべきか否かは不明である。SIMV回数が多ければ、PSVでの計測値は除外した方が安定性が良いと思われる。しかし、少ない場合、強制換気で計測できる間隔が開くので、除外したままでは支障を生じる。こうした処理も具体的な方式は未知数である。実際Evita4でもSIMV回数が少ないときには強制換気圧の変動が大きい印象がある。今後もこのアルゴリズムはどんどん改良されていくと見ている。
3)最低換気圧
 現状では一回換気量が一定値に収束するように作動しているので、患者の要求量(一回換気量)が設定より多いと、換気圧が不必要に低下してしまう危惧がある。例えばSIMV(AutoFlow)でPSV圧より強制換気圧の方が低いことが観察されることもある。PSV圧より低い強制圧換気は、そもそも必然性のない強制換気である。したがって、最低強制換気圧を設定できることは重要と思われる。また、これはよって設定一回換気量を超える患者換気が許容されることになる。
5.利点と欠点
1)臨床応用の範囲
 RPVCでは、換気量が不確実というPCVの欠点は改善される。しかし初期の頃のPRVCはsCMV(synchronizedCMV)のバリエーションでしかない点で、臨床応用は限定されていた。最近のPRVCはAutoFlowと同様に、強制換気を用いるすべての換気モードで利用できるので応用範囲が広い。
2)ヨーロッパ流とアメリカ流の融合
 AutoFlowは別の意味でも意義がある。CMV(機械的強制換気)の概念では原則的に吸気ポーズ時間を付加するが、これは肺での拡張不均衡を減じ、酸素化能を改善しうる。しかし自発換気のある患者にとっては吸気終末状態での強制呼吸停止をもたらすので、ファイティングの原因になりうる。一般的にヨーロッパ製の人工呼吸器では強制量換気にはCMVを自発呼吸に同調させるsynchronizedCMVという概念が用いられている。CMVには、吸気ポーズ時間は原則的に必ず付加されるものと考えられていて、吸気ポーズを省いた設定はあまり考慮されていない。一般的にsCMVは、自発呼吸との同調性はあまり考慮しない傾向があり、ある程度のセデーションを前提にする。一方、アメリカ製では従量式強制換気は単にボリューム換気(Assisted Volume Ventilation, Volume Assisted Breath, Mandatory(Volume) Breath, Assisted CMV)を意味し、原則的には吸気ポーズは必須でなく、オプション扱いで必要時にのみ選択するように設定されている。漸減波の使用や設定吸気ガス流量以上の吸気や設定吸気時間を超える吸気を許容する機構を採用して、自発呼吸との同調性をとても重視する。
 AutoFlowを付加すると、従量式強制換気の吸気時間すべてが吸気ポーズとも、また吸気時間ともみなせるようになるので、狭義の吸気ポーズ時間はなくなる。つまりアメリカ製のユーザーが忌み嫌う吸気ポーズを使わないボリューム換気がヨーロッパ性の人工呼吸器で可能になる。AutoFlowでは、後述の設定吸気ガス流量を超える換気が許容され、また、いかなる時相でも吸気や呼気が許容されるので、機械的強制換気は自発呼吸に対して柔軟性を持つようになる。つまりAutoFlowにおいてヨーロッパ流のCMVとアメリカ流の柔軟なボリューム換気の概念がここではじめて融合される。
3)設定吸気ガス流量を超える吸気の許容
 AutoFlowでは原理的に設定吸気ガス流量以上の換気を許容する機構(Bear社でいうところのflow supplementationやpressure augumentation機構)も内包されているので、強制換気時に患者が設定吸気ガス流量を超えて吸気しても気道内圧が陰圧になる弊害がない。
4)ファイティングが少ない
 AutoFlowを付加した機械的強制換気のもう一つの利点は呼気弁が吸気圧で閉じられている点にある。それによって吸気時間中であっても患者は呼気が可能である。一方、sCMVやAssisted Volume Ventilationでは呼気弁は安全圧(150cmH2O程度)で閉じられているので吸気時間中には患者は息を吐くことができない。つまりAutoFlowを付加した強制換気ではファイティングが起こりにくい。
5)PCVより高い吸気圧になる可能性
 PRVCやAutoFlowには、患者が吸気努力を放棄した場合でも換気量を維持するように働くので、患者は吸気努力を怠る傾向があり、そのために平均気道圧が高くなる傾向がある。また、患者の要求量より設定量が多すぎると強制的に換気量を維持しようと働くので、気道圧が不必要に上昇する弊害がでてくる。